第19話『きよらなる、拳』

学園戦記ムリョウ

第一九話『きよらなる、拳』 (第一稿)

脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機 瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)

成田次郎(ナリタ・ジロウ)
川森 篤(カワモリ・アツシ)
三上利夫(ミカミ・トシオ)

真守百恵(サネモリ・モモエ)
津守十全(ツモリ・ジュウゼン)
守山 載(モリヤマ・サイ)
守口 壌(モリグチ・ジョウ)
守機 漠(モリハタ・バク)
峯尾拳治(ミネオ・ケンジ)

山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル

生徒A
生徒達
マモリビト達

※シャンクゥー星人は声無し。他の宇宙人達も同様に。


○九州山中
山林を走る神楽面の集団。

○字幕
黒バック。

字幕『話は、三日前に遡のぼる』

○種子島・宇宙開発センター
三日前の戦闘(一七話参照)。
勝利するシングウ。消滅するゲーム3。

シングウ「ウオオオオオ……」

○真守家・モモエの部屋
ハッとするモモエ。

モモエ「 ?! 」

○九州山中
フィールドが発生。原生林に降り立つ宇宙傭兵部隊。

字幕『九州山地・国見岳』

全身から湯気。しゃがみ込んで耐えているが、おもむろに立ち上がる。中にはジャンプのショックに耐えられずにそのまま倒れ込んで絶命する者もいる。11名中、3名脱落。リーダー格のシャンクゥー星人、辺りを見渡す。

鈴の音——

神楽面が周囲を包囲している。

○風光館・道場
モモエからの電話を受けて驚く拳治。

拳治「九州に宇宙人?! 」

その向こうでは晴美、道着姿で正座している。

○真守家・モモエの部屋
モモエ、固い表情で通話中。

モモエ「種子島のロボットは陽動ね。九州のマモリビトは防ぎ切れませんでした」

○九州山中
原生林。折れた幹、えぐれた地面。
倒れ伏している白装束達。宇宙人も三名倒れている。

○風光館・道場
上着を着て出ていく拳治。戸口に立って見送る晴美。

拳治「全国のマモリビトに招集をかけた。京一君や八葉君……タタカイビトの安全はお前に任せる」
晴美「え?」
拳治「あの時の……11年前の轍は踏まん!」

   *   *   *
(回想)
体を貫かれる守口右京。守口糸緒(しお)の体より暴走するチカラ、そして大爆発。
クレーターの中央で右京を抱いて号泣する拳治。

○国道一号線
路肩に停めていた弟子の車に勢い込んで乗り込む拳治。

拳治「箱根だ!我らは箱根で迎え撃つ!」

○九州山中
道なき森の中を走る五人の宇宙傭兵。
先頭を走るシャンクゥー星人。

○国道一号線
道を急ぐ拳治を乗せた車。

○風光館・道場
戸口に立ち尽くしたままの晴美。道場の中は西日で紅く染まっている。

晴美「……」

決意の表情。握りしめたこぶし。

○オープニング

○御統中・外
登校する生徒達、グラウンドでジョギングする陸上部員に、野外ホールで発声練習をする演劇部員など、様々な朝の風景。

(サブタイトル『きよらなる、拳』)

NR「思い起こせば三日前、守山さんの意外な協力によって、僕達祭りクラブの活動も急ににぎやかなものになってきた——」

○御統中・生徒会室
窓際の机に花瓶。野菊が生けてある。

八葉「うん、いいねえ」
ハジメ「誰が持ってきたんですか?」
大机に座っているのは八葉とハジメ。
八葉「生徒会の役員でこんな気の利いたことをするのは一人しかいないよ」
ハジメ「……峯尾さんですか?」
八葉「そうだろうね」

