第17話『どさくさに、ゴメン』

学園戦記ムリョウ

第一七話『どさくさに、ゴメン』(第一稿)

脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機 瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)

成田次郎(ナリタ・ジロウ)
川森 篤(カワモリ・アツシ)
三上利夫(ミカミ・トシオ)

村田和夫(ムラタ・カズオ)
村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)

守山 載(モリヤマ・サイ)

磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ソパル星人
コンコル星人
ハイン星人

官房長官
男A
アナウンサー

センターの職員達
生徒達


○ニュース画面
宇宙開発センター内に臨時にあつらえられた会見スペース。大勢のプレスの前にはカズオを中心にセンター所長や政府関係者が居並ぶ。臆することのない、普段のままのカズオの語り口で進む会見。

カズオ「何しろ各国政府並びに国連との歩調を合わせての諸々の展開ですので、これ以上は語れませんし、語りません。あ、宇宙の方々との歩調も合わせないと」

記者達の中から軽い笑い。場内は和やかなムード。

カズオ「――と、いうわけで今回の会見を終わらせたいと思います……まぁ、伊藤官房長官的に言えば、『色々黙っていてスミマセン』といったところでしょうか」

再び場内には笑いが起こる。

○銀河連邦宇宙船・メディカルルーム
広々とした個室内。ベットについているのは足をギプスで固めた官房長官。
その脇には仏頂面のカズオがイスに座り、ドアの前には黒服の男が二名(一五話参照)立っている。
サイドテーブル上に置かれたモニターには、前述のニュースが映し出されている。

官房長官「上出来上出来」

官房長官、暢気に拍手。

   *   *   *

カメラはスタジオに戻り、アナウンサーが総括(夜のニュース)。

アナウンサー「民間人が政府の会見の代行をするというのは、過去にあまり例を見ない出来事ですが、驚くべきは今回のプロジェクトの中心的役割を果たしていたのは、実はこの村田氏であると――」

   *   *   *

イヤそうな顔をしてリモコンを操作するカズオ。モニターの映像、プツンと消える。

官房長官「ああっ、何するんだ」
カズオ「何するんだじゃないぞ。人を表(おもて)に引っ張り出しやがって」
官房長官「影でコソコソやる段階はもうおしまいということだよ。遅かれ早かれ君にも反銀河連邦の目が向く」
カズオ「そうなのか?」
官房長官「そうだよ」

○同・廊下
黒服の男達にはさまれて歩くカズオ。

男A「これからはあなたにもボディガードを付けさせていただきます」
カズオ「(仕方なく)はいはい」
男A「開発センターの警備も増強します。銀河連邦からも助っ人が来るそうです」
カズオ「助っ人?」

○同・ロビー
ソパル星人「カズオちゃん!」
コンコル・ハイン星人「やっほー♪」

出迎える宇宙人達。
一瞬キョトンとするもニコニコと微笑むカズオ。

カズオ「ははは」

駆け寄る宇宙人達、歩み寄るカズオ。
広々とした宇宙船のなか。

○宇宙空間
白くて大きな宇宙船の外観。
月の裏側で、カズオの乗っている船を中心に陣形を組んでいる連邦の艦隊。
船体には銀河連邦のマークが映える。

○オープニング

○村田家・外
空は晴れ晴れ。

○同・玄関
そーっと扉を開け、周囲の様子をうかがうフタバ。
フタバ「よし、今のうちだね」
キョウコ「ふーちゃん、大丈夫よ。気にしなくても」

その後ろであきれて見ているキョウコとハジメ。

フタバ「甘いよ、お母さん!マスコミっていうのはこういうときこそ、情け容赦なく家族に殺到してフラッシュを焚くのよ!」

フタバ、カメラを連写する真似をしてすっかり盛り上がっている。

フタバ「パシャッパシャッパシャッ!」
ハジメ「お前、それはいつの時代のマスコミなんだよ」
キョウコ「そうよ、そんな大昔の映画じゃないんだから」
フタバ「今だ!」

二人は眼中にはないフタバ、独り合点をすると外に飛び出す。

フタバ「とぁぁ~~~ッ! ……あれ?」

表の通りには誰もいない。静かな朝の風景。

○御統中・全景
石段を登る生徒達。
いつもと変わらない風景。

(サブタイトル『どさくさに、ゴメン』)

