関友美の連載コラム「ジャンルレスでも選ばれ続ける日本酒であるために」(リカーズ9月号)
リカーズ連載日本酒コラム
「そうだ。日本酒を飲もう。」9月号です☺
「ジャンルレスでも選ばれ続ける日本酒であるために」
最近の日本酒シーンについて触れています。よろしければ、ご高覧ください。
(↓本文)
そうだ。日本酒を飲もう。六杯目
ジャンルレスでも選ばれ続ける日本酒であるために
格段に美味しくなったといわれる日本酒。「十四代」「飛露喜」「醸し人九平次」が登場した20年余前はもちろんのこと、この10年だけ見ても、味わいや雰囲気、シーン全体が大きく変わりました。全国各地の酒蔵の若き後継ぎたちが、チャレンジを続けてきた結果です。SNSや取材記事を通して、社運を賭けた必死の活動を知った同世代の人たちが触発されて「僕たちの酒」と親しむようになりました。わたしもきっとその一人です。賑わいを生み、業界にはフレンドリーな雰囲気が増しました。好循環は現在の20代の人たちにも続いているように見えます。むしろ彼らの方が、日本のもの=クールと捉える傾向がありそうです。日本酒のアルハラを受けなかった世代というのも、大きな理由です。
それから日本全体の流れもあります。かつて外国の真似事をすると「かぶれている」なんて言われたものですが、ミックスカルチャーの過渡期を過ごし、国の壁も少なくなり、ない交ぜになり日本文化として定着。音楽でいうと…幅広い世代から支持されるあいみょん、米津玄師、藤井風は、端々に洋楽の香りを漂わせながら、どこか歌謡曲を思わせる懐かしい旋律や日本語詞で歌います。日本酒のシーンでみても、かつて「ワインっぽい酒」と呼ぶのは嫌われましたが、多様化した現在ではそんな議論にさえなりません。
日本酒はより自由になり、酒蔵は今ジャンルを超えようとしています。栃木県のせんきんは蔵元が元ソムリエで、日本酒にワインを思わせる酸を取り入れ業界に衝撃を与えただけでなく、世の食生活の変化にもマッチして多くの新たな日本酒ファンを創出してきました。日本酒を、杉・ひのき以外の樽で熟成する動きもあります。個人的に一番気に入っているのは、「自然郷 CUVEE18 オーク樽熟成」。寝る前にキュッと1杯やりたい・・・と思いながらもつい飲みすぎる逸品です。
日本酒以外を造る酒蔵も増えました。近年の主流は自治体から“町おこし”として製造をお願いされるのではない、自主的に「本気で造る」スタイルです。「紀土」の平和酒造では、クラフトビール。「風の森」の油長酒造ではジン。手前みそながら、「播州一献」の山陽盃酒造ではシードルを製造しています。それぞれの「当たり前」をなくし新鮮な発想ができるので、マーケティングだけでなく、両者の醸造技術向上も期待できます。流れは今後さらに加速して、続く蔵が出てくると思います。
なにを造ろうが大切なのはどんなストーリーを持つ蔵か、「本当においしい酒」なのか、というシンプルなこと。既成概念を払い本質を再確認する必要があります。感動を生む酒として、「日本酒」が世界で選ばれ続けますように。