第21話『助っ人、相まみえる』

学園戦記ムリョウ

第二一話『助っ人、相まみえる』(第一稿)

脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ)※ナレーション
統原瀬津名(スバル・セツナ)
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機 瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)

成田次郎(ナリタ・ジロウ)
川森 篤(カワモリ・アツシ)
三上利夫(ミカミ・トシオ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)

村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)

津守十全(ツモリ・ジュウゼン)
守山 載(モリヤマ・サイ)
峯尾 拳治(ミネオ・ケンジ)
ソパル星人

下山 望(シモヤマ・ノゾミ)
下山 満(シモヤマ・ミツル)

妙見彼方(ミョウケン・カナタ)

女子A
女子B
審判
御統中 柔道部員達
宮ノ森中柔道部員達
生徒達
応援の人々

○宇宙空間
月の裏側の宙域。
銀河連邦の艦隊が待機している。
連絡艇が飛び交う。

○銀河連邦旗艦・メディカルルーム
窓からは宇宙が見える。
拳治と対面している晴美。

拳治「死んだはずが助かった――」
晴美「はい」
拳治「京一君は元気か?」
晴美「今日は学校をお休みしていますが、守口のおじさまは大丈夫だと……」
拳治「そうか」

拳治の体は集中治療器の液体の中で眠ったまま。晴美が相対しているのは意識を映像化した、情報ウィンドウの中の拳治である。

拳治「今現在、戦力として使えるマモリビトは殆どいない」
晴美「はい」
拳治「そんな状態でお前に託すことはしたくないのだが……」
晴美「覚悟のうちです」

微笑む晴美。拳治、感じ入った表情。

拳治「強くなったな。私を遥かに越えたところに、お前は立っているようだ」
晴美「……」
拳治「お前が今から、天網流の当主だ」
晴美「はい……」

静かに頷く晴美。部屋には沢山の集中治療器がずらりと並んでいる。

○同・ロビー
窓から宇宙を見ている那由多と瞬。

瞬「絶景かな絶景かな、か……」
那由多「……」

暗い表情の那由多。黙って宇宙を見つめている。それを優しく見つめて瞬。
瞬「ショックだった?病室?」
那由多「当たり前じゃない。棺桶みたいなのがずらっと並んでて……」

険しい顔になる那由多。

那由多「私達が文化祭とか学校とか……浮かれてる間に、晴美ちゃんのお父さんみたいに私達のために傷つきながら戦ってくれる人達がいるんだって……わかっていたけど、でも……」
瞬「でも、来てよかったよね」
那由多「……」

頷く那由多。宇宙見つめたまま。

   *   *   *

離れたところでその様子を見ているソパル星人とセツナ。

ソパル星人「あの子達、ここに連れてきてよかったのかなぁ。漠ちゃんは是非とも見せてやってくれって言ってたけど、ショックなんじゃないのかなぁ、二人とも……」
セツナ「知らないままでいるよりは、知っていた方がいいのよ」
ソパル星人「そうかなぁ……」
セツナ「そういうものよ」

ニッコリ微笑むセツナ。

溢れんばかりの窓越しの星々――

○オープニング

○天網市・点景
一〇月初旬の朝。快晴。
登校風景。

(サブタイトル『助っ人、相まみえる』)

○陸橋
並んで歩いているハジメとムリョウ。
八葉が声をかける。
八葉「やあ、おはよう」
ハジメ・ムリョウ「おはようございます」
八葉「昨日はお疲れ様」
ハジメ「先輩もお疲れ様でした」

   *   *   *
(回想)
昨日の「こゆるぎ祭」での祭りクラブの活躍のダイジェスト。(二〇話参照)
ハジメの語りに、ミニ御輿を担ぐムリョウ達。八葉が歌い、テキパキ指示を出すトシオ。バカ受けだったかぶり物で奮闘するアツシにジロウ――

