最終レポート by#せかい部×SDGs探究PJ高校生レポーター 古川瑠璃(早稲田佐賀高等学校)

2020年10月10日より、「#せかい部×SDGs探究プロジェクト」が開催された。全国45都道府県から171名の高校生と5名の先生がレポーターとして参加し、SNSを通じてSDGsの発信活動を行った。今回はこのプロジェクトが示した3つの若者の能力について述べる。

1. 若者の参画力

SNSに学習内容や意見を発信するにあたり、レポーターの方々はインターネット上で行われるプロジェクトやSDGsに関するニュースを目の当たりにする。それらへの彼らの参画力はすさまじく、多くの方々が自分なりに社会課題解決の力になろうとしていた。以下に示すのは、その能力が顕著に現れた三つのケースである。


a. 国際的参加型プロジェクト

せかい部×SDGs探究プロジェクトでレポーターの方々が主に発信をした10月から11月にかけて、国際的な参加型プロジェクトが2つ動いていた。

一つ目は「OnigiriAction」である。これは、NPO法人TABLE FOR TWOにより10月1日から10月31日まで行われた企画である。SNSで#OnigiriActionの付いた画像が一つ投稿されるにつきアジア・アフリカの子供たちに五回分の給食が配布されるというものだ。多くのレポーターが自作のおにぎりの画像の他、おにぎりのレシピや加工画像など思い思いの投稿をした。

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二つ目は「シトラスリボンプロジェクト」である。これは有志団体によって12月20日(最新日時)現在も行われている企画である。参加者はシトラスカラーのリボンや紐を独特の形状に結んだものを作成する。レポーターの中にも、シトラスリボンを鞄や服に着けてSNSにアップした人がいくらかいた。

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これらのプロジェクトは有志の自主的な運動が必要不可欠であるため、知名度が低いとプロジェクト自体がうまくいかない可能性がある。また寄付先がどのように社会課題に貢献するか分かりにくい、ボランティア自体を胡散臭く思うなどといった理由からインターネットの掲示板でこのような運動を批判する人々もいる。しかしその一方には、各自ができる方法で懸命に行動を起こし、他人に運動を普及させようとする若者の姿があるのだ。

b. ネット完結型アンケート

SNSでは、社会課題に関する簡単なアンケートや署名運動が行われている。ここでは、レポーターが特に反応を示した2つのアンケートと署名運動を例に挙げる。

一つ目は「UN75アンケート」である。これは、国際連合(以下、略称「国連」を使用)により2020年1月1日からインターネット上で行われている調査である。新型コロナウイルスのパンデミックからの復興や社会課題解決に関する7つの質問が設けられており、最後の質問では国連事務総長に140字以内で直接意見を送ることができる。現在は65ヵ国語に翻訳され、既に110万を超える回答が集まっている。

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二つ目は「EqualityActJapan」である。これは、日本でのLGBTの方々への差別や偏見に対する保護を求める法律の制定を求めるキャンペーンである。協力者は名前・国籍・メールアドレスを規定フォームに入力し「署名する」ボタンを押すだけで良い。12月20日現在、9000を超える署名が集まっている。

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いずれもインターネット上で記入が完結するものであるが、短時間であってもこのようなアンケートや署名運動の参加を煩わしいと考える人々はいる。煩わしいという強い感情を抱くことはなくても、タイムラインに流れて来た時に素通りしてしまうことは多い。しかし、アンケートや署名運動の背景にある社会課題がどんなものなのか、有識者の話を聞いたレポーターの方々にははっきりと見えたのだろう。

c. 時事情報

レポーターの方々が発信活動をしていた10月~11月にも、世界中ではSDGsに関する記念日やニュースといった時事情報が拡散されていた。その中で代表的なものを二つ挙げる。

一つ目は「国際ガールズ・デー」である。これはプラン・インターナショナルの働きかけを受けた国連によって10月11日と定められた。女児・女性の性別を理由とする差別をなくすことを目的として、インターネットで多様なイベントを通した啓発活動を行った。前日にキックオフミーティングが行われたばかりで士気が高まっていたのを一因として、メインテーマに関わらず多くのレポーターがこれに関する投稿をした。

