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雑感:碧野圭『レイアウトは期日までに』~ジンテーゼ的な救いがあるバディ小説~


導入と本の紹介

時候の挨拶

 皆様こんにちは。渡瀬雪来(ワタリゼ・セツライ)です。今回からnoteを初めていきます。

 一応自己紹介をしてみようと思います。最初は自己紹介だけを記事にしようとも思ったんですが。それもかったるいので、こちらに添えることにしました。

 私はニコニコへの動画投稿を趣味にしている、いわゆる「うp主」と呼ばれる(ていた?)ような人です。そちらでは主に歴史系の動画を投稿しています。よければそっちも見てくれると嬉しいです。

 なんですが、最近はどうも編集がしんどい。でも、何かしらは発信したい。そしていい反応がほしい。自己承認欲求を満たしたい。

 というわけで、こうしてnoteを書くことを思いついたわけです。これは我ながら名案だと思って。私は文章が苦手なんですよ。その克服にもなるし、一石二鳥ですね。うん。そんなわけなので、皆さんよろしくおねがいします。

 あ、名前の由来ですが、大伴家持の和歌、「立山(たちやま)の 雪し来(く)らしも 延槻(はひつき)の 河(かは)の渡り瀬(わたりぜ) 鐙浸(あぶみつ)かすも」という句からとっています。地元ので、かつ好きな季節である早春の和歌なので、思い切ってペンネーム?というか雅号にしてみました。


 ということで、そんな春先の、桜の開花を待ちわびる中、筆を執っています。厳密には筆を一切使っていないので、キーボードを打っていますとした方が正しいのかもしれない。まぁいいか。

 最近は寒さが厳しく、「三寒四温」というよりは、「七寒」くらいの気温ですね。コートは手放せず、こたつからも抜け出せず。鍋と燗酒が美味しい季節はもう少し続きそうです。

 お陰で、というかそのせいでというか。桜の開花も4月にずれ込むとか。桜は好き、とくに地元のは格別。なので「地元にいるうちに、いかで桜を見ばや」と思っているのですが、どうにも難しそうです。まぁ、ソメイヨシノは接ぎ木で増える、いわばクローンなので、本質的にはどこで見ようと変わらないのでしょうけど。

本の紹介:書影・書誌

 では本題に移ります。
 今回紹介するのは、碧野圭『レイアウトは期日までに』(U-NEXT、2024)です。

書影(版元ドットコム様,https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910207308 より)

契約を切られた崖っぷちデザイナー × 毀誉褒貶激しい天才装丁家

最強パートナー爆誕⁈



ひょんなことから天才装丁家・桐生青の元で働くことになった駆け出しのブックデザイナー・赤池めぐみ。10代の頃からセンスあふれる装丁を手掛け、業界でも注目されていた青のことを、めぐみはずっと憧れていた。青の元で働ける、と張り切って出社しためぐみは、1日目から夢破れる。職場にはパソコンも机もない。与えられた仕事は電話番。編集者からの催促をうまく受け流す事だった。ほんとに自分はここでやっていけるのだろうか、と不安に思うめぐみは、やがて自分が雇われた本当の理由を知るのだが……。育ってきた環境も性格も異なる二人は果たしてうまくいくのか? デザイン事務所の先行きは?



『書店ガール』シリーズ著者が贈る 令和版お仕事バディ小説

版元ドットコム 紹介(https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910207308)

 紹介文の通り、出版業界を舞台にしたバディものの小説ですね。視点主は、赤池めぐみ。常識的な熱意ある社会人、って感じのキャラクターです。少なくとも私は感情移入しやすいキャラクターでした。文体もあっさりしていて読みやすく、2~3日で読むことができました。

 同じく出版業界を舞台とした小説には、三浦しをん『舟を編む』ですとか、宮木あや子『校閲ガール』なんかがありますね。どちらも映像化されている、有名な作品です(私は未読です。いつか読みたい。)。前者は辞典の編纂、後者は校閲と、どちらも本の中身に関わる作品ですが、今作は装丁やデザイン、つまり本の外見、と言っていいんでしょうか。そこに関わる作品となります。

 私が無知なだけでしょうが、あまり見ない分野の小説だと思いますね。いわゆる(?)「お仕事小説」でもあり、「美術小説」でもある。そんな感じの小説です。

 このふたつを両立させているのが、赤池めぐみと桐生青のふたりです。先述の通り、めぐみは創作者や芸術家、というよりは常識的で熱意ある社会人、対する青は The 芸術家!という人物造形になっています。

 作品内での行動も、めぐみが、「まぁ社会ってそんな感じよね。」という諦観を含んだ心情であるのに対して、青は時に反発しながら、実力で進んでいく、というキャラクターです。行動だけ見ると青が主人公になりそうですね。でも、そうじゃないんです。

本の感想

知り合いの百合チュッチュ好きに告ぐ。この本を捲る時、一切の望みを捨てよ。

 この小説は女性のバディもの、ということで、私も初見は「百合的な?感じか?」と思って手にとったわけです。

 「なんでもかんでも百合かよ。これだから百合豚はよぉ。」的な罵声が聞こえてきそうですが、まぁ暫く矛を収めてもらって。

 ですが、そういうバディ同士の関係性の深さ、というか情念というのは、文学ではあるあるだと思うんです。男女は言わずもがな、男性同士でも、中島敦『山月記』とか、太宰治『駈込み訴え』とか。どちらも名作と(本好きのオタクの間で)名高い作品ですね。