○同・屋上
晴美、景色を見ている。
穏やかながら緊張が表情に見える。

京一「何をしている?」

後ろから声を掛ける京一。

晴美「空を、見ていました」
京一「そうか……」

横に並ぶ京一。

京一「確かに、いい朝だな」
晴美「はい」

○同・生徒会室
野菊の花を見つめるハジメと八葉。

ハジメ「……ノコンギク、ですよね」
八葉「へえ、村田君は花に詳しいのかい?」
ハジメ「(照れて)いえ、そんなに。母が庭いじりが好きなもんで、それで……」
八葉「ああ、君ん家の庭は花がいっぱいでキレイだよね。ウチの爺さんも感心してた」
ハジメ「はは……で、ポスターなんですけど」
八葉「ああ、悪かった」

机の上には手作りのポスター。

祭りクラブ第二回自主上映会
話題の『こゆるぎ野郎』 に加えて“御統中アーカイブ”
大昔の記録映像続々上映!

惹句に思わず笑ってしまう八葉。

八葉「これを考えたのは.トシオ君?」
ハジメ「(苦笑)ええ。昨日の夜、突然メールが来て、『こんなの考えた』って.」
八葉「ははは。何かアナクロな感じだね。いいんじゃないの?」
ハジメ「じゃあ、貼っても問題なしですか?」
八葉「勿論。別に反対する理由はないし」

おもむろに“許可”のハンコをポスターに押し始める八葉。

八葉「えーと、何枚刷ったんだい?」
ハジメ「えーと、三〇枚ほど」
八葉「はは、ちょっと面倒だな」
ハジメ「すみません」

ハンコを押し続ける八葉。

ハジメ「……」

花瓶の野菊を見ているハジメ、つい顔がほころぶ。
しばしの間。

那由多「うわ、なぁに?! 」

ひょっこり那由多が現れる。中の様子を見るなりしかめ面。

八葉「よう、おはよう」
ハジメ「おはよう」
那由多「何を男二人でしみじみしちゃってるのよ、気持ち悪い!」
ハジメ「(赤面して)ク、クラブのポスターを貼る許可をもらってるところだよ!」

那由多、歩み寄るとポスターを一枚取り上げてまじまじと見つめる。

那由多「えー、どれどれ?第二回上映会?」
ハジメ「この間いってた定期上映会だよ。とりあえず毎週一回はやろうかなってさ」
那由多「ふう〜ん……」
ハジメ「祭りについての守山さんのレクチャーはものすごく参考になったよ。これからも何かあったらよろしくお願いします」

ペコリと頭を下げるハジメ。

那由多「う……」

那由多、少々照れるも強がるポーズは崩さない。プイとそっぽ向く。

那由多「よろしく、ってあたしはあんた達のためにやったわけじゃないわよ」

○同・廊下
ポスターの束を持って歩くハジメ。その前を待ち構えていたジロウ達。

トシオ「ハッちゃん、どうだった?」
ハジメ「この通り、オーケー!」

ポスターを高く差し上げるハジメ。

ジロウ「おっしゃぁ!」

○同・生徒会室
那由多「何か煮え切らないなぁ……」

ハジメが立ち去った後の生徒会室。向かい合って座る八葉と那由多。

八葉「何が煮え切らないんだ?」

うつむいてブツブツつぶやく那由多。

那由多「煮え切らない、というかファイトが湧かない、というか.なーんかモヤモヤしちゃってるんですけど」
八葉「ま、反対してた祭りクラブに結局、協力してるんだからな。そりゃモヤモヤするだろう」
那由多「八葉さんに言われたくないわよ!まぁ…済し崩しというか馴れ合いというか、あの決意はどこに行っちゃったのかと思うたびにモヤモヤモヤモヤ……」

   *   *   *

(回想)
大勢の生徒達を前に、ハジメとムリョウに宣戦布告をする那由多。(一二話参照)

那由多「——文化祭もドーンと来なさい!お祭りクラブ、いいでしょう!申請受理!おやりなさい!あなた方が何を企もうとも私は自主と自立の御統中学の精神に則り、公平な生徒会運営をいたします!」

