第8話『ささやかな、うたげ』

学園戦記ムリョウ

第八話『ささやかな、うたげ』(第一稿)

脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
成田ジロウ(ナリタ・ジロウ)
川森アツシ(カワモリ・アツシ)
三上トシオ(ミカミ・トシオ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)

村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)

真守モモエ(サネモリ・モモエ)
津守十全(ツモリ・ジュウゼン)
守山載(モリヤマ・サイ)
守口壌(モリグチ・ジョウ)
守機漠(モリハタ・バク)

山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル

生徒達
テープの声

○御統中・全景
放課後。曇り空。
グラウンドには運動部員。

○同・小会議室
『生徒会役員定例会議』
テーブルを囲む京一、晴美、那由多、
瞬。八葉は皆の前で歌っている。

セイサー、ウントコヨートヨイトォ
セイサー、ウントコヨートヨイト
ハァー、春に花咲くマモリヤマ
秋に紅葉のそのなかでェー
今日はどなたもご苦労さまよォ
御輿担いでセイサァーセイ
トオドヤシングウそのチカラ

気持ちよさそうに歌う八葉。
しかし、京一と那由多は一様に硬い表情。瞬はニコニコ、晴美は相変わらず。

励めや励めオツトメ励め
担ぎ担がれセイサァーセイ
子供生まれて栄え
チカラ宿りてシングウのォ
オツトメ励んで日が暮れるゥ
ハアー、トウドヤトウドシングウノォ
チカラミナギルセイサァーセイ

八葉「——ってまぁこの辺で」
瞬「やんややんや」

瞬の拍手がうつろに響く室内。

八葉「どうだい、いいだろう?自然の美しさと人の営みを短い言葉で歌い上げてるさり気なさ。ちなみにこの御輿歌は三番まであるんだけど……」
那由多「(至って事務的に)で、会長、要するに何をおっしゃりたいのでしょうか?」
八葉「決まってるじゃないか、今年の文化祭は町の祭りと連動して“御輿下ろし”を復活させるんだよ」
京一「八葉…」
八葉「そろそろやらなきゃ。跡を継ぐ人間がいるだろう?」
那由多「それはそれとして。でも連動、とは、何をどうするおつもりなのでしょう?」
八葉「祭り部を作るんだよ。祭りクラブ、でもいいな。とりあえず臨時、ということで期末テスト後に申請しようかと思うんだけど……」
那由多「反対です!」
八葉「ええっ?」

突如立ち上がる那由多、すごい剣幕で
まくし立てる。

那由多「絶対反対断固反対!ダメダメダメの、ぜーったいダメっ!! 」

一同、気圧されてただ、唖然。

那由多「ダメったら、ダメ!! 」

○オープニング

○御統中学・裏門前
梅雨。傘の花咲く登校風景。

(サブタイトル『ささやかな、うたげ』)

○同・放送室前
扉に掛かる『調整中 立入禁止』の札。

○同・放送室
調整室側には中央にミキシング用のパネルが鎮座。それ以外は現代に比べると機器の数は少なく、こぢんまりとしている。向かい合って座る八葉とムリョウ、ハジメ。扉が開いたままのブースの中では広報委員の稲垣ひかるがコーヒーを作っている。

八葉「すまないね、わざわざ来てもらって」
ムリョウ「いえ」

ハジメ「でも、あと10分で一時間目始まっちゃいますよ。いいんですか?」

八葉「ああ、そんなに長い話じゃないから。それに、君らの担任……山本先生だったら今日はちょっと遅れて来られると思うから。僕らの担任も恐らくね」
ハジメ「三年A組ですよね。えーと……」
ひかる「磯崎先生よ、体育の」

ひかる、トレイにカップをのせてやって来る。

ひかる「ちょおっと濃いかも」
ハジメ「あ、すみません」
ひかる「へへへ、まずかったらゴメン♪」

テーブルにトレイを置くと再びブースへ入っていくひかる。

ムリョウ「(カップを口に運びながら)で、何なんですか?」
八葉「うん。じゃあ単刀直入に言おう」

緊張の面持ちの八葉。
つられて緊張するハジメ。
横で顔をしかめるムリョウ。

ムリョウ「まずい…」

○真守家・外
雨に濡れる日本庭園。

○同・大広間
上座にはモモエと十全、載、壌、漠。
下座には山本と磯崎、それにヴェルン星人ジルトーシュとザイグル星人ウエンヌル少尉。(宇宙人二人はアロハ姿)

