第11話『ありがとう、勇気』
学園戦記ムリョウ
第一一話『ありがとう、勇気』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄
登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)
統原瀬津名(スバル・セツナ)
津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
真守モモエ(サネモリ・モモエ)
守口壌(モリグチ・ジョウ)
守口千枝(モリグチ・チエ)
守機漠(モリハタ・バク)
守機梨沙(モリハタ・リサ)
山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ザイグル星人ヴェロッシュ(ジルトン号艦長)
ソパル星人
ツイフォフ星人
居酒屋「よっちゃん」店長
宇宙人達
○御統中学・小会議室
紙を広げてみせるジルトーシュ。
サナドン
ジルトーシュ「いいよね、何か強そうで」
○天網山・頂上
両手を胸の前で組む那由多。
那由多「シングウ!」
那由多の体、白く輝く。京一の体内より光の柱が伸び、光の球を押し上げる。
八葉と瞬の体より光の帯が飛び出し、光の柱に絡まりながら球へと伸びる。
京一「我は螺旋。チカラを天空へ、押し上げる螺旋!」
○オープニング
○天網山・全景
満月。
星の瞬く夜空。
(サブタイトル『ありがとう、勇気』)
山頂より伸びる光の柱。
青い光の柱に絡まる黄と赤の光の帯。
○同・山道
頂上に続く石段を登るハジメと晴美。
晴美は楽々、ハジメはヒィヒィ。
ハジメ「ハア、ハア、ハア……」
* * *
(回想)
電話でメッセージのムリョウ。
ムリョウ「今夜さ、雨が止んだら……」
ハジメ(声)「止んだら?」
微笑むムリョウ。
ムリョウ「……散歩するといいよ」
* * *
(回想)
夜の通りでメッセージのセツナ。
セツナ「汝に情報を伝えよう」
* * *
必死に駆け上がるハジメ。
NR「夜の散歩がいつの間にか石段登り……ムリョウ君といい、セツナさんといい、僕に何をさせたいのか?」
晴美「大丈夫?」
先行する晴美、心配げに尋ねる。
ハジメ「はいはーい…」
頂上に到着するハジメ。
ハジメ「ええっ?! 」
白装束の那由多、白く輝き、地面から三メートルほどの位置で静止している。目は閉じたまま。
その那由多を取り囲んでいる京一、八葉、瞬。彼女同様に目をつぶり、直立不動の姿勢。三人から光の帯状のものが那由多に絡み、そのまま光の蔓となって天上に伸びている。
ハジメ「……」
思わず歩み寄るハジメ。
目を閉じたままの那由多達。
ハジメ「守山さん……」
やがて四人の輝きは収まり、光の蔓はスウッと消える。静止していた那由多ぐらっと揺らぐ。
ハジメ「?! 」
あわてて駆け寄るハジメ。同時に落下する那由多。抱きとめるハジメ、支えきれずに倒れ込む。
ハジメ「いてて……」
那由多は無事。ほっとするハジメ。
晴美「お見事」
ハジメ「見事じゃないよ。あー、いて」
○須丸山・瞬の家
天網山の西に連なる、標高一五〇メートルほどの山。あたかも天文台のような建物が守機家。前庭のオープンチェアには漠と梨紗の守機夫妻、壌と千枝の守口夫妻が座り、天網山から立ち上る光の蔓を眺めている。
ゆっくりと消えていく光の蔓。
梨紗「まずは成功、みたいね」
漠「さて、ひとまずはどうです?素晴らしき我が子達に乾杯でも?」
かたわらに置いたクーラーよりワインを取り上げ、ニコニコと漠。
壌「いい加減にしたまえ!」
千枝「そうですよ!京一達はこれから戦うんですよ!何で乾杯なんか……」
漠「心配ですか?」
千枝「当たり前じゃないですか!あなたは平気なの?! 瞬君の事!」
漠「心配ですよ」
千枝「だったら……」
漠「だからこうしてあなた方をお呼びしているんですよ。一人二人でオロオロするよりは、こうして喧嘩相手がいた方がまだマシでしょう?」
