第15話『父、帰る』

学園戦記ムリョウ

第一五話『父、帰る』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守機 瞬(モリハタ・シュン)
成田次郎(ナリタ・ジロウ)
川森 篤(カワモリ・アツシ)
三上利夫(ミカミ・トシオ)

村田和夫(ムラタ・カズオ)
村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)

守機 漠(モリハタ・バク)
守口 壌(モリグチ・ジョウ)
山本忠一(ヤマモト・タダカズ)

磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ソパル星人

校長先生
官房長官
司書(若頭)
男A

タレントA
タレントB
コメンテイターA、B、C
三〇代会社員
五〇代主婦
男子大学生
女子小学生
運転手

○天網市・点景
九月の朝。行き交う人々。
NR「まだまだ暑い日が続くけど、夏休みは終わり。またまた勉強の日々が始まるわけで——」

○村田家・外
塀に吊した鉢には、にぎやかに咲いた秋の花の寄せ植え。

○同・居間
キョウコ、パソコンに向かいつつせっせと入力中。つけたままのTVに流れる番組は宇宙外交(後述)の特集。
構成はかなりバラエティー寄り。

   *   *   *

アナウンサー「しかし、驚きましたねえ、先程の官房長官の発表は!」
タレントA「五月の発表といい、日本政府、色々と隠し球を持ってますね」
タレントB「もう何が来ても驚かないよ、あたしゃあ」
タレントA「わっ!」
タレントB「ああ、驚いたぁ」
タレントA「うそつき」

   *   *   *

そこへ呼び鈴が鳴る。

キョウコ「はーい!」
声「村田さん、お荷物です」
キョウコ「?」

一瞬、怪訝な表情のキョウコ。しかし、すぐに合点のいった様子になると明るく返事する。

キョウコ「はーーい!」

○同・玄関
扉を開けるキョウコ。

キョウコ「はい、何の荷物ですか?」

目の前には村田和夫(ハジメの父)。
真面目な顔でしれっと答える。

カズオ「あなたに、愛を目いっぱい」

キョウコもとぼけてキョロキョロと。

キョウコ「愛アイあい……えーと、見えませんけど?どこですかァ?」

カズオ、キョウコを抱き上げる。

キョウコ「きゃっ」
カズオ「(微笑んで)愛はここにあるよ」

カズオ、キョウコを抱いたまま家の中に入る。

カズオ「(キョウコを見て)君が僕の愛」

思わず吹き出すキョウコ。

キョウコ「ははは、やだ、やめてよ、あはははは……」

カズオ、キョウコを降ろすとあらためて見つめ合う。穏やかな笑顔。

カズオ「ただいま」
キョウコ「……おかえりなさい」

微笑むキョウコ。

○同・ポーチ前
閉じられる扉。

NR「えーと、今日から新学期——」

○オープニング

○天網市・点景
九月の朝。通勤する人々。

(サブタイトル『父、帰る』)