モモエ「しかし、困りましたね」
ジルトーシュ「ええ、困りました」

○ハイツ・ブルーハワイ跡
焼け落ちたブルーハワイ。
立入禁止の札が掛かっている。

○真守家・大広間
漠「まあ、代わりの住まいは不動産屋に紹介させますが、今日明日は無理ですねぇ」
ジルトーシュ「僕は別にいいんですよ、磯崎先生のお住まいに昨日の晩のように厄介になれるなら……」

大きく咳払いをする山本。

山本「あんたがよくても世間の評判というものがある!女性教師の家に男が二人居候というのが生徒に知れたら……」
磯崎「(淡々と)私は別に構いませんが」
山本「磯崎先生?」
磯崎「私の使命は太陽系方面の治安を守ることです。当面は彼らを保護し、ザイグル星に対しては銀河連邦の名の下に然るべきペナルティを…」
ジルトーシュ「ペナルティ?」
磯崎「彼ら……ザイグル星人は地球に対して明らかな侵略行為を働いています。銀河連邦に加わる星は、決して未加入の星には干渉してはいけない」
ジルトーシュ「でもさ、当のザイグル星の人は自分たちが銀河連邦に所属してることを知らないのが大半なんだよ」
磯崎「それはザイグル星の政治家達がそう仕組んだだけのこと。自業自得でしょう」
モモエ「まぁ、宇宙の政治談義はそのうち機会を設けますのでその時に……とりあえず、お二人はこの家にしばらくいる方がよろしいかと思いますがいかがでしょうか?」
十全「わしもそう思う」
載「私も賛成です」
壌「賛成」
漠「(仏頂面で)同じく」
モモエ「そして、ウエンヌルさんの処遇ですが、磯崎先生が銀河連邦の名の下にあなたを保護する意思があるようです。銀河連邦の保護下にある、ということは我々の保護下にある、ということと同じです。安心してお過ごし下さい」
磯崎「御好意、感謝します」

磯崎、山本、そしてウエンヌルお辞儀。
一人遅れてジルトーシュ慌ててお辞儀。
不満そうな顔の壌。それをチラリと見てニヤリの漠。

○甘味茶屋「こなや」・外
「準備中」の札。

○同・中
店内には壌と漠の二人きり。それぞれ餡蜜を食べながら議論中。

壌「明らかに矛盾だ!銀河連邦に入っていない筈の我々が銀河連邦の名の下に亡命宇宙人を保護するのだぞ!」
漠「まぁまぁ、困っている人には親切にしないと。それにさ、矛盾ではないんじゃない? 星としての地球は銀河連邦なんて関係ないけど、我々天網の民は銀河連邦に使命を押し戴いてェ——」
壌「我々は地球人だ!あの女教師の宇宙人のようにお義理で地球を守っているわけではない!」

○真守家・大広間
モモエ、十全、載が話し合っている。

十全「壌の奴、怒っていたな」
載「はい」
十全「11年前の一件もあるしな。いいかげん、地球と銀河連邦の狭間でフラフラしている我らの任務に疑問を抱いても仕方がなかろうて」
載「……弟さん夫婦の件は気の毒をしました」
モモエ「そろそろ……変わるべき時かもしれませんね」

開け放たれた障子の向こうは雨に濡れる前庭。

○御統中・全景
相変わらずの雨。

○同・二年C組
休み時間。机でほおづえをしているハジメ。窓の外を見ている。
NR「恐れ多くも畏くも……生徒会長直々の相談事は半分面白そうで、そして半分は結構面倒くさいことだった」

そんなハジメを見ていたジロウとアツシ、声を掛ける。

ジロウ「でさ、何だったわけ?会長の話?」
ハジメ「え?ああ……さる怒りん坊を何とかしてくれって言われたんだけど…」
アツシ「怒りん坊?」ジロウ「怒った猿?」
ハジメ「つまんねえボケ」
ジロウ「なんだとぉ」

