『海賊に訊け!』

『モーレツ♡宇宙海賊』
ドラマ「海賊に聞け!」(第一稿)
       (11/12/08)脚本・佐藤竜雄

登場人物
加藤茉莉香
遠藤マミ
チアキ・クリハラ
三代目

鉄の髭


鉄の髭の響き渡る第一声でスタート。
鉄の髭「(エコー)海賊に聞け!」

鉄の髭「我は鉄の髭。海賊仕事が無い時にはこうして小さなカフェを営んでいる。酒を飲むも良し、コーヒーを飲むも良し。さまざまな客が、まるで港を出入りする船のように行き交う。おっと、さっそく一人来たようだ」
三代目「ギィ~、バタン。ごめん下さい」
鉄の髭「いらっしゃい。お好きな席にお座り下さい」
三代目「…あの、マスターに相談すれば、色々解決出来るって、友人に言われたんで来たんですけど…」
鉄の髭「そうなのだ。この店の客の殆どは我に様々な悩み事を打ち明けにやって来る。最初は飲みのついでの愚痴話だと聞き流していたのだが、二言三言、言葉を交わしているうちについ本気になり…以来、我の言葉を聞きにやって来る客が増えた」

一人語りにとまどう三代目。

三代目「えーと、マスター?」
鉄の髭「今のはモノローグだ。気にせず座るがよかろう」
三代目「あ、はい…着席」

あくまでいつもの口調で鉄の髭。

鉄の髭「まずは注文を伺おう。お飲み物は何に致しますか?」
三代目「あ、じゃあシャンディガフを…」
鉄の髭「心得た!」
三代目「あ、あと…ミックスナッツを…」
鉄の髭「かしこまり!」
三代目「ひぃっ!」
鉄の髭「伝票にすらすらすら…で、何を相談したいと?」
三代目「えーと、友達の事なんですけど…」
鉄の髭「(ズイと)恋の悩みだな!」
三代目「?!な、何でいきなり?」
鉄の髭「シャンディガフを頼むような客はホントにシャンディガフが好きなヤツか、女と食事をするようになってシャンディガフを覚えたヤツのどちらかだ!」
三代目「そ、そんな…全宇宙のシャンディガフ好きの人を敵に回しますよ?」
鉄の髭「(ズイと)汝は?!」
三代目「…はい、覚えたヤツです」

あらたまって話を始める三代目。

三代目「僕の乗っている船というのが、それはもうひどい人たちばっかりで、船長は女の子なんですけど、無茶ばっかり言うし、船医の女の人はこれまたガミガミうるさいし、航法士の女性は怪しい占いに凝ってるし、通信士の女性はお菓子を食い散らかしてホントにもう何というか──」
鉄の髭「女性不信」
三代目「はい!正にそんな感じで。船は航海の度にボロボロになるし、エンジンは悲鳴を上げるし…メンテするこっちの身にもなって欲しいですよ!そんな時、出会ったんです」
鉄の髭「ほお…」
三代目「彼女とはコレクションの交換を機に、一緒に食事に行ったり、買い物に行ったりとか…まぁ、まだそのくらいの関係なんですが…」
鉄の髭「ゆくゆくは付き合いたい!」
三代目「ええ、はい。何せ船乗りですから…こう、何というか…」
鉄の髭「何かしら安定が欲しい!」
三代目「は、はい!そうなんです!」
鉄の髭「(きっぱりと)結婚しろ」
三代目「ええっ、そんな?急な?!」
鉄の髭「汝の職場環境を聞くに、いつ死んでもおかしくない!」
三代目「え?そこまで言ってない…けど…」
鉄の髭「我に似たような環境の職場、心当たりあり。そこも奇跡の連続で生き残ってきた…しかし、あれはあくまで奇跡!そんなにあの船この船どの船にも奇跡は起きん!」
三代目「そ、そんなもんでしょうか?」
鉄の髭「(重く)死ぬぞ」
三代目「ええーーっ?」
鉄の髭「むしろ船では無く、汝が奇跡を起こすのだ。そしてそれは今だ!」
三代目「今?」
鉄の髭「女を口説け、そして抱きしめろ!…奇跡はきっと起きるであろう」
三代目「わ、わかりました。よおし、何か勇気が出てきたような…ありがとう、マスター!来て良かった~、じゃ、これおあいそです!」
鉄の髭「お客さん、お釣り──」
三代目「ギィ~、バタン!」
鉄の髭「行ってしまった…我に出来ることはそっと背中を押すくらいだ。若さはいい。ぶつかり、くじけてもまだ立ち上がる勇気と気力に満ちあふれている」