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二つ目は「足立区区議の発言」である。9月25日の足立区議会本会議にて、白石正輝区議会議員が性的少数者に対する差別的発言をしたことでメディアを賑わせた。テレビのニュース番組でも報道されたこと、10月20日の翌本会議にて撤回の発言をし探究プロジェクト開始後再度話題になったこと、キックオフミーティングや国際ガールズ・デーが行われたばかりでジェンダー平等に関する情報には敏感になっていたことが相まり、Instagramのキャプションでいくらかのレポーターが言及した。

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アンケートや署名運動と同様、SNSで社会課題に関する記念日を知ってもほとんどの人々は何もしないだろう。ニュース番組でちょっと長い期間放送されていたら目につくくらいである。今回SDGsについての学習及び発信活動をしたレポーターの方々は少なくとも二ヶ月の間は社会課題の時事情報に敏感になっていたし、今後ともそうあり続けると私は思う。


2. 若者の技術活用力

私たち高校生がデジタルネイティブ世代と呼ばれて久しい。今回のプロジェクトでも自身のデジタル機器活用能力を生かし、魅力ある画像やスライド、企画を発信したレポーターが数多く存在した。その一方で、アナログ的発信活動も目を引いた。
ここからはレポート活動の実例を、実名(一部不明な者はSNSで実際に使用されたユーザーネーム)を提示しながら紹介する。

a. デジタル型

イ. Instagramのライブ機能

Instagramのライブ機能を利用し、SDGsに関する発表を行う。主な内容は学習内容と意見の口頭発信や他のレポーターとの対談。リアルタイムで発表の様子を配信できるだけでなく、準備に必要な時間や道具が少ないこと、ライブをしているアカウントはInstagramのホーム画面の目立つ部分に表示されワンタッチで参加できるため観覧者を集めやすいこと、在住地に関わらず不特定多数への発信と他のレポーターとのコラボ企画の実行が可能であることが利点として挙げられる。

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何人かのレポーターがこの方法で自身の活動発表を行ったが、中でも特に目を引いたのは松岡明希さんの活動である。彼は自身の学習内容やSDGsも関する意見、そしてほかのレポーターとの対談を実に50本以上ものインスタライブで発信した。学んだことをすぐにスライドに纏めて発信する技術活用力に加え、レスポンスがわかりにくインターネットでのライブ配信における話す力、さらに対談を自ら持ちかけ実行する企画力、そしてこれを2か月間やめない継続力。彼が発揮したこれらの能力がこのインスタライブをより魅力的にしていたといえる。なお、松岡明希さんはベストレポーターに選出された。

ロ. ZEPETO

近年若者の間で話題となっているアプリ「ZEPETO(ゼペット)」。自分の身体的特徴を反映したアバターを作り、衣装やポーズ、動きを設定することで写真や動画にそれを載せることができる。

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こちらもベストレポーターに選出された吉野夏乃葉さんは、ZEPETOで作成したキャラクターとSDGsの学習内容や意見を記載したスライドを組み合わせて独自の画像を制作・投稿していた。
このように、若者が若者に人気のあるアプリを使い発信することは、若者が興味を持って投稿を見ることができる点、また閲覧者に発信者の内面を垣間見させ親しみを持たせることができる点で良いと言える。

ハ. アイビスペイント

アイビスペイントとは、その名からも分かる通りスマートフォンで無料でダウンロードできるイラスト制作アプリである。

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ここで僭越ながら私の例を紹介させて頂く。私はアプリ「アイビスペイント」を使用し、世間で害獣と見做されている動物のキャラクターのイラストを制作し、公開した。名前やプロフィールを記載することで親しみやすさを加えた。
ここで示したいのは、SDGsの発信をするといっても多様な方法があるということだ。私はキャラクターを作りイラストを描くのが好きだからという理由でこの方法を選び、SNSに画像をアップした。発信をするためにこの方法を用いなければならないということなどなく、各々が楽しいと思えるやり方を選べば良いのだ。他のレポーターの方々の投稿やレポートを読み発信活動を始めたいと思った方々には、ぜひこれを理解して頂きたい。これから上の二つの例もそれを物語っているといえるだろう。


b. アナログ型

イ. 単語カード

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山口太我さんは「SDGsの概説」と「日本の貧困」それぞれのテーマについて単語カードを利用した動画を作成した。画面では単語カードに描かれたイラストが完成していく過程を見ることができ、それぞれのテーマの説明がナレーションと字幕でなされていく。やろうと思えば誰でも出来そうなことだが、「単語カードを使う」というアイデアはなかなか思いつかないだろう。高校生ならではの視点が光っている。
なお、山口太我さんは特別賞を受賞した。

