第2話『ムリョウのチカラ』
学園戦記ムリョウ
第二話『ムリョウのチカラ』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄
登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
阿僧祇(アソウギ)
統原瀬津名(スバル・セツナ)
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)
津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
成田ジロウ(ナリタ・ジロウ)
川森アツシ(カワモリ・アツシ)
三上トシオ(ミカミ・トシオ)
山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
真守百恵(サネモリ・モモエ)
村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)
野球部A
野球部B
生徒A
生徒B
生徒C
生徒D
生徒E
生徒達
老婆
街の人々
○御統中学・体育館下
運動部の朝練を終えた生徒達が屋根を見上げている。通りかかる山本先生。
山本「どうした~?早く着替えろ~」
野球部A「いや、あの、何か屋根の上で…」
山本「ん?」
野球部B「竜巻みたいなんですけど」
山本「竜巻?」
ジロウと晴美もやって来る。
ジロウ「せんせー!」
不意に屋根の上で突風。周囲の植え込みの木々が揺れる。
一同驚く。
山本、無表情に見上げる。
○同・体育館屋上
向かい合う三つの人影。
荒い息をして前方を睨む京一。
視線の先には涼しげなムリョウ。
その背後にドギマギして立つハジメ。
京一、力を込めて身構える。
京一「くぉおおおっ!」
気合一閃――
○オープニング
○同・体育館屋根上
(サブタイ『ムリョウのチカラ』)
京一の足下から圧力ほとばしる。
四方八方に突風が吹く。
そのうちの大きな固まりがムリョウに向かって飛ぶ。
ハジメ「わわッ」
あせるハジメ。しかしムリョウは平然。
衝撃音。
ムリョウの目前ではじける圧力。プルンとたわむ空気。
京一「クッ」
ムリョウ「気持ちを集中させないとダメだよ」
京一「くぉおおおっ!」
ムリョウに向かって駆け出す京一。
ムリョウ「ごめん」
ムリョウ、ハジメを突き飛ばす。
ハジメ「わっ」
ブザマにこけるハジメ。見ると京一がムリョウに向かって飛びかかっていた。
蹴撃。
するっとそれをかわすムリョウ。
跳躍。
伸身で着地。再び間合いができる。
ムリョウ「君はそっちの方が好きなんだね」
京一「何ッ?! 」
ムリョウ「チカラみたいなまどろっこしいモノでは自分の強さは測れない?」
京一「知った風な口を利くな!」
ムリョウ、クイックモーションでチカラを投げる。驚くハジメ。
京一の顔面すれすれを空気の固まりが襲う。
京一「!! 」
ムリョウ「でも、チカラは頼るものではないよ。使いこなせる己の器を計るもの――」
京一「……」
顔を引きつらせる京一。
無言で京一を見据えるムリョウ。
山本「こ~ら~、なぁ~にやってんだぁ」
呑気な叱責。
ひょっこりと山本、顔を出す。
ハジメ「せ、先生」
山本「予鈴はとっくに鳴ってるぞ。屋上でドンガラドンガラうるさいよ」
あくまでのんびりとした山本の口調。
ムリョウ「(プッ)」
思わず吹き出すムリョウ。
京一「ど……」
目をむく京一。しかしそこに八葉の声が京一の頭に響く。