○だらだら坂
歩いているハジメ達。

八葉「村田君の名調子ぶりは、ウチの爺さんにも好評だったよ」
ハジメ「いやあ……」
ムリョウ「最後の、締めが良かったよね」

   *   *   *

(回想)
ハジメの締めくくりの言葉。聞き入っている客席。舞台袖の八葉やムリョウ、ジロウやアツシも神妙な顔。

ハジメ「僕は四年前に越してきたクチなのですが、みんなと仲良くやってますし、今度の文化祭に向けて学校じゅうで盛り上がっています」

じっと聞いているトシオ。

ハジメ「ここらで一つ、お祭りをしてみませんか?昔からの天網っ子も、新しい天網っ子も、みんなこの街を愛している者同士ということで。新しい祭りを一緒に――」

満場の拍手。じっとハジメを見つめる十全。他の大人達も同様に。商工会長は一人ウンウン頷いている。

○御統中・裏門前
しきりに照れるハジメ。

ハジメ「いやあ、何か偉そうでしたよね。後でフタバから文句タラタラで……」
ムリョウ「そんなことないよ。自然な感じでよかったけど」
八葉「爺さんが今度、君とあらためて話がしたいって言ってたよ」
ハジメ「げげっ、恐いなぁ」

校門をくぐる一同。

○同・二年C組
教室に入ってくるハジメとムリョウ。

ムリョウ「ははは」
ハジメ「まあね……」

何気にハジメ、顔を上げるとそこには柔道部長・下山望の大きな顔。
ハジメ「うわーーッ!!」
下山「おはよう、諸君」
他の部長達「おはよう!」

下山の後ろに並んでいた運動部長達、一斉にハジメとムリョウを取り囲む。

ハジメ「わっ、いっ、一体何なんですか?」

遠巻きに見ているクラスメート達。

ハジメ「おっ、おい! みんなぁ!」
ジロウ「許せ、ハジメ!」
トシオ「話をするだけらしいから、聞いてあげればいいよ」

冷静なトシオに苦笑いのハジメ。

ハジメ「はは、話だけって……」
下山「そう、話だけだ!」

ぐいと顔を突き出す下山。圧倒されるハジメ。

ハジメ「わわッ!」
下山「今は、もう秋……」

平然としているムリョウ。

ムリョウ「秋って季節の秋の事ですか?」
下山「そう、秋! 秋といえば、運動部は地区大会だ!」
他の部長達「そうだ!」
下山「で、ムリョウ君、君に頼みがある!」
ハジメ「え?」
ムリョウ「入部の件はすでに……お断りしていませんでしたっけ?」
下山「確かに!君が体育祭と文化祭の実行委員を掛け持ちした段階で、我らは、君の勧誘は諦めた!しかし……」

ニヤリと笑う下山。

下山「一日限り、助っ人ならどうだい?」
ムリョウ「助っ人?」
ハジメ「でも、祭りクラブが……」
下山「確かに。しかし僕らもヤボじゃない。取りあえず、全ての部の助っ人、というのは諦めたよ。泣く泣く!」
他の部長達「泣く泣くゥ~!」
ムリョウ「そりゃどうも」
ハジメ「ムリョウ君!」
下山「で、厳正なる抽選の結果、我が柔道部がムリョウ君の助っ人権を獲得した!」
他の部長達「おめでとう!おめでとう!」

拍手する部長達。泣き笑いしている者もいる。

ムリョウ「いやあ、参ったなぁ」
ハジメ「皆さん、本人抜きで盛り上がっちゃって……横暴ですよ!」
下山「!」

鋭い目の下山、ハジメに迫る。

ハジメ「う……」
下山「やる義務はある!」
ムリョウ・ハジメ「え?」

今度は下山、ムリョウに迫る。

下山「これだけは言いたくなかったが……この間の差し入れ、食べたよね?」
ムリョウ「え?」
下山「食べたよね?」
ムリョウ「え、まぁ……」

更に迫る下山、念押し。

下山「食べたんだよねぇ」

さすがにたじっとなるムリョウ。

   *   *   *

(回想)
部長達差し入れに現れる。
食料の山を前に途方に暮れるジロウ達。
そこに現れるセツナ、目を輝かす。

NR「この間の差し入れとは、ムリョウ君が倒れた次の日に、運動部長の皆さんが持ってきた食料のことだ。それらは、突然現れたセツナさんの音頭取りで、パーティーをやってすっかり食べてしまった」
セツナ「パァ~ッと行こう!」
ジロウ「うひょひょ~ッ!」