○通学路・点景
陸橋、だらだら坂等の登校風景。
しゃべりながら歩く生徒達。
その輪に加わろうと走り寄る生徒。
皆、どこか落ち着きがない。

○御統中学・裏門前
ハジメ歩いている。後ろからトシオ。

トシオ「ハッちゃーん」
ハジメ「よぉ、どうだった?アメリカ」
トシオ「こっち以上にさ、宇宙人ブーム真っ盛りだったよ」

トシオ、UFO柄のアメリカンTシャツを着ている。

ハジメ「日本もまた盛り上がるんじゃない? 朝のニュースもあったしさ」
トシオ「そうだね」

昇降口へと向かう二人。

NR「朝のニュースって一体何?というわけで、話をちょっと前にさかのぼる——」

○村田家・ハジメの部屋
窓より差し込む朝の光。
ベッドで寝ているハジメ。

ハジメ「!」

パチリと目を開く

○同・台所
朝食の支度中のキョウコ。すでにフタバはテーブルに着いている。

ハジメ「おはよう」

少し眠たげなハジメ、入ってくる。

フタバ「めっずらしーい!」
キョウコ「起こされずに起きてくるなんて……どうしたの?」

テーブルに着くハジメ、自慢げに。

ハジメ「新学期初日だしね。これが実力」
フタバ「これ?どれ?どこ?」
ハジメ「実力パンチ」

フタバを軽く小突くハジメ。

フタバ「いたぁい!」

大げさに痛がるフタバ。

キョウコ「ほらほら、朝からケンカしない!」
フタバ「だって、お兄ちゃんが——」
ハジメ「さてと、ニュースでも見て世界情勢を考えるか」

ブーブー言うフタバをよそにテレビ画面を見やるハジメ。ニュース番組。生中継らしき画面は政府の会見場を映している。壇上には官房長官。

官房長官「えー、朝早くから申し訳ありませんが、一つよろしく」
ハジメ「あれ、またなんか事件なの?」
キョウコ「さあね」

TV画面ではあくまで淡々としている官房長官。

官房長官「早速ですが、我々は、宇宙人と交流します」
ハジメ・フタバ「えーっ!! 」
キョウコ「……」

画面内の報道陣からも驚きの声。
盛んに焚かれるカメラのフラッシュ。

官房長官「詳しいことはまた、総理からお話があると思いますが、この件を政府は、以後、『宇宙外交についての事項』と呼称します。ちなみに各国首脳並びに国連事務総長からも同様の声明が出されると思いますが、基本的に宇宙外交は……」
NR「以上、回想終わり」

○同・大ホール
始業式。壇上では校長先生の挨拶が行われている。

校長先生「えー、気象の長期予報など聞いておりますと、夏休みは終わっても、暑さはこれからも続くようですが、ダレることなく勉強や運動に打ち込んでください。何しろ、11月には文化祭、運動部の諸君には新人戦を始めとする大会が数々あります。諸々、準備に練習にと勤しみ、次なるステップへと軽やかに駆け上がってください」

その間にも、こっそりポケット端末でネットニュースを見ている生徒がチラホラ。ヒソヒソ話をする教師もいる。

NR「かくして日本中の朝は、このニュースの話題で持ちきりになっていた、と思う。少なくとも御統中学においては話題沸騰だったわけで——」

ニヤリと笑う校長。

校長先生「じゃ、終わりましょう。久し振りのホームルームです。教室で静かに宇宙人談義をして下さい。以上」

ドッと沸くホール内。

○同・二年C組
ニュースの話題に盛り上がる生徒達。
ハジメ達はトシオの席の周りに集まっている。

ジロウ「でさぁ、衝撃の発表だよ!」
トシオ「何だよ『でさぁ』って」
アツシ「すごいね、宇宙人とお付き合い!」
ハジメ「お付き合いっていうと何か易しそうだけど……ホントに出来るのかな?」

トシオ、パソコンにニュース関連を次々と表示していく。

『政府、宇宙外交展開を決定』
『国連のプロジェクトの一環』
『日本政府、国連委託で極秘裏に宇宙港建設』

ジロウ「おお~」

食い入るように見るジロウ。

ハジメ「さすがに会見から三時間もたってるから記事も沢山あるね」

他の生徒達もパソコンで記事を見ていたりのぞきこんだりとにぎやか。
ムリョウは一人、自分のパソコンを見ている。画面にはメールが着信。
 
あらたなる脅威来。注意

         阿僧祇

ムリョウ「(微笑)……」

かたやジロウは益々ヒートアップ。

ジロウ「あー、燃える!こりゃ今晩のTVは特番だらけだ!燃えるなァー」
ハジメ「別にロボットとか出てこない番組ばかりじゃないの?政治討論とかさ」
ジロウ「あ、そうなの?じゃ見ない」
生徒達「(笑い)」

ハジメ達だけではなく、周りのクラスメート達も大笑い。

アツシ「…でもさ、一体幾つくらいヒミツがあるんだろうね、政府も国連も」

画面には『宇宙港』関連の記述。

ジロウ「そうそうコレ!この宇宙港建設ってすごいよなァ…秘密基地みたいなものじゃない?これって…一体、どこでどう作ってたんだろうねェ?」
トシオ「種子島だってさ」
ハジメ「種子島?」

