#邦キチー1グランプリ

『8マン すべての寂しい夜のために』
(1992年公開 日本映画)

(シチュエーションは、夏の花火大会を見に来ている邦キチと部長。なお、他メンバー達は二人をこっそり物陰から眺めていたりする)

花火大会終了後「盛大な花火だったな〜」と余韻に浸りながら、部長が「花火の締め括りと言ったら、これは外せまい」と、線香花火を取り出す。

二人で線香花火の小さな火を見つめていると、いつになく無口な邦キチがホロリと涙をこぼす。焦る部長。

邦キチ「なんでもないのです、ただ、花火を見つめているといつも思い出してしまう映画があるのです」

部長「涙するような花火の映画と言ったら、アレか、『この空の花 長岡花火物語』。確かに、あれは泣ける。日本人なら毎年8月に見ておきたい一本だよな」

邦「いえ、私(ワタクシ)が思い出すのは青春映画で…1人を巡って2人の男の子がその愛を受けようとして、、、、その、お互い頑張ってる姿がキュンとしてしまうのであります」

部「なるほどそっちか!『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』だろ! 1993年の岩井俊二監督作品はもちろんの傑作だし、2017年のアニメ版も、テイストを変えた良作に仕上がっていたよな」

邦「いえいえ、『エイトマン(8マン)』の実写映画のことですよー」

部「実写版エイトマン!? 噂に聞いたことはあるが、ソフト化も配信もされてないだろ!」

邦「VHSビデオでは発売されたことがあるのすよ〜」

部「おまえんちにはまだビデオデッキがあんのか、、、、」

邦「もちろん必須アイテムでありまするよ」

部「それはともかく、花火と全然関係ない映画だろ、、、、」

邦「花火はメタファーでありまするよ。この映画そのものが、盛大な打ち上げ花火なのであります!」

部「打ち上げ花火映画!?」

邦「そもそもこの『エイトマン(8マン) すべての寂しい夜のために』という映画は、リム出版という出版社がプロデュースした作品でして」
邦「リム出版は、長らく絶版だった漫画『8マン』を復刻出版してくれた、8マンの大恩人なのであります」
邦「大の8マンファンだったリム出版の社長が、少年時代に打ち切られてコミック未収録だった幻の最終回までを全て掲載して復刻。その執念が実って、このコミック版は大当たりしてリム出版は大儲け!」
邦「時は1990年初め、日本はバブル景気真っ盛り!大金を手に入れたリム出版社長は、そのお金を惜しげもなく8マン愛に注ぎ込みます!」

部「そ、それがこの映画か、、、、」

物陰で覗いている他のメンバーが「バブルの頃は、企業が税金対策で映画制作に出資する事はよくあったんだよな」などとヒソヒソ話している。

邦「主演は宍戸開、そして共演は実の父親宍戸錠!という2代2大スターを配役!実の親子が、この映画では8マンと彼を作り上げた谷博士という疑似親子関係を演じているのがミソですね」
邦「主演の宍戸開の骨格に合わせる為に、8マンの造形は顎が少々ゴツいのが特徴なのであります」

部「うっ、8マンのスマートな面影が、、、、」

邦「アニメ化すると元の役者より筋肉モリモリになったり巨乳化したりするのと同じファンサービスなのですよ〜」

部「実写化で盛り付け!? 逆バージョンかい!(あと、女子が巨乳とか大声で言うなよ)」

邦「8マンはアニメ作品が先にありますからね〜」

部「そりゃ8マンは元々がテレビアニメ、、、、当時はテレビマンガと言っていたか、、、、の企画作品だからな」

邦「およよ、部長もご覧になってましたか?」

部「まさか!オレが生まれる前の作品だぞ、白黒アニメなんだぞ、懐かし特番で見たぐらいだ」
部「8マンのあの主題歌はカッコいいんだよな〜。走れ8マーン風よりもはーやくー🎵 叫べー、む〜ねをはれ! 鋼鉄の胸を〜🎵」

