FC東京を振り返る(2021年第13節vs鹿島)
●はじめに(母の日とMLBと論文)
試合は5月9日の母の日に行われた。
試合開始前の選手紹介映像では、ピンクのド派手な柄を背景にした選手たちが花を片手に持って登場する特別使用となっており、視聴者へ「母への日頃の感謝を伝えるように」といったメッセージを発しているように感じた。
ちなみにMLBではピンク色のソックスを全選手が着用し、バットや肘当てやキャッチャーのプロテクターまでもがピンク色に染まる徹底っぷり。
「そこまでピンクだと、打率や成績に関係してしまうのでは?」と一瞬思ったが、全チームで同様に実施することで不平等を排していると分かり、なんてアメリカンな解決方法だろうと納得した。
大谷が使用するミズノ社の木製バットももちろんピンク色。
この日のための特注であるだろう。そのピンクの塗料はどんな原料なのか、それもMLB全体で規定があるのか。
そういったことが気になって仕方がなかった。
さて、かなり横道に逸れた。
人が本題に入りたがらない時、それは話しづらいことを話そうとしている時である。
これは前節と同じ事象だ。どうしたことだろう。どうしてこんなことになってしまったんだろう。
とあるイギリスの論文で「フットボールのサポーターがチームの成績に対して、どのような幸せを感じているか」を研究したものがある。
『チームが勝利した時に感じる幸せと、負けた時に感じる不幸』
この2つを比較した時、負けた際に感じる不幸の方が圧倒的に大きいというのだ。
つまり、よほどの常勝軍団でもない限り、サポーターは総じて不幸なのである。
もちろん、これはチームの成績に限って述べられた研究である。
サポーターであることは、チームの勝敗以外にも、日々の試合観戦を心待ちにして仕事や勉学を頑張る活力となる。
アウェイでの遠征を準備して旅の支度をする時や、試合後にサポーター同士で酒を飲み交わす夜は格別だ。
そういった勝敗以外の全てを足し合わせれば、成績なんてなんてことはない。
サポーターは常に幸せなのである。
再び横道に逸れた。
試合を振り返ろう。ついに5連敗だ。
●試合前
ゴールデンウィークが終わって2日間の平日を過ごした。
大型連休により圧縮されて禍々しいことになっている月末月初の業務を頑張ってさばいていった。
それもこれも、週末にサッカーがあるからだった。
5月9日の日曜日、17時に開始するアウェイ鹿島戦に合わせて、散髪や家事や食事を終わらせ、PCの前でDAZNを立ち上げる。
4連敗より先はどうなるのか。せめての引き分けを願った。
思えばもうその時点で弱気だったのかもしれない。
●先発出場選手
ついに、2019年式の4−4−2に回帰する。
これまでアンカーとして起用していた森重を本来のCBに配置。
不調の渡辺剛ではなく前節に引き続きオマリを右CBとした。
中盤の底は青木とアルトゥールシルバが担い、右サイドに三田、左サイドに東を置いた。レアンドロや田川を使わず攻撃的なアタッカーは不在。
攻撃は前線の永井とディエゴに任せた格好となった。
2019年では、久保建英やナ・サンホ、2020年ではレアンドロを起用しアタッカーを一人は残していたので、どこに攻め手を見出すのか。
対する鹿島は伝統の4−4−2。
サイドに白崎と、アタッカーの土居を起用。
三竿とレオ・シルバの国内屈指のボランチコンビに、FC東京がどう崩していくのか着目された。
●前半
立ち上がりから15分までに関しては、これまでと比べて悪くなかったように思う。
最終ラインと中盤で2ラインを維持し、それなりに破綻のないようプレーしていた。
しかし、それ以降は「失点しないように」との意識が強すぎたのか、選手間がどんどん空いていき、鹿島に左右のスペースを使われるようになると押し込まれていった。
21分、CKが続き先制点を許す。
失点するまではゴール前でオマリが身を投げ出し、波多野が気持ちを見せるようなナイスセーブを繰り返すなどなんとか守っていた。
CKの局面だけを見ると、鹿島の町田をフリーにさせているが、ここまでCKを続けさせてはいけない。
どうにか流れを断ち切りたい場面だったが、マイボールで落ち着かせる時間帯を作り出せなかった。
それ以降は、ここ数試合の悪いプレーが現れ続けた。
ボールにプレスに行く前線、そこについて行けない中盤、ラインを上げられない守備。一人ひとりの距離が開きすぎており、守備での対応は対面する選手一人に任せっきりで、フォローに寄せることはない。
44分、それでもなんとか最小失点でハーフタイムに入れるかと期待した局面で、痛恨の追加点を奪われる。
左サイドから右へ展開され、再び素早く左へ振られる。
少しマークが甘くなった瞬間、松村に右足を振り抜かれ、ミドルシュートを決められた。
中央の守備を固めようとして必死にスライドを繰り返すが、最終ラインがペナルティエリア半分まで下がり、ミドルのギャップまで埋めることができなかった。圧力に屈した形だ。
