ONE esports 掲載「【LoL】Eスポーツ・パワーランキング2020春」の内容について

本稿は、2020年1月26日付で「ONE Esports」(日本語版)で公開された記事「【LoL】Eスポーツ・パワーランキング2020春」文中に存在する明らかな間違いや、過去の実績に合致しない記述を指摘し、日本国内におけるeスポーツ組織関連報道の品質向上を訴えるものです。

対象記事は以下となります。

こちらは魚拓。

ONE esports 掲載記事の誤り

以下表現上問題となるであろうポイント、および事実と異なる部分について指摘を行う。原則として記事の記載順とする。

1. チーム・リキッド

以下の本文での表記において、正式な看板である「Team Liquid」 を使用していない(画像引用の引用元のみLiquid)。以下すべてのチーム名についてアルファベットとカタカナ表記が混じっており、記事内で表記が統一されていない。

チーム・リキッドは昨季、『ミッドシーズン・インビテーショナル(MSI)』で優勝こそ飾ったものの

誤り。MSI 2019でTeam Liquidは決勝戦までは進出したがG2 Esportsに敗れて準優勝に終わっている。

さらに、昨季イモータルズ・アカデミー・チームの一員として過ごしたジョシュア・“Dardoch”・ハートネットもLCSへの帰還を果たすことになる。

誤りではないが、実情に即してはいない。Immortalsは2019シーズンの途中でOptic Gamingの参加権およびLoL部門を取得する形で2020シーズンからのLCS復帰をアナウンスしていた。10月からのImmortals所属という経歴は、既にオフシーズンに入ってOptic GamingがImmortalsに切り替わったことで生じたものであり、Immortals Academyの一員としての公式試合の出場実績は存在しておらず(そもそもチーム自体が存在しなかった)、そもそも彼はOptic Gamingの一員として2019シーズンのLCSに参加している。

参考資料
Dardoch選手の経歴(Leaguepedia)
Opticの組織売却関連(ESPN報道)

まずはアカデミー・リーグから台頭したデニス・“Svenskeren”・ヨンセンが、LCSに帰ってきたのだ。

誤り。Svenskeren選手はもともとはヨーロッパで腕を鳴らしたジャングラーで、2016シーズンからNAチームである「Team SoloMid」に入って以来常にトップチームで活躍している。2018シーズンのSummer SplitではCloud9再編の時期にBlaber選手と使い分けになった時期もあったが、アカデミー上がり扱いを受ける選手ではない。Worlds 2019でもスタメン出場している。

参考資料
Svenskeren選手の経歴経歴(Leaguepedia)
Cloud9を脱退した際の公式動画(Cloud9公式YouTubeより)

それができなければ、チームのプライマル・キャリーが、Svenskeren一人になってしまう可能性がある。

誤りではないが、Evil GeniusesのボットレーナーはBang選手(Worlds優勝2回、Worlds決勝進出3回、いずれもSKT時代の戦績)という事実を無視している。少なくとも記事の後半ではFaker選手を持ち上げているのだから、2015~2016年のSKTが圧倒的に強かった時代の選手を無視するというのは理解に苦しむ。

元フラッシュ・ムーブス

Flash Wolvesをどうやったらムーブスと読むのか。せめて「フラッシュ・ウルブス」ではないだろうか。

世界選手権の準決勝で敗退したチームからはほとんどの選手が離脱し、昨季のメンバーは、ADキャリーのユ・“JackeyLove”・ウェンボを残すのみとなった。

どういう訳か選手の出入りが完全に逆になっている。このチームで現在残っているのはJackeyLove選手以外のメンバーで、2020シーズン前の移籍市場でチームを抜けた後の去就を注目されていたのが彼である。現在(1/27時点)でも所属チームの発表はない。

参考資料
VPEsportsの報道
LPLライターのRan氏のツイート

SKテレコム・T1

旧SKTは2020シーズンからチーム名が変更されて「T1」となっている。SK Telecomとの関係は完全に切れたわけではないが、母体組織はComcastとの協同出資ベンチャーとなっており、旧来の通信会社「SK Telecom」が抱えるeスポーツチームではなくなっている。

参考資料
Comcast公式発表

2015年のチームがまさに、スーパースターを揃えながらも勝てないチームだったのだから。

当時のSKTはMSI 2015こそ決勝でEDGに敗れたもののファイナリストではあったし、そのBo5も第5試合まで戦っている。MSI出場ということはLCK Springを制覇したチームということでもある。さらに2015年はWorldsに優勝したチームをして「勝てないチーム」呼ばわりするのはどうかとも思う。

