『拝啓、彼方さま』

『モーレツ♡宇宙海賊』
ドラマ『拝啓、彼方さま』(第一稿)
       (14/09/05)脚本・佐藤竜雄

登場人物

加藤茉莉香
チアキ・クリハラ
グリューエル・セレニティ
グリュンヒルデ・セレニティ
原田真希
ウルスラ・アブラモフ

無限彼方


○白凰女学院・廊下
廊下を歩く茉莉香。

茉莉香「いやー、始業式も入学式も終わったし。これからいよいよ本格的に新入部員の勧誘をしないとねーっという感じなんだけど、なかなか上手くいかなくてねーって…」

○同・ヨット部部室
入ってくる茉莉香。

茉莉香「ういーん(扉開く音)。あれ、みんな何やってるの?」
グリューエル「部室に、茉莉香さん宛に手紙が届いていたのです」
茉莉香「え、手紙?どうしてヨット部に?」
グリューエル「『ヨット部、茉莉香さんへ』としか書いてないので随分たらい回しにされたようです」
茉莉香「へー、豪快だね。というかそれでも何とか届いちゃうもんなんだ。すごいね」
ウルスラ「消印が沢山沢山押されててさァ。一体どこから来たのかなーって」
ハラマキ「日付をさかのぼると銀河郵便船『への七号』ってハンコが一番最初」
茉莉香「郵便船?へ?」
グリューエル「銀河郵便船…通信では送れないものを切手一枚で運んでくれる船ですわ」
茉莉香「ふーん。で、誰から?差出人、書いてあるんでしょう?」
ハラマキ「それが無いのよ」
茉莉香「ええっ、謎の手紙?危ないなあ」
グリューエル「取りあえず王族に伝わる技術を使って中身を調べてみましたが、あやしいものは入っていないようです」
茉莉香「王族に伝わる技術?はは、何でも伝わってるんだね、セレニティってとこは」
グリューエル「何はともあれ、茉莉香さんにお見せして心当たりを聞こうと──」
茉莉香「──あれ、そういやグリュンヒルデは?」
グリュンヒルデ「──おりますわ」
茉莉香「うわっ、びっくりしたぁ!どうしたの、そんな隅っこで?」
グリューエル「どきどきしているのです」
茉莉香「どきどき?」
グリュンヒルデ「お姉様?!」
グリューエル「王族に伝わる技術で手紙の中身を調べたところ、差出人は無限彼方──」
茉莉香「へー、彼方君!」
グリューエル「本当は手紙の文面も読む事が出来たのですが、ヒルデが『茉莉香さんが来るまで待ちましょう』と」
ヒルデ「人の手紙を無断で読むなんてあり得ませんわ。ねえ、茉莉香さん!」
茉莉香「え、まあ、そりゃそうだけど…ハラマキ達だね、そんな事焚きつけたのは?」
ハラマキ「いやー、私達はヒルデの気持ちを思って提案したんだけどねー」
ウルスラ「うん、先輩としての浅ましさ?」
ハラマキ「優しさ優しさ──」
茉莉香「はは…で、ヒルデの気持ちってなあに?」
グリューエル「彼方さんのその後を一番心配していたのはヒルデですから」
グリュンヒルデ「お姉様!」
ハラマキ「そうそう、彼方君が姿を消してからため息ついたり──」
ウルスラ「物憂げな顔なんかしちゃって…」
グリュンヒルデ「み、皆さままで!」
茉莉香「そっかー、だったらもう開けちゃおう。ビリッ」
グリュンヒルデ「まあっ!」
グリューエル「ペーパーナイフを使わないでいきなり破るなんて…さすが茉莉香さん、ワイルドですわ」
ハラマキ「無精なだけだよ」
茉莉香「さあ、これが手紙の中身。ヒルデ、読んで読んで」
グリュンヒルデ「わ、わたくしが?!」
茉莉香「だって心配だったんでしょ。読んでいいよ」
グリュンヒルデ「茉莉香さんを差し置いてわたくしが…読めませんわ」
茉莉香「じゃあ、声に出して読めばいいよ」
グリュンヒルデ「ええっ?!」
グリューエル「これまでの思いを手紙に託し、朗々と読み上げる──素敵ですわ」
グリュンヒルデ「お姉様!」
ハラマキ「まあまあ、何はともあれ」
ウルスラ「私達も彼方君の事知りたいよ。ヒルデ聞かせて〜」
グリュンヒルデ「……」
ためらうグリュンヒルデ、しかし決意。
グリュンヒルデ「ばさっ、ばさばさっ」
ウルスラ「えっ、鳥?」
ハラマキ「はばたき?」
グリュンヒルデ「便せんを開いているのです」
ウルスラ「ああ、そうなんだ。ごめん、こういう企画慣れてなくて」
ハラマキ「うちら、初参加だからね」
茉莉香「さあ、読んで」
グリューエル「(促す)ヒルデ?」