   *   *   *

那由多「あんな服まで着て.マイクまで付けてみんなの前で宣言したのに……」

額にしわ寄せる那由多。

瞬「いいじゃないの、仲良しトリオで」
那由多「 ?! 」

いつの間にか那由多の隣にいる瞬。

那由多「あんた!セツナさんみたいにコソコソするのやめなさい!」
瞬「神出鬼没と言ってよ」
那由多「で、何が仲良しトリオですって?」
瞬「みんな言ってるよ。守山村田統原は愉快で仲良しって」
那由多「み??みんなって誰よっ?! 」
瞬「ま、それはともかくこれ、小学校からの招待状。学芸会の飛び入り歓迎だって」

御統小学校こゆるぎ祭
中学生のお兄さんお姉さんへ

招待状を八葉に手渡す瞬。那由多を無視して話を始める二人。

八葉「ほう、『模範企画のお願い』かぁ。新しい試みだね。瞬、お前も何かやったらどうだい?」
瞬「えー、そうだなぁ.」
那由多「ちょ、ちょっと!仲良しトリオの件はどうなったのよ!」
八葉「よし、せっかくだし、他の部にもちょっと声掛けてみるか!」
瞬「いいんじゃないですかァ」

一人カリカリする那由多だが、八葉達は意に介さずに会話を続ける。

那由多「もぉ、知らない!」

プンプン怒って出て行く那由多。見送る八葉と瞬。廊下をのっしのっしと歩く那由多が見える。

瞬「相変わらず、素直じゃないなぁ」
八葉「そこが那由多らしいところといえばそうなんだけど」

苦笑いの二人。

○同・職員室前
山本が出てくる。少し離れたところから声をかける晴美。

晴美「山本先生」
山本「晴美か……」

歩み寄る山本。

晴美「父は箱根に向かいました」
山本「モモエ様から聞いたよ」
晴美「……ここが戦いの場所になるかもしれません」
山本「 ?! 」
晴美「上手いことやってみます」
山本「できるのか?」
晴美「天網流の名にかけて」
山本「!」

驚く山本。それをよそに黙礼をして立ち去る晴美。

磯崎「峯尾さん、変わりましたね」

山本の後ろから磯崎が声をかける。

山本「ええ、そうですね」
磯崎「穏やかなのは相変わらず.でもどこか力強くなって……」
山本「銀河連邦は今回のこの件はどうするつもりですかな?」
磯崎「連邦としてはともかく……私も皆さんと戦います。この学校は私の職場ですから」
山本「そいつは心強い」

磯崎、右手を掲げる。

磯崎「未来の友好と……」

掌に銀河連邦の印(しるし)が輝く。

磯崎「子供達の未来のために——」

微笑む磯崎。

○真守家・大広間
車座になって座る当主達。
中央に広げられた大きな紙状のモニター(地図用の端末)。
載が状況を説明している。

載「三日前、巨大兵器が種子島沖に出現、シングウがこれを排除したのは皆さんも御存知の事ですが、同時刻に九州山地・国見岳にも宇宙人の一団が出現。同地区のマモリビトの追跡を振り切って姿をくらませました」

モニターには宇宙人の移動経路が表示されている。その上に別ウィンドウで出現地点や宇宙人の遺体の画像が展開される。

載「翌日に宇宙人達は中国山地に出現。先日は鈴鹿山脈、木曽山脈に現れ今朝未明……」

モニターの地図は中部〜関東地方に。
更に静岡〜神奈川県の山地をクローズアップ。
画面を見つめる当主達、緊張の色。

載「富士樹海付近でマモリビトと接触。先程入った連絡によると、宇宙人は箱根に向かっていると推測されます」
十全「阿僧祇の村を避けたか」
モモエ「箱根から天網山……狙いはやはりこの天網市ですね」
載「一連のこの戦いで……西日本のマモリビトはほぼ全滅しました」

○富士樹海
九州山地と同様な激戦の跡。
樹海の所々で倒れ伏す神楽面の男達。
宇宙傭兵も二名、倒れている。

○丹沢山中
尾根伝いに走る宇宙傭兵。数は三名に減っている。
シャンクゥー星人、気配を感じて目配せ。散開する傭兵達。しかし、続けざまに射掛けられる矢が一人に命中、チカラが作用しバッタリ倒れる。

