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「#世界はジャズを求めてる」2022.1月4週(1/27)『コルトレーンとモンクの映画とラテン』eLPop伊藤嘉章・岡本郁生 #鎌倉FM

『世界はジャズを求めてる』第4週は「ラテンとジャズの危険な関係」。eLPopの伊藤嘉章(mofongo)と岡本郁生(el Caminante)がお送りします。ジャズ評論家の油井正一さん「ジャズはカリブ音楽の一種」と喝破されたように成り立ちから一つのラテンとジャズは、垣根を意識することなくお互いに溶け合ってきています。そんな関係のカッコいい曲をお届できればと。番組をお聴きになってラテンに興味がでた方、ラテンがお好きな方はラテン音楽Web マガジン「エル・ポップ(eLPop)」など覗いて頂けたら幸いです。(URL=http://elpop.jp

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1/27分(再放送1/30 12:00)ではまずは新譜から。

1. Kenny Garrett "Hargrove" from 『Sounds from the ancestors』 (2021)

昨年秋のリリースですが、素晴らしいアルバムで、今月の特集ともつながる部分がありご紹介します。

ケニー・ギャレットはいわゆる「ラテン」のアーティストではありませんが、ジャズだラテンだという垣根を超えての様々なアフロルーツの音やそのスピリッツへのリスペクトを作品としてリリースしてきました。

この『Sounds from the ancestors』は”祖先からのサウンド”というタイトルが表す通り、マイルス、コルトレーン、ブレイキー、トニー・アレン、ハバード、ハーグローヴ、コリアなど亡くなった人たちやファラオやハンコック、チューチョ・バルデスなどからQ-TIPまでの系譜を受け継ぐ人たち、そしてヨルバ/サンテリア/アフロキューバン、ハイチ、グアドループなど北米の「ジャズ」のみならずカリブの様々なアフロルーツへのレスペクトを取り込んでいる部分も大きな聴き所。

2013年の『Pushing the world away』(ピアノはベニート・ゴンサレス/ベネスエラ)で表現された”Chucho’s Mambo”(キューバ)や”J’ouvert”(トリニダード)などカリブへのレスペクトがこの作品でアフロルーツに大きく統合された作品になっています。

ヨルバな(1)、3-2クラーベの後半を16分のウラから出て今のジャズのビート感と融合したようなリズムがかっこいい(4)、グアドループのパジャンベルやメンデのようなグォカのリズムを感じるスネア(レニー・ホワイト)の(6)の前半、そしてハイチ革命の兵士に捧げられた(6)の後半、ペドリート・マルティネスがコンガと歌で加わる(7)、というふうにモチーフやそのグルーヴにカリブ/ラテンの色とアフロ・アメリカン音楽としてのジャズの系譜が複数のレイヤーを持ち聴き所満載の盤です。

その中から2018年に亡くなってしまったロイ・ハーグローヴ(tp)に捧げる曲。「Hargrove」を。

一聴して分かる通りハーグローヴの”The RH Factor”的サウンド。そして途中にジョン・コルトレーンの「Love Supreme」のメロディーが挿入されています。ヒップホップ感を含むアフロ・アメリカンのリズム感覚とラテン・フィール的な重なりも感じられると思います。

The R.H.Factor "Hard Groove"

さて、このギャレットのアルバム・ジャケット(*上のYouTube画面をご覧ください)を見てThe RH Factor2017年のアルバム『Hard Groove』を思い出した方もいると思います。カバーのペインティングは共にルディ・グティエレス(Rudy Gutierrez)です。ブロンクス生まれのプエルトリコ系ニューヨリカン。多くのアワードを受賞し、またモンティ・アレキサンダー『Wareika Hill』(2019)やサンタナの『Africa Speaks』(2019)などのアルバムジャケットも手掛けている人。そして、コルトレーンの映画『CHASING TRANE』のポスターも彼なのです(日本公開のポスターは日本向けのもの)。

ということで次はこのコルトレーンの映画とセロニアス・モンクの映画のご紹介に繋ぎます。

「Hargrove」Kenny Garrett(as, vo, p), Vernell Brown, Jr.(p), Corcoran Holt (b), Ronald Bruner (ds), Rudy Bird (perc), Maurice Brown (tp), Linny Smith (tp), Chris Ashley Anthony (vo), Sheherazade Holman (vo)

(MUSICIANS on other trucks: Jean Baylor (vo), Dreiser Durruthy (bata, vo), Johnny Mercier (p,org,rhodes), Lenny White (snare), Pedrito Martinez (vo, congas), Dwight Trible (vo))

 

特集「コルトレーンとモンクの映画」

12月1月とジョン・コルイトレーン、セロニアス・モンクのドキュメンタリー映画が公開されています。今日の特集はこの映画にちなんで『ラテンサイド・オブ・コルトレーン&モンク』です。まずは映画の紹介を簡単に。