かたや自分の机でパソコンに向かっているムリョウ。トシオはコーチよろしく、その横に立ってあれこれ指図している。

ムリョウ「これでどうかな?」
トシオ「うん、完璧」

手に持った携帯プリンターをムリョウのパソコンに近づけるトシオ。データを受信し、印刷を始めるプリンター。

ジロウ「おいおい、そっちは何だよ?」
トシオ「クラブ設立の申請書だって」
アツシ「申請?」

○同・職員室
目をパチクリする山本先生。

山本「何だこりゃ?」

差し出された封筒には筆で『申請書』の三文字。中から折り畳まれた紙を取り出し、眺める山本。

山本「まるで果たし状だな……」

山本の前に立つムリョウ微笑んでいる。
その後ろには苦笑いしているハジメと、何故かトシオ。

ハジメ「必要な書面だけでいい、ってアドバイスはしたんですけど……」
トシオ「(ボソッと)熱意を表すにはこういう処からの自己演出も必要だからね」
ハジメ「(絶句)!」
山本「ははは、で何のクラブなんだって……(申請書に目をやって)『祭りクラブ』ぅ? 何だ、ずいぶんあっさりした名前だな。どういう目的のクラブなんだ?」
ハジメ「この街のお祭りをですね……いや、伝統文化研究会、とか天網市の祭りを考える会とか色々提案したんですけど……」
ムリョウ「僕もハジメ君も外から引っ越してきたからここの祭りのことをよく知らないじゃないですか。聞いたら何か面白そうなんで調べてみようかと、色々」
山本「で、謙虚な気持ちで『祭りクラブ』か……しかし、期末試験前の申請というのはどういうこった?」
ムリョウ「今から申請しとけば試験後に早速活動ができるじゃないですか」
山本「フム……余裕だな」

ニヤニヤと笑う山本。ドギマギするハジメ。ムリョウ達は変化なし。

山本「それにしても三上、お前が人とつるむのも珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」
トシオ「いや……何となくです」
山本「ふーん」

意味ありげにトシオを見つめる山本。

○同・二年C組
昼食中。飛び込んでくる那由多。

那由多「統原無量君!」
ジロウ「(頬ばりながら)あ、いないよ」
那由多「何ですって?! 」
アツシ「職員室」
那由多「しまったッ!! 」

絶句する那由多。

○同・廊下
走る那由多。物凄い形相。

○同・職員室前
那由多やって来ると丁度ムリョウ達が出てくるところ。

ムリョウ「あ、副会長が廊下を走ってる」
那由多「?!  う、うるさいわねっ!」

那由多、あわてて歩き出す。小股ながらも勢いはそのままに、突っ込むようにムリョウに食ってかかる。怖い顔。

那由多「あんた、どういうこと?! 」
ムリョウ「何が?」
那由多「八葉さんとあなた達、何か企んでるでしょっ!! 」
ムリョウ「別に」
那由多「聞きました!放送室から出てくる三悪人のこと!(指さして)あんたとあんた! それと八葉さん!」

ムリョウは目をパチクリ、思わず天を見上げるのはハジメ。トシオは無言。

ムリョウ「君の情報網ってすごいね」
那由多「悪の栄えた試しはないの!」
ハジメ「あのさ、職員室前で大騒ぎってのもなんだと思うんだけど……」

けげんそうにこちらを見ている生徒達が多数いる。はっとする那由多。

○同・二年C組
トシオ入ってくる。アツシとジロウは雑誌を読んでいた。

ジロウ「あれ、ハジメとムリョウは?」
トシオ「怒りん坊に捕まってる」
アツシ「災難だなぁ」

○同・生徒会室
机を挟んで那由多とムリョウ、ハジメ。

那由多「さぁ、聞きましょう!昨日の今日です。きっとお祭りの件でしょう!」
ハジメ「わかってるんだ」
ムリョウ「じゃあ、いいよね」
那由多「よくない!私の推理を言います!あんたたち!八葉さんにそそのかされてお祭りのクラブとかなんとか……とにかく!そんなもの作ろうとしてるでしょ!」
ムリョウ、ハジメ「おー」