そこへ山本入ってくる。

ジロウ「やば……」
山本「さー、宇宙談義はもういいかァ?ホームルームやるぞ、席に戻れェ」

席に戻るハジメ達。ムリョウはおもむろにパソコンを閉じる。山本はいつもと変わらない様子で壇に立つ。

ジロウ「先生、ごゆっくりでしたねぇ」
山本「お前らのためを思ってゆっくりしてたんだよォ。お茶飲んで宇宙人談義してな」
生徒達「(笑い)」

クラス中大笑い。
その中でハジメ、ふと考える。

ハジメ「種子島ねぇ……」

○村田家・ポーチ
フタバ、元気よくやって来る。

フタバ「たっだいま~!」
カズオ(声)「はーい」
フタバ「?」

一瞬キョトンとするフタバ。しかし、鼻をクンクンさせると、すぐに嬉しそうな顔に変わる。

フタバ「(歓声)」

扉が開く。

カズオ「おかえり……わっ!」

その首に飛びつくフタバ。

フタバ「おかえりおかえりおかえりーっ!」
カズオ「ははは、ただいま」

フタバを抱くと、カズオぐるぐると振り回す。声を上げて喜ぶフタバ。

フタバ「あはははは!」
カズオ「そぉれ半年ぶりのぐるぐるだ!」
フタバ「あはははは!」
カズオ「ご飯はカレーだよ」フタバ「うわぁぁーっ!うわぁーい!」

キョウコ、後ろであきれて見ている。

キョウコ「こら、二人とも、いい加減にしなさい!こらッ!」

顔は笑顔なキョウコ。

○同・台所
鍋にカレーを煮込んでいるカズオ。のぞき込んでわくわくしているフタバ。

フタバ「半年ぶりのカレーだよ」
カズオ「お母さんは作ってくれないのかい」
フタバ「ウチのカレーはお父さん、って決めてるからいいの!だってお父さん、カレーしか作れないでしょ。得意技は大事にしてあげないとね」
カズオ「ははは、それはありがとう」

キョウコはパソコンに向かいつつもニヤニヤ笑っている。

○同・居間
フタバ「いただきま..す!」

昼食中の一家。
美味しそうにパクつくフタバ。

カズオ「いかがですか?お姫様?」
フタバ「はい、満足でございます」
カズオ「なんだい、そりゃあ」

笑い合うカズオとフタバ。

キョウコ「フフ……」
フタバ「でも不思議だね。包丁使うのも段取りも下手くそなのにどうしてそんなに美味しいの?」
カズオ「下手くそは失礼だな」
フタバ「でも、当たってるでしょ。おイモなんてほら!」

フタバ、スプーンにさした大きなジャガイモのかけらを差し上げる。

カズオ「ははは、ちょっと大きかったかな」
フタバ「それにしてもお兄ちゃんは運が悪いよね。こういう時に限ってクラブ活動、なんて言っちゃってさ」
キョウコ「夕方には帰ってくるわよ」
カズオ「何のクラブだっけ?」
フタバ「祭りクラブ!」
カズオ「へえ、祭りか……」
フタバ「祭りよりカレーがいいのに」

カレーをほおばるフタバ。

○御統中・アプローチ
下校風景。三々五々な感じ。

○同・二年C組
学食パンを食べているハジメ達。
他のクラスメートは帰っていない。

ジロウ「しかし、アレだね。こうガランとした部屋で男がアンパン食ってる図ってのもわびしいね」
ハジメ「しょうがないだろ、クラブ活動!」
アツシ「さすがに始業式の日にお弁当は頼めないよね」
ジロウ「へえ、イイ息子だね、アツシは。俺なんか、ハナから親がパン買えってなもんでさ」
トシオ「今日は何するつもりなの?」
ハジメ「文化祭に向けての作戦会議」
アツシ「実際のところ、文化祭でさ……何をどうするつもりなの?」
ハジメ「名前の通り、祭りをやるのさ」
アツシ「どういう?」
ハジメ「宇宙人も一緒に盆踊り、とかね」
ジロウ「ははは、それいいな」

