第9話『雨ののち、また雨』

学園戦記ムリョウ

第九話『雨ののち、また雨』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)☆

村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)

真守モモエ(サネモリ・モモエ)

山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ザイグル星人ヴェロッシュ(ジルトン号艦長)

ジルトン号副官
部下A

商工会長
若頭

宇宙人達

☆ひかるは体育祭ビデオにて出演?

○天網海岸・河口付近
雨が降っている。
沖合の海上に別空間が発生。
せり上がるようにしてザイグル帝国の機動部隊が出現する。編成はシーカー2が二五、シーカー3が五機。
うち七機のシーカー2の背中に戦闘服のザイグル帝国の兵隊が乗っている。
その中の小柄な人物(彼は部隊の長であり、火星軌道上に停泊中のザイグル戦艦の艦長である。以下艦長と呼称) が合図をすると一斉に移動する部隊。
海上を滑るようにゆるやかに。波打ち際に到着。飛び降りる兵達。シーカーは人型へ変形。周囲を確認、しかし霧のためかセンサーにノイズが起きている。注意深く歩き出す一同。

艦長「Λσρ」

艦長の指示で立ち止まる一同。
鈴の音が聞こえる。
警戒態勢のシーカー達、隊形整える。
浜辺は川からの霧が立ちこめていて前方がよく見えない。指示を出そうと言葉を発する艦長。

艦長「φλΓΦΩζ…何だ?」
部下A「艦長、これは?」
副長「こちらでも…翻訳機の暴走です!」

突然、日本語に音声が変わりとまどう一同。霧の中から声がする。

山本「翻訳機に強制介入させてもらったよ」

ゆらりと現れる山本。雨合羽に長靴。

艦長「君の仕業か?」

銃を構えた部下達、艦長を守るように前に立つ。山本意に介さず。

山本「ローカルルール……ここに来たヤツらは、日本語話せってね」

山本の背後に雨合羽姿の男達現れる。
商工会長に世話役、若頭(四話参照) を始めとした総勢十人。

それを受けて臨戦態勢のシーカー達、補助腕を構える。数の上では山本達の方が明らかに少ない。

山本「……ちょっと、ヤバイかな」

ニヤリと山本、苦笑い。
向かい合う両者。
雨音更に激しく——

○オープニング

○天網市・点景
夜。雨降る街。人影はない。

(サブタイトル『雨ののち、また雨』)

NR「僕らが呑気に鍋大会をしている一方で、海岸では緊迫したにらみ合いが続いていた」

○真守家・外
にぎやかな声が洩れ聞こえる。

NR「とはいえ、その時の僕らはそんな事など、当然知る由よしもなく——」

○真守家・次の間
鍋を囲んで盛り上がるハジメ達。とりわけてフタバのテンションが高い。

フタバ「はいそこ空いた!白菜入れる!」
ジルトーシュ「はいはい」
フタバ「あーっ、そこの肉はまだダメッ!入れたばかり!」
ウエンヌル「すみません」

こっそりハジメに耳打ちするムリョウ。

ムリョウ「フタバちゃんは…いつもああなのかい?」
ハジメ「まぁね。我が家の鍋奉行なんだ」
フタバ「はい、ムリョウさん、器♪」
ムリョウ「え?」

言うが早いか半ば無理矢理にムリョウの器を取り上げるフタバ。

フタバ「(しずしずと)お肉にお野菜、美味しいところお取りしますから……(態度変わって無愛想に)あとは、各自取って下さーい」
ハジメ「こら、人んちで仕切るな!母さん、言ってやってよ何かァ」
キョウコ「まぁまぁ、いいじゃないの。こういうことは誰かがやらなきゃ」

淡々と箸を進めるキョウコ。大きな肉の固まりを自分の器に入れる。

フタバ「あーっ、お母さん、それはダメッ! 私のとっといたお肉ッ!」

ギャーギャー騒ぐフタバ。キョウコは知らんぷりでモモエに話しかける。

キョウコ「ホント、お父さんに似て、お調子者で。お取りしましょう。何がお好きですか?」
モモエ「ああ、何でも食べますから適当に」

憤懣やるかたないフタバ、矛先をハジメに向ける。

フタバ「コラッ、お兄ちゃんどさくさに紛れてネギ戻さない!」
ハジメ「だってまだ煮えてなかったんだよ」
フタバ「フケツ!反則!」
ハジメ「熱湯消毒してんだからいいだろ」
フタバ「だめだってば!」

盛り上がる一同を冷静に観察するウエンヌル。

ジルトーシュ「どうしたの?さっさと食べないと肉が無くなるよ」
ウエンヌル「口論中の彼らには、その実、お互いに向けた仕草や眼差しに友愛の情が垣間見られる。何故だ?」
ジルトーシュ「そりゃあなた、『ケンカするほど仲がイイ』って奴だよ」
ウエンヌル「ケンカするほど?争うということは、敵味方という立場を表明している行為ではないのか?この星の人々の行動は理解できない」
ジルトーシュ「君らもああだったんだよ。ほんの二〇〇〇年前はね」

