第14話『僕たちの、夏』
学園戦記ムリョウ
第一四話『僕たちの、夏』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄
登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)
統原瀬津名(スバル・セツナ)
津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機 瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
成田次郎(ナリタ・ジロウ)
川森 篤(カワモリ・アツシ)
村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)
山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ザイグル星人ヴェロッシュ(ジルトン号艦長)
ユカリ
ミドリ
声(男) ☆
声(女) ☆
☆声はそれぞれセツナ、ジルトーシュのイメージ
○天網市・点景
八月の正午前。盛夏の風景。
路上で遊ぶ子供達。
トンボの群れ。木陰で昼寝の犬。
○村田家・庭
真ん中で本箱に色を塗ろうとしているハジメとフタバ。二人ともマスクを着けている。
フタバ「はい、きちんと新聞紙持っててね。そこらに色付いちゃマズイから」
スプレーガンを二丁構えるフタバ、どこから吹き付けようかとあれこれポーズ。片や本箱を新聞紙で囲い込んでいるハジメは苦い顔。
ハジメ「だからハケで塗ればいいだろ」
フタバ「ハケ塗りじゃ時間かかるでしょ!スプレーなら一発勝負、あっという間の事じゃないの」
ハジメ「お前、そのイチかバチか、って性格は何とかした方がいいと思うぞ」
フタバ「だってもうすぐミドリちゃん達、来ちゃうもん」
ハジメ「だからそんな約束を…わっ!」
聞く耳持たないフタバ、スプレーを吹き付ける。対するハジメ、塗料の粒子が辺りにこぼれないように、新聞紙を持ってこれに対抗。
そこへやって来るミドリとユカリ。
ミドリ「うわー、本棚かぁ!」
ユカリ「フタバちゃん、いいなぁ、手伝ってもらって」
フタバ「はいはい、行きましょ行きましょ」
ウッドデッキに置いてあったビーチバックを取るといそいそと二人の元へ。見送るハジメも苦笑い。
フタバ「じゃ、お兄ちゃんよろしくね!」
ミドリ・ユカリ「行って来まーす!」
ハジメ「はいはい」
青空を見上げるハジメ。入道雲。
NR「もうすぐおしまいな、夏休み——」
○オープニング
○村田家・居間
台所と居間を隔てるカウンターには父からの荷物(お菓子とかトビウオの薫製とか)。近々帰る、とのメッセージがチラリと見える。
(サブタイトル「僕たちの、夏」)
昼食後のくつろいだ雰囲気。TVでは昼のバラエティ番組が放映されている。
明日からの新学期をネタにしたトークが進む。ハジメはごろりと横になり、キョウコはお茶を飲んでいる。
ハジメ「やあ、来たね」
ウッドデッキにムリョウ。
キョウコ「こんにちは」
ムリョウ「こんにちは……ちょっと早かったかなあ」
デッキの中央には先程の本箱が置かれている。それに目をやるムリョウ。
ムリョウ「フタバちゃんのかい?スゴイね」
ハジメ「赤はあいつのイメージカラーみたいなもんだからね。ま、いいんじゃないの」
キョウコ「ムリョウ君、お茶飲んでく?」
ハジメ「そうそう、父さんからお菓子とか届いたんだ。りんかけと芋ようかん」
ムリョウ「じゃあ、遠慮なく」
ムリョウ、靴を脱いで中へ。
○甘味茶屋「こなや」・外
昼下がり。
向かい合って座っている山本と磯崎。
山本が氷あずき、磯崎がクリームあんみつを食べている。
山本「で、何ですかな?」
磯崎「サナドンです」
山本「またサナドンですか?」