○同・生徒会室
予鈴前。部屋の中には瞬と那由多と晴美。那由多は編み物中。晴美はパソコンに向かって書き物をしている。一人はしゃいでいるのは瞬。

瞬「驚き桃の木山椒を少々。いやー、村田君のお父さんってエライヒトだったんだね」
那由多「さんしょ?何それ?」
瞬「お父さんだよ、村田君の」
那由多「ああ、あれね」
瞬「あっさりだなぁ。僕たち天網の民の存亡の危機だっていうのに」
那由多「あの子はあの子、お父さんはお父さんじゃない。関係ないわ」

瞬、晴美に肩をすくめてみせる。

晴美「そうね、関係ないわね」
瞬「ちぇっ」

晴美、微笑む。

○同・二年C組
クラスメート達、どこかよそよそしい雰囲気。ハジメの机の周りに集まるジロウ達(ムリョウ含)。
ジロウ「しかし、あれだな……そのぉ何だ」
ハジメ「何言ってんだよ、お前」
ジロウ・アツシ「……」

顔見合わせるジロウとアツシ。

トシオ「みんな聞きたがってるんだよ、ハッちゃんのお父さんのこと」
ジロウ「バカッ!トシオッ!」
トシオ「バカじゃないだろ。お前ら変に気イ遣いすぎ」
ハジメ「うん、そうだよなあ……父さんの仕事ってあんまり関心無かったからさ……俺も知りたいよ、今回のことは」
ムリョウ「……聞けばいいんじゃないの?」
ジロウ「はあ?」
ムリョウ「知りたいならば、お父さんに聞けばいいよ。教えてくれるんじゃないの、きっと」

呆気にとられる一同。

ひかる「ハジメくーん!」

廊下から声をかけるひかる。

ハジメ「はい?」
ひかる「ちょっとちょっと」
ハジメ「はぁ…」

扉の方へ行くハジメ。

ハジメ「何ですか?」
ひかる「昼休みに放送室来てよ。ちょっと取材をしたくてね」
ジロウ「先輩、取材はだめですよ!」
ひかる「ああ、違う違う!そっちの取材はするわけないでしょ。祭りクラブに関してのね、取材♪」
ハジメ「クラブ、ですか」
ひかる「そうそう、文化祭に向けての意気込みとね、野望とか」
ハジメ「野望?」
ひかる「そう、野望」

ニッコリと笑うひかる。

○村田家・居間
掃除中のキョウコ。
電話が鳴る。

キョウコ「はいはい……」

子機を取り上げるキョウコ。

キョウコ「はい、もしもし村田です」
カズオ(声)「こちらも村田です」
キョウコ「ああ、カズオ君!」
カズオ(声)「ははは」

○種子島・宇宙開発センター
自分のデスクから電話のカズオ。

カズオ「やあ、見たTVとか?」
キョウコ(声)「見たわよ。なぁに、気張っちゃって」
カズオ「ちぇっ、少しは驚けよ」

残念そうな口振りとは逆に、嬉しそうなカズオ。

○村田家・居間
キョウコ「なぁに?それじゃあ貴方は私を驚かせるために仕事しているわけ?」
カズオ(声)「はは、そうじゃないけどね」
キョウコ「はいはい、驚いてるわよ、充分」