再び決意したグリュンヒルデ。

グリュンヒルデ「……茉莉香さん、お元気ですか。僕は今、父さんの友達と一緒に、亜空間サルベージの手伝いをしています」

思い入れいっぱいに読むヒルデ。いきなり彼方の声へと変る。

彼方「客船で茉莉香さんに出会ってからの数日間は今でもはっきりと覚えています。亜空間や弁天丸での経験も、そしてほんの少しでしたが、ヨット部の皆さんと謎解きをした時間はとても楽しかったです。あんなに大勢の人達とわいわいしながら一つの事を突き詰めていくなんてこと、初めてでした」

再び声はヒルデの声に。

グリュンヒルデ「皆さんによろしくお伝え下さい。また手紙書きます。それでは!──無限彼方」

しばし静寂。とまどうヒルデ。

グリュンヒルデ「ええと…どうなさいましたか、皆さん?」
ハラマキ「ブラボー!」
グリュンヒルデ「え?」

茉莉香達から拍手の嵐(三人だけど)。

ウルスラ「ブラボーブラボー!」
ハラマキ「めっちゃええ手紙や〜」
茉莉香「よかったよ〜、ヒルデ〜」
茉莉香とハラマキ、ウルスラの三人、感極まって泣き出す。何だかわからずテンパるヒルデ。
グリュンヒルデ「ま、茉莉香さん、何を涙ぐんでいるのですか?ハラマキさん、ウルスラさんまでっ?!」
茉莉香達「うううう…」
チアキ「ういーん(扉開く音)。うわああーーーん!」

全員泣きながらの会話。

茉莉香「あっ、チアキちゃーーーん!」
チアキ「ちゃんじゃ…ない…」
ハラマキ「チアキちゃんだ〜」
ウルスラ「チアキちゃーーん!」
チアキ「ちゃんじゃない、ちゃんじゃ…チャンジャーは鱈のはらわたーっ!うっうっうっ…」
グリュンヒルデ「……」

何が何だかわからないヒルデ、困惑するのみ。涙、涙の一同。

   ×   ×   ×

一転カラッと茉莉香。

茉莉香「いやー、あのまま泣いてたら私達干からびてたね」

茶をすすってハラマキ一言。

ハラマキ「ズズズ…あー、お茶が美味しい」
ウルスラ「泣いたら何だかスキッとしちゃったよ。ありがとう、ヒルデ〜」
グリュンヒルデ「結局、一体何だったのですか?いいかげん教えて下さい」
グリューエル「まだわかりませんか?皆さん、ヒルデの朗読に感動したのです」
グリュンヒルデ「ええっ?」
ハラマキ「せつなさに燃えたよ」
ウルスラ「燃えたねー」
グリュンヒルデ「せつなさ?」
茉莉香「心がこもってるっていうかさ、何か目の前に彼方君がいるみたいに聞こえた」
チアキ「私も部室の前に立った時、彼方君の声が聞こえてきたんでびっくりしたの」
茉莉香「え。じゃあ、チアキちゃんはヒルデの声が聞こえただけで泣いちゃったの?」
チアキ「ハラマキも言ってたでしょ。何かこう、胸がね…キュンとしたのよ」
ウルスラ「うんうん、わかるわかる」
グリュンヒルデ「私にはわかりませんわ」
茉莉香「もう一度読んで、彼方君の手紙」
グリュンヒルデ「え?」
茉莉香「聞かせて。ヒルデの声──」
ハラマキ「聞かせて聞かせて!」
ウルスラ「聞かせて!」
グリュンヒルデ「……そこまでおっしゃるのなら──」

おもむろに再び手紙を読み出すヒルデ。

グリュンヒルデ「「……茉莉香さん、お元気ですか。僕は今、父さんの友達と一緒に──」
彼方「──亜空間サルベージの手伝いをしています」
茉莉香、チアキ、ハラマキ、ウルスラ「(号泣)うわああ〜〜〜!」
グリュンヒルデ「もうお泣きになられて…」
彼方「まだ最初の方しか読んでおりませんのに──」
茉莉香、チアキ、ハラマキ、ウルスラ「(号泣)うわああ〜〜〜!」
チアキ「ええ話や。ほんと、ええ話や!」
グリュンヒルデ「ちょっと皆さん?!」
彼方「私をからかっているんですよね?そうなんでしょう?」
ハラマキ「すごい、すごいよヒルデ──」
ウルスラ「もう手紙とか関係ないよ。ヒルデが彼方君だよ!」
彼方「皆さん、ひどいですわ!ダッシュ!ういーん」
グリュンヒルデ「ひどいですわー!廊下をダッシュ!ういーん」
ウルスラ「ああっ、ヒルデが彼方君の声で部室を出たら、ヒルデの声で廊下を走って行っちゃったよ!ヒルデが彼方君で彼方君がヒルデで…もうわけわからないよー!」
グリューエル「おそらく、この騒ぎをはたで聞いている方がいらっしゃっても同じ事をおっしゃるでしょうね」
茉莉香「開いた部室の扉はしまったから、一応つじつまは合ってるよ」
チアキ「そういう問題じゃない」