押し黙る千枝。
壌、じっと漠を見る。
漠「彼らを信じましょう。十一年前とは状況が違う——」
梨紗、そっと獏に寄り添う。さりげなく顧みる漠、穏やかな笑顔。
○天網山・頂上
ハジメ、自分の上着を敷いて那由多を寝かせる。
お菓子の袋は枕代わり。
ハジメ「ヤレヤレ……」
素直な寝顔の那由多。
思わず微笑んでしまうハジメ。
晴美「……手を、握ってあげて」
石段前にたたずんでいる晴美。
ハジメ「え?」
晴美「これは、天網の民に伝わる、“空蝉” の儀式……」
ハジメ「うつせみ?」
晴美「心を空に飛ばしシングウと成し、螺旋のチカラによって更に無限へと飛ばす——那由多ちゃんの心は今、宇宙にあります」
ハジメ「?」
晴美「宇宙から強い敵がやって来ます。人は、生身では宇宙へ行けません。心をシングウにしてそれを……」
那由多を囲む三人は直立不動のまま。それを見回してハジメつぶやく。
ハジメ「宇宙へ?」
コクリと頷く晴美。
思わず天を見上げるハジメ。
星が瞬く夜空。
ハジメ「……」
ハジメ、那由多の顔をのぞき見る。
その瞳は閉じたまま。
わずかに瞼、震える。
* * *
暗闇の果ては光。
勢いよく湧き出る水泡。
水の粒は光。
ハッと目を開ける那由多——
* * *
宇宙空間のシングウ。
背後に見える蒼い地球。
不意にカッと目を見開くシングウ。
ガクンとなる。
那由多「うわああーーーーッ!! 」
宙を掴むよう右手を突き出し、“落ちていく”シングウ。
○天網山・頂上
那由多、その表情が厳しくなる。
全身がぼうっと白く光る。
ハジメ「あっ?! 」
那由多の右手が宙を掴む。
ハジメ「!」
思わずその手を握るハジメ。
その様子をじっと見つめる晴美。
○居酒屋「よっちゃん」・店内
奥座敷。中央のテーブル上に置かれた
磯崎の携帯。そこから投影されているのはシングウの位置をモニターしたウインドウ。テーブルの周りには磯崎、山本、そしてソパル星人達宇宙人。
磯崎「シングウ、実体化。今、月軌道を抜けました」
ソパル星人達「おおーッ!」
大盛り上がりの宇宙人達。
不規則な高速移動のシングウ。
磯崎「それにしても……飛び方が滅茶苦茶ね」
ソパル星人「そりゃそうだろう」
一斉に頷く宇宙人達。
○宇宙空間
(那由多の意識)
那由多「うわああーーッ!」
光が急流のように那由多を包む。
* * *
高速移動中のシングウ。まるで落ちていくようなポーズ。
那由多(声)「うわああ..ッ!」
* * *
シングウの瞳は那由多の瞳
恐怖で引きつる那由多の顔
瞳の奥には光
光の向こうには地球
天網山の頂に横たわる那由多
苦しんでいる那由多
その手を握る、ハジメの手
心配そうなハジメ
その瞳の奥にも光——
* * *
那由多・ハジメ「!」
はっとする那由多とハジメ。
交差する二人の意識。
○天網山・頂上
力が抜け、落ち着いた様子の那由多。
那由多「……」
彼女を包む光が消える。
見つめているハジメ。
周りを囲む京一、八葉、瞬は石像のように動かない。
晴美「お見事」
ハジメ「僕は……」
真面目な顔で晴美を見据えるハジメ。
ハジメ「……こうしていればいいんだね」
晴美、コクリと頷く。
○宇宙空間
シングウ、呼吸を整えるかのように静止している。
○真守家・次の間
車座に座るモモエ、ジルトーシュ、ウエンヌル、ヴェロッシュ。
虚空見上げてニヤリとジルトーシュ。
ジルトーシュ「宇宙ってのは、地面がないから上下がないって……理屈はわかってても、アレだね。慣れない人はそれだけで慌てちゃうし、うろたえちゃうし。ちょうど今、落ち着いた頃じゃないですか?那由多ちゃん」
モモエ「そうでしょうね」
ジルトーシュ「でも、戦いになったらどうでしょう。慣れない宇宙、心を体と切り離しての戦いは……」
モモエ「ふふふ、その時は……内緒です」
ジルトーシュ「ははは、参ったなぁ」
微笑するモモエとジルトーシュ。
ウエンヌルとヴェロッシュ、顔を見合わせ怪訝な顔。