笑顔の絶えないキョウコ。

○種子島・宇宙開発センター
カズオ「マスコミの方は官房長官様が何とかしてくれるみたいだけど……ご近所さんの方は大丈夫かい?」

あくまでもイタズラっぽいキョウコ。

キョウコ(声)「さあ?昨日の今日じゃわからないわねえ。場合によっちゃ、責任取ってよね♪」
カズオ「おいおい」
キョウコ(声)「フフフ」

苦笑いのカズオ。かたわらにはソパル星人がニコニコして立っている。

○御統中学・校庭
昼休み。遊んでいる生徒達。

○同・放送室前
扉に掛かる『調整中 立入禁止』の札。

○同・放送室
ハジメ「……」

少々緊張してイスに座るハジメ。
ひかる、コーヒーを運んでくる。

ひかる「ああ、楽にしてね。取材といったってそんなにスゴイものじゃないんだから」
ハジメ「はぁ」

テーブルの上にコーヒーを置くひかる。

ひかる「今度は、大丈夫!おいしいよ、ひかるちゃん特製ブレンドバージョン……いくつかなぁ……まぁ、とにかく数多くの改良を経て完成した伝説の味!」
ハジメ「出来ていきなり伝説ですか?」
ひかる「ふふん、意外と言うねぇ、君」

二人そろってカップに口を付ける。
しばしの沈黙。

ハジメ・ひかる「…不味い」

   *   *   *

テーブルの上には水差しとコップ。ひかるの傍らにはパソコンが無造作に置かれている。

ハジメ「で、何なんですか、取材って?」
ひかる「えっへん。実は、我らメディア委員会も秋の文化祭を盛り上げるべく頑張ろうかなぁ、というところなのであるが――」
ハジメ「はいはい」
ひかる「はいは一回!」
ハジメ「すみません」
ひかる「今回の目玉の一つとして、君達の活動を強力プッシュしたいと思うのです!」
ハジメ「ありがとうございます」
ひかる「ついては!君らの今後の予定とか、意気込みとかを、次回のペーパーとウェブの校内新聞にバーンと載せちゃいたいわけなんだけど……どう?」
ハジメ「こちらとしても願ってもない……あ、でも、それって生徒会長……津守先輩のお考えですか?」
ひかる「んーそれは違うよ。(胸を張って) 私は、仕事に私情を持ち込まない人なのです。今回興味があるのは、君なのです!」
ハジメ「え?何でですか?」
ひかる「だって面白いもん、君」

パソコンを見ながらニヤニヤ笑うひかる、キーを叩く。ビデオ編集用のスクリーンモニターに投影される放送室の扉前の映像。

ハジメ「あ」

モニターは必死に中の様子を聞こうとしている那由多の悪戦苦闘ぶりを映している。

○同・放送室前
廊下の天井にさりげなく、ひかる特製の監視カメラが設置されている。

那由多「……」

壁に耳を押し当てている那由多。急に扉が開き、慌てて飛び退く。

那由多「! ! !」

厳しい表情ながら、思いきりうろたえた素振りの那由多。

ひかる「(ハジメを顧みて)ほらね、君を中心にして学校は面白いことだらけ。(那由多に向かって)しょうがないなぁ、入りなよ。ウロウロされたんじゃ余計に目立つからね」
ハジメ「プッ」

思わず吹き出すハジメ。赤面する那由多、ムッとした口調で。

那由多「……入ります」

○同・放送室
ハジメの隣に座り、うつむいてブツブツと弁解モードの那由多。

那由多「いや、私は、村田君が放送室に入った、という情報を得たので、その、またみなさんが悪巧みをですねえ……」
ひかる「悪巧み!いいねえ、悪巧み!」

一人ウケるひかる。

ハジメ「取材を受けてたんだよ、文化祭の」
那由多「文化祭?あ、そうだ!あんたたち、参加届けは受理したけど出し物は決まってるの?そろそろ出してくれないと困るんですけど」
ハジメ「あ、そうか」
ひかる「ちょうどイイじゃない。ここで祭りクラブの出し物を発表しちゃえば」
ハジメ「えー、参ったなぁ」
那由多「何?あたしがいると話せないの?」
ハジメ「いや、そういうわけじゃなくてね。まだ取材中なんだよ。漠然と祭りと言っても天網市の祭りにも色々種類やら段取りがあるみたいだから……」

唖然とする那由多、意外そうな表情。

那由多「あんたたち、『御輿下ろし(みこしおろし)』をやるんじゃないの?」
ハジメ「え、何それ?」
那由多「だって八葉さんに頼まれたんでしょ? クラブ活動……八葉さんが裏で糸引いてるんだったら、てっきり御輿下ろしだと……」
ハジメ「御輿下ろし?聞いたような気がするけど、僕らは単純に『お祭りやろうよ』って誘われただけで――」
那由多「ええっ?! 」