磯崎「この間のサナドンです。統原君が回収してきてくれた例のチップですが……」
山本「はあ」
* * *
(回想)
11話ラスト前。空から降ってくるムリョウ。
穴の中で照れ笑いのムリョウ、ポケットからチップをつまみ出す。
山本「それは?」
ムリョウ「磯崎先生に見せて下さい。ちょっとした、証拠です」
* * *
磯崎「サナドンに命令を入力したのが誰なのか——このチップには過去の命令についての記録が遺されていました。で……」
山本「わかったのですか?」
磯崎「いいえ、残念ながら特定は出来ませんでした。ただ……」
山本「ただ?」
磯崎「銀河連邦に加盟している星々ではない、それ以外の星のコンピューターシステムからの入力が記録されています」
山本「それ以外?」
磯崎「シングウのチカラを狙っているのは沢山いる、ということです」
山本「やれやれだな……」
磯崎「それから、ヴェロッシュ艦長達、ザイグル星人の身柄ですが……」
山本「どうするおつもりですか?」
磯崎「ひとまず、調査委員会で証人喚問……銀河連邦の本部に出頭していただくことになりました」
山本「そうですか……」
磯崎「今晩、お別れ会をするそうです。つきましては幹事よりヘルプの依頼が——」
山本「ヘルプ?」
○天網海岸
海水浴客もそれなりの賑わい。
京一と晴美、浜辺に並んで座っている。
京一「もうすぐ、新学期だな」
晴美「はい」
京一「お前とこうして、その、何だ」
晴美「何ですか」
京一「……こうして、会って…話して……もう何回目だ?」
晴美「三回目です」
京一「そうだよな!そうだ!三回目だ!で、だ……」
晴美「はい」
京一「何て言うのか、その……」
顔を真っ赤にして絶句する京一。
晴美、しばらく見守っているが、立ち上がるとパーカーを脱ぎ捨てる。
晴美「泳ぎましょう」
素足で走り出す晴美。
京一「あ、はる…み……」
八葉、後ろから声を掛ける。
八葉「相変わらずだな、京一」
京一「は、はちよう?! (素っ頓狂な声で) き、貴様ッ!何だ?その格好は!」
八葉、麦わら帽子に「つもりや」と書かれた法被姿。売り子よろしく背中にはドリンクのタンク、首からはアイスボックスを提げている。
八葉「伯父さんの手伝いだよ。泳ぐシーズンからは外れるけど、九月までは暑いからね。こうやって冷たいものも売れるんだよ」
京一「(はっとして)ひょっとしてお前、俺達の、その……」
八葉「デートかい?今回で三回目だっけ」
京一「見てたのか!数まで数えやがって!それに、その、違うぞ!デートじゃ、ないっ! 俺は……俺達は、遊びに来てるだけだ!」
八葉「それがデートって奴だろう?」
京一「ぐっ」
八葉「まぁ、お前らしいな。だから晴美も付き合ってくれてるんだろうし」
京一「くれてるとは何だ!」
八葉「まぁまぁ……(腕時計を見て)おっとそろそろだな」
京一「どこへ行く!」
八葉「クラブ活動だよ。(海に向かって)それじゃあな!晴美!」
立ち去ろうとする八葉。
京一「待て、八葉!」
立ち上がった京一、追いすがろうと二三歩前へ。しかし、ふと海を見る。
晴美「……」
波間からこちらを見ている晴美の姿。
京一「…そうだッ!俺はッ!デートだッ!! 」
ヤケになった京一、海に向かって駆け出す。キョトンの八葉。
京一「うおおおおおおおっ!」
京一、波打ち際のフタバ達の前を通り過ぎる。同様にキョトン。
ミドリ「何だろ、あの人」
ユカリ「熱血だね」
フタバ「私らも熱血しようか」
ミドリ「よおし!」
歓声を上げて海に入っていくフタバ達。
かたや京一、晴美に水をかけたりと、大あばれ。
京一「はははは!」
顔はぎこちないが楽しげな京一。同様に楽しげに声を上げて笑う晴美。
晴美「あはははは!」
見ていた八葉、ため息混じりながら満足げな表情で立ち去る。
○天網神社
蝉の声。木陰が涼やか。
