1年次におけるSDGsを主とした持続可能な開発のための教育(ESD)の実践 by 鈴木慎也〔東京工業高等専門学校〕#せかい部×SDGs探究PJ先生レポーター

1.はじめに
SDGs時代における持続可能な地域づくりにおいて、高等専門学校は、これまで以上に地域のさまざまなステークホルダーを結び付けるハブ機能を担うことが期待されている。東京工業高等専門学校(以下、本校と呼ぶ)では昨年度から「社会実装プロジェクト」が4・5年生の必履修科目としてスタートした。この科目では、学生がさまざまな社会課題に対し、その解決に向けた試作を行い、実際に社会に実装することを目標に掲げている。これはまさに昨今の社会的要請に応えるための取り組みであると言える。
このような中で、本校の1年生に対し、SDGsをテーマとした探求プロジェクトを導入することは、早期の段階から社会課題に対する感度を高めるとともに、利他的な学びの動機付けを可能とし、SDGs時代に活躍することができるエンジニアの育成に大きく寄与するものである。以上が本校におけるSDGs探究プロジェクトの導入の背景とその狙いである。
 
2.SDGs探究プロジェクトの概要

画像1図1 SDGs探究プロジェクト各回の授業概要

本校では、COVID-19(以下コロナ)対策の一環として、5月からオンライン授業の導入を開始し、6月からは1学年は週4対面授業、週1オンライン授業となるように特別時間割が編成された。本プロジェクトが始動した後期は、それまで週1であったオンライン授業を週2に拡充すること、コロナ対応の更なる強化が図られることとなった。そのような中で、本プロジェクトは、対面授業日のLHR(45分)とオンライン授業日の特別活動(90分)の時間を用い、1学年全員を対象に実施された。本プロジェクトの第1回~第3回は、マイクロソフトTeamsを、「#せかい部×SDGs探究プロジェクト」の支援を受け実施された第5回はZoomをそれぞれ用い、オンライン授業として行った。以下、本校におけるSDGs探究プロジェクトの各回の授業内容について簡単に紹介する。

2.1. 第1回目 「SDGsとは?」
 今回、対象となった本校1年生は、中学校の時点で社会科の授業や特別活動の一環として、何らかの形でSDGsに触れていた世代の学生である。出身中学校によって、SDGsについての認知度にかなりのバラツキが想定されたことから、「誰一人として取り残さない(leave no one behind)」ために、概説的なところから話を進めることとした。導入部では2019年1月に発売された本『FACTFULNESS (ファクトフルネス)』の冒頭で取り上げられている、世界の事実に関する12問のクイズを、2020年11月時点の最新の統計資料に基づいて改変し、教材として取り上げた。その後、MDGsとの比較からSDGsの特徴を押さえた上で、SDGsと企業の営利活動との関係性について、いくつかの日本企業の取り組みを事例として紹介した。

2.2. 第2回目 「SDGsで環境と社会のつながりを考えてみよう」
 第2回目は、一般社団法人産業環境管理協会の大野先生をお招きし、ご講演いただいた。ご講演では、主に温暖化ガスと海洋プラスチックを取り上げ、17目標のうちの「13.気候変動に具体的な対策を」、「14.海の豊かさを守ろう」について、具体例を示されながら、それらの問題の社会的背景について、ご説明いただいた。本授業では、ご講演の後に、13、14の目標とそれ以外の17目標との関連性について、学生が主体的に考えるワークショップが設けられ、活発な意見交換が行われた。

