第18話『うけついだ、悲しみ』

学園戦記ムリョウ

第一八話『うけついだ、悲しみ』(第一稿)

脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ)※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機 瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)

成田次郎(ナリタ・ジロウ)
川森 篤(カワモリ・アツシ)
三上利夫(ミカミ・トシオ)

堀口正夫(ホリグチ・マサオ)
井上卓也(イノウエ・タクヤ)
山下毅雄(ヤマシタ・タケオ)
真弓 司(マユミ・ツカサ)
進藤秋美(シンドウ・アキミ)

真守百恵(サネモリ・モモエ)※少女時代も
守山 載(モリヤマ・サイ)
守口 壌(モリグチ・ジョウ)
守機 漠(モリハタ・バク)

山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
ソパル星人

官房長官
男A
愚連隊
うらなり君
女の子A
管制官

生徒達

○御統中・点景
昼休み。晴れた青空。花壇にはコスモス。くつろぐ生徒達も半袖がまだまだ多い。

○同・放送室内
放送室内の収録ブース。床に座る祭りクラブの一同を前に仏頂面の那由多。

那由多「えー、それではもう一度今回の集まりの目的を説明します。『天網市の祭り』 講座の第三回。今回は、実際に過去の資料映像を見ることによって、より、この街のお祭りを理解していただこうということです…ってこらっ、そこっ!あくびしない!」
ジロウ「だってさぁ、狭いし暑苦しいし、空気悪いしここ……」
ハジメ「我慢しろよ。機械の都合でここしか使えないんだからさ」
八葉「空調の故障らしいな…」
ムリョウ「成田君、ちょっと外の空気吸ってきたら?」
那由多「だめっ!もうすぐ始まります!」

うんざり、といった感じのジロウ。

ジロウ「どうでもいいけど何でこんなに人がいるんだよ」

ブース内にはクラブの面々の他に二年C組のクラスメートも多数。

正夫「俺はハッちゃんが来てもいいと言ったから来たんだけど」
卓也「俺はアツシ」
毅雄「俺も」
ジロウ「お前らなァ」
アツシ「ごめん」
ハジメ「こんなにみんなが来てくれるとは思わなかったんだよ」
ジロウ「だからって部外者をホイホイ呼ぶってのは調子よすぎだぞ」
ツカサ「私はジロウが来てもいいっていうから来たんだけど?」
アキミ「私も」
他の女子生徒「右におなーじ!」

ハジメとアツシ、ジロリとにらむ。ジロウ、話を逸らそうと大声で。

ジロウ「稲垣先輩、まだですかー?」
ひかる「ほいほい、もう少しー!」

隣の調整室ではビデオの調整中のひかるとトシオ。床には工具やら基盤やらケーブルが散乱している。

ひかる「昔のデータフォーマットだからね、モニターに映すまでが、まぁ、一苦労なのだよ。よし、いいかな?」
トシオ「いけます」

オーケーサインのトシオ。それを見て勢いづく那由多。

那由多「はい!それでは早速始めましょう! その前にもう一度今回の集まりの目的を説
明します!『天網市の祭り』講座の——」
ジロウ「それはもういいよ……おっ」

いきなりスクリーンモニターに流れるフィルム映像。粗い粒子に傷の多い画面。大昔の自主映画。

一同「おおっ?! 」

タイトル『こゆるぎ野郎』

○オープニング

○御統中・外
引き続き昼休み。校舎の窓に秋の雲が流れる。
渡り廊下をのっしのっしと歩く那由多。

(サブタイトル『うけついだ、悲しみ』)

○同・生徒会室
那由多「ああ、ホントにもう!」

扉を開けて入ってくる那由多。中には談笑中の京一と晴美。

那由多「あら、お邪魔だったかしら」
京一「(赤面して)な、何を言っている!」
晴美「(意に介さず)どうしたの?お祭り講座は?」
那由多「中止。流そうと思ったビデオが全然違うモノだったの!」
晴美「八葉さんは?」