○宇宙空間
移動中のシングウ。
○天網山・頂上
月は雲に隠れている。
京一、八葉、瞬は動かない。
ハジメは那由多の傍らに座り、その右手を握っている。石段の近くに離れて立つ晴美、ハジメに背中を向けたまま。
晴美「私の家は代々、守口家のチカラを守ってきました」
ハジメ「守口家?ああ、京一さんの家だね」
晴美「那由多ちゃんはシングウになるチカラ、八葉さんは重力を操るチカラ、瞬君は速く動くチカラ。京一さんは……束ねるチカラ」
ハジメ「束ねる?」
晴美「そう、束ねたチカラをシングウに送るの。全然合ってないね……意地っ張りで、慌てん坊で、目立ちたがりな京一さんが、縁の下の力持ちなんて」
怪訝な顔のハジメをよそに、クスクス笑い出す晴美。
風が吹く。
月にかかっていた雲が流れると、そこには沢山のシーカー2の機影が沢山浮
かんでいた。
晴美「?! 」
ハッとなる晴美。
シーカー2部隊より光弾攻撃。
山頂上空に広範囲のフィールド、光弾を悉く無効化。思いがけない出来事に腰砕けになるハジメ。
ハジメ「な、何?」
晴美、緊張の面持ち。
晴美「……」
○須丸山・瞬の家
天網山に降り注ぐ光弾。しかし、悉くフィールドに阻まれ、無効化。
見守っている漠達。
梨紗、自分の手を漠の手に重ねる。
漠「(優しく)大丈夫。あの山に飛び道具は利かないよ」
厳しい表情で天網山を見つめる壌。
○居酒屋「よっちゃん」
ソパル星人達「おおーっ!」
攻撃を受けている天網山の状況を示すウインドウにかぶりつく宇宙人達。
山本「さてと」
立ち上がる山本。
ソパル星人「山本さん、行くのかい?」
山本「俺も一応、あの子達の教師なんでね」
磯崎「山本先生!」
山本「はい?」
磯崎「地球人が宇宙に進出して戦闘行為をする、ということに関しては、我々銀河連邦は干渉できません。だから……」
山本「わかってますよ。それじゃ」
ニッコリ微笑む山本、出口へ。
○同・外
店長「毎度あり!」
店を出てくる山本。
商工会長達が待っている。
○天網山・全景
光弾攻撃が止み、上空よりシーカー2部隊が飛来。フィールドに一旦は阻まれるが、効力を中和していく。着地地点は散らばるが、殆どのシーカー2、天網山へ降着する。
○同・店内
固い表情でウインドウを見ている磯崎。
ソパル星人「行けばいいのに。一緒に」
磯崎「……この隙に乗じてよからぬ行動に出る不良宇宙人が出るかもしれません」
ツイフォフ星人「それって、僕らのこと?」
磯崎、キッと睨む。
ツイフォフ星人「おー、こえ」
磯崎「緊急措置です。皆さんの身柄を一時的ですが、保護します」
○同・外
扉には『本日貸し切り』の貼り紙。
○同・店内
店長「はいよ!」
店長、一升瓶、テーブルにドンと載せて行く。純米大吟醸。
宇宙人達「おおーーッ!」
磯崎「今日はとことん、付き合っていただきますので……よろしく!」
妙な迫力の磯崎。
○天網山・山中
山道を、斜面を問わず歩いているシーカー達。
○天網山・頂上
シーカーの駆動音がそこかしこに聞こえる。不安げなハジメ。
ハジメ「……一体、峯尾さんは、何のチカラを持ってるの?」
晴美「私は……そんなものないわ」
ハジメ「え?」
身構えることなくたたずむ晴美。
近づいてくるシーカーの音。
目を閉じる晴美。
身を固くするハジメ。
不意にシーカー2、多数出現。
一斉に晴美に飛びかかる。
ハジメ「?! 」
晴美、初手の攻撃をかわして一機の戦闘腕を素早く掴み、振り回す。周囲のシーカーをなぎ倒すと背後に立ったシーカーを一本背負い。真っ逆様に落とされたシーカー、地面に突き刺さり、機能を停止する。
一連の動き、流れるように速く、ムダがない。シーカー2の群れ、晴美を取り囲むも距離を取って牽制。そのままゆらりと立つ晴美、ゆっくりと目を開ける。
ハジメ、呆然。
ハジメ「峯尾さん……」
晴美「那由多ちゃんをよろしく」
振り返ると軽く笑う晴美。
○紅葉山・某所