2.3. 第3回目 「花王のSDGsへの取り組み~洗剤をつくる責任!つかう責任?~」
 第3回目は、花王株式会社の井上先生をお招きし、ご講演いただいた。ご講演の前半部では、「12.つくる責任 つかう責任」のうちの「つくる責任」について、花王が手掛けている台所洗剤や洗濯洗剤等の原料調達、加工、輸送、販売までの一連の過程における、環境に配慮した取組みについてご紹介いただいた。後半部では、「12.つくる責任 つかう責任」のうちの「つかう責任」について、詰め替えボトルの積極的な利用や、花王製品で推奨されている洗濯のすすぎ回数を実践することで、実現可能な環境への負担軽減について、ご説明いただいた。身近な商品1つをとっても、そこにはSDGs達成に向けたさまざまな企業努力がなされていること、また、商品を使用する消費者の日々の心がけが重要であることに多くの学生が気づくことができていたようである。

2.4. 第4回目 カードゲーム『2030SDGs』・『SDG Action cardgame X』を用いたワークショップ
 第4回目は、第1回~第3回の授業内容の定着を図るために、『2030SDGs』と『SDG Action cardgame X』の2つのカードゲームを用いたワークショップを開催した。今回、前半部で扱った『2030SDGs』は、一般社団法人イマココラボが作成したSDGsの17の目標を達成するために、現在から2030年までの道のりを体験するゲームである(詳細については、https://imacocollabo.or.jp/games/2030sdgs/参照)。

実施にあたり、イマココラボから各クラスに1名ずつファシリテーターを派遣していただいた(有料)。後半部で扱った『SDG Action cardgame X』は金沢工業大学SDGs推進センター学生プロジェクトと株式会社リバースプロジェクトによって共同開発されたカードゲームである。『SDG Action cardgame X』は、SDGsの発想から事業アイデアを生み出すカードゲームとなっており、将来、エンジニアとして活躍が期待される本学生にとって、SDGsの学びを深めるだけではなく、製品開発を疑似体験できることから大変有用な教材であると言える。本カードゲームはウェブ上にて無料公開されており、誰もが無償で利用可能となっている(https://www.kanazawa-it.ac.jp/sdgs/education/application/)。この他にも本サイトでは、SDGsを題材としたゲーミフィケーション教材が無償公開されており、SDGsをテーマとしたワークショップを気軽に開催するにことができるので、おススメである。

3. 第5回目「水産資源の持続的活用のためのSDGs」 by #せかい部 ×SDGs探究PJ

3.1. 講師決定の背景
第5回目の授業実施にあたり、「アメリカ海洋大気庁(NOAA)」の田中貴生先生に講師をお願いした理由は、以下の4点である。①・②はSDGsの学びを深めることを、③・④は学生が今後の自身のキャリアを考えるきっかけを提供することを企図したものである。
①身近な食材である魚介類を題材に扱うことで、SDGsを学生自身が自分事として捉えるきっかけを創出したかった。
②SDGs達成に向けて、水産エコラベルを例に消費者としてどのような選択ができるのか、学生に考える機会を提供したかった。
②現在、水産資源が直面している課題と今後の展望について、最前線で活躍されている研究者の生の声を届けることで、学生が今後のキャリアを考える上での1つのモデルケースを提示したかった。
③Webを介して、国内の遠隔地だけではなく、世界とつながることができるのだという事を学生に実感して欲しかった。「海外」に対して学生が抱く心理的ハードルを下げたかった。

