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青空とトンボ掛け

中3長男の夏、最後の大会で負けた日。

雨の予報を覆す見事な青空が見渡す限り広がっていた。

グランドに向かって終了の挨拶をしながら、自分の足元に目をやると白のスタンスミスに夏の日差しが反射してて、それが何だか目に染みた。

実感が・・・湧かない。

まだ夏は始まったばかりなのに、もう終わってしまった。

グランドを出て泣き崩れる選手とそれを支えるチームメートたちが通り過ぎていく。

もらい泣きする保護者もいたけど、私は時間が止まったような感覚に包まれながらグランドを眺めていた。

既に次の試合に向けて、トンボを持った後輩たちが右往左往しながらグランドを整備している。

トンボをかけ続けた中学野球

思えば、息子の中学野球はトンボをかけ続けた日々だった。

公式戦はスタンドに座り、4回裏2アウトになるとさっといなくなる。4回裏の攻撃が終わりグランドの入り口が開くと、給水に向かう審判団と逆行するようにトンボを持ってグランドへ走り出す。

ベンチ外の彼が試合の間に唯一、グランドの土を踏む時間だ。

熱戦で消えかかった白いラインを軽やかに飛び越え、トンボを片手に持って走る姿は私にとってメインイベントの始まりだった。

他のお母さん方が水筒で喉を潤したり、おしゃべりしたりする中、その輪に私も耳だけ加わりつつ、グランドの息子をそっと目で追う。

1年生の頃に比べ、3年生になった今はグランド内の移動も位置取りもスムーズ。整備したいポジションに着いたらすぐに整備開始。

さっきまでレギュラーの選手たちが駆け回っていた、戦いの後が残る土を5回からの攻撃に備えて丁寧に素早くならしていく。その背中を見ているのは不思議と楽しかった。

スタンドで過ごした3年間。
いろんなグランドの土をならしてきた。

全国大会でも一番にグランドに飛び出し、マウンドをならしてから素早く3塁に移動し整備していた姿をよく覚えている。

公式戦には出られなかったけれど、あちこちのグランドの土の感触はきっと彼の記憶に刻み込まれているのだろう。

肌寒さの残る春の朝や炎天下の茹だるような暑さ、舞い上がる土埃。地面に視線を落としつつ、ベンチから聞こえる監督さんの声やチームメートの気配を感じながら。

おまけ


敗戦により世代交代となってメインは2年生、3年生はサポートに回る立場になった。

それから迎えた2年生公式戦。試合前のグランド整備に飛び出した3年生たちを見ながら、隣にいた母が言った。「あの子たち、本当にグランド整備が上手くなったよね」

ちゃんと見てくれている人がここにもいたんだ、と思って何だか嬉しかった。

ベンチ入り、ベンチ外のヒエラルキーから解放された3年生たちは、これまでほとんど見ることのなかった笑顔が驚くほど増えて、何をしても楽しそう。

もしかしたら、彼らはこの3年間の中で、今が一番幸せなのかもしれない。
お互いの立場を気にせず笑い合える、この瞬間が。

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