■ジョン・コルトレーンの映画「チェイシング・トレーン」

ジャズ界史上最大のカリスマと称されるサックス奏者ジョン・コルトレーンの、短くも求道的な人生を描いたドキュメンタリー。わずか40年の生涯でありながら、ジャズのみならずアメリカ・ポピュラー音楽の歴史に多大な影響を与えたコルトレーン。レコーディングの機会に恵まれなかった不遇なキャリア初期、恩師マイルス・デイビスのバンドへの抜てき、薬物とアルコール依存症を乗り越え才能を開花させた1957年、そこから約10年間で数々の名盤を生み出していく姿を、コルトレーンに影響を受けたアーティストたちの証言や貴重な映像の数々を元に振り返る。さらに、これまであまり語られてこなかった彼の家族やプライベートについても描く。オスカー俳優デンゼル・ワシントンがコルトレーンの声を担当。Netflixでは「コルトレーンを追いかけて」のタイトルで配信。(オフィシャルサイトより)

監督:ジョン・シャインフェルド、出演:ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、マッコイ・タイナー、ウェイン・ショーター、ジミー・ヒース、レジー・ワークマン、ウィントン・マルサリス、カマシ・ワシントン、カルロス・サンタナ、コモン、ジョン・デンスモア

2016年製作/99分/G/アメリカ
原題:Chasing Trane: The John Coltrane Documentary

■セロニアス・モンクのドキュメンタリー2本

「MONK モンク」(68)と「モンク・イン・ヨーロッパ」(59)からなる2部作 

「モンク/MONK」

監督:マイケル・ブラックウッド/クリスチャン・ブラックウッド、   出演:セロニアス・モンク(p)、チャーリー・ラウズ(ts)、ラリー・ゲイルズ(b)、ベン・ライリー(ds)、パノニカ・ドゥ・コーニグズウォーター

│1968年│58分│アメリカ

自身のカルテットを率いて、ヴィレッジヴァンガードやコロムビアレコードのレコーディングスタジオでのセッションに臨むモンク。唇に煙草を挟み、汗まみれになりながら激しいパフォーマンスを繰り広げるモンクだが、一旦ステージを降りると人懐っこい笑顔を浮かべ、庇護者のニカ(パノニカ・ドゥ・コーニグズウォーター)らととりとめもない会話に興じる。そのギャップも彼の魅力のひとつ。(オフィシャルサイトより)

「モンク・イン・ヨーロッパ/MONK IN EUROPE」

監督:マイケル・ブラックウッド/クリスチャン・ブラックウッド、   出演:セロニアス・モンク(p)、レイ・コープランド(tp)、クラーク・テリー(tp)、フィル・ウッズ(as)、 ジョニー・グリフィン(ts)、チャーリー・ラウズ(ts)、ジミー・クリーヴランド(tb)、ラリー・ゲイルズ(b)、ベン・ライリー(ds)、ネリー・モンク 1968年│59分│アメリカ

1968年に行われたヨーロッパツアーの記録。足で床を叩いてリズムをとりながら圧巻の演奏を見せるモンク。それに負けずとも劣らない迫力のパフォーマンスで応える実力派ミュージシャンたち。ロンドン、ストックホルム、コペンハーゲン、ベルリン、マインツ、ロッテルダム各地でのステージに加え、モンクのホテルでくつろぐ様子、街を闊歩する姿なども収められている。(オフィシャルサイトより)

という映画です。まだ見られるところがありますので機会があればぜひ。

さて

『ラテンサイド・オブ・コルトレーン&モンク』


コルトレーンやモンクの素晴らしい作品はラテンサイドで多く取り上げられています。

2.  Jerry Gonzalez"Evidence" from『Ya yo me Cure』(1979)

NYのラテン/ラテンジャズ/ジャズのクロスは彼なしでは語れない、トランペッター&コンガ奏者ジェリー・ゴンサレス(1949-2018)の初リーダー作『Ya yo me cure』(American Clave)から。Mustの盤です。この作品ではタイトル曲のようなラテンサイドの曲とこのモンクの曲やデューク・エリントンの”Caravan”、ウェイン・ショーター作、マイルスの”ネフェルティティ”を取り上げています。ルンバ・クラーベ、ハチロクできちんとリズムを取ってこういう風にやれる人は当時ジャズ側にはいなかった。今ではずいぶんフラットになったけど、この演奏は未だに色あせていないです。

Jerry González (tp, flh, congas, vo), Andy González (b, vo) , Don Alias(ds), Hilton Ruiz (p), Steve Turre (tb, shell), Papo Vasquez (tb, vo), Nicky Marrero (timb), Carlos Mestre (congas), Mario Rivera (ts), Milton Cardona (vo), Vincent George (perc), Gene Golden (bata), Edgardo Miranda (g, cuatro), Frankie Rodriguez (bata, perc)