思わず拍手の二人。那由多、怒り顔ながらちょっと照れる。

那由多「ふ…ふん……私には何でもお見通しなんだから」
ムリョウ「フフ。じゃあ、ついでに今申請するよ。我々祭りクラブは文化祭への企画参加を要求します」
那由多「あー、やっぱり!一般参加したうえで生徒会が後押しするって腹づもりでしょう?何て事?! 」
ハジメ「何、後押しって」
ムリョウ「応援してくれるんだ、よかった」
那由多「違います!そういうこと考えてるのは八葉さん!しないの、私は!応援はッ! 何であんたたちが八葉さんの肩持つのよ!」
ハジメ「(ムリョウ見て)肩持つって、ねえ…」
ムリョウ「面白そうじゃない、お祭り」
那由多「面白くない!」

そこへ晴美、書類を抱えて入ってくる。

晴美「あ、ごめんなさい」
那由多「いいのよ晴美ちゃん、気にしないで」
ハジメ「この雰囲気じゃ気にするよ、充分」
那由多「(きっと振り向いて)ハジメは黙って!! ……あ……」

急に絶句する那由多、赤面し沈黙。

ハジメ「どうしたの、守山さん?」
那由多「とにかく…この件はまた後!さようならッ!! 」

プイとそっぽ向く那由多。
顔を見合わせキョトンとするムリョウとハジメ。晴美、静かに見ている。

   *   *   *

コピー機の前には晴美。那由多は椅子に座って妙にしおれている。
コピー機の音だけが響く。

晴美「(背中越しに)那由多ちゃん、あの子、好きなの?」
那由多「な、なんで?」
晴美「え?だって名前呼び捨てにして、照れてたから……違うの?」
那由多「あれは只のバカ!ついでに言っとくと隣にいたヤツは大嫌いなヤツ!天敵よ!」
晴美「(クスッと笑って)いいね、那由多ちゃんは……自分の気持ちがすぐ出せる」

いつもの暗い表情の晴美、ボタン操作で原稿読み込みから製本モード(『簡単なレジュメ作成』を選択)。
那由多、真顔になり改めて晴美を見る。

那由多「晴美ちゃん、私、あなたが今悩んだり考えたりしてること、はっきり言ってよくわからない」
晴美「……」
那由多「私は私の使命を果たそうとしてるし、あなたはあなたの使命を果たそうとしてるんだと思う…でも、これだけは……私達で終
わりにしたいの」
晴美「おわり?」
那由多「お祭りで……あの御輿下ろしで選ばれるタタカイビトは私達の代までで充分だわ!」
晴美「……」

見つめ合う晴美と那由多。コピー機は文化祭実行委員会のレジュメを次々と吐き出していく。

○アイキャッチ

○天網市・商店街
雨降る中、大売り出しのスーパー。
テープの声「ただ今、雨降りキャンペーン。肉、魚がご奉仕価格となっております——」

○真守家・客間
ブルーハワイの部屋よりも広々とした室内。寝転がって新聞を読んでいるジルトーシュ。対してウエンヌルはきちんと正座している。

ウエンヌル「人が宇宙を飛ぶ力を得たとき、神が天から降ってきた。神は我々の当主を連れて神の館に連れて行き、様々な力を伝え、彼を帰した——」
ジルトーシュ「ふむふむ」

新聞に目を落としたまま気のない相槌のジルトーシュ。

ウエンヌル「これは我々に伝わる神話の一つ」
ジルトーシュ「神話ねえ……」
ウエンヌル「神の名前は“うえるん”。どことなくあなたの星の名前に似ている」
ジルトーシュ「ああ、だってそれ、僕のお祖父ちゃんだからね」
ウエンヌル「今のあなたの“ジョーク”とやらはともかく、ここ数日の情報収集でわかったことは」
ジルトーシュ「ことは?」
ウエンヌル「この星……地球も我らザイグルの星と同様に民衆は誤った大前提の元で生活しているということだ」
ジルトーシュ「誤った?」
ウエンヌル「自身が生活する星こそが最も優れた存在である、更に言うと自身こそが最も優れた存在であるという大前提だ」
ジルトーシュ「まぁ、外の世界を知らないんじゃ、そう思っても仕方がないでしょ」