八葉(声)「やめろ!」
ハッとした京一、校舎の屋上を見やる。
○同・校舎屋上
京一を見つめる八葉と那由多。
穏やかな八葉。
怖い顔の那由多。
○同・校舎
窓から身を乗り出す生徒達。
生徒A「どうしたんだ?」
生徒B「見えねえよ」
校舎の窓からでは体育館の屋根の上は見えない。
○同・階段
生徒C「上だ、本館の屋上だ!」
野次馬な生徒達、階段を駆け上る。
○同・屋上入り口
鉄の扉を開けようと四苦八苦の生徒。
他の生徒は早く屋上に行こうと取り囲む。
生徒C「(駆けつけて)何やってんだ!? 」
生徒D「(扉押しつつ)開かないんだよ!」
○同・校舎屋上
扉の向こうの騒ぎをよそに、京一を見つめる八葉と那由多。
那由多「もう、いいかしら?」
うなずく八葉。
那由多、キッと扉の方を向く。
不意に開く扉。
生徒達「わわわッ」
倒れ込む生徒達。
八葉「何やってんだい、君達?」
生徒C「何って、なんか体育館の上で大騒ぎっていうから…」
生徒E「君らと一緒、野次馬だよ」
八葉「そいつは残念。騒ぎは終ったよ」
一同「えーーっ」
冷静な顔で、那由多。
那由多「とんだ屋上の一騎打ち、でしたね」
生徒D「?」
* * *
屋上を見ると、山本に何やら言われている京一、ムリョウ、ハジメの図。
* * *
生徒C「守口と、だれだあの…何だあの服?」
生徒D「学生服だろ」
ぼけーっとその様子を見る生徒達。それに気付いた山本、大声で
山本「こらーっ、お前ら、教室に入れーっ!」
生徒一同「は、はいっ!」
思わずビクッとする生徒達。あわてて扉へ向かう。苦笑いの八葉。
○同・体育館屋上
生徒達の様子を見やる山本、ため息。
山本「やれやれ…ま、そりゃ朝っぱらから派手なコトすりゃみんな見るやな……いいから、三人とも、教室に戻りなさい」
京一「先生、でも……」
山本「何だ、守口?」
山本、京一をじっと見る。
思わず目をそらす京一。
京一「……いえ、何でも」
ムリョウは黙って見ている。
三人を見比べるハジメ。
NR「まさか二人が超能力で戦ってました、なんてこと言っても信じてもらえわけもないので、取りあえずここはだんまりということで……良くも悪くも、ホント僕は物わかりがいい」
一人ずつステップを降りるハジメ達。
○同・二年C組
国語の授業を受けている一同。
ノートを取っているハジメ。
チラとムリョウを見る。
淡々と黒板を見ているムリョウ。
ヤレヤレとため息をつくハジメ。
○同・中庭
休み時間。
ジロウ達とつるんでいるハジメ。
ジロウ「なー、何があったんだよー」
ハジメ「ケンカだよケンカ。何回言わせたら気が済むんだよ」
トシオ「でもさ、何で副会長は統原君を呼び出したりしたの?」
アツシ「わけあり?何かわけあり?」
ジロウ、アツシ「わけありぃ~~?」
ハジメ「あー、うるさい」
トシオ「そういや統原君は?」
ハジメ「ヤマチューに呼ばれたみたい」
ジロウ「何でお前は呼ばれないの?」
ハジメ「知るかよ!」
空は青空。
三階の窓からハジメ達の様子を見ている守山那由多。
○同・小会議室
ぽつんとハジメと山本二人だけ。
山本「困った奴だな……守口も守口ならお前もお前だ」
ムリョウ「……」
無言のムリョウ。飄々とした表情。
山本「で、見られたんだな?村田に」
ムリョウ「(悪びれず)はい」
ヤレヤレと頭掻く山本。
山本「弱ったなァ……お前ら同士でやり合う分には……いや、やり合うのも問題なんだが……村田は外の人間だからなぁ」
ムリョウ「彼ならば、大丈夫なんじゃないですか?」
山本「どうしてそう言える?」
