「#世界はジャズを求めてる」2022.5月4週(5/26)『ラテンのジャズスタンダード』eLPop伊藤嘉章・岡本郁生 #鎌倉FM
『世界はジャズを求めてる』第4週は「ラテンとジャズの危険な関係」。eLPopの伊藤嘉章(mofongo)と岡本郁生(el Caminante)がお送りします。ジャズ評論家の油井正一さん「ジャズはカリブ音楽の一種」と喝破されたように成り立ちから一つのラテンとジャズは、垣根を意識することなくお互いに溶け合ってきています。そんな関係のカッコいい曲をお届できればと。番組をお聴きになってラテンに興味がでた方、ラテンがお好きな方はラテン音楽Web マガジン「エル・ポップ(eLPop)」など覗いて頂けたら幸いです。(URL=http://elpop.jp)
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まず新譜から
1. The Long and Winding Road: Obatala Segundo (2022)
ラテンジャズ・グループのオバタラ・セグンドが8年ぶりの新作『オラシオン』をリリースしました。元オルケスタ・デラルス、現在熱帯JAZZ楽団やサルサスインゴサで活躍中のラテン・トロンボーンの第一人者中路英明が、1997年からオバタラ(アフリカを起源としカリブ海地域のラテン社会で信仰されている多神教”サンテリア”の神の一人)という名前で活動を始めたラテンジャズバンドです。メンバーチェンジに伴い2007年よりオバタラ・セグンド(第二期オバタラ)に改名しました。
2014年のアルバム『LA DECISION NUEVE(9番目の決意)』以来、8年ぶりのアルバム。メンバーは中路英明(tb)鈴木禎久(g)伊藤志宏(p)コモブチキイチロウ(b)大儀見元(perc)岡本健太(ds)。疾走感と重量感に満ちたリズムの魅力に加え、トロンボーンとギターというこのグループらしいサウンドが素晴らしい作品です。大儀見元のボーカルを@フィーチャーしたビートルズ・カバーのこの曲も彼ららしい魅力にあふれています。
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さて今月の特集は『ラテンによるジャズ・スタンダード』です。
スタンダードはどうしてスタンダードになったのか?ミュージシャンのインタビューで語られる曲への言及やテッド・ジョイアの本などを読むと、リスナーにとり親しみやすいメロディだという側面に加え、プレイヤーにとって弾いてみたくなる何かが含まれている事が分かります。それはリスナーと同じくメロディの魅力であったり、またコード進行の魅力、バップのアプローチ五度進行、シンプルにトニックへ回帰する進行やモーダルな曲での自由度、そして和音やメロディでの拡張に加え、より自由なリズムへのチャレンジなどがあるように思われます。
ラテンとジャズが両方身体にあるミュージシャンによるジャズスタンダードの演奏のそんなところをお楽しみ頂ければ!