石畳の道から少し離れたところに二階建ての家。表札には守山の文字。
○守山家・二階
網戸越しに涼しげな風。周囲が神社の大木に囲まれているため差し込む陽の光も優しい。那由多、廊下に茣蓙(ござ)を敷いて昼寝をしている。
那由多「ぐう……うう~~」
わざわざ寝息の擬音を口にしてみる那由多。半分起きて半分眠ってうつらうつらないい気分。
那由多「あ~~~っ!」
寝返り打ちつつ背伸びの那由多。
那由多「平和平和平和だわ~~っ…」
くたーっと脱力。
那由多「…ふう」
幸せそうな笑顔を浮かべる那由多。
しばし静寂。
八葉の声「セイサー、ウントコヨートヨイトォ、セイサー、ウントコヨートヨイトォ」
遠くの方から八葉の歌声が聞こえる。
那由多「?」
だんだん大きくなる歌声。
八葉の声「ハァー祭りだ祭りだドッコイドッコイ御輿だ御輿だヨーイトナァ」
更にハジメとムリョウ、アツシにジロウの声が加わる。
一同の声「祭りだ祭りだドッコイドッコイ、御輿だ御輿だヨーイトナァ」
那由多「?」
徐々に表情が険しくなる那由多。
更に大きくなる歌声。
一同の声「祭りだ祭りだドッコイドッコイ、御輿だ御輿だヨーイトナァ!祭りだ祭りだドッコイドッコイ..」
那由多「ええっ?! 」
ガバッと起きる那由多。
○天網神社・境内
八葉を囲んで唱和するハジメ達。
八葉「よーし、いいだろう」
歌を止める一同。
ジロウ「ふう」
八葉「どうだい、大声を出すってのもなかなかイイだろう?」
ムリョウ「そうですね」
ハジメ「カラオケとかと違って外で歌うってのもなかなか……」
八葉「いいだろう?」
嬉しそうな八葉。
ハジメ「えー、それではオープニングのセレモニーも終わったところで、“祭りクラブ” 第一回の集会を行いたいと思います」
八葉「うんうん」
拍手する一同。
アツシ「(ジロウに向かって)何だかんだ言って、結局巻き込まれちゃったなあ」
ジロウ「まぁ、そりゃあどうでもいいけどさ……何でトシオの奴がいないんだよ!あいつ言い出しっぺだろ?祭りクラブ作るさぁ」
ハジメ「しょうがないよ、八月いっぱいまで旅行中だって言うんだから」
アツシ「いいなぁ、アメリカ」
ジロウ「ふん、夏は日本が一番だよ」
ハジメ「まぁまぁ。それでは生徒会長からお言葉を——」
八葉「いや、クラブで会長はよしてくれよ」
ハジメ「じゃあ、津守先輩から」
全員を見回して八葉、あらためて。
八葉「えー、みなさん。この度は祭りクラブの活動に参加させていただかせて誠にありがとうございます。僕と同様に成田君と川森君達もクラブの趣旨に賛同しての参加、ということですが——」
ジロウ「賛同というか、なし崩しというか」
アツシ「ははは」
八葉「ええ。なし崩しでも構いません。祭りというのは……最初はどうかわかりませんが、基本的にはやってるから参加する、面白そうだからやってみる、というのが大体ではないかと」
じっと聞いているハジメ達。
八葉「まっ、こんなところで固い話も何なので、一発、歌を……」
ジロウ「よっよっ!」
八葉「これはとっておき、『始まり節』を……エエー、さても皆様ァ」
那由多「うるさい!! 」
サンダル履きの那由多、やって来る。
八葉「ああ、那由多か」
那由多「那由多かじゃないわ、もう!」
ハジメ「や、やあ」
ムリョウ「寝てたのかい?」
那由多「な、何よいきなり!」
ムリョウ「ほっぺに茣蓙(ござ)の跡がついてる」
那由多「え、うそっ?! 」
ハジメ「ムリョウ君、目が良いね」
ムリョウ「口の端によだれの跡も」
那由多「うわっ、わっ、わっ!」
必死に取り繕うとする那由多。
那由多「とにかく!人んちの前で怪しげな集会をしないでちょうだい!」
ハジメ「怪しげっていったって……ねえ」
八葉「そうだぞ、那由多。祭りクラブの会合場所に神社の境内ってのは、正にピッタリ」
ジロウ・アツシ「うんうん」
ハジメ「というわけだからさ」