   ×   ×   ×

○同・中庭
噴水。ベンチに座って一人でいるグリュンヒルデ。

グリュンヒルデ「皆さん、ひどいですわ。私の声が彼方さんに聞こえるだなんて。いたいけな少女をからかうだなんて何て悪趣味なんでしょう。でも──」

噴水ひときわ高く。

グリュンヒルデ「──でも、もしそんな風に聞こえるのなら、私だって聞いてみたい」

彼方の物真似でヒルデ

グリュンヒルデ「──やあ、僕、無限彼方……ダメじゃん」

○同・ヨット部部室
茉莉香「彼方君の声に聞こえる、っていうのは言い過ぎかもしれないけど、ヒルデが彼方君の事をすごく大切に思っているっていうのはよくわかったよね」
グリューエル「自分と同じように決められた道を歩かされて、ましてやそのプレッシャーに潰れようとしている年下の少年…最初は好奇心だったかもしれませんけど、あの一連の事件でヒルデもあらためて自分が進むべき道について考えたのではないでしょうか」
茉莉香「なにより彼方君、いい子だもんね」
グリューエル「おまけにライバルは強敵」
茉莉香「ライバル?」
グリューエル、クスッと笑って。
グリューエル「何でもありません」
茉莉香「?」
チアキ「近くて遠い、遠くてもっと遠い──距離が縮まらない関係もあるのよ」
ハラマキ「おお、チアキちゃん何かすごい事言ってるよ!」
チアキ「友達なのか、思い人なのか、恋人なのか、それとも赤の他人なのか──」
ウルスラ「チアキちゃんが熱いよ!」
チアキ「人がもの思うってのはね、あくまでも自分だけの思いなの。相手に伝えて初めて思いは成就するって言う人もいるけどね、自分の思いを大事に育てる時期というのも必要だと思う。そう!それは臆病だと人に言われても!」
茉莉香「チアキちゃん、誰かとケンカした?」
チアキ「どきっ?!」
ハラマキ「臆病者と人に言われ?恋人?」
ウルスラ「ほほぉーーっ?」
チアキ「違うわよ。確かにケンカはしたけど…親父とよ。進路問題でちょっとね」
茉莉香「へえー、ケンジョーさん、立派だねー。うちなんかそんな話全く出ないよ」
チアキ「当たり前でしょ。あんた、もう弁天丸の船長やる事決めてるんだから」
グリューエル「そういえば今日はどのような向きでこちらにいらしたんですか?」
ウルスラ「また転校?」
ハラマキ「ついに観念したか──」
チアキ「違うわよ。頼まれものを届けに来たのよ」
茉莉香「頼まれもの?」
チアキ「回り回ってウチに来たの。おたくなら話が早いんじゃないかって」
茉莉香「えーと、何々?あ、手紙だ」
グリューエル「しかも宛名の字が一緒ですわね。ヨット部、ヒルデさまへ」
茉莉香「一通にまとめて書いて出せばよかったのにねー」
チアキ「場所を移動して出したみたいね。こっちはちゃんと連絡先が書いてある」
茉莉香「落ち着き先が出来たのかな。んーと、スカーレット・サイファー方…サイファーさんって人の家にいるんだ。ふーむ、彼方君がヒルデにどんな手紙を書いたのか気になるね」
ハラマキ、ウルスラ「うんうん」

そこに戻ってくるヒルデ。

グリュンヒルデ「ういーん」
ウルスラ「あ、ヒルデお帰り」
グリュンヒルデ「皆さま、私決めました。彼方さんに手紙を出そうと思うのです。でも、宛先を何処にしていいのかわからなくて…ヨット部と海賊とセレニティの力を使って何とかならないでしょうか?」
茉莉香「そんな力、使わなくても大丈夫だよ」
グリュンヒルデ「え?」
茉莉香「まあ取りあえず、ちょっとこれ読んでみてよ!」

   ×   ×   ×

彼方「……グリュンヒルデさん、お元気ですか。僕は今、父さんの友達の家に厄介になってます──」

               (おわり)

初出:劇場版「モーレツ宇宙海賊 ABYSS OF HYPERSPACE -亜空の深淵-」Blu-ray初回生産限定盤(品番:KIXA-90466)
(c)2013 笹本祐一/朝日新聞出版・劇場版モーレツ宇宙海賊製作委員会

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)