無量庵で大騒ぎするハジメ達とセツナ。
ムリョウも食べながらニコニコ。

   *   *   *

下山「君が病気のお祖父さんのためにバイトをしていた、というのは守機瞬の冗談だと判明した……しかし、君は食べたよね?」
ムリョウ「はあ」
下山「僕らの誠意を、食べたよね」
ムリョウ「はあ」
下山「食べたんだよねえ!」
ハジメ「う……」
ムリョウ「……仕方ないなァ、やりましょう」
部長達「やった~~~~~ッ!!」

遠巻きに見ていたジロウ達も呆然。

ジロウ「はぁ……」
アツシ「何か、スゴかったね」
トシオ「……」

大喜びに沸く部長達。取りわけ、下山は男泣きまでしている。

下山「ウウ……ありがとう!ありがとう!」
ハジメ「ムリョウ君……」
ムリョウ「ま、しょうがないね」

ヤレヤレといった表情のムリョウ。

○同・点景
各所でムリョウの噂をする生徒達。
廊下で
教室で
トイレで――

NR「『統原無量、柔道部に助っ人!』のニュースは瞬く間に全校に広がった――」

昇降口前に人だかり。下山が自ら宣伝している。

生徒「本当かよ」
下山「本当だとも!だから諸君も是非とも応援に来てくれたまえ、ガハハハハハッ!」

○同・廊下
立ち話をしている女子。

女子A「私、応援に行っちゃおうかな♡」
女子B「えー、でも柔道でしょぉ?」
女子A「だってムリョウ君の学生服以外の格好が見れるのよぉ~」

晴美、その前を行き過ぎる。
向こう側から京一、歩いてくる。

晴美「……」

晴美、立ち止まると嬉しそうな顔。
ハッとして京一も立ち止まる。

京一「!」

しかし顔を背けると、足早に階段を下りていく。

晴美「……」

呆気にとられて立ち尽くす晴美。

○同・外
青空に雲が流れる。
チャイムの音。

○同・渡り廊下
昼休み恒例の調理パン争奪戦。

○同・点景
各所で昼食の風景。
校内放送を見ている生徒達。
番組名は――

『MISCYU NEWS』

ひかるがニュース原稿を読んでいる。

ひかる「ハイ!それでは早速、今日のビッグニュース! あの、押しの強い運動部の勧誘にもだんまり無視を続けていた、二年C組の統原無量クン、ついに柔道部の助っ人を引き受けることになりました♪」

○同・放送室ブース
DJよろしく快調なトークのひかる。

ひかる「彼が出場するのは、宿敵宮ノ森中学との対抗戦です!柔道部部長・下山君によりますと、『応援は大歓迎!』だそうです。興味のあるヒトは、一〇日の午後二時、ミスチュウ体育館へ行ってみよう!」

○同・生徒会室
机に座っているのは八葉、瞬、那由多。
弁当を広げて話をしている。

瞬「いやー、ついに口説かれちゃったみたいですねぇ、ムリョウさん」
八葉「何を言ってるんだ。元々はお前が運動部の部長達に嘘をついたからだろう?」
瞬「へへへ、でもまぁホラ、見てみたいじゃないですか、ムリョウさんの技の冴え」
八葉「うん、そういえばそうだなあ……」
瞬「那由多は当然応援に行くよね」

陰鬱そうな那由多、声もボソボソ。

那由多「行きません」
瞬「またまたぁ」
那由多「私も助っ人頼まれてるのよ」
瞬「柔道?」
那由多「違います。バスケにソフトに陸上。何であたしが、あいつの応援をしなけりゃなんないのよ……」