ムリョウ「安眠妨害はあやまるよ」
那由多「う」
絶句する那由多。
那由多「……わっかりました!私が悪うございました!」
○国道沿い
駅に向かって歩く那由多、プンプン。
那由多「何よ何よ…あれじゃ、まるで私が昼寝を邪魔されていちゃもんつけに来ただけみたいじゃない……」
セツナ「ってその通りじゃないの?」
那由多「ええ、まぁそうなんですけど……え?」
いつの間にか横に並んで歩いていたセツナ、ニッコリ。
那由多「わっ?! 」
セツナ「ほっぺに茣蓙(ござ)の跡」
那由多「うそっ?! 」
セツナ「うっそ♪」
那由多「…失礼します」
足早に立ち去ろうとする那由多。
セツナ「こらこら」
後を追うセツナ。
○河川敷
土手に座るセツナと那由多。広場には人影はない。二人ともチューチューアイスを手にしている。
セツナ「とはいっても、別にナユちゃんが出ていくことはないのに」
那由多「祭りに関わるものはみんなイヤなんです!歌を聞くのもイヤ!」
セツナ「自分は毎年出てるじゃない。巫女さん姿で踊ったりして」
那由多「あれは仕事です!守山の家に生まれたからにはやらなくちゃ……」
セツナ「いいじゃない?お祭り楽しいじゃないの」
那由多「みんなお祭りの本当の意味を知らないからそう言うんです」
セツナ「そう?」
那由多「宇宙人と戦う子供を選ぶお祭りなんかキライです」
セツナ「ふーん」
那由多「お姉さんも知ってるんでしょ?お祭りの本当の意味を?お祭りはチカラの素質がある子供を選び出すための方便で、選ばれた子供は……」
* * *
(回想)
幼少の那由多、載に押さえつけられながらモモエのおまじないを受ける。
モモエの掌に浮かぶ、銀河連邦のマーク。怯える表情の那由多。
* * *
那由多「私がもっと強くなったら、おばあさまに言うつもりです。おまじないも、巫女舞いもやめましょう、シングウは私一代でもうお終いにしましょう、って」
セツナ「自分がイヤだったから人にはそういう目にあって欲しくない、ってこと?」
那由多「……」
セツナ「かぁっこいい♪」
那由多「茶化さないでください」
川面を見つめる那由多、恐い顔。
ヤレヤレと肩をすくめるセツナ。
セツナ「ま、それはそれとして……折角だからナユちゃんに立会人になってもらおうか」
那由多「立会人?」
セツナ「お、来た来た」
川の上流の方を見やるセツナ。
那由多「え?」
那由多も見るが何も見えない。
突風。
那由多「きゃっ」
思わず目をつぶる那由多。
セツナ「遅いぞ」
那由多「え?あっ!」
前を見るなり驚く那由多。
瞬「へへへ」
水面に立っている瞬、不敵な笑み。
○アイキャッチ
○河川敷
瞬「アイスなんか食べて、余裕ですね」
水面上の瞬、何気に前に歩き出す。
セツナ「ふふふ」
瞬、いつの間にか二人の目の前に立っている。
瞬「でも、その余裕が命取りですよ」
セツナ「おっ、大きく出たね」
二人を見比べて那由多、怪訝な顔。
那由多「ちょっと、何するつもり?」
セツナ「まぁ、駆けっこ勝負再び、ってとこかな」
那由多「駆けっこ?」
セツナ「ほら、この間、私んとこの田舎で」
那由多「はあ」
セツナ「あなたもいろいろと教わったと思うけど、瞬ちゃんには、私が大特訓してあげたのよ」
瞬「ああ、ひと夏のケ・イ・ケ・ン!甘いとか切ないとかじゃなくて、ケッコー、悔しかったです」
セツナ「で、こうして再挑戦というわけ」
那由多「はあ……」
いまいち合点がいかない那由多。
セツナ「ナユちゃん、よーいどんやって」
那由多「どん?」
セツナ「じゃ、日本最北端折り返しコース」
瞬「望むところです」
セツナ「どんな近道でも使っていいよ。但し宗谷岬には必ず行くこと。ナユちゃん、ちょっと待っててね。お土産買ってくるから」
ウインクするセツナ。訳が分かっていないが取りあえず那由多、立ち上がると右手を挙げる。
那由多「よぉーい……」