窓から見える駅前の風景。

ウエンヌル「我々ザイグルの星の者は、宇宙に生命が存在することは知っていたが、それはあくまでも我々よりも低い知的レベルであり、劣る存在であると教えられてきた」
ジルトーシュ「だからその、“未開の惑星” に問答無用で攻めてきたのかい?」
ウエンヌル「我々の目的はあくまでも調査と採取だ。侵略ではない」
ジルトーシュ「フフン、何の調査だか……」
ウエンヌル「恐らく、あなたが考えている物と一緒だろう」

そこへ廊下を急ぎ足で歩いて来る音。
襖を開け、モモエが顔を出す。

モモエ「お夕飯、何にしましょうか?お買い物に行かないと……」
ジルトーシュ「え?お買い物って……」
モモエ「いつもは一人だから簡単に済ませてるけど今日は久し振りに張り切ってお料理しますから…何がよろしいかしら?」

ギョッとするジルトーシュ。

ジルトーシュ「一人なんですか、マダム?」
モモエ「ええ。それが何か?」

やおら立ち上がるジルトーシュ、モモエに詰め寄る。

ジルトーシュ「だって家政婦さんとか書生さんとかいるでしょう?」
モモエ「いませんよ、そんな勿体ない」
ジルトーシュ「いかん、いかんですよ!ただでさえこんな広いお屋敷に一人暮らしっていうのも信じられないというのに……」
モモエ「いえいえ、真守家の当主は一人でいるのが決まりなんですよ」
ジルトーシュ「と、言うと買い物なんかも御自分で行かれるとか?」
モモエ「ええ」

ニッコリ微笑むモモエにオーバーに驚くジルトーシュ。

ジルトーシュ「ああ、もう何考えてるんだ地球人は……わかった、わかりました!ここは一つ、私たちにお任せ下さい!」
モモエ「お任せって言いますと?」
ジルトーシュ「今晩の料理、私たちがご馳走いたします!」

その間にウエンヌル、TVを地域情報に合わせ、スーパーのチラシ広告をダウンロードしていた。

ジルトーシュ「何やってんの?」
ウエンヌル「本日のこの地域の販売相場を一覧にした物だ。かなりお得らしい」
ジルトーシュ「ほお……やるねえお前さん」

感心するジルトーシュ。静かに微笑むモモエ。

○御統中学・外

○同・視聴覚ルーム
放課後。各クラスの文化祭実行委員が集まっている。
前には八葉、那由多、晴美、瞬。
ホワイトボードに文字——

文化祭実行委員会・第一回会合
初顔合わせ
文化祭当日までの予定

八葉「……今日は集まっていただいてありがとうございました。本格的な会合は期末試験の後からになります。まずは試験頑張りましょう」
那由多「お疲れさまでした」

立ち上がり、退席していく実行委員達。
晴美、さりげなく出ていく。
瞬、ムリョウに近づくと話しかける。

瞬「どうです、結構スゴそうでしょ?ウチの文化祭。大がかりも大がかり♪」
ムリョウ「うん、そうだね。ところでさ」
瞬「はい?」
ムリョウ「京一さんはどうしたの?会合にはいなかったみたいだけど」
瞬「フフフ、お・そ・ら・く!」

ニヤリと笑う瞬。

ムリョウ「え?」
瞬「あなたの顔を見たくないからサボった、というのが僕らの予想なんですが……どうです、購買部のアンパン一つ賭けません?」
那由多「賭け事禁止!! 」
瞬「わっ、何だよいきなり」
那由多「瞬、あんた広報委員の方にも顔出すんでしょ?チンタラしない!」
瞬「何だよもう、妬いちゃってさぁ」
那由多「ぶつよ!」
瞬「コワイ、コワイ」

