第3話『その名は、シングウ』

学園戦記ムリョウ

第三話『その名は、シングウ』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ) 
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)※神楽面

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
成田ジロウ(ナリタ・ジロウ)
川森アツシ(カワモリ・アツシ)
三上トシオ(ミカミ・トシオ)

真守モモエ(サネモリ・モモエ)
山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)

トレンチコートの男(ザイグル星人)

女子A
女子B
刑事
柔道部長
剣道部長
サッカー部長
野球部長
陸上部長
バレー部長
バスケット部長
テニス部長
体操部長
警官達
生徒達
天網市の人々

○御統中学・廊下
早歩きの女子生徒。
授業開始のチャイムが鳴っている。

女子A「早く早くぅ」
女子B「ちょっと待ってよォ」

一人はせっかち、もう一人は呑気者。

女子A「ホント、もーアンタはグズグズと」
女子B「そんなこと言ったって……でもイイよね、C組の転校生」
女子A「アンタがそう言うから見に行ったんでしょ」

○(回想)同・二年C組
ハジメ達と談笑するムリョウ。
扉の向こうから覗いてるAとB。

○同・廊下
女子A「顔はともかく、なあにあの服?」
女子B「そこがいいんじゃない。昨日も副会長の守口さんと……」

○(回想)同・体育館屋上
向かい合う京一とムリョウ。

○同・渡り廊下
女子A「何それ、ただの乱暴モンじゃない」
女子B「えー、違うよ!」

二人、体育館に入っていく。

○同・体育館女子更衣室
女子A「ったく、アンタは……」

ドアを開けて入ってくる二人。

女子A、B「!? 」

息を呑む二人。
更衣室内で服をあさっているトレンチコートの男。顔は目深に被った帽子とマスクで見えない。
ハッと顔を上げる男。サングラスが怪しく光る。

女子A・B「きゃーーーっ!」

絶叫の二人。

○オープニング

○御統中学・全景
休み時間のチャイム。

(サブタイトル『その名は、シングウ』)

○同・二年C組
中休み。
ハジメはアツシ、トオルと談笑中。
そこへジロウ、息せき切って駆け込んでくる。

ジロウ「おー、何か警察来てんぞ!」
アツシ「変質者、だっけ?女子更衣室?」
トオル「(顔赤くして)ぼ、僕に聞くなよ」

ムリョウは自分の机で大あくび。

アツシ「しかし、あれだな。宇宙から侵略者が来ようかってのにスケールがトホホな事件だなァ…」
ハジメ「で、何やったの?変質者の人」
ジロウ「ちょうど二年のEFクラスの体育だったみたいでさ、盗まれたんだって!女子の服が!! 」

○同・体育館前
現場検証を終えた警官が帰り支度。遠巻きに見ている野次馬な生徒達。
体育教師の磯崎公美と刑事を前にして憮然としている那由多。赤いジャージ姿のまま。

刑事「いやあ、運が悪かったよねえ」
那由多「ええ、まぁ……」
刑事「守山那由多さん……そうか、君は天網神社の宮司さんのお嬢さんか。道理で見覚えがあったと思ったよ。去年のお祭り、大活躍だったよね」
那由多「……ありがとうございます」
磯崎「どうする?もう家帰る?」
那由多「いえ。このまま授業受けますので。大丈夫です」
磯崎「そう」