○同・視聴覚ルーム
ホワイトボードに文字。

文化祭実行委員会・第三回会合
今後の予定について

文化祭実行委員会。司会は那由多。
ムリョウも出席している。

那由多「それでは今日はこれまで。9月10月の活動については、今日の話し合いを踏まえた上で予定表にしてお渡しします。おつかれさまでした」

立ち上がる生徒達。

八葉「ムリョウ君」
ムリョウ「はい」

八葉、ムリョウに歩み寄る。

八葉「クラブ、これからあるんだって?」

ムリョウ「ええ。とりあえず音楽室が使えるそうなので、そこで」
八葉「ところで……朝のニュースは?」
ムリョウ「見ています」
八葉「君は……阿僧祇さんから聞いていないかな、宇宙外交の件は?」
ムリョウ「いいえ、別に」
八葉「そうか」
ムリョウ「ただ……」
八葉「?」
ムリョウ「あらたなる脅威が来るそうです」
八葉「脅威?敵かい?」
ムリョウ「さあ……何でしょうね?」

ニッコリと笑うムリョウ。
二人のやり取りを見ていた那由多、つまらなそうに。

那由多「フン」
瞬「意地張んないでさぁ、入れてもらえば? ク・ラ・ブ!」
那由多「ば……何勘違いな事言ってんのよ!」

叩こうとする那由多をかわす瞬。

瞬「へっへ~ん」

ヘラヘラと逃げる瞬。

那由多「こらっ!瞬!」

○同・体育教官室
お茶を飲んでいる山本と磯崎。

磯崎「ウエンヌル少尉に美味しいお茶の葉をいただきました」
山本「ハハ、あのザイグル星人は、ことお茶に関しては地球人を凌駕しつつありますな」
磯崎「……今回の地球側の発表には意表をつかれました」
山本「あなたも知らなかったのですか?」
磯崎「……」
山本「真守の一族も大騒ぎです。何せ、こと宇宙人関係は自分たちが専門家だと自負していましたからね。今頃、当主の方たちで会議中ですよ」
磯崎「私は……上の思惑がわかりません」
山本「上、というとあれですか、銀河連邦評議会…でしたっけ」
磯崎「現在問い合わせ中です。ついこの間までは、未開惑星とのあからさまな交流は避けるように、と言っていたのに今回の件はあきらかに……」
山本「話が違う、と?銀河連邦も我々も、一枚岩ではないということですかな」
磯崎「……」

黙ってお茶をすする磯崎。
グラウンドから練習を始める生徒の声が聞こえる。

○アイキャッチ

○かもめハウス・外
門のかもめが静かに揺れる。

○同・内
TVをを見ているウエンヌルとジルトーシュ。かたや正座、かたや寝転んで。
部屋の中は雑貨やら骨董品やらでにぎやかな雰囲気。

画面には『宇宙外交』問題を考える特
別番組が流れている。

   *   *   *

朝の官房長官の会見。
官房長官「早速ですが、我々は、宇宙人と交
流します」
フラッシュの放列——

   *   *   *

その後の時系列ダイジェストやフリップが次々に流れる。

「山田首相、国民に協力を呼びかけ」
「各大臣も続々会見」
「日本のみならず各国でも動き」
「各国首脳、次々と宇宙外交を宣言」
「国連事務総長の会見。『近日中に“宇宙会議”を予定』と発表する」
「日本政府、極秘裏に宇宙港建設」

   *   *   *

コメンテイターやタレントが興奮した面持ちで宇宙を語っている。

A「我々は昔から騙されていた、ということでしょうか?」
B「騙す、といってもこれはむしろ時期が来るのを待っていた、と言えるでしょうね。現にこうして我々は、パニックにならずに穏やかに話をしている」
C「いや、ちょっと私は興奮していますが」

チャンネルをザッピングしてもどこも特番だらけ(数局ほどアニメを流している?)。

   *   *   *

街頭インタビュー
三〇代会社員「いやあ、ワクワクしますよ」五〇代主婦「何が何やらちょっと…」
男子大学生「しばらく様子を見ましょう、っ
てとこですか?」
女子小学生「宇宙人って、どんな人かなァ?」