ヘラヘラと去っていく瞬。那由多、ムリョウに向き直って居丈高に。

那由多「さっきは後れを取ったけど、いいこと?こう言っちゃあ何だけど、文化祭一般の仕切りは私の担当なのよ!」
ムリョウ「へえ、すごいなぁ」

素直に感心するムリョウ。拍子抜けの那由多、ムキになる。

那由多「え?いや、だからぁ、あんたは私の下で働くことになるのよ。わかってる?」
ムリョウ「うん、そうだね」
那由多「くやしくないの?」
ムリョウ「何で?とにかくよろしく」

ペコリと頭を下げるムリョウ。

那由多「……もう、知らない!」
プイと出ていく那由多。
ムリョウ「?」

ムリョウ、八葉に肩をすくめてみせる。
一連を見ていた八葉、苦笑い。

八葉「本当に……鈍いんだか鋭いんだかわからないなあ、君は。で、どうだった?祭りクラブの方は?」
ムリョウ「ええ、オーケーみたいです」
八葉「おお、そうかぁ♪」
ムリョウ「で、部長はハジメ君ということで」
八葉「彼には苦労をかけるなぁ…」
ムリョウ「ええ、そうですね」

○同・廊下
プンプンと廊下を歩く那由多。

那由多「何よもう、あいつってばさ!」
ハジメ「ああ、いたいた守山さーん」

後ろから声をかけるハジメ。

那由多「何よ!」

キッと振り返る那由多、怖い顔。思わず息を飲むハジメ。

ハジメ「…いや、祭りクラブの許可が出たからさ、早速文化祭のクラブ参加の申し込みをしたいんだけど……」
那由多「ダメ!」

歩き出す那由多。あわててこれを追いかけるハジメ。

ハジメ「えー?ちょっと待ってよ」

○同・生徒会室
晴美、入ってくる。窓辺には京一、立っている。

京一「どうだった?実行委員会は?」
晴美「…滞り無く終わりました」
京一「そ、そうか。いや、どうも統原無量の顔を見るとムカムカするんでな」
晴美「……」

鞄を開き、筆箱やファイルをしまう晴美。それを見つめる京一、どことなくドギマギ。顔を背けてつぶやく。

京一「久し振りに、見た……」
晴美「え?」
京一「体育祭の……お前の笑顔……晴美、お前はあの……小さい頃のお前の方が本当のお前なんだと思う。あの頃のお転婆が本当のお前
なんだ」
晴美「……」
京一「(吐き捨てるように)忘れちまえよ、天網流なんて!忘れちまえよ、お前の使命なんてよ!」
晴美「……私は、もうあの時の私には戻れません。京一様も戻れません。みんなも——」
京一「晴美?」
晴美「体育祭といい、先日といい、申し訳ありませんでした。お心を惑わしてしまったようです。もう、二度と致しません。それでは——」

礼をすると鞄を持って駆け出す晴美。

京一「晴美……」

呆然と立ちつくす京一。
窓の外は雨。

○天網市・国道沿い
傘をさして歩くキョウコにレインコート姿のフタバ。フタバ、セカセカと先を行く。手にはスーパーのチラシ。

フタバ「おかーさん、早く早く!」
キョウコ「ふーちゃん、大丈夫よ。そんなに急がなくても」
フタバ「おかーさん甘い!だからいつもタイムサービスに間に合わないのよ!焼きたて食パンに——」
キョウコ「牛肉豚肉三割引でしょ」
フタバ「わかってたら急ぐ!」
キョウコ「はいはい」

○スーパーすまる
店内を歩くジルトーシュとウエンヌル。
ウエンヌルはサングラスをつけたままだがやけに落ち着かない。

ジルトーシュ「どうしたの?そんなに買いたいものばかりなの?」
ウエンヌル「いや、何というか……」

サングラスをずらすウエンヌル。四つの眼のかわりに青い二つの目。金髪とも相まって、まるで欧米人のよう。

ウエンヌル「何か落ち着かないのだが……本当に適切なのか?この目は?」
ジルトーシュ「大丈夫。どこから見ても君は地球の人だ。ヴェルン星の技術を信じなさい。そんな色眼鏡、はずしちゃいなさいよ」