身構えるセツナと瞬。力の入った瞬に対し、セツナはわずかに上体を傾ける程度。
那由多「どん!」
風になって消える二人。
後に残された那由多、しばし行方を見やるが、やがて座り込む。
那由多「ホント、みんな勝手なんだから」
ほおづえをついて川を見つめる。
* * *
流れる雲に塩辛蜻蛉(シオカラトンボ)
シラサギの群れ
川面の光はキラキラと輝き
現実はいつしか回想へと変わる――
* * *
阿僧祇に促され、かくれさとの神社の拝殿に足を踏み入れる那由多。
那由多「?! 」
目の前に星の輝きにあふれた空間が広がる。呆然と歩を進める那由多。
声(男)「ホシノチカラ、シングウノチカラ、躯は新たな依り代になる」
那由多「?! 」
辺り見回すも広がるのは宇宙。
星の光が水の光のように流れ出す。
那由多「あ……」
声(女)「己であって己でなし。身を任せ、流れに乗れ。シングウになるときの、あの感触を思い出せ」
那由多の体、粒子になる。
声(男)「次なるときへ、お前は進む。躯を依り代へ、依り代をおのが体とするときへ」
那由多「どういうこと?」
声(女)「そしてお前は気付くであろう。シングウのチカラの、本当の力。シングウのチカラの、本当の意味を——」
那由多「本当の力?」
流れる光。
那由多「本当の意味?」
溢れる光。
光の向こうに浮かぶ巨大な人影。
* * *
那由多「?! 」
目が覚める那由多、辺りを見回す。
ウエンヌル「大丈夫ですか?」
土手を走る道には、ウエンヌル、自転車にまたがったまま見下ろしている。
前輪部のカゴには沢山の食材。
那由多「あ、いや、大丈夫です!ハハハ」
○よしだ商店
仲良し公園のそばにある古びた家。ガラス戸には薄く、『定食・ラーメン』の文字の跡。プール帰りの子供がおでんを買っている。
○仲良し公園
ハジメ「乾杯!」
ムリョウ達「かんぱーい!」
瓶ジュースで乾杯、の祭りクラブ。手には各々、おでんの串。
ハジメ「ホントはさ、新学期からでも良かったんだけど。学校始まればイヤでも毎日顔会わせるだろ」
アツシ「じゃ、なんで今日が結成式なの?」
八葉「よしだのおでんは夏休み限定でね、ちょうどこの時期が出汁がおいしくなってて頃合いなんだ」
ジロウ「フム……確かに。結成式くらいはこうして豪勢にいきたいねえ」
黙々と食べているムリョウ、ポツリ。
ムリョウ「じゃあ、村田君、だからこの時期を狙って結団式を計画したのかい?」
ハジメ「ははは、まさか。でも、あそこのお婆さん、四人以上で買いに行くとおまけしてくれるから……」
ジロウ「おまけもらうために俺達も巻き込んだのかぁ?」
ハジメ「ははは、そうだったりしてな」
ジロウ「俺たちゃあダシだってよ、アツシ」
八葉「うまい!」
ハジメ「出汁とダシで座布団一枚!なんてね」
大笑いの一同。
ジルトーシュ「おー、いいなあ、おでん」
通りかかるジルトーシュ。
一同「こんにちは!」
ジルトーシュ「えーとさ、ウエンヌル君を見なかったかな?」
ハジメ「ウエンヌル?ああ、もう一人の……」
八葉「どうかしたんですか?」
ジルトーシュ「買い出しに行ったまま帰ってこないんだよね。助っ人呼んだのはいいけど食材が到着しないと……困ったなぁ」
○かもめハウス
椰子の木に蝉。
庭先にはバーベキューの支度がされている。その前でたたずむ山本と磯崎。
○河川敷
並んで土手に座っている那由多とウエンヌル。
ウエンヌル「駆けっこの審判、ですか?」
那由多「そうなんです、ホントみんな自分勝手な人ばっかり」
ウエンヌル「この星は毎日が新しい発見に溢れています。科学技術のレベルは、ザイグル星に比べると……失礼ですが、はるかに低い。それなのに貴女のように不思議なチカラを持つ人が沢山いる」
那由多「はあ」
道に停めた自転車に蜻蛉(トンボ)、カゴから突き出たネギに留まる。