画像2図2 第5回目の授業風景

3.2. 授業概要(講義60分+質疑応答30分)
 授業冒頭では、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の主な活動とSDGsとの関連性についてご紹介いただいた。その後、水産資源量の推定の仕方について、実際に使用されている数理モデルの一例を用いながら、水産資源の状態をより正確に把握することの重要性をご説明いただいた。ある学生は、「数学はただ計算するだけでなく、さまざまな分野に応用することができるということを水産資源の数理モデルから実感することができた。応用するためにも、基礎数学の勉強に励もうと思った。」という感想を述べている。学生にとって日頃、勉強している数学が、実社会で役立っている様子を知ることができたことは、とても刺激になったようである。
 後半部では、水産資源を守りながら持続的に利用していくために、消費者として何ができるのか、という点にフォーカスしたお話をしていただいた。この後半部の内容については、準備段階でZoomを用いた田中先生との打ち合わせの際に、お話しいただけるように田中先生にお願いしていたものである。環境問題のようなスケールの大きい話になると、そのあまりの大きさに、尻込みしてしまったり、無力感を抱いてしまったりしがちである。そのような中で、消費者として何ができるのか、という点を強調していただくことで、学生一人一人がこれらの問題を自分事として捉え、具体的なアクションを起こすきっかけにしたいという狙いがあった。
 「マグロ」には実はさまざまな種類がいること、それらの種類に応じて資源量スコアに大きな違いがみられることなど、これまで何気なく口にしていた「マグロ」について、実は全く知らなかったという事実に多くの学生が衝撃を受けていた。また、持続可能な漁業・養殖業によって提供された水産物に付けられている「水産エコラベル」の種類やその認定方法について、具体的な事例をもとにご説明いただいた。また、最新の論文やニュースなどを踏まえながら、水産エコラベルの良い点だけではなく、現状の課題についてもお伝えいただけたのは、第一線でご活躍されている田中先生ならではのお話しであった。
 
最後に、今回の授業後に行ったアンケートに寄せられた感想をいくつか紹介したい。

学生Aの感想
「今年までに達成しないといけない数値にはまだほど遠いという言葉を聞いて、環境を改善することは簡単ではないことを改めて実感しました。簡単に「環境をよくしよう」と私たちは言いますが、いいながらも何もしていないことがほとんどです。そんな私たちのような多くの人が何かしらの行動に出ないと、この難しい問題を解決することはできないのだろうなと思います。エコラベルの付いた商品を買うなど、できることは何かあるはずです。今日から、少しでも行動できたらいいなと思います。」

学生Bの感想
「漁業について、SDGsとの関係を学びました。漁獲量等のデータを元に、世界の魚の数を数値化することができるのはすごいなと思いました。そこから、どれだけ獲っていいか、獲っても影響がないかなどを計算することで豊かな自然を守っていけるのかなと考えました。日本は危ない状況にあることを知ったので、認証ラベルのついた商品を買うようにするなど、自分たちができることをやっていきたいです。」

学生Cの感想
「天然の鰻が少ないというニュースを聞くたびに、もう養殖すればいいじゃんと思っていましたが、今日の話で鰻の養殖によって環境が悪くなると知って、魚をよく食べるのに日本の水産業についてなにも知らないなあと思い知らされました。」

5. まとめにかえて 
 2020年はコロナ禍の中で、課外活動に制限がかけられ、多くの学校行事が中止となった。数年後、学生たちが高専1年生を振り返った時に、「コロナ」の記憶だけにさせたくないとの想いから、#せかい部×SDGs探究PJの先生レポーターに応募したのがきっかけである。
今回の授業を通じて、改めてオンライン授業の可能性を強く感じた。オンライン授業の導入によって、距離の制約を取り去ることが可能となり、これまで以上に学校とさまざまな現場をつなぐことができるようになった。SDGsについて学ぶ際には、やはり様々な現場の第一線で活動されている方々の生の声が一番の教材になると私は思う。

キーワードは「自分事」。

いかに大きな目標、課題であったとしても、それを自分の生活の中にうまく落とし込み、具体的なアクションにうつせる学生が一人でも増えるよう、今後も本プロジェクトを継続していきたい。

6.謝 辞
ご講演いただいた田中先生には、お忙しい中、魅力的なプレゼン資料を作成していただき、また19時間の時差がある中で打ち合わせや当日の授業にご参加いただき、大変感謝しております。田中先生の熱意は確実に学生に届いておりました。ありがとうございました。   
コーディネーターの文部科学省の桜木さんには、授業内容を構想するにあたり、いろいろと相談にのっていただいたり、海外の第一線でご活躍されている田中先生をご紹介していただいたりと、大変お世話になりました。

東京工業高等専門学校(東京)  鈴木慎也 #せかい部 ×SDGs探究PJ先生レポーター

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