ブツブツつぶやく那由多。

八葉「那由多、今日はやけに暗いな。どうしたんだ?」
瞬「♪ 悩めるヒロイン~な感じなんですよ」
那由多「フン」

瞬を無視して弁当を食べる那由多。

八葉「ふーん、そうか。で、どうだった?銀河連邦の宇宙船は?」
瞬・那由多「?!」

ギョッとする二人。八葉は淡々。

那由多「な、何で知ってるんです?」
瞬「バカッ、那由多ッ!」
那由多「あっ!」

あわてて口を押さえる那由多。

八葉「セツナさんから全て聞いてるよ」

天を仰ぐ瞬。

瞬「お姉さん、口が軽すぎだ……」
八葉「遅かれ早かれわかることだろ? それにお前のおやじさんと京一のおやじさんが、何やら企んでいるのはモモエ様も先刻ご承知だし……」
瞬「いっ!?」

八葉、那由多の顔を見すえる。
思わずうつむく那由多。

八葉「……峯尾のおじさんは、僕らのために戦ってくれた。他のマモリビトの人もそうだ。確かに、僕らタタカイビトの日常は、色々な人の犠牲の上に成り立っている。だからこそ、僕らは笑っていなければならない」
那由多「?」

思わず顔を上げる那由多。

八葉「落ち込むだけじゃ、何も変わらない。みんなの明日のために、お前がすることを考えろ」
那由多「私の、すること……」
八葉「それが僕らの義務だ」

八葉、ニッコリ笑う。

○アイキャッチ

○村田家・ポーチ
昼過ぎ。
そそくさと玄関から出てくるハジメ。

ハジメ「じゃ、行ってきまーす」
フタバ「ちょっと待って、お兄ちゃん!」

後ろから声をかけるフタバ、はっぴ姿。垂れ幕やメガホンなどの応援グッズをカバンに詰め込もうと四苦八苦。それを手伝うキョウコ、苦笑い。

キョウコ「ハジメ、待ってあげなさいよ」
ハジメ「だって、みっともないよ」
フタバ「何がみっともないのよ!」
ハジメ「お前の全てだ」
フタバ「何を~~ッ」
キョウコ「はいはい、これでいいわよ」

カバンをポンと叩くキョウコ。

フタバ「お母さんの分まで、たくさん応援してあげるからね」
キョウコ「はいはい。ムリョウ君によろしく言っといて頂戴」
ハジメ「うん。それじゃあ……」
フタバ「行ってきまーす!」
キョウコ「ああ待ちなさい、これは?」

二本ののぼりを差し出すキョウコ。

フタバ「あっ、しまった」
ハジメ「やれやれ……」

ため息のハジメ。

ハジメ「ま、いいか」

○国道
歩道を歩くハジメとフタバ。
フタバは明るくハジメに話しかける。

NR「ここで、今回の対抗戦の概要を御説明しましょう」

   *   *   *

天網市の地図。
学区が二つに分かれている。

NR「天網市内には中学校が二つある。一つは我らが御統中学、そしてもう一つは宮ノ森中学だ。柔道部は毎年秋に、地区大会とは別の、対抗戦を行っていた」

   *   *   *

過去の戦いのダイジェスト写真。歴代柔道部の集合写真やら、優勝旗を持った部長のスナップなども。

NR「過去一〇年の対戦成績はミスチュウの四勝六敗。柔道部長・下山望がムリョウ君にこだわる理由も確かにわかる」

   *   *   *

ゆかりやミドリ、更にはひかるに瞬、八葉、三バカも合流。のぼりを広げてはしゃぐ瞬にフタバ。にぎやかに学校へと向かうハジメ達。

○御統中・体育館前
入り口に立て看板。

『天網地区中学校秋期柔道大会』

○同・体育館
フロア中央に敷き詰められた柔道畳。
その周囲には二校の生徒達や町の名士が沢山来場している。

セツナ「さぁ、統原無量君の活躍を祈って、エールを送ろう!」
周辺の人達「お~」
セツナ「だめ!声が小さい!」

一人気勢を上げるセツナ。

ハジメ「セツナさん、いつの間に……」
セツナ「お~、君達!」
ハジメ「君達じゃありませんよ」
瞬「みんなお姉さんが悪いんですからね」
セツナ「え、何が?」
ジロウ「ムリョウの奴、こないだのパーティーが原因で脅されて……あーかわいそ」
セツナ「パーティーで脅迫?あんた達何やったの?」
ハジメ「いや、だからセツナさんとやったパーティーが元で脅迫されたんですよ」
セツナ「んもぉ、訳の分からないことゴチャゴチャ言ってるからヘンになっちゃうんだぞ! はい、みんな応援! 応援!」