拳治「はアッ!」

殺到する拳治、すれ違い様に投げを見舞う。傭兵、何本もの幹をへし折りながら吹っ飛んでいく。

拳治「行ったぞ!」

振り向きざまに叫ぶ拳治。
マモリビトの一人がチカラを使う。しかしシャンクゥー星人、それをブレードの剣圧で弾くとそのまま袈裟斬り。走り去るシャンクゥー星人。

拳治「ヤツにはチカラは利かない!」

再び走る拳治。

拳治「(呟き)頼みは天網流か……」

樹上を走り飛ぶマモリビト達。

○真守家・大広間
黙り込む一同。
十全「ロボットや戦艦ならいざ知らず、山伝い(やまづたい)に攻めてくる宇宙人とは……」
漠「11年前の戦い、そしてこの間のサナドンの時といい、敵もいろいろ研究しているんじゃないですか?」

尚も漠、わざとらしく明るい口調で。

漠「表沙汰には出来ない。日本の警察や軍隊は動かせない。シングウを出すには敵は小さい……ここに来て、我ら一族で地道に地球防衛してきたのが裏目に出ましたなァ」
載「……」

くやしそうに獏を睨む載。

漠「おっと失礼。勿論、犠牲になったマモリビトの人達はお気の毒ですよ。茶化すつもりはありません……」

あらたまる漠。真面目な顔。

漠「銀河連邦に助けを求めましょう」
壌「!」
漠「こうなったら恥も外聞もないでしょう。銀河連邦に即刻——」
十全「それはできない」
漠「何故ですか?」
壌「そうだ、何故です!? 」

不意に気負い込んで叫ぶ壌。

壌「我々がこの地でシングウのチカラを守ってきたのは何のためです?銀河連邦のためではないのですか?その我々が危ういのですよ。銀河連邦には守る義務が——」
十全「義務はない!」
壌・漠「 ?! 」
十全「助けを求めるということは、即ち、今まで我々が許されてきた様々な特権を放棄することを意味する」
モモエ「銀河連邦はシングウのチカラを守りたいの。私達を守りたいわけでは決してない。そのことは覚えておいて下さい」
壌「……」
モモエ「重要なれど軽き存在、それが地球です。だけど最近は風向きが変わってきたみたいじゃない?ホラ、宇宙外交とか……」

モモエ、獏にニッコリ笑いかける。

漠「え、何の事ですか?」

おどける漠、思わずうつむく壌。

モモエ「(微笑)今はとにかく、私達の力で何とかしなければなりません」

気の抜けた様子の壌、呟く。

壌「犠牲が.大きすぎる」

○箱根山中
渓流に森にと、あちこちで倒れているマモリビト達。

   *   *   *

ススキの群生地で対峙する拳治とシャンクゥー星人。
ススキの穂がキラキラと輝き、逆光は二人の姿を影にする。

拳治「晴美……後は頼むぞ」

ぶつかり合う二人。

○アイキャッチ

○かもめハウス・居間
昼。テーブルの上には食べ終わった皿が二枚、重ねられている。
ジルトーシュは寝転がってカリンバを鳴らし、ウエンヌルはTVをザッピングしている。

ジルトーシュ「♪かもーめハウスは愉快なハウス〜、愉快な仲間がお出迎え〜♪」
ウエンヌル「……おかしいですね、真守さん達は大騒ぎなのに、それを匂わすニュースも話題も何もない。情報操作ですか?」
ジルトーシュ「操作も何も、みんな知らないんだよ」
ウエンヌル「知らない?」
ジルトーシュ「二〇〇〇年以上の長きに渡って宇宙からの侵略者の魔の手から地球を守ってきた正義の味方!その正体はここ湘南の一地方都市に住まう、真守家とその一族!」