チアキ「ギィ~、バタン」
鉄の髭「再び若者がやって来た。今度は長い黒髪の一見すまし顔の美少女だが、実はお笑い好き。そんな雰囲気を漂わせた女子高生──」
チアキ「何か言いました?」
鉄の髭「モノローグだ。で、ご注文は?」
チアキ「チョコパフェ」
鉄の髭「無し!」
チアキ「…ココアラテ、アイスで」
鉄の髭「喜んで」
チアキ「そして…聞いて下さい」
鉄の髭「進路問題だな?」
チアキ「ギクッ!何でわかったんです?!私、何も言ってないのに?」
チアキ「ココアラテのアイスを頼む客はホントにココアラテアイスが好きか、進路問題に悩む女子高生のどちらかだ!」
チアキ「そ、そんな…全宇宙のココアラテ・アイスが好きな──」
鉄の髭「(ズイと)汝は?!」
チアキ「…はい、悩む女子高生です」

あらたまって話を始めるチアキ。妙にしおらしい態度で。

チアキ「わかってるんです、親の期待。早いうちから現場周りに出させられたのも、私が早く仕事に慣れるようにという親の配慮だと。私もその期待に応えられるようにと必死に頑張りました。でも──」
鉄の髭「あらたなる道が見つかったのだな?」
チアキ「…はい」
鉄の髭「それが親の期待を裏切ることになる、と?」
チアキ「私は当然、親の跡を継ぐものだと思っていました!でも、あの子との出会いで揺れてるんです」
鉄の髭「あの子?友人か?それともこいび(と?)」
チアキ「(慌てて)うわーーーッ!!…まぁ、クラスメートというか、同じクラブ部員だと言うか…」
鉄の髭「その者が汝に、新たなる道筋を示したというのだな?」
しみじみとチアキ、遠くを見るように。
チアキ「…見てみたい。今船を巡らせる、その先その果ての宇宙──」
鉄の髭「詩人だな」
チアキ「(苦笑)柄じゃありません。…私は、船乗りの見習いに過ぎません」
鉄の髭「星を眺める者は等しく詩人。そしてそれは、少女よ、汝もまたその資格を持つのだ」

チアキ「……」
鉄の髭「はい、ココアラテ。かちゃり。これはグラスを置いた音なり」
チアキ「ああっ、これはココアラテどころかチョコパ…チョコレートパフェじゃないですか?さっきは無いって言っていたのに?」
鉄の髭「さっきは無かった!しかし、今はある…それで良いだろう。夢見る少女に奇跡は付きものだ」
チアキ「ありがとう、マスター…」
鉄の髭「柄にも無いな」

そこへいきなりやって来る茉莉香とチアキ。乱暴に開かれる扉。

マミ「扉がギ~ッ!ほらーっ、ここだよここ!噂のお店!」
茉莉香「へえ~、きょろきょろ。そっと扉閉め、パタン」
鉄の髭「二人しての扉の開け閉めコンビネーション…やるな。以上モノローグ」
茉莉香「ああーっ、チアキちゃん!」
チアキ「無言」
マミ「何顔そむけてるの?」
チアキ「無言」
マミ「チアキちゃんもここに来たんだね。ねえねえ、何を占ってもらったの?恋?友情?それとも進路相談?」
マミ「(カッとなり)ええーい、さっきから無言と言ってるだろうがッ!」
マミ「やっぱり恋だよね」
チアキ「人の話を聞けっ!!」
茉莉香「私達もね、やけに当たる占い師の人がいるって聞いたから…マミに誘われてね」
鉄の髭「ちょっと待て」
茉莉香「は?」
鉄の髭「さっきから占いがどうとか言っておるが、我は占い師にあらず!商売ついでに客の相談事に乗っている、無口で渋い仮面のカフェのマスターだ」
マミ「ええー、占いじゃないんだァ。ガッカリ~」
一方の茉莉香はいきなり緊迫。
茉莉香「ちょっと待って、マミ。チアキちゃんの前にあるチョコパフェを見て!」
マミ「え?ああーーっ?!」
チアキ「ん?どうしたの?」
茉莉香「こ、これはスイーツのオリジナルセブンが一つ──」
マミ「伝説のチョコパフェ、略して『でんちょー』!!」
チアキ「え?略す必要があるの?」

アバンのBGM流れ、茉莉香ナレーションな言い回しで。

茉莉香「かつて星系連合と植民星連合の独立戦争が勃発した頃、私掠船免状を押し頂いた海賊の活躍と共に、人々の心を打った甘味の数々があった。海賊船のオリジナルセブンになぞらえ、それらもまたこう呼ばれた。スイーツのオリジナルセブンと。そして、今──」
マミ「(同じ口調で)いま…」
チアキ「要するに、このチョコパフェがかつての伝説のメニューに似ている…そういう訳ね」
相変わらずナレーション口調のままで。
茉莉香「その通り」
マミ「通り…」