○同・中庭
青空。
一人、伸びをするムリョウ。
柔道着姿、帯は白。

ムリョウ「~~~」
ハジメ「ムリョウ君!」

ハジメと八葉やって来る。

ムリョウ「やあ」
八葉「なかなか格好いいな」
ムリョウ「どうも」
ハジメ「白帯、っていうのが悪い冗談だね」
ムリョウ「そうかい?」
八葉「君のおかげで体育館はお客さんでいっぱいだよ。始まる前から盛り上がっちゃって大変だ」

○同・体育館
フタバとユカリとミドリ、応援の打ち合わせをしている。

フタバ「じゃあ、『ファイトファイトムリョウ、オ~~!』で行きます!」
ミドリ「他の人の応援はいいの?」
ユカリ「ガンバレ!くらいは言わないとかわいそうだよね」

ひかるはパチパチとカメラ撮影。
セツナは何故か宮ノ森中の応援を指導している。

セツナ「はい、みっやのもり!それ、みっやのもり!」
宮ノ森中生徒「あのぉ、いいんですか?こっちは敵ですよ」
セツナ「なぁに言ってるの!試合は、敵味方が応援し合うから面白いんじゃない。行くわよ~!それ、みっやのもり!」

それを遠目に見ている瞬と三バカ。

トシオ「結局、あの人は、事態を面白がっているだけだな……」
瞬「パーティーの件も確信犯とみた」
ジロウ・アツシ「うんうん」

○同・中庭
ムリョウ「ま、姉ちゃんも悪気があってやってるわけじゃないと思うから許してよ」
ハジメ「許すも何も……君が一番の被害者なんだよ」
ムリョウ「ああ、そうか」

二人の会話を微笑んで見ている八葉。
そこへ下山が駆けてくる。

下山「ムリョウくーーん!」
ムリョウ「はーい」
下山「新情報だ!何と宮ノ森もスゴイ助っ人がいるらしい!」
八葉「宮ノ森にも?」
下山(満)「そうだ!」

渡り廊下から下山満のっそり現る。

ハジメ「あっ」
ムリョウ「同じだ」

二人の下山、背格好も顔つきもほぼ同じだが、満の方が短髪で筋肉質。

※以下、御統中の下山を望、宮ノ森中の下山を満と表記します。

向かい合って熱く語り合う両下山。

望「よう、満。ついにお前の泣きっ面を見るときが来たぞ」
満「今年も泣きを見るのはお前の方だ!」
望「ふん、ウチには秘密兵器がいるんだぜ」

ムリョウを顧みる望。しかし、満も不敵な笑みを浮かべる。

満「フン、白帯のシロウト頼みか……まぁ、せいぜいぬか喜びでもしていてくれ」

不敵な笑みを浮かべて立ち去る満。

ハジメ「あの人は……」
八葉「宮ノ森の柔道部長だよ。そして……」
望「僕の従兄弟だ」
ムリョウ「なるほど」
望「負けるもんか、今年はウチが勝つ! 絶対勝つ!」

次第に興奮してきたか高笑いの望。

満「ガハッ!ハハハハッ!ハハッ!」

顔を見合わせるハジメ達。

○同・体育館
来賓席に十全と載が座る。
対戦表が貼り出される。
審判、手を振り上げる。

審判「はじめっ!」

先鋒の対戦。歓声が客席より起こる。
組み合う選手達、他の選手も応援。

望「吉岡、行けーっ!」
満「手数出してけ!攻めろ攻めろ!」

おっかなびっくりな足払いの応酬。双方腰が引けて結構へっぽこな展開。
来賓席の十全と載、苦笑い。

NR「対抗戦が始まった。物凄い技の応酬、と言いたいところだが、ミスチュウにしても宮ノ森にしても、県大会では一回戦負けの連続。はっきり言ってどっちも弱い。意外な結末、意外の決まり手の連続。結構これは、面白い――」