椅子に腰掛ける那由多、不機嫌な顔。

那由多「まだ放送室よ。あ~、山本先生に文句言ってやんなきゃ!何が祭りの資料映像よ!」

立ち上がって出ていく那由多。後に残された京一と晴美、ポカン。

京一「何だあいつ?」
晴美「さぁ……」

○同・職員室
山本に食ってかかっている那由多。山本、事情がわからずポカン。

山本「祭りが映画ぁ?」
那由多「そうです!お借りした“社会科の映像資料、『天網市の御輿下ろし』時間三〇分、旧式フォーマットのため再生には専用機を使用して下さい。”長々パッケージの表に書いてありましたけど全然、違うものが入ってました!」
山本「ああ、昨日貸した古いビデオか。何が入ってたんだ?」
那由多「映画です!」
山本「映画?」

怪訝な顔の山本。

○同・放送室
狭いブースでビデオを鑑賞中のハジメ達。前よりも見物人、増えている。

   *   *   *

愚連隊A「お熱いねえ、お二人さん!」
うらなり君「やめたまえ君達!」
女の子「誰か、誰か助けてッ」

街の愚連隊に絡まれる中学生の図。
しかし素人芝居ゆえ上手く決まらない。

一同「(爆笑)」
ジロウ「あはは、何だよこりゃ」
ブースにひょっこり顔を出す山本(那由多も同行している)。

山本「おお、ずいぶん盛況だな」
ハジメ「あ、先生」
山本「何の上映会なんだ、こりゃ?」
那由多「だからお借りしたビデオがあれだったんですよ!」

怒る那由多をよそに山本、画面に釘付け。驚きの表情を浮かべる。

山本「ああ?」
那由多「え……あ!」

那由多も驚く。

ハジメも八葉もびっくり。
ハジメ・八葉「ああっ?! 」
山本「ありゃ、真守の御当主じゃないか?」

通りの角より少女時代のモモエ、ギターを弾きながら登場。

モモエ「ちょっとお待ちなさい」
ハジメ「モモエお婆ちゃんが中学生?」
ビデオケースを見るひかる。ひかる「一九七〇年、っていうから一〇〇年前だね、ちょうど」
那由多「一〇〇年?! 」

呆然とモニターを見るハジメ達“関係者”。他の連中は無責任に大喜び。
突如画面は防波堤で絶叫するモモエ。

モモエ「海の、バカヤローーッ!」

○同・点景
終業のチャイム。下校する生徒達。

○真守家・外
庭に咲きこぼれている芙蓉の花。

モモエ「ほほほ.まぁ懐かしい」

モモエの笑い声が自室より聞こえる。

○同・モモエの部屋
電話で山本と通話中のモモエ。

モモエ「そう、昔の自主映画が入ってたの? 何でまたそんなものが.」
山本(声)「私にもわかりません」

○御統中・職員室
自分の机で通話中の山本。

山本「ただ生徒達は大喜びでして。これからまた上映会をするそうですよ」
モモエ(声)「あらあら、祭りクラブはどうするのかしら?」
山本「ええ、気をもんでるのは守山那由多ただ一人、ってな感じでして」
モモエ(声)「あらまあ」

○真守家・モモエの部屋
嬉しそうな表情のモモエ。

モモエ「那由多ちゃんは祭りクラブに反対してたんじゃなかったの?」
山本(声)「ええ。ですが今じゃ村田や八葉の尻を叩いてますよ」
モモエ「ほっほっほ」

○同・生徒会室
向かい合って作業中の京一と晴美。
目を落としたまま会話の二人。

京一「八葉や那由多はどうした?」
晴美「言い忘れていました。お祭り講座の続きで遅くなるそうです」
京一「またか.」

舌打ちする京一。
無表情で作業を続ける晴美。

○同・放送室
ブース内のモニターの前でハジメ、挨拶。昼休みよりも見物人が増えている。

ハジメ「えー、それでは今回の集まりの目的を説明します。ひょんなことから一〇〇年前の自主映画を発見しました。面白かったので急遽上映会を行います」
ジロウ「よっよっ!」
ハジメ「いい機会だからこれからも定期的に昔の天網市の記録映像を上映していきたいと思います。古きを尋ねて新しきを知る、なんて言葉がありますが、祭りクラブの設立目的も似たようなものですから、まぁ、いいかなと――」