天網山に連なる山の一つ、紅葉山。見晴らしのよい大きな樅の木の天辺にたたずむムリョウ、戦況をながめている。
ムリョウ「始まったね」
さりげなく横に立つセツナ。
セツナ「もう、後戻りは出来ない……」
コクリと頷くムリョウ。
ムリョウ「頼むよ、村田君」
○アイキャッチ
○宇宙空間
移動するシングウ。
○真守家・次の間
車座のモモエ達。
ウエンヌル、お茶を注いでいる。
ウエンヌル「どうぞ」
モモエ「ああ、どうも」
ジルトーシュ「お前さんもすっかり馴染んできたねえ、地球にさ」
ウエンヌル「滞在期間と情報収集の程度を考えれば、至極当然なことではないかと」
ジルトーシュ「無愛想なのは、相変わらずだけどね……うん、いいお茶だ♪」
ヴェロッシュ「フム……」
茶をすする宇宙人達。モモエ、ニコニコとその様子をながめている。
モモエ「ジルトーシュさんなら、おわかりなのではないですか?」
ジルトーシュ「何がです?」
モモエ「サナドンの位置ですよ。今、山を襲っているロボットは、サナドンから転送されたものでしょう?」
ヴェロッシュ「我が星の物質転送技術の限界値を考慮するならば、地球に一部隊を転送しうる距離は……火星軌道内であると推測できます」
ウエンヌル、自分の端末を操作して、太陽系の地図を投影。
ウエンヌル「私の知っている神話が本当のことならば、神“うえるん”は宇宙の声が聞けたといいます」
ジルトーシュ「ほぉ」
ウエンヌル「その及ぶ力は一つの銀河の端から端まで……まさに天の耳と讃えられたそうですが——」
三人、ジルトーシュをじっと見る。
ジルトーシュ「いやだなぁ、人をそんなに買い被らないで下さいよ」
照れ笑いのジルトーシュ、急に虚空を見上げ、ニヤリ。
ウエンヌル「どうしました?」
ジルトーシュ「とか何とか言ってるうちに、かかったようですよ、サナドンちゃんが」
ニコニコ微笑んでいるモモエ。
○宇宙空間
はるか遠くから光弾、シングウを襲う。
一方向ではなく、二方、三方、そして四方から。
シングウ「オオオオオッ」
唸る、シングウ。
○紅葉山・某所
大きく目を見開き、感知するセツナ。
セツナ「始まった!」
ムリョウ「とりあえず、どっちだい?」
セツナ「あっち!」
夜空を指差すセツナ。
ムリョウ「よし!」
木から飛び降りるムリョウ、着地するなり走り出す。
セツナ「頑張ってねー」
呑気に声掛けるセツナ。
○山道
夜の山道を駆けるムリョウ。
どんどんその速さを増していく。
○山中・某所
戦っている山本達。
山本「あぁ?」
その前を通り過ぎるムリョウ。
○山道
走るムリョウ。
流れる闇。
上半身は次なるアクションへの準備へ、下半身は更なる勢いをつけるべく、その回転を増していく。
跳躍。
高く飛び上がるムリョウ。
ムリョウ「!」
“空中”を蹴るとさらに上昇。
ムリョウ、不敵な笑み。
○真守家・次の間
ニヤリと笑うジルトーシュ。
ジルトーシュ「ほぉ」
○宇宙空間飛んでいるムリョウ。
成層圏を抜け、衛星軌道を抜ける。
○紅葉山・某所
しばし夜空を見上げているセツナ。
セツナ「さてさて……」
次いで天網山を見やるセツナ。
○天網山・頂上
沢山のシーカーの残骸。
晴美、ハジメに背を向けて体育座り。
ハジメ「(すげ)……」
ハジメ、周囲を見回している。(那由
多の手を放して、その場をウロウロ)
晴美「……一一年前ね」
ハジメ「え?」
晴美「一一年前、やっぱり空蝉の儀式を使わなければならなくなった事件があったの。やっぱりこんな風に襲われて……私のお父さ
んは守れなかった。京一さんのお父さんとお母さんは……死んだの」
ハジメ「え?でも……」
晴美「今の京一さんのご両親は、本当のお父さんのお兄さん。伯父さんよ」
ハジメ「……」
ハジメ、晴美の背中を見つめる。
晴美「京一さんの死んだお父さんと私のお父さんは親友だった。親友だけど守れなかった。親友だから守れなかった——」
* * *
(回想)
荒野に巨大なクレーター。
その中央部に倒れている四人(京一の両親、載、八葉の伯父)。