周囲を気にしながらサングラスをアロハのポケットにしまうウエンヌル。
片手に持ったチラシを見ながらカゴに品物を放り込んでいくジルトーシュ。

   *   *   *

フタバ「急いで急いで!」
キョウコ「はいはい」

物凄い勢いで品物をカートに放り込んでいくフタバ。

フタバ「これもこれも…チッ、これはムダ!」
キョウコ「ふーちゃん、買うもの判ってるの?」
フタバ「大丈夫大丈夫……あ!」

精肉売り場へ歩いていくジルトーシュ達の姿を見るフタバ。ハッとする。

フタバ「やばい!」

あわてて駆け出すフタバ。

フタバ「ちょっとふーちゃん!」

   *   *   *

精肉売り場にやって来るジルトーシュ達。順々に肉の棚を確認していく。

ジルトーシュ「えーと、牛の肩ロース薄切り一キロパックって……ああ♪」

目の前に一個だけ残っていたパックに手を伸ばすジルトーシュ。そこへ駆けつけるフタバ、決死の顔。

フタバ「はぁーーッ!! 」

同時に手を着くジルトーシュとフタバ。

ジルトーシュ「おや?」
フタバ「お肉!」

さっとパックを取り上げるフタバ、きびすを返して駆けて行く。それを見て苦笑いのジルトーシュ。

ジルトーシュ「いやァ、元気なお嬢さんだ……」

その横でチラシを見ているウエンヌル。

ウエンヌル「どうする?他の牛肉を買うにも売り切れだ。あなたの『豪華すき焼き』計画は、実現不可能なようだが」
ジルトーシュ「そうだねえ……じゃ、豪華『白菜鍋』計画に変更しよう」

その場を離れようとした二人に、背後よりキョウコ、申し訳なさそうに。

キョウコ「あのぉ…」
ジルトーシュ、ウエンヌル「?」

キョウコ、肉のパックを持って立っている。その後ろにはフタバ、ブスッと不満顔。

ジルトーシュ「おやおや、さっきの……」
キョウコ「先程はウチの娘が失礼なことを致しまして……申し訳ありません」
ジルトーシュ「いえいえ。まぁ、ちょっとお行儀が悪かったような気もいたしますが」
キョウコ「あのー、提案なんですが……ウチは一家三人なんで、お肉一キロも要りませんので……」
フタバ「冷凍しておけばいいじゃん」
キョウコ「(フタバに向かって)コラッ!! (ジルトーシュに向かって)すみません」
ジルトーシュ「ははは」
キョウコ「半分こにしません?共同購入ということで」
ジルトーシュ「おお、生活の知恵!」
フタバ「(つぶやく)半分じゃ、すき焼き大会できないじゃん」
ジルトーシュ「すき焼き大会?」

○村田家・玄関
ハジメ、疲れた顔で帰ってくる。

ハジメ「ただいまー」

○同・リビング
中の明かりは消えている。のぞき込む
ハジメ。奥の台所にも誰もいない。

ハジメ「あれぇ?いないの?」

○同・ハジメの部屋
ベットに寝転ぶハジメ、天井を見る。

ハジメ「あー、腹減った」

しばらくボーっとしているハジメ。
外は雨。

ハジメ「あっ、そうだ!」

ガバッと跳ね起きるハジメ。

○国道沿い(回想)
通学中のハジメとフタバ。

フタバ「今日は『スーパーすまる』で牛肉が安いの!だからムリョウさん連れてきて!」
ハジメ「どういう流れなんだよ」フタバ「牛はすき焼き!すき焼き大会!メンバーは……お母さん私にお兄ちゃんに……」
ハジメ「はいはい、じゃあ声かけとくよ」

○村田家・居間
電話をかけているハジメ。

ハジメ「えーと、真守真守…」

住所検索。「真守モモエ(ムリョウ君下宿先)という欄が出る。通話ボタンを押すハジメ。呼び出し音。

キョウコ(声)「はい、村田です」
ハジメ「あれ?すみません、間違えました」

あわてて電話を切るハジメ。

ハジメ「違うのかな?」

すかさず電話が鳴る。

ハジメ「もしもし、村田です」
キョウコ「こちらも、村田です」
ハジメ「え?母さん?! 」
キョウコ「御免なさい、うっかりしちゃった」

○真守家・台所
料理の支度をしているジルトーシュとウエンヌル、てんてこ舞い。それを横目にキョウコ通話中。

キョウコ「成り行きでねえ、真守さん……そうよ、ムリョウ君ところに来てるの。すごいお屋敷よねえ……え?すき焼き大会?こっち
でやることになったからあなたが来なさい」