○同・廊下
ズンズン歩く那由多。怖い顔。
生徒達、圧倒されて思わず道を開ける。

      *   *   *

二年C組の前を通る那由多。
中で談笑中のハジメ達を横目に見る。
ハジメと那由多、目が合う。

ハジメ「!? 」

ギクリとするハジメ。

那由多「(フン)!」

一瞥するなりそっぽ向く那由多、通り過ぎる。

ジロウ「うへー、被害者は副会長の守山かァ」
ハジメ「……」

複雑な表情のハジメ。
ムリョウは机で寝ている。大あくび。

     *   *   *

大あくびしつつ角を曲がる那由多。
壁にもたれた京一、待ちかまえている。

京一「とんだ災難だな」
那由多「大きなお世話よ」

行き過ぎようとする那由多。
すれ違いざまに京一

京一「どうやら一匹紛れ込んでるらしい」
那由多「(立ち止まって)どういうこと?」

京一「気を付けろ、八葉と瞬がそれとなく探っている」

じっと京一を見る那由多。

○同・二年C組
授業中。
黙って黒板の文字をノート取っているハジメ。
ジロウはウトウト居眠り。
ムリョウは淡々と黒板を見ている。

NR「一見いつもと変わらない日々の風景、しかし、何かが変わってきている。宇宙人に変質者、そして更には……」

○同・全景
青空。
休み時間のチャイム、鳴る。

○同・中庭
車座になって弁当を広げる女子生徒達。

○同・購買部校舎の渡り廊下に屋台状の出店。
調理パンや飲み物を買おうと生徒が殺到、賑わっている。

○同・二年C組
昼休み。
一同、各々に食事中。
扉の外に大勢の三年生。皆、体育会。

柔道部長「統原無量君はいるか!! 」

焼きそばパンくわえてるムリョウ。

ムリョウ「はい?」

ムリョウのもとに殺到する体育会連合。
キョトンとするムリョウ。

柔道部長「君は柔道をやるしかない!」
ムリョウ「え?」
剣道部長「いや、剣道だ!」
ムリョウ「は?」
サッカー部長「違う!サッカーだ!」
野球部長「野球だ!」
陸上部長「走ろう!」
バレー部長「スパイク!」
バスケット部長「シュート!」
テニス部長「スマッシュ!」
体操部長「宙返り!」

呆然としているムリョウ。クラスの連中も唖然。おずおずとハジメが代表で

ハジメ「あの、何なんですか、一体?」
柔道部長「何って、決まってるじゃないか。勧誘だよ!」
ハジメ「いや、勧誘はわかるんですが、何をそんなに……と」
剣道部長「君もいたそうじゃないか!昨日の朝、守口と彼が果たし合いをしたときに! わかるだろ?! 」
ハジメ「はぁ」

サッカー部長「あの、守口京一とやりあって五体満足で済んでるンだぞ!」
野球部長「今、こうして呑気に焼きそばパン食ってるんだぞ!」

圧倒されるハジメ。

ハジメ「はあ…」

昨日のムリョウを思い起こすハジメ。

     *   *   *

(回想)体育館屋上
京一の攻撃を軽やかにかわすムリョウ。

     *   *   *

(回想)児童公園
シーカー3を倒すムリョウ。
     *   *   *

ハジメ「ああ…そうですね」
柔道部長「だろう!」

顔をハジメに近づけて熱っぽく

柔道部長「あの、守口京一に引けを取らない彼の格闘センス運動センスは我が柔道部に必要だ!どうだい、統原君!」

いつの間にかムリョウの姿はない。

ハジメ「あれ?」
柔道部部長「統原君!」
部長達「統原君!」

一同キョロキョロと辺り見回す。

○同・屋上
屋上の出入り口の上の部分。
そこに設置された給水タンクは御統中学で一番高い場所。
ムリョウ、給水タンクの柵に寄りかかり、コロッケパンを食べている。
上方よりボーイソプラノ。涼しげな声。

瞬「購買部の調理パン、おいしいでしょ」

浄水槽の上に守機瞬。

ムリョウ「うん」

至って呑気に食べるムリョウ。

瞬「特にお勧めは、焼きそばパン」
ムリョウ「それはさっき食べた」
瞬「で、どうでした?」
ムリョウ「……うまかった」
瞬「それはよかった」

ひらりと飛び降りる瞬、物音無くムリョウの隣に座る。

ムリョウ「ふうはい(食うかい)?」

コロッケパンを口にくわえ、持っている袋からアンパンを取り出すムリョウ。

瞬「ありがとう」

その一方をつかみ、半分にする瞬。

瞬「僕は二年A組の守機瞬です」
ムリョウ「知ってる。生徒会の書記だっけ」
瞬「そしてあなたは……フフッ、一躍有名人ですね、統原無量サン」
ムリョウ「フム……」

しばし沈黙、パンを食べる二人。
空には流れる雲。

ムリョウ「……で、見つかったの?」
瞬「全然。どうやらフィールドを張って我々から隠れているようです」
ムリョウ「狙いはわかってるんだから、いいじゃない泳がしとけば。出てきたところを叩けばいいんじゃないの」
瞬「そういうわけにはいきませんよ。ここは学校なんだから。ほかの人達もいるんですから」
ムリョウ「ああ……それもそうだね」

