“走ることしか、してはいけない”ぐらいに思ってた/鍋島莉奈＆新田良太郎コーチ①

日本代表にまでなった選手でも、
復帰戦は怖いもの。
そして、それ以上に喜びもあります。

今年1月に積水化学へ
移籍してきた鍋島莉奈選手。
長期の怪我に苦しんだ彼女は、
7月末のレースで約1年ぶりに試合へ復帰。
不安と喜びの中、1500mを走り切りました。

彼女を二人三脚で支えてきたTWOLAPS
（積水化学女子陸上競技部と業務提携）の
新田良太郎コーチと共に、歩んできたリハビリの道。
それは、自分の”走ることへの概念”さえ、
変える道でもあったのです。

スタート前から泣きそうだった

――2022年7月31日（日）に開催されたMDC福島で、約1年ぶりのレースとなる1500mを走りました。どんな試合になりましたか。

鍋島：ちゃんと復活したと言えるほど、満足できるタイムではなかったですが、スタートラインに立てたのが、一番、嬉しかったです。それまでは、“本当に走れるようになるのか”という不安がずっとあった。スタート前から泣きそうでしたが、それよりも「また試合に出られるようになったんだ」っていう喜びの方が大きかったです。

――日本代表にまでなった選手でも、走るのが怖かったですか

鍋島：移籍する前に心が折れていた部分があったので、本当に戻せるのか不安でした。今も完全になくなったわけではないですけど、不安は少し軽くなった。ここまで来れて「良かったな」と、思えた瞬間がありました。

――新田コーチはレース前、どんなことに注意して仕上げていきましたか

新田：今年はとにかく練習を継続する、怪我しないことを最優先に、メニューを組んでいます。今のナベ（鍋島）の状態だと、走力を戻すより、体の機能やフォーム改善が重要。トレーナーやフィジカルコーチなどがいなければ今の状態は作れていないので、チームで取り組んだ結果だと思っています。

――新田コーチは鍋島さんの走りを見てどんな印象を受けましたか

新田：レース前に『なんか泣きそうです』って言ってて、レースで良い結果を出せるか不安なのだろうと、思っていました。でも、実際走ってみたら、自分でレースを引っ張り、気温が高い中、ほぼ目標通りで走れた。やっぱり能力の高い選手だな、と思いました。

新田：あの時泣きそうだったのは、久しぶりにレースに立てたのも、理由の1つだったんだね。初耳だ。

鍋島：いろいろな要因がありましたね（笑）

全く違う世界を見ているような感じ

――今年1月に積水化学に加入して、主にリハビリの日々だったと思いますが、ここまでどんな意識で練習を続けてきましたか。

鍋島：機能改善、怪我をしない、フォームを改善する。この3つを大事にしてきた約8ヶ月でした。実際に走った後も何人かに連絡をもらい、「走り方変わったね」とか言われると、「トレーナーさんやコーチを頼ってやってきたことが身になってるんだな」と実感できて、嬉しかったです。

――競技面以外でもYOUTUBEに出たり新聞配ったり、様々な活動をしていますが、楽しめていますか？

鍋島：すごく楽しいですけど、本当に陸上しかやってこなかった私からしたら、全く違う世界を見ているような感じです。“走ることしか、してはいけない”ぐらいの概念でしたが、競技だけではなく多方面で頑張っている選手がたくさんいる。『活動の幅を広げていいんだ』って、すごく驚いています。

ー－新田コーチが鍋島選手に接する上で意識してきたことは何ですか？

新田：TWOLAPSというチーム自体が、競技以外でも選手が実現したいことを一緒にサポートしていく。選手が現役を終えた後も、社会に出て活動できるようにするのが、理念としてあります。ナベの場合、最初は陸上に携わりたいと言っていましたが、まだ何がやりたいのか見つからない状態だった。だから、様々なことにチャレンジしています。今年のMDCでは、大会プログラムの編集長もやったんですよ（笑）。彼女が将来、陸上界との接点をたくさん持てるように、一緒に探している感覚ですね。

――1月から鍋島選手を見てきて、アスリートとしてリスペクトできる点などありましたか。

新田：ナベはすごく気を遣える選手。周りの空気を読んで、盛り上げ役に徹したり、人間的な良さがあります。競技面では、今取り組んでいる体の機能改善って、めちゃくちゃ地味なリハビリメニューが多い。それも、トレーナーの先生が「体を見れば、そういう地味なメニューを裏でもちゃんとやっていることがわかる」と言っていました。そういう地道なことができるのは、トップアスリートの必須条件だと思うので、尊敬しますね。僕は、そういうの苦手なので（笑）

――気遣いできる選手と言われて嬉しいですね。

鍋島：いや、なんかできてるんですかね。お世話されてる側なので、なんかお世話になりっぱなしです。いろいろ勉強させてもらってます_(._.)_

➡VOL.2へ続く

文：守本和宏／ナノ・アソシエーション
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