   *   *   *

すかさず画面に突っ込むジルトーシュ。

ジルトーシュ「こんな人だよン♪」
ウエンヌル「……」

ウエンヌルは画面を見つめたまま。

ジルトーシュ「いやあ、呑気だねえ地球の人達は。今や銀河連邦も天網の民な人達も大騒ぎって感じなのにねえ」
ウエンヌル「銀河連邦も、大騒ぎ?」
ジルトーシュ「磯崎先生や末端の連中は今頃やきもきだろうねえ。一体、誰が地球とお付き合いしようなんて言い出したのか……犯人探しに躍起になってるところだよ」
ウエンヌル「犯人、ですか?地球と交渉を持つことは、銀河連邦にとってそんなにいけないことなのですか?」
ジルトーシュ「地球ってのはね、そうだね……例えて言うなら天然記念物とか国立公園とか……そこにあるものを可愛がる分には構わないけど、枝を折ったり動物を捕まえてはいけない。最後の楽園だしね」
ウエンヌル「聞こえはいいが、それは地球を見下している」
ジルトーシュ「そりゃあそうだよ。地球は本来、銀河連邦には加入できない星なんだから。子どもだよ子ども」

じろっとジルトーシュを見るウエンヌル、冷静な表情のまま。

ウエンヌル「子どもをだまして何かを取り上げようとしている悪い大人…あなたですか? 地球と交渉を持とうとしているのは」

苦笑いのジルトーシュ、大げさな否定のポーズ。

ジルトーシュ「いやだなぁ、僕じゃないよ、僕じゃ……それにね、悪い大人ばかりじゃないと思うし、子どもの方も考えのない子どもばかりでもないと思うんだけどなァ」
ウエンヌル「?」

○真守家・外
昼下がり。

○同・大広間
五家の当主、TVを上座において特別番組を見ている。手持ちぶさたなので取りあえずお茶やお菓子を食べている一同。

漠「しかし、一番確かな情報がTVだというのも間抜けな話ですな」
壌「うるさい!我々の情報網の裏をかかれたのだ!」
漠「まぁ、天網の民っていったってそんなにコネあるわけじゃないですからね。特に外国関係。こんなことなら国会議員にでもなっておくんだったなァ」
壌「銀河連邦はこの街に限っていたのではないのか?! 宇宙人の立ち入りはこの天網市内に限ると決めていたのではないのか?」

モモエ、黙ってテレビを見ている。

○天網商店街
フタバとカズオ、手をつないで歩く。

カズオ「う~ん、久し振りだね」
フタバ「そうそう、久し振り。お母さん、図書館の用が早く済めばいいね」
カズオ「そうだね」
フタバ「うれしいでしょ?」
カズオ「そうだね」
フタバ「さびしかった?」
フタバ「そうだね」
フタバ「じゃあ、何でお父さんとお母さん、別々なの?」
カズオ「そうだなあ……だってお母さんはここの図書館が当分お気に入りだろうし、お父さんは種子島に仕事があるんだから……ま、仕方ないな。ちょっとの辛抱だ」

ちょっと不服そうなフタバ。

フタバ「私はさびしいもん」
カズオ「そうか……」
フタバ「まぁ、そこのところはあれで勘弁してあげましょう!」

フタバが指差す先には『こなや』。

カズオ「へえ、甘味茶屋か。渋いね」
フタバ「(気取って)最近私わたくしも、大人のつき合いをするようになったのでございます」
カズオ「何だそりゃ」

思わず吹き出すカズオ。

○天網市立図書館・保管庫
適温適湿の涼しい部屋。古文書やマイクロフィルムを保存している。
古文書のマイクロフィルムを閲覧するキョウコ。様々な筆文字のデータが展開する。

※キョウコを案内する司書は大柄でひげを生やしたあの若頭

キョウコ「これは……この辺の風土記ですね」
司書「ええ。原書もフィルムも両方健在です」
キョウコ「本当にここの図書館はスゴイですね。保存してあるフィルムの数が並じゃない。やりがいがあります」
司書「そう言っていただけると光栄です。移し替え、よろしくお願いします」
キョウコ「はい。それではディスクに焼きましょうか」

○甘味茶屋「こなや」・店内
扉に背を向けて座っているカズオ、携帯を受けている。

カズオ「うん、わかった。じゃ、『こなや』ってところで待ってるよ。うん、そう。あんみつ屋……」

そんな様子を微笑みながら見ているフタバ。くわえたストローの先にはクリームソーダ。対するカズオの前には白玉あんみつ。

カズオ「……それじゃ」

携帯を切るとテーブルに置くカズオ。

フタバ「いいよね、お父さんとお母さんって」
カズオ「何だい?ふくれっ面の次は褒め倒しかい?」
フタバ「そういうんじゃなくってさ、見ててイイんだよ、子ども的には。ほほえましいというか……」
カズオ「ははは、そうか」
フタバ「お母さん、カッコイイよね」
カズオ「そうだね」
フタバ「お母さんがデータにした古い本が授業で使われると、私も鼻が高いよ」