ロ. 手書きノート

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木村仁音さんは「生物多様性の重要性」を、手書きでデジタルのノートにまとめて投稿した。パソコンで文字を打って資料を作成することとの相違点は、「個性が出やすい」「文章の向こうにいる人間の存在を感じられる」など様々である。なお、デジタルベースに手書きで内容を入力し画像を作成したレポーターはこの他にも何人か見られた。

ちなみに「紙のノートに内容をまとめ、写真で投稿する」という方法を取ったレポーターは少なかった。アナログベースのノートを写真で撮る場合、スマートフォンで撮影すると陰ができやすいため公衆閲覧には不向きなのである。また色ペンを使ってもデジタルノートほどはっきり色が出ない。手間もコストもかかりクオリティも上がらないため、この方法を選んだ人が少ないのだろう。アナログがデジタルに淘汰されている象徴である。

3. 若者の企画・行動力

若者には既存のアイデアに縛られない発想力、それを断行する行動力がある。いくらかのレポーターはこの2ヶ月間で、それをSNS上で体現して見せた。

a. 個人的発信

イ. フリップネタ

若宮尚さんは「ジェンダー平等」をテーマとし、フリップ形式で桃太郎のパロディネタを2本の動画で紹介した。多くの人が知る桃太郎の文章が、ジェンダー平等の観点に基づいて書き換えられていく。専門用語については右上に解説が付き、よく知らない人も楽しめるコンテンツとなっている。

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若宮尚さん本人はTwitterで「フリップネタをだれもやっていませんでした。ふしぎ」と語っているが、フリップネタはおろかお笑いで発信しようとすること自体簡単に思い付く話ではない。思い付いた所で、大半の人間には恥ずかしくてできないのが現状ではないか。ましてやそれを不特定多数が閲覧するSNSにアップすることは、限られた人しかやらないだろう。しかしこれこそが「独創性」の源泉なのだ。
学校のような現実世界では、周りと違うことをする人は引かれる。多くの人はそんなリスクのあることに挑戦しようとはしない。「独創性」が希少価値だと見做されているのは、そのような人々の挑戦に対する怠惰によるのである。

ロ. オンラインセッション

高橋あすかさんは、FFF静岡さんとsobolonさんとのコラボ企画と称して、zoom上でオンラインセッションを行った。あすかさんご自身は、レポート活動開始前からマイクロプラスチックからアクセサリーをオーダーメイドで制作するプロジェクトを実施している。同様の活動を行う他の方や、別の方法で環境負荷軽減への挑戦をしている方々との、環境問題を主軸とした対談であった。

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一昔前は会場を借りてチケットを集めて、広告をして…などといった膨大な量の準備作業をこなさなければ開催できなかったトークイベントが、インターネットの整備やデジタル機器と多様なアプリの出現により経験が浅くても簡単に実現できるようになった。高校生であるあすかさんのオンラインセッション開催はそれを象徴している。
SNSの台頭により誰もが等しい大きさのアカウントを作成し他と交流することが可能となった。一般人一人でも偉い人と同じ壇場で関わることができるという、ありえなかったことが起きている。会社や団体など大きな組織でなければ発信力を持てない、大きな組織にいなければ生きていけない時代は終わった。これからは個が個としてどのように発信するか、どのように生きるかが重要なのだ。


b. 団体的発信

イ. 全国交流会

11月21日と22日の2日間、高校生レポーター171人の内、有志7人が運営する「せかい部×SDGs全国交流会」がzoomで開催された。ブレイクアウトルームなどの機能を使用し、#せかい部×探究プロジェクトの運営をする文部科学省の担当者からの協力も得ながら、多くのレポーターがこの会に参加し、親睦を深めた。

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この探究プロジェクトには、本来、レポーター同士で関わらなければいけない場面はキックオフミーティングを除いて全くなかった。SDGsを学び発信するのが主な仕事だからだ。個人としての活動がメインのプログラムであるにも関わらず、相互交流することを諦めなかったこと、その要望が多くのレポーターの間でより膨れ上がった結果、大人まで巻き込んだ交流会の開催が実現してしまったこと、これらは大いに賞賛されるべきだ。