調整室では八葉とひかるが見ている。

ひかる「まずは祭りクラブの宣伝も兼ねての上映会、というわけね。さすが悪知恵の働く八葉君♪」
八葉「いや、このアイディアは村田君さ」
ひかる「へえー」
ハジメ「稲垣先輩、お願いします」
ひかる「ほーい」

上映が始まる。

○同・生徒会室
那由多「ああ、ホントにもう!」

扉を開けて入ってくる那由多。中には京一と晴美、黙々と作業中。

那由多「あら、またお邪魔だったかしら」
京一「(赤面して)な、何を言っている!」
晴美「(意に介さず)どうしたの、那由多ちゃん?」
那由多「ビデオが無いの!図書室も資料室も探したけど、祭り関係のビデオが見つからないの!どういうことよ本当に!」
晴美「え?」
那由多「だけどハジメ君ったら、あの映画の上映会をやるから今日はいいよだなんて…だから私、これからウチに帰って取ってきます!」
京一「何をだ?」
那由多「公式記録映像!守山の家で記録した御輿下ろしのビデオ!もう、最初からそうすればよかったんだ…じゃあ行ってきます!
生徒会の方、よろしく!」

言うだけ言ってさっさと出ていく那由多。後に残された京一と晴美、ポカン。

京一「何だあいつ?」
晴美「……ハジメ君、か」
京一「……」
一人クスクス笑う晴美。ふと自分を見つめる京一に気付く。

晴美「?」
京一「いや、何でもない」

頬を染めて顔を背ける京一。そこにはニヤニヤ笑う瞬の顔。

京一「おわっ?! 」
瞬「僕もお邪魔かしら?」
京一「うるさい!」
瞬「はははーん」

京一と瞬、追い駆けっこを始める。それを見つめて静かに笑う晴美。

○同・点景
夕方。後片付け中の運動部員達。

○同・放送室前
戸締まりをしているひかる。その後ろには八葉とハジメにムリョウ。

那由多「えーーッ、もう終わっちゃったのォ」

やって来た那由多、ガックリ。手にはビデオの入った袋を提げている。

ハジメ「映画って言っても二〇分あるかないかの短い奴だからね。二回流してお開き」
那由多「何でもっと引っ張らなかったのよ。折角持ってきたのに、ビデオ……」
ムリョウ「いいじゃない、また次があるよ」
那由多「え?」
ハジメ「稲垣先輩の協力を取り付けてね、これから祭りクラブは上映会を定期的に行うことにしたんだ」
ひかる「古今問わず、天網市の面白映像を上映する…いい企画よねェ。メディア委員会としても『乗った!』って感じなわけ」
那由多「そうなんだ……」
八葉「それにしても那由多、何で突然に祭りクラブに入れ込むんだ?あんなに文化祭の参加に反対してたのに……」
那由多「え?」

赤面するなり黙りこくる那由多。

那由多「そりゃあ.(心配だから)」
ハジメ「え?」
那由多「村田君、一緒に来てくれる?」
ハジメ「え?」
那由多「じゃひかるさん、これはそっちで保管しといて下さい」
ひかる「う、うん」
ハジメ「うわっ、ちょっと……」