   *   *   *

(回想)
八話の悪巧みの再現。ハジメとムリョウに熱く語る八葉。

八葉「今じゃ、昔からの住民よりも、君達みたいに他の街から引っ越してきた人の方が多くなっちゃったからね。人口が多くなっても人手が足りない」
ムリョウ「そこで学校の生徒から巻き込もうっていうことですか?」
八葉「そう!いいよぉお祭りは!やろう、みんなで!お祭りやろう!」
ハジメ「へぇ、いいですね!」

   *   *   *

ハジメ「そうか、今まで君がいちゃもんつけてたのは、僕たちが八葉さんに操られてたと思ってたんだ。ヒドイなぁ」
那由多「う……」

声をこわらばせてうつむく那由多。

ひかる「おやおや、副会長、とんだ勘違いで逆恨みな感じ?」
那由多「……ムッ!」

急に顔を起こす那由多、ハジメを睨む。

ハジメ「な、何だよ」
那由多「わかった、わかりました!それならば今までの行き違いはみんなチャラにしてあげます!ですから!神主の娘として!巫女舞いの継承者として!あんた達の取材がどれだけちゃんとしているか私がチェックします!」
ハジメ「え、ほんと?ラッキー!」
那由多「今日の放課後、ウチに集合!」
ハジメ「ウチって?天網神社かい?」
那由多「逃げないでよ!」

出ていく那由多。後に残されたハジメとひかる、しばし見送る。
ハジメ「……何なんだよ一体?」

ひかる「どさくさにまぎれて謝るなんて、那由多ちゃんらしいなァ」
ハジメ「謝る?何をです?」
ひかる「祭りクラブが参加申請出したときに那由多ちゃん、君に色々いちゃもんつけてたでしょ。そのおわびじゃないの?」
ハジメ「そうかなァ」

○同・廊下
那由多、立ち話中の京一と晴美の前を行き過ぎる。見送る二人。

京一「那由多の奴、どうしたんだ?」
晴美「嬉しそうでしたね」

   *   *   *

那由多「♪」

晴れやかな顔で歩く、那由多。

○アイキャッチ

○天網市・北町方面
防波堤近くの街並み。急ぎ足の磯崎が行く。

○かもめハウス・外
午後。軒先に天日干しのヒマワリ。
かもめが揺れる。玄関先に磯崎。

磯崎「磯崎です」
ジルトーシュ(声)「はいはーい」

○同・和室
襖を開ける磯崎。

磯崎「!」
八畳間にはジルトーシュ、ウエンヌル、ソパル星人、ウエンヌルが座っている。
そして、壁に立てかけられた機能停止したゲーム2(一六話Bパート参照)。

ソパル星人「コレが君に見せたいと言っていた例のモノ……デコイア星の流体金属ロボットだよ」
磯崎「デコイア星?」
ジルトーシュ「銀河連邦とは異なる惑星連合体に所属する星さ。君ら的には反銀河連邦と呼称する一連だね」
磯崎「(ハッとなり)ジルトーシュ!」
ジルトーシュ「そう、昨日セツナが持ってきたガラクタもコレと同じ。デコイア星のロボットさ」
磯崎「やっぱり知ってたのね……」
ジルトーシュ「まぁね。それよりも君は、ソーさんの話を聞きたいんだろ?」

ソパル星人に向き直る磯崎。

磯崎「今回の一連の地球の宇宙外交騒ぎ、あなたが関わっていたんですね」
ソパル星人「(あっさり)うん、そうだよ」
磯崎「?! ……どういうおつもりですか?一介の外交官にそこまでの権限は無いはずですが?」