●ハーフタイム
5連敗をなんとか阻止したいFC東京は手を打つ。
システムを3−5−2へ変更。
東、三田、オマリに代えて中村拓海、安部、ウヴィニを投入する。
サイドを1枚にすることで強制的にサイドのスペースを使い、幅を取らせたい方針だろう。更に、ディフェンスラインに3枚のCBを置き、中央での守備を固める。そして苦しんでいたビルドアップへのテコ入れでもあった。
鹿島とのミラーゲームとなっていたシステム構図を避け、それぞれに生じるスペースのギャップを突く狙いもあったように思う。
しかし、0−2となった状態では苦肉の策という見方が拭えない。
●後半
鹿島が様子見の姿勢となったことから、前半と比べてボールをある程度落ち着かせることができていた。
数多くあったセットプレーでのピンチでは、波多野がなんとか失点を阻止する。
71分、長く続いた我慢の時間帯を乗り越え、東京に絶好機が訪れる。
FC東京の右サイドでのビルドアップに食いついて人数を前線に割いてプレスをかけてきた鹿島に対し、空いた左サイドに大きく展開。
高い位置を取っていた小川にフリーでボールが渡る。
中央寄りの浅い位置からスルーパス気味に供給されたアーリークロスに安部と田川が飛び込んだものの、ダイビングヘッドを狙った田川の頭をかすめるようにボールは通過していった。
この試合で訪れた唯一の決定機であり、ここ数試合のFC東京の攻撃の中で最も形として完成されたワンプレーだった。
相手が寄せてきたところを大きく素早い展開で好機を作り出す「長谷川トーキョー」の真髄だった。
これが得点に結びついていれば、流れを引き寄せられたかもしれない。
86分、鹿島にトドメを刺される。
FC東京の左サイド深くから鹿島のスローイン。
遠藤にファーへの速いクロスを上げられ、上田に決められた。
中村拓海がしっかりとマークに付くものの、クロスの質も良く及ばなかった。
●試合後
5連敗。勝ち点15で並ぶ鹿島に敗れたことで、ついに残留争いに足を突っ込んでしまった。
まだまだリーグは序盤から中盤に差し掛かる段階。
決して慌てるタイミングではないが、ザーゴ監督を解任して上昇気流に転換した鹿島に完敗を喫したことで、FC東京のフロント陣はどう考えるか。
選手たちの動きがあまりにも重い。
これは心理的な問題なのか、コンディショニングの問題なのか。
連戦が続いた昨年の夏や、2019年シーズン終盤でもここまで足の動かないことはなかった。
こんな時ほどサポーターは声援で後押しをしたいものだが、コロナ禍のシーズンではそうもいかない。なんとももどかしい限りだ。
FC東京の連敗記録は、おそらく2006年シーズンの6連敗である。
ガーロ監督を解任し、倉又監督となったシーズン中盤で記録している。
このシーズンは下位3チームが勝ち点30に達しなかったことから、結果的に勝ち点43を記録したFC東京は残留争いに巻き込まれなかった。
それでも、0−3から逆転勝利を収めた伝説の多摩川クラシコや、0−2から逆転したG大阪戦など、とにかく要所要所で勢いがあり、勝ち星を拾っていた印象だ。
下位4チームが自動降格する今シーズンにおいては、降格ラインがどの程度になるのかさえ未知の領域である。
また、G大阪が開幕当初のコロナ発生による未消化の試合を多く残しており、残留争いを大きく左右しそうな点も不気味だ。
ルヴァン杯を勝ち取った次のシーズンに優勝候補に挙げられ、サポーターも選手も本気でリーグタイトルを目指した中で苦戦する状況は奇しくも2010年に近い。
あのシーズンの終盤は選手たちの足が本当に重く、見ていて可哀想になるほどだった。
もちろん11年前とはチーム状況も体制も戦力も大きく異る。
このまま残留争いに突入するなど思っていない。なんとか浮上のきっかけを掴み、せめてACL争いには顔を出せるようになって欲しい。
これは純粋な希望だ。
フラストレーションを抱くサポーターも多いように思う。
声も出せず、戦績への苛立ちをチームへの声援に変換することすら叶わないので気持ちは分かる。もっともだ。
それでもSNSやコメントなどでチームや選手にぶつけることなく、選手を応援して欲しい。
応援しなくてもいい。ただ見守っててもいいし、スタジアムに足を運ばず家で中継を見て、「駄目だなあ」と毒づいても良いかもしれない。
チームのためにできることは何か。
選手に「身体を張れ」「走れ」「もっと気持ちを見せろ」と言う前に、サポーターとしてできることがないか。その姿勢は間違っていないか。
チームが苦しい今だからこそ、考えるいい機会だ。
自戒を込めて襟を正す。
次節は、アウェイ柏戦。5月15日16時キックオフ。
たまにサポートをいただけるのですが、あまりにも申し訳ないのでお題のリクエストなどを併せていただけるとありがたいです。もちろんなくても大丈夫です!読んで頂きありがとうございます。