参考資料
SK Telecom T1(Leaguepedia)
Worlds 2015決勝(AUTOMATON記事)
2016 Spring Splitまとめ記事(AUTOMATON、後半にMSI 2016への言及あり)
Worlds 2016決勝(AUTOMATON記事)

(以上の間違い指摘はユラガワ氏によるもので、SejuPoroも内容を確認済みです)

ONE esports 日本語版様へ

※以下はSejuPoroの主観による内容となります。

ONE esports 日本語版は2019年末から始動したことを確認できるeスポーツメディアで、それ以前から英語・インドネシア語・ベトナム語・タイ語でのニュース掲載を行っていました。『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』や『DotA2』など、世界的に人気のあるeスポーツシーン関連ニュースを世界から集めてきているメディアの日本語版ということで、このニュースサイトができているのを発見した時の私はけっこう期待したものです。

ONE esports 日本語版の中で私が読んでいるのはほぼ『LoL』関連ニュースだけですが、しばらくすると期待は諦めと落胆に変わりました。翻訳記事で使われている『LoL』のゲーム内用語は公式の訳語と整合性があまり取れておらず、「実際にはゲームをプレイしていない人が翻訳を担当しているのだろうな」というのがうかがえたのです。日常的に英語で『LoL』の文章を読んでいる私のような人間なら、諦めて英語版の記事を読んだり、用語の見当をつけて読んだりすれば事足ります。でもそうでない人は日本語版の文章を読んで内容を理解しようとします。その時に公式との用語の統一が理解を助けるのは言うまでもないでしょう。

そして1月26日掲載の「【LoL】Eスポーツ・パワーランキング2020春」です。一部の記述は実際の結果と真逆のことが書かれており、「LiquidがMSI 2019に優勝して、JackyLoveがiGに残ったβ世界線なんだ!」などと冗談を飛ばしたりしておりましたが、報道記事なのであれば間違いは由々しき問題です。誤った大会結果を掲載すればファンを混乱させてそのサイトが信頼を失う原因になりますし、チーム名を間違えればそのチームのブランドの毀損になってしまいます。

今回の誤りの原因と、今後への展望

今回のように、誤りが多く含まれた記事が執筆され、掲載されてしまったのはなぜでしょうか?

まず、『LoL』はWeb上の公式情報がとても整理されているとは言えないゲームで、それはプロシーン情報になるともっとひどくなることが挙げられます。公式サイトは大会結果や選手経歴のデータを常時存在するウェブサイトにわかりやすく掲載することはなく、私たちもAUTOMATONやALIENWARE ZONEといったメディアでプロシーン関連記事を書く時はサードパーティーのトーナメントデータサイト「Leaguepedia」に頼りっきりです。

ふたつめの原因としては、日本語を理解し、海外のeスポーツ情勢に明るい人材が不足していることでしょう。ニュースメディアを管轄する人間がその記事の分野に明るくなければ、ライターが提出してきた記事の内容を吟味し、正誤を判断することは不可能です。

eスポーツライターを増やすとか、メディアの上の方にeスポーツ事情に明るい人に就いてもらうとか、そういった根本解決は一朝一夕で成せるものではありません。『LoL』のみならず、eスポーツコミュニティにはそのタイトルが大好きで、暇さえあればプレイと観戦を繰り返し、言語化して発信している人がいます。メディアの方々におかれましては、そういった人たちをぜひコツコツと発掘して、活用していただければと思います。

またコミュニティ、eスポーツファンの方でも、自分が楽しんでいるタイトルについてぜひ発信してください。ブログ記事や動画など、手段はたくさんあります。自分の楽しみを言語化して発信することで、他の人もそれを楽しめるのです。手前味噌ですが、私たちがAUTOMATONで2015~2017年に執筆し、ALIENWARE ZONEで2018年から続けさせていただいている「LoL海外プロシーン記事シリーズ」には、いつも楽しみにしているという方々の声も届いています。あなたが味わっている楽しさを出力することには、需要があります!

以上いろいろ書いてきましたが、メディアの方もライター志望の方も、『LoL』関連で何か私に聞きたいことがありましたらsejuporo@gmail.comまでご連絡ください。

(文責:SejuPoro)

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