コロッケパンを口に押し込み、指をなめるムリョウ。それを横目に見る瞬。
微笑みがこぼれる。

瞬「不思議な人だなぁ」
ムリョウ「誰が?」
瞬「あなたですよ、あなた」
ムリョウ「フーン、そうかい?」
瞬「京一さん、おかげで昨日からおこりん坊で大変ですよ。『チクショウ、チクショウ』って」
ムリョウ「ははは」
瞬「どうして、この街に来たんです?」
ムリョウ「フム……」

おもむろに立ち上がるムリョウ。

ムリョウ「……」

空を見上げるムリョウ。
ムリョウを見つめる瞬。
チャイムが鳴る。

ムリョウ「でさ」
瞬「え?」
ムリョウ「折り入って相談があるんだけど」

照れ笑いのムリョウ。

○同・裏庭
地面を睨み付けている那由多。
その横には八葉。
打ち捨てられている那由多の服。

那由多「……」
八葉「何らかの科学的な方法でデータを収集した形跡がある」
那由多「……」

じっとボロボロの服を見る那由多。

八葉「我々はもう、かつての我々じゃない。そのことを踏まえて、行動してくれ」
那由多「……お気に入りだったのに」

始業のチャイムが鳴る。

○同・体育小屋
器具類が沢山置かれた物置。
その片隅で怪しい光がぼうっと光る。
特殊なフィールドに包まれているトレンチコートの男、ヨガのポーズのように小さく胡座をかいて座っている。

コートの男「ΣβαεΦΩθΨ……」

言葉にならない言葉をつぶやく男。
腕時計状の機械を操作する男。
男の目の前にいくつかの立体画像。昨晩(二話)の戦闘データやら接触した地球人の顔写真並びに生物的特徴を整理している。
チャイムの音が遠くに——

○同・二年C組
ホームルームの時間。
教壇には司会進行のハジメ。
担任の山本はパイプ椅子を窓際に置いて見物している。

ハジメ「エー、今日の議題ですが、そろそろいいかなっていうんで体育祭の実行委員とか諸々決めるということで。文化祭の実行委員の方も決めますので立候補推薦よろしくお願いします」
ジロウ「立候補、俺しちゃおうかなァ?」
ハジメ「はいはいそのうちによろしくね」

一同笑。

ハジメ「えーと、それじゃあまず……」
ムリョウ「委員長」

手を挙げるムリョウ。

ハジメ「はい、統原君」
ムリョウ「します、立候補」
ハジメ「え。」

キョトンとするハジメ。

ムリョウ「で、体育祭実行委員は応援団長の立候補資格があるっていうから……ついでにそれも立候補します」
ハジメ「え?」
ムリョウ「それから文化祭の実行委員にも、立候補します」
ハジメ「ええーっ!? 」

びっくりするハジメ。
クラス一同もあ然。
一人山本はニヤニヤ。
真面目な顔のムリョウ、直立不動。

○同・前庭
掃除の時間。
職員専用口前の小さなロータリー。
ハジメとムリョウ、トシオ達はアスファルトの路面や側溝を竹箒で掃いている。

ハジメ「統原君、どういうつもりなの?」
ムリョウ「え?」
ハジメ「体育祭の応援団長だよ、わかる?」
ムリョウ「わかるから立候補したんだけど」
ハジメ「文化祭の実行委員会だよ、わかる?」
ムリョウ「わかるから立候補したんだけど」
ハジメ「両方だよ両方、両方立候補するって
どういうつもり?体育祭に文化祭って」
ムリョウ「だから、やるつもり」
ハジメ「あのさぁ……」
トシオ「鈍いな、ハッちゃん」
ハジメ「え?」
トシオ「昼間の騒ぎだよ。あんなに運動部の先輩達が入部しろしろって、面倒くさいじゃないの」
ハジメ「うんうん」
トシオ「生徒会で忙しい、ってことにしとけば運動部は無理強いできないよ。ここの運動部、生徒会には弱いからね」
ハジメ「そうなの、統原君?」
ムリョウ「まあね」
ハジメ「ふーん。でも、統原君が生徒会を言い訳のダシに使うなんて意外だなぁ」