○国道沿い
辺りは薄暗く、雨はシトシト降り。
ハジメ、傘をさして歩いている。

ハジメ「何だかなぁ」

○真守家・一の間
座卓を囲んで座るフタバ、モモエ、ムリョウ。フタバはムリョウの隣で妙におすまし。

モモエ「そう、あなた、ハジメ君の妹さんなの?」
フタバ「ええ、いつも兄がお世話になってまして、本当にムリョウさんには感謝してもし足りない位で」
ムリョウ「感謝してるのはこっちだよ」
フタバ「いいえ、感謝するのは私だからいいんです、そんな事……」

うっとりとムリョウに寄りかかるフタバ、頬を赤らめてうつむく。わけがわからない理屈にムリョウ、苦笑い。

モモエ「ほほほ、面白いお嬢ちゃんね。でもいいの?お母さんを手伝わなくても?」
フタバ「いいんです!お二人を退屈させないのもお手伝いですから」

顔を見合わせてムリョウとモモエ、微笑む。そこへ襖の向こうからジルトーシュの声。

ジルトーシュ「えーちょっと開けて下さーい」
フタバ「あ、はーい!」

   *   *   *

座卓の上で湯気を立てる土鍋。その他
にも様々な料理が並ぶ。

フタバ「うわー、すごい迫力ぅ」
キョウコ「すき焼き、というよりもちゃんこ鍋になっちゃったんですけど」
モモエ「いえいえ、とっても美味しそうな匂いですよ」
キョウコ「ありがとうございます」
ジルトーシュ「まま、一杯。ジュースだけど」

ムリョウのコップにジュースを注ぐジルトーシュ。隣に座るウエンヌルは箸を不思議そうにいじっている。

ムリョウ「ああ、ありがとうございます」
ジルトーシュ「君のことは知ってるよ、統原無量君。体育祭では大活躍だったし」
ムリョウ「あなたも走ってましたね。お玉持ってぶっちぎりで」
ジルトーシュ「あ、見てたの?」
フタバ「そうそう、お兄ちゃんが瞬ちゃんの作った体育祭ビデオ持って来ます!みんなで見ましょう!」
ジルトーシュ「(拍手しながら)おーーっ! (ウエンヌルに)さ、君も盛り上がりなよ」
ウエンヌル「(淡々と)おーー」
フタバ「あははは、おっかしー」

にぎやかに騒ぐフタバ達を見ながら語り合うキョウコとモモエ。

モモエ「こんなに楽しい夕食は久し振り」
キョウコ「いつもお一人なんですか?」
モモエ「ええ。一人に慣れてしまうとにぎやかな所は苦手になってしまうのだけれど……いいわね、こういうにぎやかは」
フタバ「ねえねえ、鍋、もういいでしょ」
キョウコ「遅いわねえ、ハジメ」
フタバ「いいじゃん、食べちゃえ食べちゃえ」
ジルトーシュ「食べちゃえ食べちゃえ」
ウエンヌル「(淡々と)食べちゃえ食べちゃえ」

そこへ呼び鈴鳴る。インターホンからハジメの声。

ハジメ(声)「御免下さーい」
フタバ「ウワサをすれば!」

○真守家・玄関前
傘をさして立っているハジメ。
ハジメ「村田始です。母と妹がお世話かけてスミマセン」
モモエ(声)「はいはい、ちょっと待ってくださいね」

雨降る空はどんよりと暗い。

NR「突如決まった鍋大会。これも立派な大事件だが、こういう事ならいつでもオーケーだ。願わくはこのまま平和に……とは行く筈もなく——」

○天網海岸
沖合の海上に“穴”が開く。
せり上がるようにしてザイグル帝国の機動部隊登場。

NR「——続きは次回」

         (第八話・完)

☆二〇〇字詰八四枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)