ニッコリとムリョウ微笑む。
ムリョウ「だって、学級委員ですから」
○同・校舎裏
壁に晴美を追いつめて怖い顔の京一。
京一「どうしてだ!なぜ人を呼んだ!」
晴美「……」
頑なに晴美、うつむいたまま。
京一「それよりもだ!なぜ俺を見張る?! 誰に言われた?」
晴美「……(小声で)言われてません」
じっと地面を見つめる晴美。
晴美「……言われて、ません……」
悲しげな表情の晴美。いらだちを隠せない京一。
京一「なぜ、お前は?! 」
八葉「やめろ!京一!」
いつの間にか京一の背後に立っている八葉。
京一「八葉……」
あわてて晴美立ち去る。それを見送る八葉と京一。
八葉「それよりも、見られたのはまずかったな。二年C組の村田、とかいったなあのメガネの子……」
京一「責任は取る」
プイと顔を背ける京一、立ち去る。
見送る八葉、肩をすくめる。
○天網市・外堀通り
放課後の帰り道。
歩いているハジメとムリョウ。
二人とも無言。
ハジメ「……」
何か話のきっかけを掴もうとするハジメ、キョロキョロと落ち着きがない。
NR「謎の力を持つ転校生。彼の秘密を知りたいのは誰もが同じであろうから……ここは一つ、というわけで——」
ハジメ「え、えーと、あのさ……」
話を振るハジメ、ぎこちない。
不意に立ち止まるムリョウ。
ムリョウ「聞きたいことがあるんだろ?」
ハジメ「え?」
とまどうハジメ。ニッコリ笑うムリョウ。
ムリョウ「こんなとこじゃ何だし、ウチに来るかい?」
ハジメ「え?う、うん」
スタスタと歩き出すムリョウ。あわてて後を追うハジメ。
○同・屋敷町
立派な門構えの真守家。
○真守家・前庭
手入れの行き届いた日本庭園。
キョロキョロと見回すハジメ。
ムリョウ「どうしたんだい?」
ハジメ「いやー、こういう所は中から見たことないもんで……」
感心しきりのハジメ、屋敷を仰ぎ見る。
ムリョウ「俺ん家はこっち」
庭の片隅に小さな離れが立っている。
渋いたたずまい。
ハジメ「(感心)おおー」
引き戸を開けようとするムリョウ、部屋の中を覗いて渋い顔。
ムリョウ「……」
ハジメ「どうしたの?」
怪訝そうにハジメも覗き込む。
ハジメ「!? 」
セツナ「くかーーっ」
部屋の真ん中で寝ているセツナ。
ハジメ「……」
ショートパンツで大の字。
シャツがめくれてヘソが見えている。
○同・ムリョウの離れ
和室の六畳間。
机と椅子の他には家具はない。
向かい合って座るハジメとムリョウ。
二人の前には山盛りの饅頭(銘菓ひよこに似ている)。
しずしずと茶を勧めるセツナ。
セツナ「どうぞ……」
ムリョウ「今更猫かぶってもダメだぞ」
セツナ「ちぇっ」
座り込むセツナ、ドギマギしているハジメに向かってニッコリ微笑む。
セツナ「(ハジメに)あ、君、そのお饅頭おいしいからね、どんどん食べて」
ハジメ「は、はあ……」
ムリョウ「姉のセツナ。大学生」
セツナ「よろしくね」
ハジメ「よ、よろしくです。あの……二人で……暮らしてるんですか?」
セツナ「まっさかァ!あたしはとーきょー。この子はここで一人暮らし」
ムリョウ「姉ちゃん、どうでもいいけど人ん家忍び込むのやめろよな」
セツナ「(ふくれっ面で)いいって言ったんだよ、おばあちゃんが。いいじゃん、たった一人のお姉さんが遊びに来てやってんだからさァ。こうしていつもお土産も買ってきてるじゃん」
饅頭をパクつき出すセツナ。
ムリョウ「食うのはいつも姉ちゃんだろ」
セツナ「えーー、みんなで食べるのがおいしいんだよ」
二人のやり取りを呆然と聞いていたハジメ、気を取り直して