頭かくムリョウ。

ムリョウ「いや、俺もそう思ったんだけど、あっちが勧めるもんでね」
ハジメ、トシオ「え?」

○同・生徒会室
八葉と京一に瞬、掃除中。
京一「統原無量を応援団長ォ?! 」

顔が真っ赤な京一、怖い目。

瞬「うん、それでもって文化祭の実行委員もやってもらっちゃおうかな、ってね」
京一「何を考えてる!! 」

怒鳴り出す京一。

八葉「まあまあ」
京一「まあじゃない!」
瞬「悪い人じゃなさそうだしさ、死んだおじいちゃんも言ってたし。『困ってる人には親切にしよう』って」
京一「困ってるのはこっちの方だ!何で今この時にノコノコやって転校して来たんだ、あいつは!」
瞬「何はともあれ、これで体育祭も盛り上がること間違いないですよ」
京一「?」
瞬「天網市随一の強持ての守口京一サンを手玉に取った謎の転校生、これを利用しない手はないじゃない、なんちゃって」

キッと瞬をにらみつける京一。

京一「瞬…お前、やけにあいつの事肩持つじゃないか」
瞬「アンパン半分もらったし」
京一「なにッ!? 」

サッと京一の間合いから遠ざかる瞬。

八葉「はははは、そうだな…統原君は二年C 組らしいから紅組団長か。京一、お前もどうだい、白組団長とか」
京一「ふざけるなッ!! 」

部屋から乱暴に出て行く京一。入れ替わりに晴美、入ってくる(手にバケツ)。

晴美「あのぉ、どうしたんですか?」
瞬「どうしたんだろ?」

ため息混じりの八葉。

八葉「京一も那由多も彼を意識しすぎてるな」
瞬「八葉さんみたいにはいかないですよ、みんな……」

心配そうな顔の晴美。

○同・二年E組
怖い形相でモップがけの那由多。
那由多「許さない、許さない、許さない、許さない!! 」

○アイキャッチ

○同・廊下
掃除を終えて教室に戻るハジメ達。

ハジメ「じゃ、先行ってて」
ムリョウ「どこ行くの?」
ハジメ「トイレ」

一人別の道を行くハジメ。

○同・男子トイレ
水を流す音が聞こえる。
洗面所で手を洗っているハジメ。

NR「様々な疑問が、訳の分からないまま詰まりまくり、頭が便秘のようで気持ち悪い」

鏡に向かって(カメラ目線で)ポツリとハジメ。

ハジメ「ちなみに腹の方はすこぶる快調なんですけどね」

突如、背後の個室より光。
ギョッとするハジメ。
次いでぬっと出てくるトレンチコートにサングラスの男。

ハジメ「え…?」
ギョッとするハジメ。

コートの男「ホンヤクキノウ、不調……翻訳機能、フチョウ……」

機械的な声のトレンチコートの男。

コートの男「アナタ、ヲ、ホンノスコシスコシ、コウソクシマス。セイメイ、ニ、ハ、キケンアリマセン」

顔がひきつるハジメ。振り返る事ができず、鏡越しに相手を見つめるのみ。

ハジメ「……」

ゆっくり近づいてくるコートの男。

ハジメ「クッ!」
思い切って出口へ駆け出すハジメ。
突如男の片腕がゴムのように伸びる。
行く手を遮られるハジメ。

ハジメ「!!」
コートの男「コワクナイ、オトナシクシロ」
ハジメ「その言い回しが充分怖いよ」
コートの男「アナタノズノウ、キオクチュウスウヲブンセキシマス。サイボウ、サイシュ」