京一の父を抱きしめ号泣する拳治。
* * *
晴美「守りたい気持ちが隙を呼んだ。焦りを呼んだ。守れなかった。人も死んだ。だから私は……」
セツナ「京一君を振っちゃったの?」
晴美「?! 」
いつの間にか晴美の横に座り込んでるセツナ。コンビニ袋を持っている。
ハジメ「!?セ、セツナさん?あれ?いつ?」
晴美「何はともあれお疲れさま。地上で那由多ちゃんや京一君の邪魔をする人はもういませーん。はい♪」
晴美に缶のお茶を手渡すセツナ。
ハジメ「ほい!」
ハジメには放り投げる。
ハジメ「わっ、とっ」
片手キャッチのハジメ、手は那由多と繋いだまま。
セツナ「ナイスキャッチ♪」
晴美「……」
セツナ「戦いには感情は要らない?」
晴美「(頷く)……」
セツナ「でもね、人を守りたいって気持ちはどうして起きるかわかるでしょ?」
晴美「え?」
セツナ「好きだから」
晴美「……」
セツナ「好きだから守りたい、好きだから勇気が出る。さっきまで戦ったあなたにはわかるんじゃないの?」
晴美「でも……」
晴美の耳元でささやくセツナ。
セツナ「素直な心は陽の光、風の流れ、これぞ風光の心なり——」
晴美「(ハッとして)何でそれを?! 」
振り返るとそこにセツナの姿は無い。
ハジメ「あれ?」
見ていたはずのハジメもギョッとしている。後に残されたのは缶飲料の入ったコンビニ袋。
キョロキョロ見回す晴美とハジメ。
セツナ(声)「そうそう、残りのお茶はみんなの分だからね。お菓子共々、仲良く分けて下さいませませ〜じゃっ♪」
木々の繁みにこだまする声。
那由多の体、再びぼおっと光り出す。
ハジメ「あ」
他の三人も白く光り出す。
晴美「戦いが、始まってるの?」
ハジメ「……」
那由多を見つめるハジメ。
○宇宙空間
高速で移動するシングウ。
それを追いかける四つのシーカー。
光弾、そして自身の体当たりでシングウを攻撃。
シングウ「オオオオ……」
○真守家・次の間
ジルコン号のデータ、投影。
ヴェロッシュ「ジルコン号は、それ自体が分離合体して様々なフォーメーションで攻撃出来る機動戦艦です」
モモエ「お昼の会議でデータを戴きましたけど、難しい言葉や数字ばかりで……要するに機動戦艦、というのは、他の戦艦より強いのですか?」
ヴェロッシュ「強いです」
きっぱりと冷静に言い切る。
○宇宙空間
攻撃を受けているシングウ。
目から涙。
シングウ「オオオオ……」
○天網山・頂上
ハジメ「手を、つなごう——」
晴美に手を差し出すハジメ。もう片方の手は、那由多の手をしっかり握っている。
晴美「でも……」
ハジメ「……」
黙って手を差し出しているハジメ。
晴美「……」
ためらいながら手を差し出す晴美。
おずおずと——
手をつなぐ二人。手をつなぐ三人。
那由多の瞼、震える。
* * *
那由多の瞳の奥に光
光の向こうには地球そして光の流れ
幾つもの光の流れが奥から手前へ
その先には立ちつくすシングウ
シングウの瞳は那由多の瞳
瞳の奥には光
遠くでこだまする八葉達の声がだんだん大きく聞こえてくる。
八葉(声)「がんばれ!那由多!」
瞬(声)「がんばれ!がんばれ!」
京一(声)「何をやってる、那由多!」
一同の思いがフラッシュバック。
天網の景色、懐かしい風景
父がいる、母がいる
友達、先生、好きな人、色々——
小さい頃の晴美と京一
晴美(幼少)「京ちゃん!京ちゃん!」
はしゃいでいる小さい晴美。
* * *
晴美「!」
ハッとする晴美。
ハジメ「がんばれ!」
那由多に声を掛けるハジメ。白く輝く那由多、白く輝く京一達。
ハジメ「がんばれ守山君、がんばれ!」
晴美「……」
涙がこぼれ落ちる晴美。
晴美「がん…ばれ」
涙が止まらない。
晴美「…がんばれ…がんばれ!」
夜空に響く二人の声。
○宇宙空間
棒立ちで攻撃を受けているシングウ。
遠くからのムリョウの声。
ムリョウ「何をやってる、守山那由多!」
振り返るシングウ。
はるか遠くから..