ひかるに袋を押しつけ、ハジメの手を引っ張って立ち去る那由多。

那由多「統原無量!あんたも来なさい!」
ハジメ「はいはい」
那由多「はいは一回!」

黙礼をして立ち去るムリョウ。それを見つめる八葉、微笑む。

八葉「……天網の民が変わるためには、親しき隣人と協力していくことが必要なんだ。あの三人のようにね」
ひかる「私も親しき隣人?」
八葉「そうだよ」

笑顔を交わす二人。

○同・廊下
歩いている那由多達。

那由多「何か今日は生徒会室を行ったり来たりしてるなぁ」
ムリョウ「さすが副会長」
那由多「おべんちゃらはいい!」

○同・生徒会室
入ってくる那由多。後に続くハジメとムリョウ。瞬が一人で読書中。

那由多「あら、京一と晴美ちゃんは?」
瞬「帰ったよ」
那由多「二人で?」
瞬「そそ。『京一さん、一緒に帰りませんか? お話があるんです』『何?よ、よし。い、いいだろう』なーーんてこと言ってさァ」
那由多「晴美ちゃんから?珍しいわね」
瞬「フフン。ズバリ、二人の中は接近中!」
那由多「接近も何も……二人は幼なじみでしょ」
瞬「馬鹿だなぁ。近くて遠かったのが二人の仲だったんじゃない。で、そっちは何?あれほど毛嫌いしてたお二人さんと」
那由多「一時休戦。さあ二人とも座んなさい」
ハジメ「はいはい」
那由多「はいは一回!」
ムリョウ・ハジメ「はーい」

ニヤニヤとその様子を見ている瞬。

○裏山
陽も西に傾いている。
山道を歩く晴美と京一。

京一「晴美、どこまで行くんだ?」
晴美「もう少しです」

スタスタと先を行く晴美。
後に続く京一、怪訝な表情。

京一「晴美……」
晴美「あれから11年になります」 京一「11年?」
晴美「私と京一様が初めて出会ってから」
京一「あ、ああ。そうだな」
晴美「あの悲劇から.」
京一「?」
晴美「あなたは強くなられました。だから、お見せします。私が受け継いだもの……」
京一「受け継いだ?」

カバンより折り畳んだ紙を取り出す晴美。紙は開き、御幣となる。

京一「お、おい」

御幣を差し出し、崖に向かって歩き出す晴美。後を慌てて追いかける京一。

京一「晴美!」

青く光る御幣。
空間が歪むと吸い込まれるように消える晴美と京一。

○クレーター
巨大な窪み。
その中に広がる赤一色。
咲き乱れる曼珠沙華の絨毯。
その中にたたずむ京一と晴美。

京一「ここは?」
晴美「ここは悲しみの場所です」

歩き出す晴美。
後に残された京一、辺りを見回す。

晴美「11年前、月の裏側にいる侵略宇宙人を叩くために、天網の民は“空蝉の秘儀” を使いました」

ハッとする京一。脳裏をよぎる過去の思い出――

   *   *   *

(京一の回想)
病院のベッド。動かなくなった父母。
葬式の列。斎場より立ち上る煙。虚ろに見上げる幼き京一の姿。
   *   *   *

京一「まさか.まさかここは?! 」

顔が歪む京一。体が震える。
ゆっくりと振り向く晴美。

晴美「ここは、あなたのお父さんとお母さんが死んだ場所です」

二人の先には墓標。銀河連邦の文字が刻まれた金属状のモニュメント。

○アイキャッチ

○商店街
夕方。買い物客が行き交う。

○甘味茶屋「こなや」
餡蜜を食べている漠。
壌、憮然とした顔をして入ってくる。

漠「やあ、こんにちは」
壌「何の様だ一体?! 」

どっかと漠の前に座る壌。

壌「白玉あんみつを一つ!」
店主(声)「はーい」
漠「我々の行く末は見えない」
壌「ん?」
漠「ましてや最近立て続けに起きている宇宙人の侵略事件……宇宙外交については真守の会議じゃ埒が明かない」
壌「……」

