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12 ふつうの人の視点で考える

アイデアを考えるにあたっては、上司や得意先など企画を評価してくれる人の顔を思い浮かべることが必要。しかし、ビジネスというのは、生活者がいてはじめて成立するものですから、上司や得意先の向こうに、実際に商品などを使ってくれる人を頭に置いておく必要があります。こうしたふつうの人々の視点をつねに忘れてはならないわけです。

例えば、商品開発について見てみましょう。かつては、よく付加価値という言葉を耳にしました。言ってみれば、商品機能のまわりに、イメージなどの情報を含めた価値がトンカツの衣のように付与されているという考え方。この立場からすると、モノとしての商品に新しい付加価値をつけ加えれば、モノ自体がそれほど変わらなくても新鮮に見えると考えたのです。

でも、そうした考え方は、すぐに生活者に見抜かれてしまいます。どんなに新奇なイメージでも、その情報自体は話題になっても、購入するまでに至らない場合も少なくありません。

こうした付加価値の考え方に対して、これからは、組込価値だと考えてみたらどうでしょうか。そこでは、商品機能と情報が霜降りの肉のように最初から混在をしている。付加価値から組込価値への転換。付加価値の場合は、モノはモノで企画から生産まで進行します。「できてしまった」後で、宣伝部や広告会社のようなコミュニケーションの専門家が、どういうイメージで売るかを考えるのです。

一方、組込価値の場合は、商品を開発する初めの段階から、「情報のタネ」を仕込んでおきます。いや、仕込むといっても、付加価値の場合のように、外から入れていくというのではありません。商品のモノとしての特性のなかに、大向こうをうならせるような「情報のタネ」はないかなと観察するといった方がいいでしょう。

モノづくりの専門家も、開発の初期段階から、「この技術は性能を高めるぞ」といったことだけでなく、「この技術は驚きがある・楽しさがある」といった「情報性」を心に留めながら、企画をたてることが求められます。モノづくりの専門家とコミュニケーションの専門家が最初から共同作業ができれば、もっと効果的でしょう。「この技術は、クチコミで広がる」といった斬新な商品を一緒に作り出していくということです。モノの価値の中に情報も組み込まれているということになります。

安易な付加価値ねらいの商品、いいかえるなら、技術の革新性がないものを、広告だけで長期にわたってヒットさせることは難しいのです。

これは、商品開発の話ですが、どの分野でも、考えるという孤独な作業は、最終的には、人々の目線にされされることを忘れてはならないと思います。いつも、それを実際に使う人、影響を受ける人、経験する人によって、どのような評価を得るかに思いを馳せること。考えることは、個人作業だとしても、考えた結果は、万人のものだからです。


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