ハジメ「え、えーと……」
ムリョウ「ああ、そうだよな。姉ちゃんのおかげですっかり忘れてた」
セツナ「何よ」
ムリョウ「何聞きたい?朝のことかい?」
ハジメ「ああ、それも聞きたいけどまずは……いいかな?」
ムリョウ「うん」
穏やかにハジメを見つめるムリョウ。
興味津々なセツナ。
ハジメ「……君、何で名字が統原なのに真守さん家にいるの?」
ムリョウ「はい?」
拍子抜けのムリョウ。
目を丸くするセツナ。
ハジメ「いや、その、いいんだよ、複雑な家庭の事情があるんなら…だってその、表札が真守なのになんで統原なのかなァって思ったんだけど…いや、ホームステイとか出戻り…イヤイヤそれを言ったのはウチの妹なんだけど……」
言った後でうろたえるハジメ。
きょとんとしていたセツナ、不意に笑い出す。
セツナ「あはははははははは」
ムリョウ「うーん…まいったなァ」
ハジメ「え?え?」
ムリョウ「そう来たか……君、なかなか出来るヤツだな」
ハジメ「え?」
セツナ「いいなあ、君、いいよ。うん」
ハジメ「はあ」
ムリョウ「俺、ここの家に下宿させてもらってるんだ。君の言うホームステイってのはまあ、当たってるよ」
ハジメ「そう……」
ムリョウ「肉親は姉ちゃんと爺ちゃんと……まあ、その爺ちゃんとここの家の婆ちゃんの約束らしくてね。一四になったらここに来い、ってことでね」
ハジメ「やって来たんだ、長野から」
ムリョウ「そう」
○(回想)真守家・大広間
周囲に居並ぶ一族郎党。
八葉や京一、瞬に那由多の顔も見える。
上座には真守家の当主モモエを真ん中に、守山守口守機津守の四家の当主が横一列に並ぶ。下座には阿僧祇、ムリョウ、セツナがかしこまる。
阿僧祇「かねてからの盟約に従い、我が孫ムリョウ、モモエ様にお預け致す」
モモエ「相わかりました」
丁寧にお辞儀するムリョウ達。
ムリョウ「お世話になります」
○真守家・ムリョウの離れ
ハジメ「へー、昔の映画みたいなシチュエーションだな……ここん家ってそんなに立派だったんだ」
ムリョウ「君、ここの人じゃないの?」
ハジメ「え?父さんは市民税納めてると思うけど?」
ムリョウ「いや、俺と同じでどこかから引っ越してきたのかなあ、ってさ」
ハジメ「ああ…四年前、東京からね」
ムリョウ「そうか……」
顔を見合わせるムリョウとセツナ。
セツナはヤレヤレ、といった表情。
ハジメ「え?何だよ」
ムリョウ「君は何も知らないんだ、この天網市のことを」
ハジメ「え?」
セツナ「いいよ、ムリョウ。教えてあげなさい。この子なら大丈夫かもしれない」
ムリョウ「……」
ハジメをじっと見つめるムリョウ達。
ハジメ「え?え?」
気まずくなるハジメ。
表の庭の木々が揺れる。
セツナ「!」
ハッとするセツナ。
不意に立ち上がるムリョウ。
ハジメ「ど、どうしたの?」
ムリョウ「ちょうどいいや、見に行こう」
ハジメ「え?」
○相模湾上
別空間より出現する“シーカー2”。
○アイキャッチ
○天網市・御輿坂海まで一直線に連なる坂道。
シーカー2が遠くに見える。
街の人々、表に出て海を見つめている。
人々から少し離れたところに陣取って見ているハジメ達。
ハジメ「あ、あれって……」
呆然と見ているハジメ。
対して平然のムリョウとセツナ。
ムリョウ「宇宙人の侵略兵器、だね」
セツナ「そして、あれは……」
シーカーを見やるセツナ。つられて同じ方を見るハジメ。
○相模湾上
シーカー2より離れたところに巨大な“面”が出現する。
○天網市・御輿坂
ハジメ「え?」
