マガジンのカバー画像

『Station』をめぐる対話 鷲尾和彦×大竹昭子

5
2020年7月10日に本屋B&Bで開催された鷲尾和彦さんと大竹昭子さんのオンライントークイベントの模様を5回に分けてお届けします。
運営しているクリエイター

記事一覧

駅、移動、写真。 大竹昭子×鷲尾和彦 『Station』をめぐる対話⑤ 「詠み人知らず」になりたい

「難民」への文脈のない日本での出版。ためらいを乗り越えて『Station』をこの時期に出そうと思ったのは、誰もが「難民」である今なら、写真家の作品集という位置づけを超えて、人と人をつなぐ届け方ができるかもしれないと感じたからだと鷲尾さんは言います。 最終回の今回は、鷲尾さんの写真家としての矜恃に迫ります。 前回のお話④はこちら。 無名性こそ、写真の本質大竹昭子(以下、大竹) 写真が人と人をつなぐという観点から言うと、例えばこの写真。時刻表の前に立っているこの少年(写真下)は

駅、移動、写真。 大竹昭子×鷲尾和彦 『Station』をめぐる対話④ 誰もが「ステーション」にいる時代に

新型コロナウイルス感染拡大の最中に出版された写真集『Station』をめぐり、2人の対話は「ステーション」という場所の持つ意味について広がっていきます。 前回のお話(③)は、こちら。 ステーション=どこにも属さない宙吊りの空間大竹昭子(以下、大竹) 駅や空港って、旅をするとき必ず通る場所ですよね。とくに海外に行くと、たいていはとても待たされます。日本のように時刻表通りに列車や飛行機が来ることなんて稀でしょう。列車が違うホームに到着したり、ターミナルが突然変わってみんながワー

駅、移動、写真。 大竹昭子×鷲尾和彦 『Station』をめぐる対話③ 撮った写真を見続けた5年間で何が起きたか

ファースト写真集にもなったシリーズ「極東ホテル」の15年にも及ぶ撮影の日々が、オーストリア・ウィーン西駅で偶然遭遇した3時間の撮影を可能にし、写真集『Station』を生んだ——前回までのお話で、鷲尾さんはそう語っていました。 鷲尾さんの中に蓄積されていったものとは何だったのか。今回は、撮影後の時間の過ごし方に、大竹さんが迫ります。 前回のお話(②)はこちら。 撮った写真を見ることは、再びシャッターを切ること大竹昭子(以下、大竹) おそらく鷲尾さんはこの撮影の後、難民のこと

駅、移動、写真。 大竹昭子×鷲尾和彦 『Station』をめぐる対話② 「ステーション」への渇望

長い時間をかけて到達したものではなく、運命的に遭遇した3時間で撮影した作品を写真集として発表する。大竹さんは、そこに鷲尾さんの写真家としての大きな「踏み込み」を感じると言います。 鷲尾さんの中で、一体何が起きていたのでしょう。 前回のお話(①)はこちら。 旅のレポートのつもりが……鷲尾和彦(以下、鷲尾) たしかに、最初は写真集にしようとは思っていませんでした。速報性のあるものとして、旅のレポート程度の展示でいいと思っていた。 最初に展示したのは、地元オーストリアの仮設の難民

駅、移動、写真。 大竹昭子×鷲尾和彦 『Station』をめぐる対話①

鷲尾和彦6年ぶりの写真集『Station』は、あらゆる意味で異色の作品です。 2015年9月にオーストリア・ウィーンの駅のホームで偶然遭遇した「難民」の一群をとらえた本作は、撮影から5年の歳月をかけ、新型コロナウイルスの感染拡大の最中に出版されました。 その不思議な魅力と鷲尾さんの中に生まれた変化を、文筆家の大竹昭子さんは見逃しませんでした。 2020年7月10日、本屋B&Bのオンラインイベントとして行われた、写真の本質に切り込む2人の対話を、5回に分けてお届けします。 まず