ここでカズオ、カメラ目線。

カズオ「ここで説明すると、私の妻は、古くなった本やマイクロフィルムを見つけ出しては、デジタルの文字データに移し替える仕事をしています」
フタバ「お父さん、誰にしゃべってるの?」
カズオ「いや、別に」

突っ込まれてもカズオ全く動ぜず。

フタバ「ったく、お兄ちゃんといい、お父さんといい、ときどき変なんだもん。困ったもんだァ」

ズズズとソーダを吸い込むフタバ。そこへ扉が開き、ソパル星人が姿を現す。

ソパル星人「おおっ、フタバちゃん!」
フタバ「あ、アロハさんのお友達!」
カズオ「?」

何気なく振り返るカズオ。

カズオ・ソパル星人「あ!」
フタバ「?」

歩み寄るソパル星人。

カズオ「いやあ、どうも」
ソパル星人「お帰りだったんですか?」
カズオ「ええ、ちょっとヒマができたもんでしてね」
フタバ「え?二人とも知り合いなの?」
カズオ「ああ。フタバこそ、この人知ってるのかい?」
フタバ「(胸を張って)飲み友達だよ!」
カズオ「ええッ?」
ソパル星人「ははは、共通の友人がいましてね、つい最近、浜辺でバーベキューをしたんですよ」
カズオ「ふーん、いいねえ」
フタバ「他の人達はどうしたの?」
ソパル星人「うん、仕事始めで忙しいんじゃないかな?ホラ、世界中で宇宙外交なんてぶちあげちゃったから色々あるんでしょ」

いたずらっぽくソパル星人、ウインク。

フタバ「ふーん、そっか。私たちも今日は始業式だしね……みんな大変なんだ」
ソパル星人「せっかくの親子水入らずなのに邪魔しちゃ悪いね。じゃ、僕はこれで……」
カズオ「いいんですよ、別に」
ソパル星人「いやいや。それじゃあね、フタバちゃん!」
フタバ「ばいばーい」

出ていくソパル星人。

○同・前
歩き去るソパル星人を物陰より見やる男二人。細身の目つきの鋭い男と大柄な男。互いにうなずき合うと店に近づく。そんな様子を振り返って見ていたソパル星人。

ソパル星人「はて?」

○同・店内
扉の方を見ていたカズオとフタバ、再び向かい合う。

フタバ「うんうん、ソーさんてば出来た人」
カズオ「悪いことしちゃったなァ」
フタバ「何言ってるの!久し振りのデートなのにダメよ、もぉ!」
カズオ「はいはい、わかりました……」
フタバ「後は、お母さんがここに来れば言うことナシだね!」