気張って煽るもすぐにしらけた表情のジルトーシュ、カリンバをつま弾く。

ジルトーシュ「あーあ……」
ウエンヌル「どうしたんですか?」
ジルトーシュ「♪みんな知らない、世間は知らない、正義の味方の苦労などぉ〜♪」
ウエンヌル「助けてあげないのですか?」
ジルトーシュ「あげない」
ウエンヌル「何故です?」
ジルトーシュ「だって、彼らは正義のお題目のために戦っているんじゃない。己の存在のために戦っているんだ。コレくらい自分で何とか出来ないとね」
ウエンヌル「……」
ジルトーシュ「それにちょっと頭を働かせばさ、敵の目的、大体見当がつく筈だよ」
ウエンヌル「ちょっとだけ…あ、そうか!」
ジルトーシュ「早いな」

○御統中・外
昼休みの風景。

○同・小会議室
密談中の磯崎と山本。

磯崎「地球に向かって、所属不明の宇宙船が接近中です。太陽系にちょっと入った辺りで見失ってしまいましたが——」
山本「……」
磯崎「どうやら侵入者はその船から強引に遠距離間の転送を試みたようです。結果は三名が死亡」
山本「無茶な奴らだ」
磯崎「地球に近づくには、最大の脅威であるシングウが宇宙に出てこれないようにするのがベストです」
山本「うーん……」

テーブルの上には、口を付けずに置かれたままになっている湯飲みが二つ。

○同・廊下
ポスターを貼っているハジメとジロウ。

ジロウ「そういや、今日ムリョウは何で休んでるんだ?」
ハジメ「そういやそうだ!ムリョウ君、どうしたんだろう?」
ジロウ「何だよ。友達甲斐のないヤツだな」
ハジメ「最近、フタバの弁当責めだったからな。それがイヤになって休んでるとか……」
那由多「ポスターが曲がってる!」

後ろから声を掛ける那由多。

ジロウ「うわっ、出たっ」
那由多「文化祭の出し物、早く出してね」
ハジメ「今、トシオが企画書を作ってるからさ。後で見てよ」
那由多「あ、そ。じゃあ後で。…ちゃんと真っ直ぐ貼りなさいよ!」

捨て台詞を残して去っていく那由多。

ジロウ「何だい、ありゃ?」

苦笑いのハジメ。

○同・屋上
携帯で通話中の晴美。

晴美「 ?! 」

驚きの表情が一瞬浮かぶ。

晴美「わかりました。有難うございます」

携帯を仕舞う晴美、決意の表情。

○同・三年D組
机で読書(『宮本武蔵』)中の京一。

生徒A「守口!お客さんだぞ!」
京一「お客?」

見ると廊下に晴美が立っている。

晴美「……」

ペコリとお辞儀の晴美。

京一「晴美?」
生徒A「よっ!お二人さん!」
生徒達「ヒューヒュー!」「ベストカップル!」 「ちくしょぉ〜」「やっぱりそうだったのかァ!」

口々にはやし立てるクラスメート達。

京一「バカ!何を言ってるんだ!」

晴美「……」

ひたすら赤面する二人。

○同・体育館裏
——を歩いている晴美と京一。

京一「で、何なんだ?用っていうのは」
晴美「……」

立ち止まると京一を真っ直ぐ見つめる晴美。思わずたじろぐ京一。

晴美「貴方の命、私に預けて下さい」
京一「……何が起きている?」
晴美「父が.倒されました」
京一「拳治おじさんが?! 」
晴美「一緒に来て下さい」

○裏山
前を走る晴美。後を走る京一。

京一「オトリを連れて逃げれば、学校は襲われずに安全。違うか?」
晴美「……」
京一「逃げ足は瞬ほど速くない!八葉や那由多に比べて戦いは強くない!チカラの半端な俺ならばオトリにはもってこいだ!」
晴美「……」