セツナ「正義の味方、出現♪」
○相模湾上
面より生えるようにして体が出現していくシングウの巨躯。
シーカー2、戦闘態勢へ変形。
○天網市・御輿坂
ハジメ「……」
驚くハジメに対してムリョウ達は平然。
周囲の野次馬達も驚くことなく、シングウの出現を見つめている。
○相模湾上
向かい合うシングウとシーカー2。
「グオオオーーッ!」
吼えるシングウ。
シーカー2フィールドを展開。
接近しようとするシングウ、弾かれる。
すかさず光弾を連射するシーカー2。吹っ飛ぶシングウ、海中へ墜落。
○天網市・御輿坂
セツナ「あーあ」
ムリョウ「さすがに相手も研究してるな」
落ち着いた様子のムリョウ達。
対して焦ってるハジメ。
ハジメ「……」
ムリョウ「大丈夫だよ」
ハジメ「え?」
○相模湾上
海中より出現するシングウ。
光弾発射するシーカー2。
シングウもフィールドを展開。光弾を弾きながら相手のフィールドに干渉していく。
○天網市・御輿坂
ハジメ「!! 」
手に力が入るハジメ。
周囲も一様に声もなくシングウの戦いを凝視している。
真剣な表情。
○相模湾上
ついにシーカー2に取り付くシングウ。前話の戦いのように両腕を中心にフィールドを発生させていく。
「グオオオーーッ!」
吼えるシングウ。
シーカー2、分離。
シングウの腕から逃れる。
急速に上昇すると合体。そのまま加速して消えていく。
○天網市・御輿坂
セツナ「あーあ」
ムリョウ「仕方がないよ。あれは力押ししかまだ知らないんだから」
変わらず呑気な感じなムリョウ達。
ハジメ「……」
ただただ見入っているハジメ。
○相模湾上
その姿を消していくシングウ。
いつの間にか空が赤い。
○天網市・御輿坂
三々五々に消えていく人々。
ハジメ達とすれ違う老婆。
老婆「まずはよかった……よかった無事で……」
ハジメ「え?」
思わず振り返るハジメ。
ハジメ「あ……」
その先に立っている生徒会の面々。
微笑を浮かべる八葉。
怖い顔の京一。
能面のような那由多、ハジメを一瞥した後、プイと横向き歩き出す。
立ち去っていく生徒会の面々。
ハジメ「……」
あっけにとられるハジメ。
ムリョウ「どうする?何から説明しようか?」
ハジメ「いや…なかなかリアルな巨大バトルは刺激的だったからね。明日にしてよ」
ムリョウ「そう」
セツナ「お姉さんから、アドバイス」
ハジメ「ハイ?」
セツナ「ここしばらく、夜寝るときは靴履いた方がいいよ」
ニッコリ笑うセツナ。
○村田家・全景
月夜。
○同・居間
TVゲームに興じてるフタバ。ひょいと顔覗かせるキョウコ。
キョウコ「あれ、ハジメは?」
フタバ「考え事があるって部屋に行ったよ。へへん、あたしに昨日負けたから逃げたのよん♪」
キョウコ「へえ~、どれどれ」
フタバの隣に座り込むキョウコ、コントローラーを掴む。
フタバ「私は誰の挑戦でも受ける!」
キョウコ「見てなさーい!」
二人、格闘ゲームを始める。
○同・ハジメの部屋
机で考え込むハジメ。
広げたノートにはここ数日の自分の体験が走り書きされている。
NR「つまりは、この間の宇宙人騒ぎと統原君は何らかの関係があり、今朝のケンカからも伺えるように守口京一先輩も何らかの関係があり、更に言うと生徒会の人たちも何らかの関係があるようで、で、もしかしたらひょっとしてあの辺の人たちも何らかの関係があるようで……」
ハッと顔を上げるハジメ。
ハジメ「なんだ、これじゃみんな関係あるみたいじゃないか」
憮然と席を立つハジメ。
○同・居間
ハジメ入ってくる。