上機嫌のフタバを見て微笑むカズオ。
そこに入ってくる先程の男達。

カズオ「あちゃ~…」

細身の男、テーブルの前に近づくと、おもむろに一礼。

男A「探しましたよ、村田さん」
カズオ「どうしたんです?」
男A「……申し訳ありません」
フタバ「なに?どうしたの?」

恐怖で引きつるフタバ。

○天網市立図書館・前
中から一人出てくるキョウコ、大きく伸びをして気合い一発。

キョウコ「ん!さてと!」

商店街へ向かって歩き出すキョウコ。

キョウコ「あら?」

ちょうどカズオ達やってくる。後ろには男達がぴったりと。

フタバ「おかあさーん……」
キョウコ「どうしたの?」
カズオ「申し訳ない。アクシデントだ」
キョウコ「え?」

○村田家・玄関
扉を開けるハジメ。

ハジメ「ただいま..ッ!フタバ喜べ、ムリョウ君連れてきたぞー」

その隣にはムリョウもいる。

ムリョウ「こんにちわ」
ハジメ「あれ?」

誰の応答もなく静かなまま。

ハジメ「買い物かな?」
ムリョウ「……」

鼻をクンクンさせる二人。

ムリョウ「カレーだ」
ハジメ「…ああッ!」

ハッとなるハジメ。

○厚木基地・滑走路
戦闘機が飛び立つ。
歩きながらカズオと男、会話中。

カズオ「予定が早まったんですか?」
男A「申し訳ありません。国連の会議が一日前倒しになったんです。ですから……」
カズオ「はいはい」

その後ろを歩くキョウコとフタバ、大柄の男。不安げなフタバ。
小型ジェットに乗り込むカズオ。

カズオ「(振り返って)それじゃあ、また!」
キョウコ「あとでメールする!」
カズオ「あ、そうだ」

ハタと思い出してキョウコに駆け寄るカズオ。

キョウコ「?」
カズオ「愛をいっぱい」

キョウコを抱きしめるカズオ。

キョウコ「!」
フタバ「あー、ずるい!私も私も!」
カズオ「ははは」
カズオ、フタバを抱きしめてぐるぐる。
フタバ「あははははは!」
カズオ「それっ!」

微笑んでその様子を見ているキョウコ。
先に乗り込んだ男Aの口元も緩む。

男A「村田さん!」
カズオ「はい!行きましょう。それじゃあフタバ、ハジメによろしく」

カズオと大柄な男、機内に乗り込む。
閉じられる扉。

フタバ「お父さん!いってらっしゃ..い!」
キョウコ「いってらっしゃい」

窓から手を振るカズオ。黙礼する男A。

   *   *   *

(機内)
天を仰ぐカズオ、つぶやく。

カズオ「ハジメ…キョウコ達を頼むぞ」

小型ジェットは離陸準備へ入っている。

   *   *   *

離陸。飛び去る小型ジェット。
見送るキョウコとフタバ。
フタバ「…ところでさ、お父さんって何の仕事してるの?」
キョウコ「うーん、そうだね。ま、そのうちわかるわよ」

微笑むキョウコ。

フタバ「あーッ、ずるい!知ってるんだ!教えて教えて!」

夕空には星がちらつき始める。

○村田家・居間
カレーを食べているハジメとムリョウ。

ムリョウ「いいのかい?食べちゃって」
ハジメ「いいよいいよ……美味いでしょ、これ」
ムリョウ「うん」
ハジメ「……父さん、来てたんだな」
ムリョウ「…ハジメ君のお父さんって、どんな人?」
ハジメ「うーん、そうだな。地味でもないんだけど派手でもないし……ま、普通の商社マンなんだけどね」
ムリョウ「要するに、ハジメ君みたいな感じの人なんだね」
ハジメ「そうかなぁ……とらえ所がないというか何というか」
ムリョウ「ますます君みたいだね」

ムリョウ、クスリと笑う。

ハジメ「あー、君に言われたくないよ!大体君だって!」

○道路
国連軍のマークの入った車両。キョウコとフタバ、後部座席に座っている。

フタバ「うーん、国連軍の車で送ってもらう小学生なんて私くらいよね」
キョウコ「ふーちゃん、あんまりおしゃべりしちゃあダメよ」
フタバ「わかってるよ。ヒミツヒミツ♪」
キョウコ「で、あのー……すみません」
運転手「はい?」
キョウコ「途中でスーパーに寄って下さい。できれば『スーパーすまる』がいいんですけど……」
運転手「(微笑んで)了解」

○居酒屋「よっちゃん」
座敷には山本とウエンヌル。一升瓶を抱えた磯崎、荒れている。

磯崎「銀河連邦が何です!評議会がなんだっていうんですかッ!」
山本「あー、先生押さえて押さえて!」

カウンターではジルトーシュとソパル星人しみじみと飲んでいる。

ソパル星人「珍しく大荒れだねえ」
ジルトーシュ「ま、今日は飲ませてあげよう」
ソパル星人「……そのうちさ、君に紹介したい人間がいるんだけど」
ジルトーシュ「どこの星の人?」
ソパル星人「地球の人」
ジルトーシュ「ふーん……」
磯崎「こらっ!そこの二人!こっちに来なさい!」

○同・外
すっかり夜空。星が瞬く。

○村田家・外
帰ってきたキョウコとフタバ、玄関に立っている。

フタバ「ただいまー!」

NR「色々あった今日だけど、父のカレーは美味かった。それに尽きるような尽きないような……続きは次回」

         (第一五話・完)

☆二〇〇字詰八〇枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)