立ち止まる晴美、振り返る。

京一「 ?! 」
晴美「京一さんのチカラは要のチカラ、みんなのチカラを束ねるチカラです。京一さんがいなければシングウは宇宙に行けない」
京一「空蝉か……」

   *   *   *

(回想)
京一、瞬、八葉から立ち上る光の帯。
三本の光、一つになりシングウのチカラを押し上げる(一〇話参照)。

   *   *   *

晴美「宇宙人の狙いは貴方です。貴方を守れるのは私だけです。だから私の側に——」
京一「晴美……」

山道の脇の御幣が揺れる。京一の耳に響く鈴の音。

京一「 ?! 」

○同・点景
天網山から須丸山にかけて、各所に置かれた御幣も同様に揺れている。

○御統中・裏門脇
さり気なく置かれていた御幣。同様に揺れている。

○同・生徒会室
ハッとする那由多と瞬。

那由多・瞬「!」

思わず立ち上がる那由多、そのまま廊下に飛び出す。

○同・廊下
目の前には無言で立っている山本。

那由多「先生!」
山本「お前達は生徒会室から出るな」
那由多「でも、先生!」
八葉「おとなしくしろ、那由多」

八葉やって来る。その後ろには磯崎。

那由多「八葉さん、でも……」

悔しさに顔を歪ませる那由多。

○裏山
鈴の音を聞いて愕然としている京一。

晴美「御幣が鳴っているのですね」
京一「……」

晴美、京一の右手前に立つ。

晴美「禍根は一気に断つ……これが天網流の戦い方です」

晴美、左手首にリングを着ける。一瞬体を光の膜が包む。

京一「それは?」
晴美「お守りです」

軽く身構える晴美。リングにはめ込まれた三つの球が青く輝く。
周囲を見回す京一、焦りの表情。
静寂。

京一「……」

京一には聞こえる御幣の鈴の音。固唾をのんで立ち尽くす。

○裏山
静寂。
動かない晴美。
動けない京一。

晴美「!」

地面よりシャンクゥー星人出現。抜き打ちにブレードで斬りつける。同時に晴美、自分の体を京一と星人の間に滑り込ませると京一を突き飛ばす。
袈裟懸けに斬られる晴美。
しかし表面にフィールドが一瞬浮かぶとブレードを弾く。(瞬間、腕輪の球が一つ砕ける)

京一「晴美!」
晴美「まだッ!」

晴美とシャンクゥー星人、技の応酬。不意の隙をついて晴美、星人の体を取り押さえると、ポケットから御幣(一八話参照)を差し出す。
青く光る御幣。目前の空間が歪む。

京一「晴美!」

歪んだ空間に星人と共に飛び込む晴美。

京一「晴美!」

後に続こうとする京一。しかしそのまま不様に倒れ込む。

京一「晴美ィィィッ!」

声の限りに叫ぶ京一。

○クレーター
曼珠沙華が咲き乱れる閉鎖空間。
離れて距離を取るシャンクゥー星人と晴美。

晴美「……」

穏やかな表情で御幣を破る晴美。

   *   *   *

(回想)
道場で向かい合って座る晴美(小学生時代)と拳治。

拳治「タタカイビトのチカラは強大だ。しかし、それが通用しない相手もある。だから我々、マモリビトがいる」

たどたどしくも暗唱する晴美。

晴美「シングウの源になる者、そのチカラ強大なれど、徒手空拳の戦いは不得手なり。守る者、これ必要……」

にっこり笑う拳治。

拳治「そうだ。自らを器と為し、ホシノチカラを取り込んで己(おの)が力とするのがタタカイビトならば——」

自分の胸を指し示す拳治。

拳治「我々マモリビトの力はここにある」

思わず自分の胸を見る晴美。

晴美「ここ?」

頷く拳治。

拳治「素直な心は陽の光、風の流れ——」

   *   *   *

晴美「これぞ風光の心なり.」
口元に笑みを浮かべる晴美。紙片と化した御幣が舞う。

○御統中・廊下
扉を開ける那由多。

瞬「ホントにいいの?」
那由多「晴美ちゃんにしか倒せない敵なのかもしれない。タタカイビトを守るのはマモリビトなのかもしれない.でも、晴美ちゃんは友達だから……」
瞬「支離滅裂だよ」
那由多「(振り返って)八葉さん!」
八葉「……そうだな。行こう」
那由多「うん!」