身を固くする壌。

漠「弟のみならず我が子を死なせるような事はしたくない」
壌「……何が言いたい?」

ニヤリと微笑む載。

漠「共犯者になりませんか?」
壌「何?! 」
漠「これから僕はある人に会いに行きます。あなたも来ませんか?」
壌「ある人?」

扉が開き、ソパル星人が入ってくる。

ソパル星人「ばくちゃん、こんちゃーす」
漠「やあ、ソーさん」
壌「彼がその、“ある人”なのか?ソパル星の外交官じゃないか」
ソパル星人「それじゃあご案内しますね」
壌「?」

ニッコリ微笑むソパル星人。

漠「おじさんゴメン!さっきの白玉あんみつテイクアウト!」

○御統中・生徒会室
窓辺にもたれて外を見ている那由多。
西日が強く差し込む。

那由多「前に.私達天網の民が子供の時に“おまじない”を受ける、って話をしたでしょう?」
ハジメ「うん」
那由多「村田君も受けたおまじない――」

   *   *   *

手を合わせるハジメとモモエ。
宇宙のイメージ。(四話参照)

   *   *   *
那由多「おまじないを受けた後、三日間寝込んだわ。熱が出て頭痛がして…頭の中に宇宙がグルグル回ってるんだから…出ない方ががおかしいでしょ」
瞬「僕は一週間休んじゃった」
那由多「あんたは半分ズル休みでしょ!」
瞬「最初の二日はホントだよォ」
ムリョウ「君は熱も何もなかったんでしょ?」
ハジメ「え?寝不足にはなったよ」
那由多「村田君は特別!」
ハジメ「はぁ」
那由多「そしてお祭り。御輿下ろし――」

   *   *   *

天網神社の本殿が開く
小学生の那由多達は祭り装束
少年達が御輿を担ぎ、山道を下りる
稚児舞いを踊る那由多達
威勢良く御輿を担ぐ少年達
太陽に輝く御輿の飾り金具
一心不乱に踊る那由多達
波を蹴立てて海に分け入る少年達
水の泡は宇宙へ——
神社の境内。
遊んでいた那由多、ハッと目を見開く。
おもむろに手を差し出すとチカラのフィールドが生じる。
遠くで父の叫ぶ声。

載(声)「モモエ様、娘が、那由多がチカラを……シングウの色、紫のチカラです!」

   *   *   *

真守家の大広間に座っている那由多に瞬、八葉に京一。
上座にはモモエに十全。脇には山本や商工会長に世話役が座っている。
子供達に優しく語りかけているモモエ。

モモエ「頭の中のグルグルはね、とっても沢山の量の星の思い出が小さく小さくなったものなのよ。星の思い出というのは銀河連邦の歴史。大昔から受け継がれてきた人々の知識や想い全てをぎゅっと縮めたもの……」

那由多を見るモモエ。那由多、思わず自分の頭を押さえる。

モモエ「見たことも聞いたこともないものを無理矢理頭に押し込むおまじない……みんなよく我慢したわね」
八葉(子供)「あの後、頭が痛かったです」

のんびりした物言いに思わず周囲の大人達も笑い出す。悪びれずに頭を掻く八葉。調子に乗る瞬。京一はどこかおどおどした様子。

   *   *   *

那由多「私はシングウのチカラが使えるようになった。瞬は速く動くチカラ、八葉さんは重力を操るチカラ、京一は束ねるチカラが使えるようになった……」
ハジメ「御輿下ろしってただのお祭りじゃなかったんだね」
那由多「そうよ。私達のように戦う為の人間を選び出す儀式なのよ!だからしてはいけない!やってはいけない儀式なの!」