ゲームに夢中のフタバとキョウコ。
キョウコ「(モニター見ながら)なあに、考え事は済んだの?」
ハジメ「今日はやめた。明日考える」
フタバ「お母さん強いよ、お兄ちゃんなんか目じゃないよ」
ハジメ「なにぃ」
フタバの隣に座り込むとコントローラーを取り上げるハジメ。
フタバ「ああん」
ハジメ「最強は俺だぞ」
リセットボタンを押して対戦開始。
フタバ「お母さん、やっちゃってもう」
キョウコ「さ~来なさい」
ハジメ「ムッ」
身を乗り出す二人。
○天網市・点景
深夜。街の灯り無く。
○村田家・ハジメの部屋
ベッドに寝ているハジメ。
静寂。
サッシ窓のロックが外れる。
開く窓。カーテン静かに開く。
黒装束の人物するっと入ってくる。
顔には神楽面。
ハジメの枕元に立つ神楽面。
ぐっすりと寝ているハジメ。
神楽面、懐から金属棒を取り出す。
金属棒、先端がパラボラ状に展開。ジリジリと音を立てる。
ハジメの額の辺りに押しあてようとした瞬間――
ハジメ「!! 」
パチッと目を開けるハジメ。
ギョッとする神楽面。
金属棒をかわすハジメ、靴履き。
ハジメ「うわーーーっ!」
バッと跳ね起きて神楽面に体当たり。
倒れ込む二人。転がる金属棒。
上になってるハジメ。
ハジメ「わ、ご、ごめんなさい!」
転がるように窓際へ行くハジメ。
みぞおちにハジメの膝が入った神楽面、苦しげに咳き込む。
ハジメ「わ、わ、わ」
開いた窓から外へ逃げるハジメ。※ハジメの部屋は二階にある
飛び降り、庭に着地。パジャマ姿に靴
履きという格好で通りに飛び出す。
腹を押さえながら後を追う神楽面。
○天網市内
深夜の通りを必死に走るハジメ。
NR「確かに、靴を履いていて正解だった。セツナさん、ありがとう」
振り返ると追いかけてくる神楽面の姿。
ハジメ「わわ…」
○同・交番前
交番に飛び込もうとするハジメ。
しかし引き戸は閉められている。
中に『パトロール中』の札。
ハジメ「ええっ?! 」
ショックのハジメ。
その隙に追いついた神楽面、手刀一閃。
ハジメ「うわっ!」
蹴り、突きの連続技。
ブザマながらこれを避けるハジメ。
交番の隣の公園に駆け込む。
○児童公園
ブランコと小規模なアスレチックがあるちょっと大きめな公園。
ハジメの背後から跳躍して飛び越え、回り込む神楽面。
ハジメ「!」
右手を前に突き出す神楽面。
圧力。
後方のアスレチックの丸太に押しつけられるハジメ。
ハジメ「ぐっ」
神楽面、残りの手で金属棒を取り出す。
ゆっくりとハジメに近づく神楽面。
ハジメ「うう…」
恐怖に顔をゆがめるハジメ。
金属棒の先端、パラボラ状に展開。
ジリジリと音を立てる金属棒。
ハジメ、顔をそむけようとする。
神楽面、右手を動かす。
無理矢理に顔が正面に向くハジメ。
ハジメ「誰かーっ、誰か助けてッ!」
必死に叫ぶハジメ。
周囲の家、反応なし。
ハジメ「誰かーっ!」
金属棒がハジメに迫る。
紋様状に光り出す金属棒。
ハジメ「うわーーーっ!」
閃光。
金属棒の先端はじける。
その場にへたり込むハジメ。
慌てて辺りを見回す神楽面。
ムリョウ「下だよ、下」
たじろぐ神楽面。
ベンチに座るムリョウ、立ち上がる。
ムリョウ「その道具は使い方を間違えるとヤバイんじゃないの。ちゃんと許しはもらったかい?」
神楽面「!」
殺到する神楽面。
突きから蹴りのコンビネーション。
難なくこれをかわすムリョウ。
後ろに跳んで間合いを取る神楽面、右手を突き出す。
圧力。
ムリョウをよけ、後ろに流れるチカラ。
吹き飛ぶゴミ箱。