ウエンヌル「あまつさえ我らが宇宙戦艦ジルコン号を……サナドンを沈めてしまった。一体、この星は進んでいるのか、遅れているのか——」
ふと空を見上げる那由多。
那由多「来た」
ウエンヌル「え?」
静かに風が吹く。
* * *
街を抜け、街道を抜ける突風。
実はセツナと瞬のデッドヒート。
余裕のセツナ、必死な瞬。
しかし、普通の人にはただの突風にしか見えない。
* * *
河川敷になだれ込む二人。
競い勝つセツナ。
軽やかにストップすると万歳ポーズ。
セツナ「はい、いっちばーん!」
両手にはお土産袋。更にクーラーボックスを肩に下げている。
* * *
ニコニコのセツナとガックリの瞬。
瞬「競い合いに持ち込んだつもりだったのに……知らない間にお土産まで買ってくるなんて、落ち込むなあ」
セツナ「だって、余所行ったときにお土産買うのは習慣だから。あ、でも前より早くなったじゃない。ちゃんとトレーニングしてたのね、感心感心♪」
那由多「お姉さん、ホントに足早かったんですね。お土産も……」
セツナ「ふふふ、まあね」
ウエンヌル「……この方が統原無量さんのお姉さんですか?」
那由多「ええ、そうです」
セツナ「ザイグル星人さんね」
ウエンヌル「ウエンヌルといいます」
セツナ「そうそう、買い物中らしいから丁度イイわ。あなた、これ買いません?」
ウエンヌル「え?」
クーラーボックスを開けるセツナ。中にはキンキやスルメイカ、シマエビがピチピチと。ギョッとする一同。
那由多「はあ?! 」
セツナ「お昼過ぎだっていうのにラッキーよね。思わず買ってきちゃった。あ、それからホッケの干物もあるんだな♪」
瞬「負けて悔い無し、だな」
那由多「どうでもいいけど、お姉さん、そんなに買うお金がよくありましたね」
セツナ「(那由多に)そう!そうなのよ!つい、調子に乗って買っちゃって今回はお財布ピンチよ、はっきり言って!(ウエンヌルに)ね、買ってくんない?」
ウエンヌル「いや、私はもうすでに買い物は済ませてありますので」
セツナ「えー、いいじゃない」
ウエンヌル「ジルトーシュさんからいただく月ごとの生活費はあまり多額ではありません。したがって予定外の出費はできるだけ押さえるのが私の使命ですので」
セツナ「ジルトーシュはいいの!ほぉら、おいしそうでしょ?」
イカやホッケを見せびらかすも、ウエンヌルは冷静さを崩さない。
ウエンヌル「いりません」
瞬「……宇宙人も大変なんですね」
セツナ「(泣き)私も大変なのよぉ~」
ジルトーシュ「よぉし、買ったぁ!」
セツナ「!」
海岸線の歩道にはジルトーシュ、ハジメを従えて立っている。
ウエンヌル「ジルトーシュさん、しかし……」
ジルトーシュ「ウエンヌル君、臨時予算だ! 今日は何せ、送別会だぁ!」
セツナ「……」
何故か赤面するセツナ、もじもじと。
那由多・瞬「?」
○かもめハウス
ヴェロッシュ達ザイグル星人、サングラスにタキシード姿で現れる。
ヴェロッシュ「ご招待ありがとう」
山本「ああ、いらっしゃい…といってもな、主催者がいないんだ」
ムリョウ「もうすぐ戻ると思うのでちょっとお待ち下さい」
庭には、ムリョウやハジメ、八葉達も立っている。
八葉「パーティーは多い方がいいと言われて来たんですけど……」
磯崎「(憮然と)ジルトーシュが言ったのならいいんじゃないの。私は知りません」
ジロウ「(アツシに)なぁ、おい、何の宴会なんだ?」
アツシ「さぁ……でも、何だか面白そうな顔ぶれだね」
狭い庭に満員電車よろしくたたずむ一同。いずれも所在無げな様子。
ジロウ「そうだな」
ちょうど防波堤沿いの道を京一と晴美が通りかかる。楽しげな二人。
八葉「おお、京一!お前もどうだ!」
ジロウ「よっ、お二人さん!ヒューヒュー!」
ザイグル兵達「(冷静に)ヒューヒュー」
京一「な……」
絶句する京一。ポカーンの晴美。
* * *