そこへ割り込んでくる鉄の髭。

鉄の髭「すまんが…」
茉莉香「すまんが…」
マミ「まんが…」
鉄の髭「折角のパフェが溶けてしまう。まずは少女よ、食べて欲しいのだが」
チアキ「え?ああーーっ!いけない!グラスが沢山汗かいてる!溶けちゃうわ、溶けちゃう!いっただきまーーす!(以下、アドリブでチアキ、ひたすら食べる)…ああ、最高だわ。何てパフェなの、もうたまらない……(食べ終わって一転冷静に)さて、話を聞きましょうか」
茉莉香「長っ!」
マミ「でもさすがだわ、チアキちゃん。さすがランプ館のスイーツの全メニューを制覇しただけある…」
茉莉香「オリジナルセブンと同じレシピのパフェが何故このお店にあるのか?マスター、このパフェの作り方、誰から教わりましたか?」
鉄の髭「かつて方々を旅した折、どこかのカフェで働き、そこで学んだ…気がする」
マミ「茉莉香、怪しいお面つけてるけど、この人ただ者じゃ無いよ。きっと、名のあるパティシエだよ?」
茉莉香「でも何でお面をつけてるの?」
鉄の髭「ここで説明しておくと、カフェで営業中の我は、普段とは異なる仮面を装着している。したがって今の我は海賊鉄の髭では無く、商売ついでに客の相談事に乗っている、無口で渋い仮面のカフェのマスター…そんな秘密は目の前の少女達は、全く知らない。以上モノローグ」
マミ「へえ、鉄の髭さんって言うんだ。変わったお名前」
茉莉香「鉄の髭さん、副業あったんですね!」
鉄の髭「(憮然として)モノローグと言ったはずだが?」
茉莉香「だって、ねえ…」
マミ「自分で言ってるんだもん」
鉄の髭「ことり、ことり。二つのグラスを置く音──」
茉莉香「ああっ、伝説のチョコパフェ!」
マミ「略して『でんちょー』!」
チアキ「だから略す必要あるの?」
鉄の髭「今の我は、鉄の髭にあらず──」
茉莉香、マミ「はい!商売ついでに客の相談事に乗っている、無口で渋い仮面のカフェのマスターです!」

すっかり満足な茉莉香達。

茉莉香「あ~~、美味しかった。何だか放心状態…ふにゃふにゃ~~」
マミ「美味しいものを食べた後は言葉はいらないよね。ごろごろ~~」
茉莉香「いつまでもこうやって、余韻に浸っていたい~~」
茉莉香、マミ「(アドリブで骨抜き状態)」
チアキ「ちょっと、それじゃドラマにならないじゃない。話が終わらないわよ!」
茉莉香、マミ「ほわわ~~~~…」

そこへ突如三代目が。

三代目「どっかんがっしゃんバリバリッ!」
チアキ「え、乱入?!」
鉄の髭「急展開だな」
三代目「やいやいやい、さっきマスターに言われた事を早速やってみたけど──」
鉄の髭「口説け、そして抱きしめろ!」
三代目「奇跡は起きなかったじゃないか!殴られ、はたかれ、このざまだ!!」
チアキ「見えないわ」
三代目「つまりは!振られちまったんだよッ!あんたのせいだぞ!あんたがいい声でいい話をするもんだから…うっうっうっ…」

男泣きする三代目。

鉄の髭「若さはいい。ぶつかり、くじけてもまだ立ち上がる勇気と気力に満ちあふれている」
三代目「今は立ち上がれないよ…どうすればいいんだ…ああ、エイプリルちゃん…」
鉄の髭「若者よ、今は汝に掛ける言葉は無い。しかし、しかし、これだけは──」
三代目「え?何だよ」
鉄の髭「さっきの…お釣りです。ちゃりん」

鉄の髭「我は鉄の髭。海賊仕事が無い時にはこうして小さなカフェを営んでいる。酒を飲むも良し、コーヒーを飲むも良し。さまざまな客が、まるで港を出入りする船のように行き交う。店は狭いが、やって来る人々の瞳には、遠く果てない宇宙が見えている。人は旅人──」
三代目「オレはどうなるんだよ~~~!」

無理矢理に締めくくられるドラマ。

鉄の髭「(エコー)海賊に聞け!」

チアキ「オチが無いまま終わってしまうわ。オチ無いドラマなんて」
茉莉香「しょうがないよ」
マミ「宇宙は無重力だけに、オチません」
チアキ、茉莉香「それだ!!」

再び締めくくられるドラマ。

鉄の髭「(エコー)海賊に聞け!」

(おわり)

TVシリーズ「モーレツ宇宙海賊」Blu-ray BOX【LIMITED EDITION】(品番:KIXA-90542)に収録
(c)2011 笹本祐一/朝日新聞出版・モーレツ宇宙海賊製作委員会

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)