二人のやり取りをニヤニヤと見ているジルトーシュ。ウエンヌルは茶を煎れるのに余念がない。

ソパル星人「もちろんこれは、上の方から私に託された任務だよ」
磯崎「上の方?」
ソパル星人「そう、君の所属する安全保障委員会よりも更に上の方。疑うんなら確認してもらってもいいよ」
磯崎「地球を……連邦に加盟させるの?」
ソパル星人「取りあえず、反連邦からシングウのチカラを守るためには地球と協力しないとね」
磯崎「今でも協力してもらっています。山本先生や真守の人達……」
ソパル星人「彼らは例外。厳密な意味では地球の人ではないよ。……もう真守さん達だけにシングウのチカラを任せるのは可哀相じゃない。現にこのロボット!ついに銀河連邦以外の連中も来るようになっちゃったようだしね」
磯崎「……」

黙りこくる磯崎。ジルトーシュ、わざとらしく手を叩いて浮かれ顔。

ジルトーシュ「はいはい、ここは愉快な『かもめハウス』なんだからね、辛気くさい話はもうおしまい!」

ウエンヌル、すっくと立ち上がる。

ウエンヌル「地球ではこのようなとき、場を和ますために、浮かれたことをするそうです。それでは――」
ジルトーシュ「よっよっ」

深呼吸をするウエンヌル。

“騙しきれると思ったかい?こいつぁとんだ間抜け共だ!おいらかい、おいらぁ、はやぶさだよォ!”

ジルトーシュ「そう来たか…」

一人感心するジルトーシュ。

○村田家・居間
電話の呼び出し音。ストレッチをやっていたキョウコ、子機を取る。

キョウコ「はい、村田です」
ハジメ(声)「こちらも村田です」
キョウコ「プッ」

思わず吹き出すキョウコ。

ハジメ(声)「どうしたの?」
キョウコ「いや、ごめんなさいね。さっきお父さんから電話があったから……」
ハジメ(声)「父さん?」

○御統中・ポーチ
下校風景。ハジメ、父の携帯を使って通話中。その後ろで待っているムリョウ、ジロウ、アツシにトシオ。

キョウコ(声)「ハジメの奴、俺の携帯使ってるか、って言ってたわよ」
ハジメ「(呆れて)昨日の今日じゃない。ま、早速使わせてもらってるけど――」
キョウコ(声)「どう?使い心地は」
ハジメ「どう?って電話だよ、普通の。それはそれとして、これから守山さんの家に寄ってくから」
キョウコ(声)「守山?ああ、那由多ちゃんね。(声色変えて)ヤルナ、お主」
ハジメ「はは、じゃあ」

電話を切るハジメ、振り返る。
大げさに手を振り上げるジロウ。

ジロウ「よーし、出発!」

○天網神社
拝殿へと続く石畳から少し離れたところにある那由多の家。

○守山家・外
玄関前にたたずむ一同。

ハジメ「ごめんくださーい」

   *   *   *

載「那由多は、まだ帰っていませんが」
ハジメ「僕たち、守山君にここに来るようにって言われたんですけど」
載「村田君、だったね。祭りのクラブを作ったとか聞きましたが」
ハジメ「ええ。それで守山君が僕らのクラブの活動ぶりをチェックするって言ってたんですけど……」
那由多「ああ、ごめんなさい!」

帰って来た那由多、後ろから声をかける。両手に買い物袋を下げている。一方は野菜や肉の入った袋、もう片方はジュースや菓子が入った袋。

載「おお、那由多」
ハジメ「守山君……」
那由多「いろいろ買い込んでたらちょっと手間取っちゃって。それじゃあこれッ!」

袋を一つハジメに押しつける那由多。

ハジメ「な、何だよ」

那由多「ジュースとお菓子とコップと紙皿! 社務所の方に行って、準備して!」
ハジメ「え?え?」

キョトンとする一同を尻目にさっさと靴を脱いで家に上がる那由多。

那由多「お父さん、みんなを案内してあげて! 私は、台所へ行きます」
載「あ、ああ……」

キョトンと那由多を見送る一同。

○御統中・生徒会室
一同にひかるが昼休みの件の報告中。
壁新聞を作っている晴美に京一、瞬。八葉は机に座って作業中。

八葉「那由多が村田君に“祭り講座”?」
ひかる「そうよォ。祭りクラブの活動ぶりをチェックするとかいってね」
八葉「どこで?」
ひかる「神社。というより那由多ちゃん家みたいだけど..」
八葉「へえ、どういう風の吹き回しだか。それにしても俺も呼んでくれればいいのに、ヒドイなァ」
ひかる「君は生徒会があるでしょ」
八葉「那由多だってあるだろうが」