生身で飛んでくるムリョウ。
敵の分離攻撃。光弾発射。
ムリョウ、難なくかわすとシングウの
肩に着地する。
シングウ「オオオオ……」
シングウに尚も浴びせられる光弾。
ムリョウ「見てるぞ!」
ムリョウの声に反応するシングウ。
ムリョウ「俺も見てる、村田君も見てる。君は、何のためにここにいる!」
シングウの目、輝く。
サナドン、合体。巨大なシーカー。ジルコン号の知性体兵器に寄生された成れの果て。その体の中央にエネルギーが充填されていく。
ムリョウ「奴のチャンスは同時にピンチだ」
○真守家・次の間
ジルトーシュ「うん、そうそう。良いこと言うなあ」
○宇宙空間
ビームを発射するサナドン。
光に包まれるシングウ、逆にそのエネルギーを吸収する。
パンチ一閃。
遠く離れたサナドンがひしゃげる。
更にもう一発。
サナドン各所に爆発。
両手をパンと叩く。
分離しようとするところへ更に衝撃。
畳んで伸されるサナドン、四散。
○居酒屋「よっちゃん」・店内
ウインドウに『サナドン消滅』の表示。
宇宙人達「やった..ッ!! 」
わき返る宇宙人達。その横で磯崎、酔いつぶれて寝ている。
○真守家・次の間
電話しているモモエ。
モモエ「はい、どうもありがとうございます。(受話器置いて)銀河連邦からの連絡です。サナドンはシングウによって破壊——」
ウエンヌル「おお……」
ジルトーシュ「(ニヤニヤと)かくして当面の危機は回避され。でも、誰が地球を、シングウのチカラを狙っていたのか、サナドンが粉みじんになってしまっては判らなくなってしまいましたねえ」
ウエンヌル「サナトス星人じゃないんですか?」
ジルトーシュ「サナトス星の武器を使う他の星の宇宙人かもしれないでしょ」
モモエ「やっぱり見えてましたね」
ジルトーシュ「は?」
モモエ「(微笑んで)誰も粉みじんなど言っていませんから」
ウエンヌル「あなたはやっぱり!」
ジルトーシュ「いやー、参ったなあ。ハハハハハ……」
笑ってごまかすジルトーシュ。
○天網山・頂上夜明け前。
那由多「うん……」
目を覚ます那由多。見守っているハジメに八葉、瞬。
ハジメ「守山君!」
八葉「結構、冷や冷やしたぞ」
瞬「(ムリョウの口真似で)俺も見てる、村田君も見てる。君は、何のためにここにいる!」
ハッとするなり赤面。すかさず立ち上がる那由多。
那由多「瞬!」
瞬「へへーい、宇宙に架ける、あ・い!」
すぐさま逃げる瞬。追いかけようとした那由多、ハジメを見る。
那由多「村田始君……」
ハジメ「なんだい?」
那由多「……ありがとう」
手を差し伸べる那由多。
握手するハジメと那由多。
それをながめて微笑む八葉と瞬。
その一方で、向かい合っている晴美と京一。お互いにうつむき合っている。
京一「お前の、声が……聞こえた」
晴美「はい」
京一「晴美、俺は……」
勢い込んで何かを話そうとした時、空からムリョウの声。
ムリョウ「うわーーーーーーーーッ!」
ムリョウ、山の中腹に激突。立ち上る
煙。
京一「……」
ハジメ「ムリョウ…君?」
呆然の一同。
○同・某所
大きな穴を覗き込む山本。激戦の後を物語るように服はボロボロ。
山本「おいおい、大丈夫か?」
ムリョウ「いやあ、着地失敗です。やっぱり火星からだと目算が定まらないですね」
穴の中で照れ笑いのムリョウ、ポケットからチップをつまみ出す。
山本「それは?」
ムリョウ「磯崎先生に見せて下さい。ちょっとした、証拠です」
○同・頂上
日の出。
缶ジュースで乾杯の一同。
石段を登ってくるムリョウと山本達。
手を振るハジメ、それに応えるムリョウ。笑顔の那由多。
NR「みんな精一杯頑張った。僕は、どれくらい役に立てたかはわからないけど、まぁ、良しとしておこう。はっきりしているのは、この日の授業が寝不足でキツくなるだろうということ。何はともあれ、今この時のさわやかな朝を満喫して……続きは次回」
(第一一話・完)
☆二〇〇字詰七八枚換算
読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)