大きくかぶりを振る那由多。

○裏山
京一「晴美、晴美!」

走り、叫ぶ京一。
見上げても木々の緑は変わりない。

○クレーター
戦っている晴美とシャンクゥー星人。
また一太刀を受けるがフィールドがこれをはじく。腕輪の球が一つ砕ける。

○裏山
走る京一。
頭に鈴の音が絶え間なく鳴り響く。

京一「はるみーーッ!」

荒い息の京一。

京一「もういやだ!大好きな人が死ぬのはもう、いやだ!」

   *   *   *

(回想)
初めて出会ったときの晴美
御輿下ろしの時の晴美
中学生の晴美

   *   *   *

京一「!」

倒れ込む京一。
荒い息。悔し涙。
仰向けになって空を見上げる。

京一「!」

空の“歪み”が見える。
思わず立ち上がる京一。

京一「これは……」

気が付くと目の前にボロボロになったムリョウが立っている。

京一「……統原無量」
ムリョウ「……」

ムリョウ、京一の右側を指差す。

京一「……」
京一、少し躊躇うもその辺りに手を差し出す。たわむ空間。

京一「!」
ムリョウ「……」

戸惑う京一に黙って頷くムリョウ。

京一「……晴美!」

意を決して京一、飛び込んでいく。
大きく歪む空間。

○クレーター
京一「うわっ!」

京一、曼珠沙華の中に倒れ込む。
目の前では晴美とシャンクゥー星人が倒れている。晴美の腕輪に球は無い。

京一「晴美!」

駆け寄る京一。
不意に起き上がるシャンクゥー星人、京一に襲いかかる。

京一「 ?! 」

晴美も起き上がると正拳一閃。
京一をすり抜け、シャンクゥー星人の
体を打ち抜く拳。紅い花が舞う。

晴美「天網流奥義、風光の拳——」

晴美、微笑むとゆらりと倒れる。

○裏山
走ってくる那由多、瞬、八葉。

那由多「あ」

前方でムリョウが手を振っている。

ムリョウ「やあ」
八葉「ムリョウ君!」
那由多「あんた、今まで何やってたのよ!」

駆け寄る三人。

ムリョウ「ちょっと宇宙まで」
那由多「宇宙?」
ムリョウ「前門の虎はもういない。後は.」
瞬「おおかみ?」

不意に歪む空間。
晴美を抱いた京一、歩いてくる。
眠っている晴美、穏やかな顔。

瞬「京一さん!」
那由多「晴美!」

駆け寄る三人。

八葉「大丈夫か?」
京一「ああ……」
那由多「晴美ちゃん!」
京一「大丈夫だ。こいつは、強いよ……」

優しく晴美を見つめる京一。

京一「すごいよ、お前は.すごいよ……」

泣き笑いの京一。

八葉「京一……」

そんな一同を微笑みながら見ているムリョウ、静かに倒れる。

瞬「あーーッ!」

いち早く気が付いた瞬、遅れてギョッとする一同。

八葉「ムリョウ君!」
那由多「ムリョウ!」

○御統中・渡り廊下
最後のポスターを貼り終わるハジメ達。

ハジメ「よし、これで全部だ!」
ジロウ・アツシ「おーーッ!」
トシオ「あとは地道に口コミ宣伝だね」
ジロウ「小さな事からコツコツと…あれ?」
ハジメ「え?」

体育館裏から慌てふためいてやって来る八葉達。八葉はムリョウを背負い、那由多は晴美を背負い、瞬は京一に肩を貸している。

トシオ「ムリョウ君!」
ハジメ「どうしたんですか?」
八葉「おお、君達、山本先生と磯崎先生を呼んできてくれ!」
那由多「急いで!」
ハジメ達「は、はい!」

慌てて四方に散るハジメ達。
廊下を走るハジメ。
保健室へ急ぐ八葉達。
安らかな寝顔のムリョウ。

NR「眠るムリョウ君、ボロボロの峯尾さん、ドロドロの守口先輩.昼休みの間に一体何があったというのだろう?この後、保健室で津守先輩から事のあらましを聞くのだけれど、今はとにかく——」

走りながら叫ぶハジメ。

ハジメ「山本先生どこですかーっ!」
NR「——続きは次回」

         (第一九話・完)

☆二〇〇字詰八〇枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)