 ネタバレをあんまりしないように書きますが、今作はそういう所がないんです。少なくとも主人公は割とドライ、というか健全。現実的。(読み損ねていたらすみません。)

現実志向だからこそ、万人に刺さりうる。

 私がそう思ったのは、次の記述。

他人だけど他人じゃない、こういう距離感っていいな。

碧野圭『レイアウトは期日までに』(U-NEXT、2024)

この一文からは、めぐみが青に対してかなりの親密感を抱いていることがわかる。この一文は生半可な関係ではでてこない。そう思ったんです。それが。

しょせん友人でもないし、上司というだけの間柄なのだ。

碧野圭『レイアウトは期日までに』(U-NEXT、2024)

 わずか数ページ後にはこうなる。「他人じゃない」と形容される親密感をもっていた人が、数日後には「まぁ、上司よな」と醒めた評価を下す。この人間関係におけるシビアさよ!

 
この note の読者さんにも覚えがあるかと思います。なかったらすまん。私にはある。というか書いている途中あった。だからこそ、この展開が結構お気に入り。

 こういったリアルさこそが、めぐみが視点主=主人公、である理由だと思うんですよ。リアルだからこそ、誰もが感情移入できる。申し添えておくと、この時点ではそこそこの関係性を積み重ねているんです。バディものとしては十分なくらい。それでもなお、決して美しい友情や親愛で終わらせていない。そこがいい

 この二人の関係って、ある種の理想だと思うんです。互いが互いを認め、必要としながらも、依存していない。「別れたくない!」よりも、「引越し先ねぇわ」が先にくる。それに、めぐみには別の友人や、前の職場の人もいる。なんなら犬が、お犬様がいる。いや、犬のほうが青よりウェイトが大きいかもしれない。ん、それはいいのか?まぁお犬様だしな。しかたない。

 というわけで、私はこの本を、物語のような美しい友情を諦めきれない(私のような)人にオススメしたいです。ここには現実的な解決策がある。
 
 というのが、あくまで人間関係に悩む人としての感想です。ここまで読んで、矛を抜きたい人はどうぞ。

人には向き不向きがある。

 では一創作者としては、どうなのか。

 自己紹介の記事でも書きましたが、私も動画を投稿していたり、小説を書いたりしている一創作者です。生計を立ててこそいませんが、一応缶ジュースくらいの額もいただいてました(今は止めた)。なので、めぐみの気持ちも、青の情熱も理解できるんですよ。そう自分では思ってる。後方理解者ヅラしてる。各方面から怒られそう。

 その上で、心に残ったのは、仕事に対する二人の立ち位置の相違です。

 青は芸術家的、やりたいことしかやらないし、手間暇をあまり考えない。自分を安売りしない。だからこそ、高い声望を得ている。

 対するめぐみはどうか。彼女はプロ意識を持った社会人です。締め切りも守るし、生計を立てるためなら多少の意に沿わない仕事も引き受ける。営業にも行けば、愛想笑いくらいする。だからこそ、信頼はされこそ、派手さがない。

 ですが、それは決して相反するものではないんですよ。作中でも示されているんですが、どちらも装丁・デザインを目指すきっかけから違うので、そうなるのは当然なんです。

 そして、どちらも必要なんです。多様性ってやつですね。ちょっと違うか。白黒はっきりしないことですが、それにもメリットはあると思うんです。そこはスッキリしたというか、個人的に一番腑に落ちましたね。あまりにも語彙力がない感想だ。これでいいのか?

終わりに

 というわけで一番苦手な締めのパートが来ました。いっつもテキトーにやっちゃって竜頭蛇尾のキメラができちゃう。でも終わり良ければ全て良し、とも言いますから、がんばります。

 結局、私はこの小説を読んでどう思ったか。ここは「ジンテーゼ的な救いがある」という一文にまとめましょう。「ジンテーゼ」言いたいだけちゃうんか。いや違うんですよ。

 この小説は現実的な正反対のふたりの物語です。現実的なデザイナーのめぐみと、理想的な芸術家の青。彼女たちの生き方は、命題(「テーゼ」)と反論(「アンチテーゼ」)のようなものです。度々対立もします。

 ですが、対立して、相手の言っていることが正しいと思っても、めぐみも青も、自分らしく生きることを止めません。そこに「テーゼ」も「アンチテーゼ」も越えた、落とし所、結論としての「ジンテーゼ」があると思うんですよ。

 彼女たちは小説の中とはいえ、リアルな社会を生きています。だからこそ理不尽や思い通りにならないこともある。それに折り合いをつけて、生きていく。ウエットな関係ではなくとも、互いを認め合う努力はいる。相手を理解する、してもらうことは必要。

 そして創作も、向き不向きや求められる表現がある。だから、絶対的に正しい表現はない。

 そういう人間関係や創作におけるジンテーゼ(落とし所)が詰まった小説と、言えるのではないでしょうか。という感じで、擱筆とさせていただきます。

ご一読ありがとうございました。

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