「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」
久々に読み応えのある本に出会った。
インパクト大のタイトル、毒々しさすら漂うこの本。
夜更けに開いたAmazonでふと目に止まり、Kindleでサンプルをダウンロードした。
サンプルはほぼ一章分。
その一章にあったのは川崎憲次郎選手の引退に至るまでの軌跡だった。
落合監督の一言や振る舞いに翻弄される記者と川崎選手それぞれの目線で綴られている。巧みな文章に引き込まれて先を読みたくなり、結局Kindleで購入してしまった。
この本を一言で言うと「個」の時代を生きるための金言が詰まった一冊だ。
12人の選手・スタッフそれぞれの「個」のエピソードを通じて落合監督の言葉や振る舞いが綴られている。
華々しい舞台の裏で、落合監督の一言に戸惑い、肉体だけでなく精神も限界まで追い込まれる選手。それはチームを支えるスタッフも例外ではない。彼らの物語は一つひとついずれも壮絶だ。そのストーリーを通じて「個」とは何かを考えさせられる。
最初は無力感に苛まれていた、私と歳のあまり変わらない著者が、いつの間にか無愛想な落合監督の何かに惹かれ、時に監督の地雷を踏みつつ、その真意に迫っていく。
夏の日の落合邸の前で。
ナイター後の居酒屋で。
その時々の記者の感情が赤裸々に綴られ、その臨場感に読者の私までが現場にいるかのような錯覚に陥る。
自分のみを信じ、その個を貫くということはこんなにも孤独なのか。
落合監督の在り方は、今の時代だったら冷静かつ論理的に判断するいい上司だ、とむしろ歓迎されたかもしれない。
でも平成半ばの当時、周囲に迎合することなく1人黙し、世間から様々に上がる声に背を向け、孤独の中で決断し続けるには相当な強さが必要だったに違いない。
読みながら何度も心が震え、何箇所もマーカーを引いた。
この本、電子書籍で420ページ。
読み終わるまでの時間、6時間21分、と書かれている。
実際に読み終わるまで、それくらいかかったけど、読後は落合監督の強さへの畏敬と共に、その時代に遡って一時代を著者と一緒に駆け抜けたかのような清々しさが広がる。
2021年秋。
分厚く重々しい装丁で近寄り難いこの本は間違いなく、私のオススメの一冊だ。
野球好きな母が日々感じたことを綴ってます。何かのお役に立てたら幸いです。