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犬飼勝哉「アイランド弍」を観た。【演劇を配信で観ることについて】

10月31日に劇作家・演出家の犬飼勝哉さんの新作「アイランド弍」がYouTubeでライブ配信されました

「わっしょいハウス」という劇団をやっていたころからの犬飼さんのファンで、配信を知ってからずーっと楽しみにしていました。しかし、当日絶対に休めない仕事が入ってしまい、悲しみに打ちひしがれていました…

と、思ったらアーカイブが公開されるとのこと!めちゃくちゃ嬉しかったです。犬飼さん、関係者のみなさま本当にありがとうございます。

ということで、さっそく拝見させていただきました。
「アイランド弍」というタイトルどおり、今回の演劇はシリーズもので、前回の「アイランド序」の続編となっています。演劇がシリーズものになるっていうのも、配信演劇ならではの気がします。

これから観る方は「弍」を単独で観てももちろん面白いと思うのですが、やはり「序」から観てほしい。今は停止されていますが、近日中に再度配信される予定とのことです。配信されたら、わたしもすぐに観直そうと思っています。

で、演劇の感想なのですが、まず思ったのは(「序」でも思っていたことですが)、私が知っている「わっしょいハウス」の演劇とはけっこう毛色がちがうということでした。

ただの演劇好きの戯言なのですが、わたしが抱いていたわっしょいハウスの面白さは、「東長崎住吉コーポ二〇一」という極小の場所が、ほぼ装置がない(ママチャリが大量に置いてあった公演はありました)舞台上で、ひたすらそのイメージを拡張させていくことでした。おそらく建築されてからけっこうな年数が経っているであろう(多分)木造のどこにでもあるアパートが、大袈裟かもしれませんが、まるで神話の舞台のような世界の中心に思えてきたのを覚えています。といっても、なにか壮大な物語が展開されるわけではなく、むしろストーリー性を排除したような俳優の語りによって、それが生じていることに面白さがあったような気がします。
余談ですが、犬飼さんは『ことばと Vol.2 ことばと演劇』に小説を寄稿しています。タイトルは「住吉コーポ201」

本題にもどりますが、今回の演劇がこれまでとちがうと感じたのは、あとでふれるトークイベントで犬飼さん本人も語っているように、物語が展開していくことが演劇の推進力となっていることです(今回の演劇は超能力者の話です。九龍ジョーさん曰く、「ネトフリやジャンプにあってもおかしくない」)。

それは配信演劇という形式ゆえの方向性であるとは思います。お客さんがいないなかで演劇を成立させるために、物語性が必要だったというお話をされていました。形式と内容が密接に結びついているということは当たり前のことかもしれませんが、観客の前で上演することが前提とされてきた演劇において、無観客での配信公演という形式において、いかに演劇らしさを担保していくかを模索している姿勢にとてもグッときます。

以前、noteの記事で配信で演劇を観ることについて書きました。地方在住の演劇好きにとって、公演の配信があるということはただただありがたいことでしかないのですが、トークイベントでは、配信は生の演劇を補完するものにとどまるのではないか、というのがおふたりの解釈でした。
たしかに自分の中でも、劇場という空間のなかで体感する演劇と、配信で観る演劇ではどこかちがうものだという感覚があります。
個人的には、「アイランド」が配信演劇の指針を示すような作品になっていくことを(勝手に)期待してます。

かなり遠回りしましたが、作品はとても面白いので多くの人に見てほしいと思います。あらすじはぜひ公式サイトを見てほしいのですが、終始不穏な空気がただよっていてハラハラさせられます。配信ならではの面白さもあって、特に視点が固定されないということがけっこう衝撃でした。舞台にはカメラが何台も入っていて、頻繁に視点が切り替わっていきます。ふつうに演劇を観たとしたら、観られなかった角度や距離から演技を観られるのは面白い体験だと思います。上からのアングルもあって「おぉ…」ってなりました。音楽もとても素晴らしかったです。

さて、ここからは何度かふれているトークイベントについて書きます。
犬飼さんと、編集者・ライターの九龍ジョーさんのアフタートークでした。九龍さんは自身が発行されている『Didion』の演劇特集号で、犬飼さんに言及されています。

犬飼さんの演劇を、プロレスから能まで多様なジャンルと結びつける、九龍さんの批評の射程に感服しきりだったのですが、特に印象的だったのが、「能がなにかを現前させるときに使うのが、固有名詞」という話でした。ある固有名詞を使うことが、その時代性や、固有の空間を、観客の脳裏にパッとイメージさせるのに有用であるということです。今回の公演だと、「クイズ王」「YouTuber」がそれにあたるのかと思います。ただ、「注意深くやらないと、わかる人にはすぐわかってしまう」とも。
これは演劇に限らず、さまざまな領域で活用できる気がしています。
あと、なぜか信玄餅の話をずっとしていたのも面白かったです。
アフタートークもアーカイブ配信されていますので、興味ある方はぜひ。公演本編が40分ほどなのに、アフタートークが2時間以上あった(!)ことは、犬飼さんの演劇に対する九龍さんの並々ならぬ思い入れが見えたようでした。

ちなみにこの公演は無料で配信されています。そのかわりにグッズの売り上げを製作費にあてるとのこと。どのグッズを買おうかなあとかなり迷っています。デザインめちゃかっこいいです。

「アイランド三」もめちゃくちゃ楽しみにしてます。
あと、できればアイランド以外の過去作のアーカイブも公開してほしい、有料でも良いので…

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