また、このように全国のレポーターが一つの場に集結することは、レポーター以外の傍観者にも非常にインパクトを与えられたと思う。傍観者が来年この探究プロジェクトに参加し同様の交流会を開催したり、このプロジェクト以外の場でも似たような動きをしたりすることもあり得るだろう。

ロ. 分割アート

SDGsのテーマ文をモチーフにした分割アートが、レポーターのうち有志30人によって作成された。一人一文字を思い思いに描き、「SDGs~誰一人取り残さない!Leave no one behind~未来をかえるのは私だ」という文章を作り上げた。現在分割アートは川西満葉さんのinstagramに投稿されている。

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これについて注目すべきは、「1ヶ月強前は赤の他人だった人同士が、同志として一つの作品を完成させている」点だ。彼ら30人それぞれが異なる考えや価値観を持っていることは上の画像を見ても分かる通りだが、それ以上に彼らはお互いのことを何も知らなかったのだ。違う県に住み、違う高校に通い、違う将来を歩む。プロジェクトがなければお互いに気にかけることもなかったであろう彼らが共通のビジョンを持ち、達成に向けて邁進している。若き彼らのエネルギーは、例えプロジェクトに一切関わりを持たない赤の他人であっても感じ取ることができるだろう。

レポート活動を終えた12月現在も、レポーター同士の交流は至る所で見られる。今後レポーターたちが協力し、さらに大きなムーブメントを起こす日も近いのかもしれない。

4. おわりに

以上で示した通り、若者には時事的な運動や情報を素早くキャッチし反応する「参画力」、 適切なデバイスを自分で選択し発信に独創性を加える「技術活用力」、ユニークな企画を考案し実行する「企画・行動力」がある。これらはペーパーテストはともかく実際に観察する方法でさえも測ることが難しい。自由性を持つプロジェクトを与えてみてはじめて発現するものだからだ。若者の持つ能力を目の当たりにしたい、もしくは伸ばしたいのなら、学校や企業は生徒や人材について、目に見える成績や賞・資格だけで全てを判断することをやめ、
「やらせてみる」ことが大切であると私は考える。

最後に、私からのメッセージを添えてこのレポートを締めさせて頂く。
なお、SDGsに関するものではない。
このレポートは12月20日に完成したものである。既にベストレポーターや特別賞受賞者の発表は終わっており、レポーターの方々は思い思いの活動をしている。彼らは10月も11月も、惜しむことなくプロジェクトに携わっていたのだろう。私は10月こそ精力的に学習及び発信活動を行っていたが、11月は定期考査が近づいていたためそれらを全て停止した。おかげでほとんど全ての教科で9割以上を得点し、(正直いつものことだが)学年順位1位を獲得した。しかし約1ヶ月に渡る活動のブランクは大きく、他のレポーターとは活動量に大きく差が出てしまった。考査終了後も行事や進路決定などに追われた結果、レポートを12月8日の最終締切に間に合わせることができなかった。

私がもし学力を最優先事項とするならこれは仕方がないことなのかもしれない。しかし、このプロジェクトには、学校の授業では教わらないこと、今の学校では実現しにくいことが凝縮されていた。毎日のように行われた講義はSDGsへのリアルな理解を促すものであったし、他のレポーターが協力して発信活動をする様子も素晴らしかった。私もその輪に少しでも入ればよかったと思う。

学校の仕事は私たちの学力を上げて安全な将来を歩ませることであるから(少なくともうちはそうだ)、このような活動はせいぜい推薦入試の材料程度にしか見られない。家族も同様、学校の勉強で結果を出して私たちが良い大学、良い企業に入ることを一番とするだろう。
このレポートを読んでいるあなた、特に似たようなプログラムに参加しようと思っているあなたがそう思うなら、学力向上に時間と力を注げばよい。しかし、それで少しでも後悔してしまいそうなら、勉強より熱を注げるものが存在するなら、家族や先生に何を言われても目の前にある熱中できることに全力投球すべきだ。なぜならそれはあなたを、より多面的な人格にする行動であるから。
あなたが私と同じ過ちを繰り返さないことを、心から願っている。


早稲田佐賀高等学校(佐賀) 古川瑠璃
#せかい部 ×SDGs探究PJ高校生レポーター (生物多様性を守ろう)

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