熱狂する選手席。一人、ムリョウは静かに座っている。ちょうど相対する形で宮ノ森中の助っ人も座っている。
対戦表には『副将・妙見彼方(みょうけんかなた)』

(先鋒)
ケンケン内股でグルグル回る御統中先鋒、なんとか相手を倒す。

審判「一本!」

対戦表、宮ノ森に×印。

(次鋒)
御統中次鋒、大外刈りをかけたらその反動でひっくり返る。宮ノ森次鋒、すかさずフライングボディープレス。

審判「押さえ込み!」

対戦表、御統中に×印。

(副将)
クルクル回って払い腰が決まる。

審判「一本!」

対戦表、宮ノ森に×印。

※この辺り、ひかるのカメラに合わせてのスチル構成がいいかも

歓声飛び交う場内。

フタバ・ユカリ・ミドリ「うわーっ♪」
セツナ「がんばれ宮ノ森ーーッ!」
審判「副将戦、選手前へ!」

頬を叩きながら望、立ち上がる。

望「フン!」

のっしのっし歩く望、迫力。対する宮ノ森中の助っ人は、華奢な美少年。
歩み寄る両者。歓声更ににぎやかに。

ジロウ「楽勝楽勝!」
瞬「一本決めろーッ!」

まじまじと少年を見据える望、ニヤリと余裕の表情を浮かべる。

望(M)「秘密兵器だと心配していたが、ただの人数合わせだな。ここまででウチは二勝一敗。ムリョウ君には悪いが、ここで勝負を決めさせてもらうよ!」
審判「はじめ!」
望「とぉりゃあ!」