無反応で新聞作りを続ける京一。

瞬「あれ、今日はカッカしてませんね?」
京一「どうしてだ?祭りの講座に何故俺が怒る理由がある?」

肩をすくめて晴美を見る瞬、苦笑い。

晴美「フフ…」
八葉「(瞬に)当てが外れたか?ハハ……」

八葉の脳裏に響く鈴の音。

八葉「!」

瞬と京一も鈴の音を聞く。

京一・瞬「!! 」
ひかる「ど、どうしたの?」
晴美「……」

○天網市・点景
各所の御幣が微かに揺れる。気にも留めずに行き来する人々。

○守山家・廊下
立ち尽くす那由多。

那由多「……」
載「那由多!」

向こうから載がやって来る。

那由多「お父さん、これお願い!」

持っていたトレイを載に押しつける那由多、駆け出す。

那由多「あ、ああ」

トレイにはティーカップが沢山。落とさないようにと奮闘の載。

○同・社務所
玄関脇の大広間。ハジメ達菓子を広げて雑談中。窓から表を一目散に駆けていく那由多が見える。

ハジメ「あれ?」
ジロウ「守山じゃねえか?」

載が紅茶を持ってやって来る。

ハジメ「おじさん、どうしたんですか、守山さん?」
載「あ、ああ何か醤油を切らせたとか言ってたなァ、ハハハ」
ジロウ「醤油?」

不意にハジメの携帯、呼び出し音。

ハジメ「?」

廊下に出ながらズボンのポケットから携帯を取り出すハジメ。ディスプレイ表示に銀河連邦のマークが浮かび上がる。後ろからのぞき込む載。

載「?! 」
ハジメ「あ!」

空中に出現する沢山のウィンドウ。
銀河連邦のものと同様な表示パターンで“敵”の出現を告げる。

ナビゲーション「巨大機動兵器……転送ヨソウチ……種子島フキン、海上……」
ハジメ「うわわっ」

ウィンドウを“押さえて”あわてて駆け出すハジメ。

ジロウ「どうした、ハジメー?」

ひょっこり首をのぞかせるジロウ。

ハジメ「トイレ!」
載「村田君、突き当たりを右だ!」
ハジメ「ありがとうございまーす!」

あわてふためいて駆けていくハジメ。

ジロウ「何だ、トイレか」

座り直して菓子をパクつくジロウ。

ムリョウ「(ポツリと)久し振りの出撃か」
アツシ「え?」
ムリョウ「フフ…」

ニッコリ笑って答えないムリョウ。

○宇宙開発センター・外
鳴り響く警戒音。センターの各所には装甲シャッターが降りる。
沖合の海上には空間の歪みが大きく。

○同・内
避難する一般所員。
カズオとコンコル星人、ハイン星は暢気にメインモニターを眺めている。

カズオ「ところで……何で宇宙人はいつも単体で攻めてくるんだい?」
コンコル星人「侵略じゃなくて、調査だからさ。その方が後で揉めたとき、色々申し開きが立つでしょう?」
カズオ「なるほど」
ハイン星人「あとはね……ま、その程度の戦力で落とせるかなぁと」
カズオ「余裕だなァ…じゃあ、宇宙人の皆さんにその余裕があるうちに事を済まさないとまずいねえ……」
コンコル星人「そうそう。こんな星、吹っ飛んじゃうよ」

