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悲しいことに追われないのは ラッキーなことかもしれないよ。

Mr.Children「Documentary film」MUSIC VIDEO より

 今回は、完全なる私の個人的な趣味でお送りします。

 集会で皆さんにもお伝えした通り、私はMr.Childrenが大好きです。語り始めたらいくらでも話せてしまうので、今回は純粋に”今”のMr.Childrenの作品から、ぜひ皆さんに考えてみて欲しい題材を紹介します。率直に、今まさに観て聴いて欲しい楽曲(のミュージックビデオ)をオススメする回です。

 タイトルに挙げた「ことば」は、歌詞ではありません。来月12月2日に発売されるNewアルバム「SOUNDTRACKS」から、先に公開されている楽曲「Documentary film」のミュージックビデオ(MV)の作品中に、一瞬だけ登場する「ことば」です。

私はすべてを覚えてしまう あのとき感じたまま 嬉しいも 悲しいも。1枚1枚 積まれていく。

メモ帳が 明日の僕と 今の僕を つないでくれる。毎日を忘れたくない。

勝手に動き出す記憶は 波のように追いかけてくる。記憶に溺れていく。

道で見かけるあの子は また泣いているかな。明日の僕に 任せるよ。

 アニメーションに合わせて、少女と少年のこんな語りで始まるMVですが、まるで短編映画のような素敵な物語へと引き込まれていきます。おそらく物語としては、あらゆることを覚えてしまい自分の記憶に翻弄されて苦しむ少女と、記憶が一日しか残せないために「ことば」を綴ることで毎日をつないでいる少年のお話です。

 ココで、ぜひ考えてみて欲しいのは…

記憶に溺れる少女と、記憶を残せない少年。
”覚えちゃう”のと、”忘れちゃう”のは、どちらが幸せなのだろう?

ということです。
 作品の中では、お互いがそれぞれの場面で救うシーンがあります。記憶を残せないからと言えど、そんな少年にも救える相手がいる。その一方で、記憶に溺れてしまうからと言えど、そんな少女にも救える相手がいる。

 少年は、大切な「ことば」をメモ帳に残し、それを【明日のボク】へ託します。「あの子を笑顔にする!」なんてことを【ミッション】として書き記すのも、精一杯に今を生きる少年らしさなのです。メモ帳には写真が貼られたり絵が描かれたりもしながら、とにかく少年がその瞬間に残したい大切なものを綴っていきます。少年が目を覚ましたシーンでは、それまで仲良くしていたはずの目の前の少女に対して、誰なのか分からず驚いたような反応をする様子もあります。そして必死にメモ帳をめくり、【彼女はボクの大切な友達。ボクが笑わせたんだ。】という「ことば」と彼女が笑顔でいる写真を見つけて、ハッとするのです。

 不謹慎かも知れませんが、この少年の姿を見ていて、認知症のお年寄りとその家族の関係を重ねて考えてしまいました。最終的には、自分の身近な家族の姿さえ分からなくなってしまうこともある認知症。数年前に、まさにその瞬間に立ち会って傷ついた妻の姿を見て、本当に胸を痛めたことをよく覚えています。ずっと同居してきた祖母が認知症になり、徐々に症状が進行していった矢先のこと。施設に入った祖母を見舞いに妻と一緒に訪れると、妻の姿を見て「はぁ…誰だ?」と一言。名前が忘れて出てこないというのではなく、単純に『この人、誰?』という反応、本当にショックでした。直前まで車の中では祖母を心配して「どうしてるかなぁ?元気だと思うけどね!」なんて話していた妻も、さすがに自分自身の存在を忘れられるという出来事には大きなショックを受けた様子でした。
 誰が悪いわけではなく、病気のせいです。でも、目の前にいる家族は、その変わりゆく姿を受け止めて、泣いたり笑ったりしながら一緒に生きていくしかないのです。もう【あの頃】の祖母ではないと分かっていても、やっぱりどこかで『また思い出してくれるかな?』と願って。

 作品の少年と少女も、まさにそういう瞬間を積み重ねながら関係を作っているように見えます。昨日は少女を笑わせて救ってくれた少年は、今日になるとまたリセットされたかのような姿で少女の前に現れるかも知れません。それでも少女は傷ついたり怒ったりせず、そばに大切なメモ帳を置いて少年に寄り添っています。温かくてステキな心構えだなぁと思いました。

悲しいことに追われないのは ラッキーなことかもしれないよ。

 そして、少年が少女に見せたページには、今回タイトルに挙げたこんなことが書かれていました。
 うーん…どっちだろう?いくつかの物語が考えられました。でも、私の中でしっくり来たのは、【記憶をなくしてしまう自分を嘆き悲しんでいた少年に対して、少女がそう言ってくれた】という話なんじゃないかと。その時の少女の「ことば」を残しておきたくて、少年がメモに残したような気がしました。
 もちろん、映画じゃないので正解は分かりません。楽曲のMVなので、わざと色々な物語をイメージできる余白を残してくれているものです。でも、自分なりにしっくりくる物語を頭に浮かべながら聴くと、より一層気持ちが乗って聴けるようにもなりますよね。
 ちなみに、この曲のタイトル「Documentary film」は、少年が持っているメモ帳の表紙にも書かれています。(※全ページ、どんなものが残されていたのか、見てみたいなぁ。)細部までこだわって作られたMVなので、本当に色々な人に観てもらって、【”覚えちゃう”のと、”忘れちゃう”のは、どちらが幸せ?】ということを考えるキッカケにして欲しいです。

 ぜひ観てみてください。↓↓↓

 最後に、今回のMr.Childrenのアルバムでは、ジャケットのデザインやMVなど、全てのアートワークをPERIMETRONというクリエイティブ集団が担当しています。とてもマニアックな話のように聞こえるかも知れませんが、このPERIMETRONというのは、King Gnuの常田大希氏が主宰しているクリエイティブ集団だそうです。
 サッポロ生ビール黒ラベル ”大人エレベーター”のTVCMで、27階に上がった先で妻夫木聡さんが語り合う相手になっていたサングラス姿のお兄さん、と言えば分かりやすいかも知れません。私は世代じゃないという身勝手な思い込みで、King Gnuの楽曲をあまり聴いたことがありませんでしたが、こうやって好きなアーティストが関わりを持ってくれると、ついつい聴いてみようと素直に思えてしまったりもします。

Thank you!!