残りの腕で金属棒(二話と同種のもの) を取り出す男。

コートの男「イタクナイ、イタクナイ」

金属棒、パラボラ状に展開。中央の尖った部分が高周波振動。歯科器具のような金属音が響く。

ハジメ「うわーーっ!! 」
神楽面(声)「伏せろ!」

頭の中に直接響く声。思わずしゃがみ込むハジメ。

ハジメ「!」

鏡が壁ごと円形にぶち破られ、その塊が男を直撃する。吹っ飛ぶ男。

コートの男「ギ。」

反対側の壁にめり込み、倒れ込む男。
ピクリとも動かない。呆然とそれを見
やるハジメ。

ハジメ「!? 」

ふと振り返るハジメ。穴の開いた壁の向こうに神楽面を付けた黒装束の人物。

     *   *   *

(二話の回想)
神楽面におそわれるハジメ。

     *   *   *

ハジメ「出たーーっ!」

○同・廊下
トイレからあわてて飛び出すハジメ。

ハジメ「わ、わ、わ」

その後を追って女子トイレから出てくる神楽面。

○同・男子トイレ
倒れていたコートの男、ピクリと動くや、起き上がる。壊れたサングラスの下にのぞくザイグル星人の顔。赤く光る目。

○同・裏庭
焼却炉がある狭い裏庭。
駆けてくるハジメ。

ハジメ「誰かーっ、助けてーっ!」

空中回転して先回りの神楽面、ハジメの前に立ちはだかると右手を前に突き出す。(ちょっと待てのサイン)

ハジメ「ヒッ」

一歩前に出る神楽面、一歩後ろに下がるハジメ。

ハジメ「わ、悪かったよ、昨日のことは…わざとじゃなかったんだ」

更に後を追ってトレンチコートの男。
神楽面、ハジメをかばうように回り込むと即座に右手を突き出す。
衝撃。
しかし、コートの男動じない。フィールドを展開し、これを受け止める。

神楽面「(ギョッとする) !? 」

引き続き連射する神楽面。意に介さないコートの男、ゆっくりと近づく。

コートの男「分析、の結果アナタの、チカラはワレワレノ求めている対象のチカラにヒジョウに近い数値、デス。ワレワレノ母艦マデ、同行願いマス。手荒なことは、イタ、シマセン」

思わずひるむ神楽面。

ハジメ「に、逃げよう!」

ハジメ、神楽面の手を引く。

神楽面「?!」

神楽面、ギョッとするも下に向かって衝撃波。土煙立ち上り、畳返しのように地面持ち上がる。行く手を遮られるコートの男。

コートの男「αΣΦΞ !! 」

○雑木林
城跡(表は平城、裏は山城状)に建っている御統中学校。
その裏手に連なる雑木林を走っているハジメと神楽面。手を引いて走っているのはハジメの方。
息が切れた神楽面。ハジメの手を振りきるように立ち止まると、膝に手を当てる。

神楽面「(荒い息)……」
ハジメ「あの…苦しいんだったらお面取った方がいいよ。正体隠すためなら大丈夫、わかってるから」

ピクッと反応する神楽面。

ハジメ「(恐る恐る)……守山那由多さん?」
神楽面「……」

動かない神楽面。

ハジメ「……あの?」

不意に跳ね起きる神楽面、ハジメの鼻先に顔近づける。
ハジメ「!? 」

神楽面、その自身の面をはぎ取る。その下には守山那由多の真っ赤な顔。

那由多「なんで?どうしてわかったの?」
ハジメ「……ジャージに上履き」

黒装束の間からチラリと見える赤ジャージ。おまけに足には上履き(名前入り)

那由多「あ。」
ハジメ「ごめん、昨日のこと…お腹に膝蹴り、わざとじゃなかったんだ」
那由多「襲ったのはこっち。反撃されるのも覚悟のうちよ」
ハジメ「あ、いや、でも…」

顔を更に赤らめる那由多、ムキになる。

那由多「あなた、人が忘れたフリしてるのに突っ込まないでよ!いいったらいいの!」
ハジメ「はぁ」
那由多「とりあえずあなたは逃げなさい。あいつのターゲットは“私たち”から“私” に絞られたみたいだから」
ハジメ「私たち?」
那由多「あなたと私!それにあの……統原無量って子!昨日、あの公園にいた三人よ!」