2. Softly as In a Morning Sunrise: Michel Camilo & Giovanni Hidalgo (1997)
「朝日の如くさわやかに」「朝日のようにさわやかに」などの邦題でも知られるスタンダード。1928年のオペレッタ『New Moon』の為に作られたオスカー・ハマースタイン2世作詞、シグマンド・ロンバーグ作曲の曲です。スイング時代にからジャズに取り上げられましたが、スタンダード化してきたのはMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の演奏以降で(1955, 『Concorde』)、ソニー・ロリンズ(1957,『Night in Village Vanguard』)、ウイントン・ケリー(1959,『Kelly Blue』)という具合に広がりました。
ラテン・ジャズ版はドミニカ共和国出身のミシェル・カミーロ(p)とプエルトルコのジョバニ・イダルゴ(Congas)のデュオによるバージョンをご紹介します。1997年のアルバム『Hands of Rhythm』から。両者共高速テクニシャンで相性のいい組み合わせで会話のような楽しい演奏となっています。
Michel Camilo (p) Giovanni Hidalgo (congas, bongos)
3. Bernie's Tune: Latin Percussion Jazz Ensemble from “Just Like Magic”
1952年バーニー・ミラー作、ジェリー・マリガンの同名のアルバム『Bernie’s Tune』(1952)でのチェット・ベイカーとの演奏からスタンダードになって行きました。Dmがキーの循環進行的でジャムセッションに向いた曲としても愛されています。
さてラテン側の演奏はアメリカのラテン・パーカッション・メーカーの老舗「ラテン・パーカッション」(LP)社が自社製品のプロモーションの為に1979年に結成した、ニューヨーク・ラテンの最強グループ「ラテン・パーカッション・ジャズ・アンサンブル」(LPJE)による演奏です。ティト・プエンテ、パタートなど錚々たるメンバー。このグループが1979年に来日し、演奏と共に各地でクリニックを行いましたが、その演奏を通し日本のラテンミュージシャンは初めて本場の音、その奏法、リズムを目の当たりにして大きな影響を受けました。それまでマンボの興隆の中でマチート楽団などの来日や、1976年のファニア・オールスターズの来日もありましたが、クリニックまで含んだ、コンボ編成のラテン・ジャズを直接学ぶ機会はなかったのです。1979年はいわば日本のラテンジャズ元年といえるかもしれません。
Sal Cuevas(b)Carlos "Patato" Valdez(congas) Steve Berrios(ds)Eddie Martinez(p) John Rodriguez Jr.(bongos, guiro)Tito Puente(timb, vib, synth)
Rene Lopez(tp)Jeanette Rodriguez(vo), Nancy O'Neill(vo)
4. Afro Blue : Mongo Santamaria
1922年キューバ生まれで1950年からニューヨークをベースにラテンとジャズの間で活躍したコンガ奏者、モンゴ・サンタマリアが1959年に作曲。ジャズのスタンダードとなった最初のアフロのクロスリズム(”ハチロク”と呼ばれたりジャズでは「3-2クロスリズム」とかクラシックでは「ヘミオラ」「ヘミオーレ」といわれるもの)の曲。アビー・リンカーン、コルトレーンからロバータ・フラック、ディー・ディー・ブリッジウオーター、ロバート・グラスパーまでアフロルーツへの言及には欠かせない名曲でもあります。今作はモンゴ自身のグループの演奏で。
5. Maiden Voyage:Conrad Herwig "Latin Side of Herbie Hancock"(2010)
ハービー・ハンコックの5作目『Maden Voyage』(1965)のタイトル曲。
ご紹介するのは、ラテンジャズのトロンボーン奏者コンラッド・ハーウィッグの2010年の作品『Latin Side of Herbie Hancock』 より。
ハーウィッグは1959年オクラホマ生まれ。80年代にNYでクラーク・テリーのグループでキャリアをスタートし、トム・ハレルやジョー・ラヴァーノ、ミンガス・ビッグバンドなどジャズ側の活動と共にエディ・パルミエリのラ・ペルフェクタIIやミシェル・カミロのグループにも参加。同時に87年のソロ・アルバム以来、多くの作品を録音しています。
『The Latin side of John Coltrane 』(1996)『The Latin Side of Wayne Shorter』(2008)、『The Latin Side of Joe Henderson』などジャズとラテンの両方を自分のものとした魅力的な作品が多いです。
このバージョンもNYならではの両方の語法を自然に操れるメンバーの素晴らしい演奏です。