ムリョウ「器物破損!」
ギョッとする神楽面。
ムリョウ「むやみにチカラを使っちゃダメだ。あーあ、言わんこっちゃない」
おもむろに見上げるムリョウ。
つられて見上げる神楽面、ハジメ。星空。
突如降ってくるシーカー3。
ムリョウと神楽面の真ん中に軟着陸。
変形し、人型へ。
大きさは二メートル位。
神楽面「!」
後ずさる神楽面、シーカー3に向けて
右手を突き出す。
ムリョウ「やめろッ!」
圧力。
シーカー3、フィールドで受け止める。
神楽面「!? 」
動揺する神楽面。
座り込みながら呆然と見つめるハジメ。
シーカー3、金属棒を取り出し、パラボラ状に展開する。
ハジメ「ありゃっ?(同じモノだ)」
触手状の腕を多数展開し、神楽面を捕らえようとするシーカー3。必死にそれをかわす神楽面。
ムリョウ「助けようか?」
いつの間にか神楽面の横にムリョウ。
神楽面「!? 」
ムリョウ「まあ、それが今回の目的の一つでもあるんだけど……」
気楽にシーカー3に近づくムリョウ。
触手の連続攻撃。
軽々とかわしていくムリョウ。
シーカー3、触手を束ねて正拳突き状に攻撃する。
ムリョウ、あえてよけない。
ハジメ「!! 」
ムリョウ、右手で触手の先端を掴む。
ムリョウ「ほい」
くいと小さく捻るとシーカー3、もんどり打って倒れる。
ムリョウ「これも器物破損だな」
起き上がろうとするシーカー3のボディに触れると軽く力を込めるムリョウ。内側から火を噴くシーカー3、機能停止する。
ムリョウ「大丈夫かい、二人とも」
振り返るムリョウ。
いるのはへたり込んでいるハジメだけ。
ハジメ「え?あ、ああ」
ムリョウ「靴履いておいてよかったろ」
ハジメ「う、うん」
ムリョウ「じゃ、また明日…ってもう今日だけど」
公園の時計は午前二時を指している。
ハジメ「丑三つ時かあ」
ムリョウ、いつの間にか姿がない。
ハジメ「あれ?」
立ち上がりキョロキョロ見回すハジメ。
ハジメ「はぁー…」
大きく一つ息を吐くハジメ、がっくり。
そんなハジメの姿を窓の隙間から見ている人々。
○御統中学・二年C組(朝)
予鈴前。
ハジメ「あ~あ…」
大あくびのハジメ。
ジロウ「何だよ徹夜かァ?」
机に突っ伏すハジメを囲むジロウ達。
ハジメ「まあね」
ジロウ「確かに天網市の沖合いで宇宙人が戦った、なんて大事件だからナァ。俺も夜の特別番組、とりあえず三時まではフォローしたな」
アツシ「録画しとけよ」
ジロウ「バカ、こういうのはリアルタイムで見るのがいいんだよ」
トシオ「しかし、白い巨人、って何なんだろうなあ」
ハジメ、ふとムリョウの席を見やる。
ムリョウ「……」
あくびを噛み殺しているムリョウ。なぜか笑みが浮かんでくるハジメ。
ムリョウ、ハジメの視線に気付き、微笑み返す。
予鈴のチャイム鳴る。
* * *
日本史の授業風景(担当は山本)。
あくびを噛み殺すハジメ。
ちらっとムリョウを見やる。
ノートを取っているムリョウ。
ハジメ、天井を見ながらぼーっとする。
NR「とんだ事件続きな今日この頃だけど、まあ、何とかなるだろうと思ってしまうのはどうしたわけだろう。それは恐らく……」
山本「村田!」
ハジメ「は、はいっ!」
不意にさされ慌てて立ち上がるハジメ。
○同・全景
校庭には誰もいない。
フェンスの向こうに人影が一つ。
初夏なのにトレンチコート、帽子にマスクのいかにも怪しい姿。
無言で校舎を見上げている。
NR「何はともあれ、この後にもっとスゴイことが起こるんだけど、それは次回へ――」
(第二話・完)
☆二〇〇字詰八〇枚換算