3.  Hilton Ruiz "Like Sonny" from 『Hands on Percussion』(1995)

ニューヨーク生まれで8歳でカーネギー・ホールで演奏するという神童ぶりのヒルトン・ルイス(1952-2006)はフレディ・ハバードやジョーヘンダーソン、ローランド・カークのメンバーとして活躍し1975年にジオのグループで活動開始。以後多くの作品を発表。2006年に惜しくも亡くなっています。“Like Sonny”はジョン・コルトレーンの1961年の作『Coltrane Jazz』に収録のソニー・ロリンズに捧げられた曲。面白いチョイスです。

Hilton Ruiz(p), Steve Berrios(timb), Ignacio Berroa(ds), Peter Brainin(fl), Andy González(b), Giovanni Hidalgo(congas, chekere , perc), David Sanchez(ts), Charlie Sepúlveda(tp), Dave Valentin(fl)

4. Mark Weinstein “Crescent” from 『Con Alma』(2007)

マーク・ウェインスタインはニューヨークのブルックリン育ち。14歳からトロンボーンを始め早くも高校生でプロ入り、ラリー・ハーロウやエディ・パルミエリのlラ・ペルフェクタ、ティト・プエンテのオルケスタに参加するなど活躍、同時にジャズ側でもジョー・ヘンダーソンやクラーク・テリー、ライオネル・ハンプトン、ケニー・ドーハムなどのグループに参加し、1967年にソロ・アルバム『Cuban Roots』(Fania)をリリースしています。

その後、学位を取り教職の道(数学)に進みますが、70年代後半、フルートでシーンに復帰。以後数々の作品を発表しています。コルトレーン作「Crescent」はコンガに若きペドリート・マルティネスが参加。冒頭がダンソンのスタイルとなっています。

Mark Weinstein(fl), Santi Debriano(b), Mark Levine(p), Pedrito Martínez(congas), Mauricio Herrera(ds)

5.  Giovanni Hidalgo “Blue Monk” from 『Hands of Rhythms』(1997)

高速プレイはお手の物の二人、ジオバンニ・イダルゴ(conga)とミシェル・カミーロ(p)がモンクの「Blue Monk」で組んだ作品。楽し気なミディアム・テンポのデュオの中で強力なグルーヴを楽しんでいます。

 Michel Camilo(p)、Giovanni Hidalgo (congas, bongos)

6.  Tito Puente & Mongo Santamaria & Golden Latin Jazz All Stars “Afro Blue” from『Live at the Village Gate』

コルトレーンはラテンにとても興味を持っていたことは有名ですが、それが表れた曲としてはずせない「Afro Blue」。作曲者のモンゴ・サンタマリアがティト・プエンテのオールスターズに参加して、冒頭から叩きまくるチューンです。メンバーはこれまでご紹介した面々が参加するまさにオールスターズ。

Tito Puente(timb, vo), Mongo Santamaría(congas), Ignacio Berroa(ds), Hilton Ruiz(p), Andy González(b), Giovanni Hidalgo(congas, bongos), Paquito D'Rivera(as), Mario Rivera(ss), Dave Valentin(fl) ,

最後にもう1曲新譜のご紹介を。

Yturvides & Perico Luis Perico Ortiz Ft Yturvides from 『Sigo Entre Amigos』

プエルトリコのトランペッター、そしてサルサの数々の名作のアレンジャーとして知られるルイス・ペリーコ・オルティスの新作から。

フィーチャーされるのはトランペッターのイトゥビデス(・ホセ・ビルチェス・カルドソ)。1980年ベネズエラのマラカイボ生まれで現在はプエルトリコに在住。2008年からプエルトリコでメレンゲ・グループ「グルーポマニア」に参加、以後サルサやラテン・ジャズのエリアで活躍し、アルトゥーロ・サンドバル(tp)やパキート・デリベラ(sax)などとも共演。日本の赤木りえさんとステージを共にしたことがあるとの事。これからが楽しみな逸材。

Luis Perico Ortiz (tp), Yturvides Vilchez (tp), Nestor Torres (fl), Charlie Sepuveda (tp), Antonio Luis Orta (sax) Tony Vega(vo), Millie Quezada(vo), Johnny Rivera(vo), Gerardo Rivas(vo), Henry Santiago(vo), and more.

 

1月は以上です。

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「世界はジャズを求めてる」は鎌倉FMで毎週木曜午後8時から1時間(再放送は毎週日曜昼の12時から)、週替りのパーソナリティが、さまざまなジャズとその周辺の音楽をご紹介するプログラムです。
進行役は、第1週が村井康司、第2週が池上信次、第3週が柳樂光隆、第4週がeLPop(伊藤嘉章・岡本郁生)、そして第5週がある月はスペシャル・プログラムです。
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