邦「『8』の文字をあしらった鋼鉄の胸は、8マンのトレードマークですものね〜」
邦「で、この実写映画では、冒頭でエイトマンはその鋼鉄の胸を拳銃で撃たれて故障するのですよ」

部「弱すぎるだろ実写版8マン!」

邦「ワタクシが思うに、コミックを描いていた桑田次郎先生が拳銃絡みで連載中止した事件のメタファーで、8マンが拳銃に撃たれて倒れるシーンを入れたかったのではないでしょうか」

部「無理のある好意的解釈だな、、、、」

邦「もちろん、ちゃんと原作通りに、8マンが超スピードをいかして悪党の弾丸を手で受け止めるシーンもあるのですよ」

部「それは撃った方もビビるだろう」

邦「ですがこの映画の悪役は、基本的に麻薬をキメているので8マンを恐れないヒャッハー状態で襲ってきます」

邦「無謀過ぎるな悪役!クスリダメ絶対ダメー!」

邦「後半は、谷博士の実の息子であるサイボーグ・ケンと8マンの一騎討ちとなります」
邦「このストーリーは、原作アニメの中でも傑作回と名高い『決闘』という有名エピソードを下敷きにしているのです」

部「谷博士の実の息子と、博士が作り上げた8マン、義兄弟同士の対決か。燃えるなあ」

邦「サイボーグのケンは、8マンを凌ぐ性能を持った強敵で、8マンも追い詰められていきます」
邦「ケンの弱点はただ一つ、頭部だけは生身のままで、その為、サイボーグの超高速の衝撃に耐えられず死んでしまうのです」
邦「原作では、エイトマンは谷博士の心情を汲んでケンに危害を加えないようにしながら苦心して闘うのですけどーー」
邦「この映画では、エイトマンは容赦なくケンの眉間をパンチします!」

部長「無慈悲!」

邦「そのパンチシーンの人形的なアクションは、実に見事にスーパーアンドロイド同士の闘いを表してまして」

部「ただ人形を空中でぶつけ合っただけのように見えるが、、、、?」

邦「こうして出来上がったリム出版社長の夢の映画ですが、残念なことに試写会の評判が良くなくて、配給先が見つかりませんでした」

部「配給会社の気持ちも分かるよ」

邦「劇場公開が絶望視された時、リム出版はここでも大花火を打ち上げるのです!」
邦「それが、東京ドームを借り切ってのお披露目大イベント!」

部「何億円かかるんだそれ!?」

邦「映画とはお金を湯水のように消費するビジネスなのですね〜」

部「さだまさしも中国のドキュメンタリー映画制作で30億の借金を背負ったと語ってるしなあ、、、、」

邦「この時の負債がきっかけになって、リム出版は程なくして倒産してしまうのですがーー」

部「花火が大火事に!」

邦「しかし、ワタクシは、8マンへの愛と、自分の夢の為に、文字通り全てを注ぎ込んだこの映画が愛おしくてならないのです」

邦キチが、部長の手からもう一本の線光花火を受け取り、蚊取り線香で火を点す。パチパチ、と邦キチの手の中で小さな花火が弾ける。

部「愛と、夢か、、、、」

一通り喋り終えて静かになった邦キチの横顔を見ながら、部長も聞こえないように呟く

部「うん、、、、まあ、、、、その気持ち、分からなくもない、、、、」

邦「パッと打ち上がり、パッと消えていく、、、、そんな花火の一瞬の美しさは、映画と同じに見えます、、、、」
邦「だからワタクシは、花火に見惚れてしまうのかも知れませぬ、、、、」

ポツン、と邦キチが手にしていた線香花火の火玉が落ちる。
花火に照らされる邦キチの珍しく物憂げな横顔から目を逸らしながら、部長は聞こえるように呟く。

部「いやあ、、、、オレはまだ、、、、花火のように消えるんじゃなく、蚊取り線香のように、小さくてもいいから燃え続けていたいな、、、、」

邦「ふふふ、部長らしいであります」

物陰に隠れて2人を覗き見てる他メンバーたち、出ていくチャンスがなかなか無いままモジモジしている。

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