そこへ突如伸びてくるコートの男の腕。
間一髪でよけるハジメと那由多。
木の幹に突き刺さる男の手。ままそれを視点として腕を縮めて飛んでくる。

ハジメ「わっ?! 」

幹にぶつかる寸前に弾むように空中回転、そして着地。

コートの男「サガシマシタヨ、コンチクショ」
那由多「逃げなさい!」

ハジメを突き飛ばす那由多。

ハジメ「わっ!」
那由多「早く!」

衝撃波を放つ那由多。しかし、フィールドでこれを相殺する男。
お返しに伸びる両腕、那由多を掴む。

那由多「クッ」

コートの前が開かれ、もう一本の腕が現れる。手には先ほどの金属棒。
伸びる第三の腕、那由多に迫る。
観念してギュッと目をつぶる那由多。

ハジメ「ええい!」

石を投げるハジメ。
見事、男の頭部に命中。もんどり打って倒れる男。那由多を掴む腕が緩む。

那由多「!! 」

跳躍して拘束を解く那由多。黒装束が脱げ、ジャージ姿になってハジメの傍らに着地。
ハジメ、男に向かって石を投げ続ける。

那由多「バカ!何で逃げないの?! 」
ハジメ「抱きついちゃった女の子を放っておけるかって!」

     *   *   *

(二話の回想)ハジメの部屋
寝ているところを襲撃されるハジメ。
もつれて倒れ込むハジメと那由多。

     *   *   *

赤面する那由多。

那由多「何よそれ!? 」
ハジメ「それよりもこいつ、君のスゴイ念力よりもこっちの方が利くみたいだ……」

ヨロヨロと起き上がろうとする男。帽子が取れ、サングラスが割れてその顔が明らかになる。
昆虫のような眼、鳥類のような口——

コートの男「グワッ!? 」

次々と男に命中する石つぶて。
ハジメに加えて那由多も一緒になって投げつける。

コートの男「イ・イ・カゲンニ……好い加減にしろ!この野郎ォッ!! 」

いきなり流暢な日本語になる男、そのまま後ろにぶっ倒れる。

ハジメ「逃げよう!」

那由多の手を持って走り出すハジメ。

那由多「あ……」

気絶寸前な男、ヒクヒクと。

コートの男「翻訳機能、正常に作動。されど我、行動不能……救援、求む」
音声「ΛΦΨ」

シーカー2のコンピューター、返答。

○裏山
雑木林を走る二人。
林は学校の裏山につながっている。
坂道を上る二人。
所々に転がる道祖神状の石像。
熊笹が鳴る。
木々がざわめく。
不意に立ち止まる那由多。

ハジメ「どうしたの?」
那由多「…来た」
ハジメ「え?」
那由多「こっちへ!」

走り出す那由多。慌てて追うハジメ。

○相模湾・天網港沖合
異空間より海上に出現するシーカー2。

○裏山・高台
天網湾を一望できる高台にやって来る
那由多とハジメ。
シーカー2の出現をかいま見る。

ハジメ「あれは……」
ムリョウ「よう、来たかい」

目の前には草むらに腰掛けてアンパンを食べているムリョウ。

ハジメ「統原君!! 」
那由多「……」
ムリョウ「カバン、持ってきたよ。守山さんのカバンは……人のクラスは勝手が分からないから持ってこなかった。ゴメンな」

至って呑気な物言いなムリョウ。

ハジメ「そ、それどころじゃないよ、統原君! 海にデカブツ、学校に怪人だよ!」
ムリョウ「奴らは昨日の晩の戦いでこの街にシングウのチカラの源があることを推測した……その理由は、わかってるね」
那由多「……」