モニターには、空中より出現する巨大なハサミ(以降ゲーム3と呼称)。

○同・外
宇宙港部分の降着ポートに転送してくるソパル星人、磯崎、ジルトーシュ、ウエンヌル。

ソパル星人「おお、丁度良かった。両者、揃い踏みって感じだよ!」
ウエンヌル「両者?」
ジルトーシュ「前をごらん!」

センターの前に、立ちはだかるようにシングウが出現、ゲーム・3と向かい合う。

○御統中・屋上(三本柱)
向かい合う八葉、京一、瞬。瞳を閉じたまま思念で会話。

京一(声)「那由多、チカラを送る!」
八葉(声)「先手必勝、一撃で倒せ」
瞬(声)「祭り講座、祭り講座♪」

○宇宙開発センター・沖合
シングウの目が輝き、うなり声。

シングウ「ウオオオオオ…」

○守山家・トイレ
携帯から投影される情報ウィンドウ。対峙するシングウとゲーム3のデータと周囲の地形や気象などが表示されている。便器にまたがりながらかぶりつくハジメ。

ハジメ「種子島?守山さん?」

シングウのパワーゲージが上昇する。

○御統中・屋上
三本柱。八葉達の体がぼおっと輝く。
八葉(声)「!」
瞬(声)「!」
京一(声)「!!」

   *   *   *
気張る三人をよそに、ひかると晴美、景色を見ている。

○宇宙開発センター・沖合
シングウの目さらに輝く。

シングウ「ウオオオオオ……」

ゲーム3、変形。巨大な“グー”になってシングウに飛びかかる。シングウ、前進してこれをキャッチ。

シングウ「ウオオオオオ……」

シングウ両腕からフィールド、ゲーム3を押しつぶそうとするが“チョキ” に変形してこれを逃れる。すかさずグーパンチ。離れていても衝撃がゲーム3 を襲う。ひしゃげるゲーム3。

シングウ「ウオオオオオ……」

シングウ再び離れたところからのパンチ。対するゲーム3は“パー”に変形、これを防御。再び“グー”に変形して殺到しようとするゲーム3。

シングウ「ウオオオオオ……」

両腕が白く輝くシングウ、突っ張り。ゲーム3、フィールドに包まれる。分解が始まる。

シングウ「ウオオオオオ……」

両腕をパンと叩くシングウ。
消滅するゲーム3。

○同・内
モニターを見ているカズオ達。

カズオ「おお、やった!」

○守山家・トイレ
情報ウィンドウに『敵消滅』の表示。

ハジメ「やった!」

○宇宙開発センター・沖合
シングウ「ウオオオオオ……」

花吹雪。消えていくシングウ。

○同・内
カズオ「あれがシングウか……」

そこへやって来るソパル星人達。

ソパル星人「やあ、みんな!」
コンコル星人「そっちこそ、みんな!」
ジルトーシュ「やあ!」
ウエンヌル「どうも」
カズオ「この人達も銀河連邦の人かい?」
ソパル星人「そうさ。で、こちらが——」
磯崎「磯崎です」
ジルトーシュ「ジルトーシュです!」
ウエンヌル「ウエンヌルです」
カズオ「村田和夫です」

○守山家・トイレ
出てくるハジメ。

ハジメ「ふう……」

あらためて携帯を見やるハジメ。

ムリョウ「いいものもらったね」

目の前に立っていたムリョウ。

ハジメ「あ、ムリョウ君」
ムリョウ「それは銀河連邦の通信機だよ。君のお父さん、結構太っ腹だね」

入れ替わりにトイレに入るムリョウ。

ハジメ「?」
ジロウ「おーい、ハジメーッ!」

向こうからジロウの声。

ハジメ「はーい!」

○天網神社・境内
出現する那由多。少々息が荒い。しかし、ぐっと上体起こして気合い。

那由多「よおっしゃーっ、行くぞッ!! 」

○守山家・社務所
夕方。いきなりテンションが高い那由多。ホワイトボードを背に熱弁。

那由多「違うの!祭りにはちゃんと順番があって意味があるの!適当じゃない!」

ゲンナリして聞くハジメ達。

那由多「いいですか!まずは祭りの始まる一週間前から!準備も祭り!」

NR「かくして、妙にハイテンションの守山さんの講義を、僕たちは三時間ほど聞かされた。彼女なりの誠意の現れらしいけど、これはこれで厳しい試練なわけで——」

○某山中
ひた走る謎の男達(シャンクゥー星人とその一派)。
NR「——続きは次回」

         (第一七話・完)

☆二〇〇字詰七八枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)