CONRAD HERWIG(tb),CRAIG HANDY(sax,fl,b-cl), MIKE RODRIGUEZ(tp)
BILL O'CONNELL(p), RUBEN RODRIGUEZ(b), ROBBY AMEEN(ds), PEDRO MARTINEZ(per) アルバムの他曲にはEDDIE PALMIERI(p),RANDY BRECKER(tp)も参加。
6. Impressions: Danilo Perez from "Central Avenue"(1998)
ジョン・コルトレーンの1963年のアルバム『Impressions』から。コルトレーンのモード曲の代表作。Dm7-Ebm7をドリアンモードを軸にいかに自由に演奏するかというプレイヤーのチャレンジの中でスタンダード化したと言えましょうか。
ダニーロ・ペレスの演奏は彼の4枚目のアルバム『Central Avenue』(1998)から。ダニーロ・ペレスはパナマ出身のピアニストでパナマそしてアメリカのバークリーなどで学び、在学中からジョン・ヘンドリクスやテレンス・ブランチャードなどとギグを開始、卒業後も数々のギグやディジー・ガレスピーのUNオーケストラなどで活躍。1993年にソロ・デビュー。同時にウエイン・ショーターのグループメンバーなどとパキート・デ・リベラやダヴィッド・サンチェスなどのメンバーとしても活動しラテン/ラテン・ジャス/ジャズの垣根などない音楽を作り上げています。
この演奏もジョン・ベニテス(b)やパーネル・サタニーノ(congas)などラテン寄りのメンバーとジャズ側のジェフ・”ティン”・ワッツ(ds)が垣根無くプレイ。アルバムの他に曲ではジョン・パティトゥチ(b)やジェフ・バラード(ds)も参加。
Danilo Perez(p)John Benitez (b), Pernell Saturnino (congas)
Jeff "Tain" Watts (ds) Luciana Souza (vo)
7. On Broadway : Tito Puente and His Latin Ensemble from “On Broadway” (1983)
バリー・マン&シンシア・ワイルのおしどりコンビの作詞・作曲にによる1963年のザ・ドリフターズのヒット。1978年のジョージ・ベンソンのアルバムWeekend in L.A.』からのシングルカットもヒットしました。
ティト・プエンテ 1983年のバージョンはNYのラテンジャズの腕っこきがクールにプレイ。途中からラテンにチェンジ、アップテンポでのマリオ・リベラ(fl)をリズム隊があおります。
Tito Puente(vib, timb, perc),Bobby Rodriguez(b),Johnny Rodriguez (bongos, perc),Jerry Gonzales*(congas, flh),Edgardo Miranda (g, cuatro),Jorge Dalto (p),Mario Rivera (fl)
さて、最後は新譜です。
10. Like Someone in Love : Kali Rodriguez-Pena from 『Melange』(2022)
キューバ生まれ、2014年よりニューヨークで活動する若手トランペッター、カリ・ロドリゲス-ペーニャの新譜『Melange』から。
NYに移住以来、数々のギグに参加。2017年には、アルトゥーロ・オファリルとチューチョ・バルデスのアルバム『Familia』に”Third Generations Ensamble”の一員として参加、今回のデビュー盤へと繋がっています。マイルス、ショーターなどからヒップ・ホップまでを愛する新しい感覚でこれからが楽しみです。
本作(これもスタンダードですね)のYouTube画像はなかったので、2017年の同曲の演奏を貼っておきます。
メンバーはCDとは若干異なりベースにルケス・カーティス、ドラムにアマウリー・アコスタ、コンガにマルコス・ロペスが入っています。
Kalí Rodríguez-Peña (tp), Kazemde George (ts),Gabriel Chakarji (p), Bam Bam Rodríguez (b), Zack O’Farrill (ds), Víctor Pablo García (congas, barril, perc)
5月は以上です。ありがとうございました!気に入った方はぜひ「スキ」(下の方のハートマークのクリック)をお願いします!
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「世界はジャズを求めてる」は鎌倉FMで毎週木曜午後8時から1時間(再放送は毎週日曜昼の12時から)、週替りのパーソナリティが、さまざまなジャズとその周辺の音楽をご紹介するプログラムです。
進行役は、第1週が村井康司、第2週が池上信次、第3週が柳樂光隆、第4週がeLPop(伊藤嘉章・岡本郁生)、そして第5週がある月はスペシャル・プログラムです。
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