「『クラフトサケ』という新ジャンルの現在」関友美の日本酒連載コラム(リカーズ9月号)
いまなにかと話題になっている『クラフトサケ』という新ジャンルのお酒。小規模な製造所がつくるクラフトビールやクラフトジンなどが流行し、その流れで注目を集めています。また新規立ち上げをする事業者が20代や30代など若いケースも多いことから、同じ世代の消費者に「僕たちのお酒」という意識が生まれ、心をつかんでいるようです。
サケと言っても、厳密にいうと日本酒ではありません。酒税法上で日本酒(清酒)とは、『米、米こうじ、水を原料として発酵させてこしたもの』のことを指します。さらにアルコールが22度未満のもの、など細かく決められています。一方前出の『クラフトサケ』は、酒税法上では『その他醸造酒』に区分されていて、日本酒にフルーツやハーブや野菜などの副原料を加えて発酵させることができるのです。逆にいえば、何かしらの副原料を加えないと“日本酒”になってしまうので、加えることが必須です。
2022年には、全国7蔵が加盟するクラフトサケブリュワリー協会が設立されました。秋田県『稲とアガベ』、福岡県『LIBROM』、福島県『haccoba』、滋賀県『ハッピー太郎醸造所』らが名を連ねています。協会長であり『稲とアガベ』社長の岡住修兵さんは、もともと「新しいジャンルを確立しよう」とした訳ではなく、日本酒をつくりたかったのです。
しかし清酒製造免許取得は特に要件が厳しく、過去70年間新規取得の例がありません。現状では、廃業予定あるいは休眠状態の酒蔵をM&Aするしかないのです。しかし酒蔵の多くは面積が広く、機械も高価で、億単位の査定額になるケースも。高校、大学を卒業して酒蔵に就職して「日本酒づくり楽しい!」と、魅了された若者たちが容易に乗り越えられる金額ではありません。かと言って、既存の酒蔵にそのまま勤め続けるのでは『蔵元杜氏=オーナー兼醸造長』が比較的メジャーになった現在、杜氏のポストは空きません。オーナーに引退はなく、いつまで経っても“自分の酒がつくれない”というジレンマを抱えることになる、というわけです。
そこで2016年にはWAKAZE(東京都)を筆頭に、取得しやすいその他醸造酒製造免許を取得し、枠にとらわれないSAKEをつくろう、という動きが全国へと広がり、精力的な若者たちが後に続きました。その中心人物のひとりである岡住さんは「コレだ!」と目を付け『クラフトサケ』の発展のためにまい進しながら、清酒製造免許取得の緩和を目指しています。
彼らと同じ若い顧客を取り込みながら、その内の一部が日本酒にも目を向け循環していく。そんな様子が理想といえます。どうなっていくのか、今後の動向から目が離せません。
今月の酒蔵
菊正宗酒造(兵庫県)
万治2(1659)年創業。古くから酒造業界、摂津(神戸エリア)経済界の発展に多大な寄与をしてきた酒蔵だ。江戸時代の樽廻船の影響が根強く、関東で特に人気が高い。手間がかかる古来から続く生酛造りにこだわり、辛口で旨味があり、料理と一緒に飲むシーンで特に愛されている。樽酒も人気。製樽職人が減少した現状に危機感を抱き、自社での樽職人育成にも取り組んでいる。なお筆者は、『初めての街で』という菊正宗CMソングをカラオケで歌うのが好き。
以上
庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」9月号より
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?