組み合う二人。

フタバ「ガンバレーーッ!」

押し込んでいく望。しかし、素早い足払い。横転する望。畳の音が大きく響く。

審判「一本!」

呆気にとられるミスチュウ応援団。

観客「ええーーッ?!」
八葉「?!」
十全・載「?!」

一様に驚く天網の民。

セツナ「……」

セツナは一人ニヤリと笑う。
トボトボ戻ってくる望。

審判「大将戦!選手前へ!」

立ち上がるムリョウ、歓声が上がる。

フタバ「ムリョウさーーん!」
ジロウ・アツシ「ムリョウガンバレッ!」

対する満も気合い充分。

満「うおっしゃあ!」

盛り上がる観客達。

セツナ「みっやのもり!みっやのもり!」

ふと、つぶやく八葉。

八葉「あの宮ノ森の助っ人……何者なんだ?」
ハジメ「……」

周囲の歓迎に応える少年、静かに微笑む。

ナユタ「……」

そーっと入ってくるナユタ、陸上部のユニフォーム姿。人垣の間から試合の様子をのぞき込む。

ナユタ「……」
瞬「素直じゃないねえ」

背後から声をかける瞬。

ナユタ「?! しゅ、瞬?!」
瞬「勝負は二勝二敗。大将戦で決まるよ」

気合い充分な満。

満「うおっしゃあ!」

ムリョウ達、開始線に立つ。勝ち誇った顔でムリョウを見据える満。

満(M)「満のバカめ、勝負を焦ったな。後はこの、人数合わせの白帯か……今年の対抗戦、宮ノ森中学柔道部がもらった!!」
審判「はじめ!」

歓声上がる。
殺到する満。

満「どおりゃぁーっ!!」
ムリョウ「……」

軽くいなすムリョウ。そのまま流れる満の体、横転。畳の音大きく響く。

審判「一本!」
観客「おおおおーーッ?!」

敵味方大きくどよめく。

審判「対抗戦、三対二で、御統中の勝ち!」

大喜びの御統中柔道部。

望「やったーーッ!」

悔しがる宮ノ森中柔道部。

満「くそっ……」
瞬「よぉし、カメラカメラ!」

ビデオカメラを取り出すとムリョウの元へと駆け出す瞬。後に残されたナユタ、小さくガッツポーズ。

ナユタ「よし!」

早速ビデオを構える瞬。ムリョウに勝利者インタビューをするひかる。

ひかる「助っ人はどうでしたか?」
ムリョウ「いやあ、ちょっと体を開いたら相手が倒れてくれたんで、助かりました」

そこへ無理矢理、割り込んでくる望。

望「よおし、やったぞミスチュウ、勝ったぞミスチュウ!」
ひかる「あっ」

マイクを奪い取る望、跪いて悔しがっている満に歩み寄ると、声高らかにマイクアピール。

望「いいかぁ、満!今日は俺の勝ちだ!しかし、お前とは試合はしていない!」
観客「おおおーーッ!」

ノリのいい観客達。

望「決着は高校でつけようぜ!いいかぁ!」

マイクを手渡される満。しばし考えるが同様にアピール。

満「……よおし、わかったぁ!覚悟しとけ!」
観客「うおおーーッ!」

盛り上がる観客。ミスチュウコールや宮ノ森コールが館内をこだまする。

トシオ「いいかげんだなぁ。『俺の勝ち』って……自分は負けたんじゃないの?」
ジロウ「いいんだろ、いいかげんで」

来賓席では静かに語り合う載と十全。

載「……さすがですな」
十全「峯尾の娘と――」
載「は?」
十全「戦わせてみたいのぉ、晴美と」

ニヤリ微笑む十全。

載「はあ……」
ナユタ「……」

忍び足で立ち去ろうとするナユタ。背後からハジメが声をかける。

ハジメ「あれ、守山さん、来てたんだ」
ナユタ「ちょ、ちょうど競技が終わったから寄っただけよ。ほら、競技場、近くでしょ」
ハジメ「守山さんは助っ人で三つも掛け持ちしてるんだって?さすがだね」
ナユタ「え、ええまぁ」
ハジメ「ムリョウ君見なかった?急に姿が見えなくなったんだけど……」
ナユタ「え?」

ざわついているミスチュウ応援団。

フタバ「あれ、ムリョウさんは?」
アツシ「ムリョウくーん!」

同様に妙見を探す宮ノ森の柔道部。

宮・部員A「妙見はどうした?」
宮・部員B「さっきまでいたんですけど……」

顔を見合わせるハジメと那由多。

○天網海岸
人気のない西側の海岸。
向かい合っている妙見とムリョウ、共に柔道着姿のまま。

ムリョウ「君の目的は、僕かい?」
妙見「ええ。大将戦に出てくるかと思ったんですけど、当てが外れました」
ムリョウ「対抗戦は勝利優先だからね。まぁ、許してよ」
妙見「……地球には銀河連邦の切り札が隠されている、と聞いてやって来ました」
ムリョウ「ふーん」
妙見「それはあなたですか?」
ムリョウ「それは違うよ」
妙見「でも、強いんでしょ?」
ムリョウ「さあ」

身構える両者。
波が何度も打ち寄せる。
動かない二人。

妙見「……」

チラとはるか海上を見る妙見。そこには偵察ロボットが浮かんでいる。
ロボット、ムリョウと妙見のデータを収集している。

妙見「……」

肩をすくめてみせる妙見。

ムリョウ「……」

ムリョウも微笑む。

妙見「今日はやめておきましょう」

構えを解く妙見。

ムリョウ「そうだね」

構えを解くムリョウ。

妙見「また近いうちに会いましょう。僕の名は妙見彼方――」
ムリョウ「知ってるよ。対戦表に書いてあったし」
妙見「フフ……それじゃあ失礼します。(声を大きく)お姉さん、応援ありがとうございました!」
セツナ「!」

漁師小屋の陰に隠れていたセツナ、ギクリとなる。

セツナ「あちゃー……」

顔を出すとすでに妙見はいない。

セツナ「あらら、もういない。足も結構早いねぇ、あの子」
ムリョウ「敵……かな?」
セツナ「味方じゃあないのは確かだね」
ムリョウ「うん……」

妙見が立ち去った方を見ているムリョウ、少々緊張の面持ち。
太陽は西に傾き、海はキラキラ夕日に輝いている。

NR「またもや現れた謎の人物。妙見彼方、彼は一体何者か?何はともあれ、柔道部の勝利を祝いつつも続きは次回――」

         (第二〇話・完)

☆二〇〇字詰七七枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)