○クレーター
夕景。
墓標に供えられた野菊の花。しゃがんで手を合わせている晴美と京一。

晴美「ここは在るはずのない場所です」
京一「空間を……ねじまげているのか」

こくりとうなずく晴美、立ち上がる。
微妙に上空の雲がずれている。木々の葉擦れの音も無い、静寂の世界。

晴美「在ってはならない悲劇が11年前に起こりました。私の父のせいで」
京一「それは違う! 」

立ち上がり、晴美に向かって叫ぶ京一。

京一「おじさんは最善を尽くして父さんを助けようとした!戦ったんだ!」

   *   *   *

いまだひ弱さが抜けない小学五年生の京一を前に壌、静かに語る。

壌「お前のお父さんとお母さんが死んだのは宇宙人のせいだ。みんな懸命に戦ったんだ。そして死んだ。しかし、その使命は果たした。峯尾を、責めるな……」

   *   *   *

京一「拳治おじさんを責める奴は誰もこの街にはいない!俺だってそうだ!拳治おじさんは立派な人だ!」
晴美「いいえ。父は情に溺れて敵を倒せませんでした。父は未熟さゆえに拳を躊躇い、敵の拳によって守るべき友を失いました」

曼珠沙華の中にたたずむ二人。

京一「お前はどうして……どうしていつもそうなんだ!」
晴美「……」

静かに京一を見つめる晴美。

京一「そうやって、いつも悟りきった顔をしやがって……何故だ?! どうしてそんな顔をする?! 」
晴美「私にはわかるからです」
京一「嘘をつけ!嘘をつくな!」
晴美「わかります」
京一「嘘だ!! 」
晴美「本当です」

静かに、しかし力強く答える晴美。

京一「……」
晴美「私も……あなたが、好きです」
京一「な?! 」

思わず赤面してたじろぐ京一。

晴美「好きだから、受け止める。そう決めたんです。御輿下ろしのあの時から」

   *   *   *

稚児舞いを踊る小学生の晴美と京一
宇宙のイメージ
カッと目を見開く晴美
様々な時代の勇者達の悲しみのイメージが錯綜。そして戦う父。宇宙人に殺されていく京一の父と母。最後に見たのは、死骸となった京一の父を抱いて号泣する拳治―― 悲しみのイメージが晴美の脳裏に渦巻く。顔が歪むとしゃがみこむ晴美。涙が止まらない。心配げに駆け寄る京一。

   *   *   *

愕然とする京一。

京一「お前……あの時、目覚めていたのか?」
晴美「チカラを得る代わりに、私は父の悲しみを生で感じました。大好きな友人が目前で殺されていく無念、くやしさ。今でも頭の中をグルグル回っています」
京一「(ハッとして)だからなのか?だからお前は今まで……」

コクリと頷く晴美、微笑んで。

晴美「村田君に統原君、統原君のお姉さん. みんなが教えてくれたんです。私の受け継いだ悲しみは、堪えるためだけのものではなくて、乗り越えたその向こうの……」
京一「バカ野郎!」

駆け寄り、晴美を抱きしめる京一。

晴美「 ?! 」
京一「いや、バカなのは俺だ!ちょっと勘が良ければわかりそうなものじゃないか!あのお転婆が、いきなり取り済ました顔して任務任務って……柄でもないこと言い出すはずがなかったんだよ!それを真に受けて何年も俺は……」

涙をボロボロ流す京一。
晴美、目をつぶって聞いている。

晴美「ごめんなさい……」

向かい合う二人。涙まみれの京一の顔。
しかしその瞳はいつになく凛々しい。

京一「ありがとう、話してくれて」
晴美「……」

微笑む晴美。頬を流れる涙。
空には星が瞬き始める。

○西湘バイパス
ソパル星人の車が走る。

○ソパル星人の車
鼻歌を歌うソパル星人、上機嫌。
後ろのシートにはやはり機嫌の良さそうな獏に、仏頂面をした壌が座る。壌はテイクアウトした白玉あんみつを食べている。

壌「どこへ連れて行く?」
漠「僕らも話の輪に加わるんですよ。僕らはいわばコウモリみたいなものですから。上手く立ち回れば責められる筋合いはないですから。いや、むしろ感謝されるよねえ」
ソパル星人「窓、開けてませんよね」
漠「はいはい、ぶっ飛ばしちゃって♪」
ソパル星人「ほーい」
壌「……」