京一「お前ら、何をしているのだ!」
ムリョウ「パーティーですよ」
京一「これのどこがパーティーだ!」
狭い庭に、更に京一と晴美も加わってたたずんでいる。
八葉「まぁ、京一、カッカするな。今に豪華食材が到着して楽しいパーティーが始まるぞ。きっと……」
京一「きっととは何だ!」
ムリョウ「楽しみですよね、京一さん」
京一「楽しみじゃない!」
ジルトーシュ「おー、お待たせお待たせ!」
那由多達を従えてジルトーシュ登場。
磯崎「遅いわよ、ジルトーシュ!」
山本「そっちもまた、大人数だな」
ジルトーシュ「うわー、何だい、そのにぎやかさは!こいつは食材を追加しといてよかったねえ」
那由多「京一!あんたまで?」
京一「うるさい!済し崩しという奴だ!」
瞬「あのー、これならいっそ、海でパーティーの方がいいんじゃないですか?」
ジルトーシュ「おお、そうだねえ」
そこにフタバ達、通りかかる。
フタバ「お兄ちゃん、何やってんの?」
ハジメ「パーティー」
フタバ「(かもめハウスを見て)あれがパーティー?」
ジルトーシュ「これからやるんだ、どうだい君らも」
○村田家・台所
夕食の支度中のキョウコ。帰宅したフタバ、先程の件を報告している。
キョウコ「え、また宴会?」
フタバ「今度は送別会!ウエンヌルさんのお友達が国に帰るんだって」
キョウコ「へえー」
フタバ「お兄ちゃんもいるからさ、いいでしょ」
キョウコ「フフ、いいわよ。その前にシャワー浴びなさい」
フタバ「そして、ドレスを……」
くるくると踊るフタバ。
キョウコ「はいはい」
○天網海岸・海の家「つもりや」
バーベキューをしている一同。
ジルトーシュ「かんぱーい!」
一同「乾杯!」
ジロウ「あー、一日に何度も乾杯するって素晴らしいねえ」
山本「津守、いいのか?ここ使って」
八葉「ええ、おじさんには僕から言っておきましたから。ここなら砂まみれにならないし、水道もあるし」
磯崎「一時はどうなるかと思ったわ」
ジルトーシュ「まぁまぁ。為せば成るのさ」
山本「かなり成り行きだな」
* * *
ジュースを那由多に渡すハジメ。
ハジメ「どうぞ」
那由多「ふん、買収には応じないぞ」
ムリョウ「じゃあ、これも」
肉や魚がてんこ盛りの紙皿を手渡すムリョウ。皿をじっと見る那由多。
那由多「……許す!」
笑い合う三人。
* * *
楽しげな一同を見やってヴェロッシュとウエンヌル。
ヴェロッシュ「君を残していくのは正解のようだな、少尉」
ウエンヌル「はい」
ヴェロッシュ「見届けるのだ、これから起きる出来事を。そして考えよ」
ウエンヌル「はい、艦長」
* * *
ミドリ「俺は、デートだ!」
ユカリ「うおおおおおっ!」
瞬「うーん、せいしゅん~」
京一を肴にフタバ達と盛り上がる瞬。
晴美はクスクス、怒る京一。
* * *
淡々と食べて飲むザイグル星人達。
給仕よろしく立ち働くムリョウと八葉。
* * *
セツナ「……」
波打ち際。物憂げに海を見つめるセツナ。そこに近寄るジルトーシュ。
ジルトーシュ「どうしたい?久し振りに会ったってのに、つれないなぁ」
セツナ「……ばか」
ジルトーシュ「そうだな、バカだな」
二人並んで海を見つめる。
それを遠くに見るハジメと那由多。
ハジメ「あの二人、知り合いなのかな?」
那由多「変な詮索しないの。大人は色々あるものよ」
ハジメ「はいはい」
ジロウ「おーい、ハジメーッ!」
ハジメ「おーう!」
宴会の輪に戻るハジメ達。
* * *
大人数で盛り上がる一同。
きれいな星空。
NR「夏が、終わる。暑い日は続くけど僕たちの夏は終わる。いよいよ明日からは新学期。もう、何が起こっても驚かないはずだけど——続きは次回」
(第一四話・完)
☆二〇〇字詰七九枚換算
読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)