答えられない那由多、ムリョウを睨む。

ムリョウ「そして、今日の君の行動で、奴らの推測は確信に変わった。君のチカラは君だけのものではない。軽率過ぎるぞ!守山那由多!」
那由多「!」

打って変わって厳しい表情のムリョウ。
悔しそうにうつむく那由多。
事情のわからないハジメ、二人の顔を見比べてオロオロ。

○相模湾・天網湾沖合
シーカー2、その巨躯の全てを出現せしめ、体中からセンサーを伸ばして周辺のネットワーク掌握を開始する。

○裏山・高台
那由多「この落とし前、私がつけます」

キッパリと言い放つ那由多、両手を胸の前で組む。

那由多「シングウ!」

那由多の足下に風が舞う。

ハジメ「も」

姿が粒子状になり空気に消える那由多。
地面に残るチカラの印。

ハジメ「守山さん?! 」
ムリョウ「シングウのチカラ、人から躯へ。ホシノチカラ、ムリョウノチカラ、躯は新たな依代となる——」
ハジメ「??」

○相模湾・天網港沖合
空中に出現する那由多。

○裏山・高台
ハジメ「えっ?! 」

ギョッとするハジメ。

○相模湾・天網港沖合
直ぐさま那由多の周囲に粒子が集まる。
形成される巨大な面。
シーカー2、攻撃。光弾が面を襲う。
防御。
強力なフィールドでこれを防ぐ面。
面から体が生えるようにシングウ登場。
吼える、シングウ。

「グオオオーーッ!」

対峙するシングウとシーカー2。

○裏山・高台
八葉「やっぱり、知っていたんだね。僕達の秘密を」

いつの間にかムリョウとハジメの背後に立っていた八葉と京一、瞬。

ムリョウ「知っていたも何も、僕は君達を守るためにやって来た」
京一「何ッ!」

いきり立つ京一を手で制する八葉。

ムリョウ「俺の爺ちゃんとお宅らの本家の婆ちゃんとの約束だ。シングウの源になる者、そのチカラ強大なれど、徒手空拳の戦いは不得手なり。守る者、これ必要!」

○相模湾・天網港沖合
一同の会話中にカットバックされるシングウとシーカー2の戦闘。
互いに飛び道具の応酬。
シングウ、胸より数条の光線。
シーカー2、光弾連続発射。
いずれもお互いのフィールドで無効化。

○裏山・高台
京一「そのための、我々だッ!」

ムリョウを睨み付ける京一。
八葉「それ程の事が起きるというのかい?天網の街の民だけでは彼女を守れない、何かが起きる?」
ムリョウ「わからない。でも、爺ちゃんが言ったんだ。『時は来た』」

○相模湾・天網港沖合
分離するシーカー2、体当たり。
揺らぐシングウ、光線を放つが弾かれてしまう。

○裏山・高台
ハジメ「守山さん!」
京一「那由多ッ」

思わず身を乗り出すハジメと京一。
静かに戦況を見ている八葉とムリョウ。
瞬はそんな両者を見比べている。

○相模湾・天網港沖合
左腕を突き出すシングウ。物凄い勢いで肘から先がシーカーの一方へ向かって飛んでいく。
激突。
フィールドの干渉を破り、シーカー2 のボディーをぶち破る左の拳。
今度は右の拳が飛ぶ。
激突。
同様にフィールドをぶち破る右の拳。

「グオオオオオーーッ!」

突き立てた左右の腕から空間が歪む。

○天網市・御輿坂
坂の上から戦いを見つめる人々。
その中には真守家の当主モモエがいる。

モモエ「腕を飛ばすとは考えましたね」

隣にいるのは山本先生。

山本「ええ、やられたらやり返す子ですから」
モモエ「勝ち気ですねえ」

○相模湾・天網港沖合
粒子状に消えていくシーカー2。
海上に浮かぶシングウの巨躯。

○裏山・高台
ハジメ・京一「やったーーっ!」

ムリョウと八葉も互いの顔を見て喜ぶ。

瞬「あのー…お喜びのところすみません」
八葉「どうした?」

瞬、ハジメを指さして
瞬「僕らの秘密、彼に見られちゃってるんですけど……いいの?」
ハジメ「え?」

とまどうハジメ。凍り付く京一と八葉。ムリョウはヤレヤレと苦笑い。

NR「学校のトイレで用を足したのが運の尽き……何だかとってもマズイ感じ、というところでこの続きは、次回へ——」

         (第二話・完)

☆二〇〇字詰八〇枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)