壌、あんみつを頬張る。

漠「.見えましたよ」
壌「?」

壌、顔を上げると驚愕。

壌「(これは) ?! 」

いつの間にか窓の外は宇宙。壌、思わず頬張った白玉をゴクリと飲み込む。

漠「壌さん、大丈夫?」
壌「こ、これは……」

○宇宙空間
月の裏側。
銀河連邦の艦隊が駐留している。
旗艦に向かって進むソパル星人の車。

ソパル星人「こちらソーさん、こちらソーさん。誘導をよろしく」
管制官(声)「(了解)」

旗艦から牽引ビーム、ゲートが開く。

○銀河連邦宇宙船・メディカルルーム
個室ベットの官房長官、携帯で「トントン紙相撲」をしている。そこへ黒服の男(一五~七話参照)入ってくる。

男「長官にお会いしたい人が来るそうです」
官房長官「え?誰?」
男「天網の民、真守の一族の方だとか」
官房長官「真守?へえ……来たかチョウさん待ってたホイっと!」

○山道
山を下りる京一と晴美。互いの手と手はしっかりとつながれている。
前を向いて歩く二人。

○だらだら坂
一緒に帰るハジメ達。
ハジメ「あ~あ、疲れたなァ」

満ち足りた表情の那由多。

那由多「ふふん、これでわかったわよね。あたし達天網の民にとってはお祭りは特別な意味があるっていうこと」
ハジメ「君があんなに祭りクラブに反対してたわけもようやくわかったよ。それならば最初から説明してくれたらよかったのに」
那由多「何ですって!私は八葉さんから聞いてると思ったの!」
瞬「ああ、すれ違いの悲しき恋、今ここに完結……」
那由多「!」

無言で瞬を殴る那由多。しかし、これをあっさりとかわす瞬。

那由多「~~(怒り)」
ハジメ「でもさ、戦いにこだわる必要はないんじゃないの?」
那由多「何がさッ!」

踊り場で立ち止まる一同。

ハジメ「確かにおまじないを受けても僕は何も変わらなかった。でもさ、感じたんだ。冷たくて温かくて気持ち良い感じ……」
那由多「どういう意味なの?」
ハジメ「わからない。ただ最近こう思うんだ。宇宙は僕たちを待っていてくれている、宇宙はそれくらい大きくて……御輿下ろしとかチカラ云々とかは、僕らを試すものであってそれ自体が目的じゃない」
那由多「……」

驚いてハジメを見つめる那由多。

ハジメ「そんなことを考えるようになったのも、おまじないを受けてからなんだけどね…あ、ということは、僕もそれなりに影響受けてることになるのかな。やったぁ♪」
那由多「そんなのはチカラじゃありません!」
ハジメ「ちぇっ」

そんな二人の様子を微笑んで見ているムリョウに瞬。

瞬「そういえば……」
ハジメ「何だい?」
瞬「あなたはどうやってチカラを身につけたんです?おまじないとか御輿下ろし……あの村にも似たような行事があったとか?」
ムリョウ「何もないよ」
那由多・瞬「え?」
ムリョウ「知らないうちにチカラはあった」
那由多「そんな、バカな」
ムリョウ「バカなんだよ、きっと」
那由多・瞬「……」

あっけにとられる那由多と瞬。

ハジメ「ムリョウ君……」

ムリョウは答えず微笑むのみ。
遠くに見える海は夕日に輝いている。

NR「映画を見て映画を見て守山さんの話を聞いて……なんてことのない一日のようだけど、得るもの学ぶことは色々だ」

○宇宙空間
巨大な旗艦を中心に陣形を組んでいる連邦の艦隊。船体には銀河連邦のマークが映える。

NR「――続きは次回」

         (第一八話・完)

☆二〇〇字詰七四枚換算

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佐藤竜雄
読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)