つぶやくジルトーシュ、翳る笑顔。

ウエンヌル「?」
フタバ「はいアロハ組、野菜と豆腐追加!」
ジルトーシュ「(すぐに明るく)はーい!」
ハジメ「かーさん、ご飯おかわり」
フタバ「おかーさん、私も」
キョウコ「はいはい」
フタバ「ところでアロハ組さん、お名前は何て言うの?」
ジルトーシュ「あれ、自己紹介してなかったっけ、まいったなぁ」
ウエンヌル「ウエンヌルといいます」
フタバ「どこの人?」
ウエンヌル「遠い所」
フタバ「何それ、宇宙人?」
ジルトーシュ「そうそう、僕たち宇宙人」
ウエンヌル「すき焼き、おいしいです」
フタバ「すき焼き好きな宇宙人?おっかしー」
ジルトーシュ「あははは、おっかしーねえ」
フタバ「ははは、変なの!」

モモエ、笑って見ている。
静かにパクついているムリョウ、ふと表の方を見やる。

○天網海岸
先程と変わらぬ位置に立って向かい合う山本達とザイグル星人の部隊。
山本「あんたらが……火星の軌道上に戦艦を隠してるのはわかってる。親分は誰だい?」

兵達身構える。一人、冷静な艦長。

山本「(艦長を見て)あんたか。あんた、知ってるかい?銀河連邦のことは?」
艦長「……」
山本「知らないかもしれないが、あんた達の星は遠い昔に銀河連邦に加盟してるんだよ。したがって……あんたらのやってる事は充分規約違反だ」

部下の一人が気負って発砲する。山本の前で弾かれるビーム、歪む空間。

山本「これも違反だ」

いきり立つ部下達。これをいさめるように前に出る艦長。

艦長「部下の無礼はお詫びする。が、しかし、連邦の加盟リストには地球は載っていない。地球人が連邦規約を持ち出すのはおかしな話だと思うのだが?」

敵味方に動揺走る。(シーカーは除く)
山本、ニヤリと笑う。

山本「やっぱり。お前さんくらい偉い奴は、知ってやがるんだな。本当のザイグル星の歴史を」
艦長「ザイグル帝国安全保障規約の一つに、上級将校の守秘義務、というのがある。『銀河連邦の存在について』がそれだ」

そばにいた副長が慌てて話しかける。

副長「艦長?! 」
艦長「交渉の場を持ちたいのだが——」
山本「いいよ。ちょっと手狭だがね」

雨の中でたたずむ一同。

○天網市内
駅方向からの下り坂。道を急ぐ那由多の他には人の姿はない。手に持つ傘の赤色が鮮やか。思い詰めて足早に歩く那由多。石畳が雨に濡れて光っている。

○真守家・玄関前
うつむいて立っている那由多、挨拶の予行演習をしている。

那由多「(ブツブツと)御免下さいませ、わたくし守山載の娘、那由多で御座います。夜分遅くに申し訳御座いません。ご迷惑かと思いますが、是非、話を聞いていただきたく参上いたしました。何か中学生らしく無くてイヤミっぽいなぁ……御免下さい、守山載の娘、那由多——は長いから守山那由多です。夜分遅くに申し訳ありません!」

うんうんと一人うなずき納得する那由多、キッと前を見据える

那由多「(復唱)御免下さい、御免下さい」

インターフォンのボタンを押す。

那由多「御免下さい、守山那由多です!」

とたんにインターフォン越しより聞こえる歓声。ギョッとする那由多。

モモエ(声)「あら、ごめんなさい。どうしたの、こんなに遅く?」

途端にしどろもどろになる那由多。

那由多「いえ…直接会ってお話がしたくて」
モモエ(声)「ああ、丁度良かったわぁ〜」
那由多「え?」

○同・次の間
鴨居から下げられた膜状モニターに映っているのは以前校内で放送された体育祭のビデオ。那由多が桃太郎に扮しているシーンにバカ受けの一同(キョウコは台所に行っているのでいない)。

那由多「……」

襖開けて絶句している那由多。
隣には出迎えたモモエがニコニコ。

一同「お〜〜〜っ!! 」

大盛り上がりで那由多を迎える一同。

モモエ「今日からしばらくここに居ることになったジルトーシュさんにウエンヌルさん、それから後の方たちは御存知よね」
那由多「え、ええ」

ジルトーシュ、立ち上がると那由多の手を掴んでブンブン振る。

ジルトーシュ「いやあ素晴らしい!凛々しくもひょうきんな、守山那由多さん!びゅーてぃふぉ!桃太郎白勝った!! 」
那由多「あ、いや、その……」

赤面する那由多、固まってしまう。

ジルトーシュ「ささ、どうぞ。折角来たんですから食べましょう、すき焼き!」

那由多、ジルトーシュに促されてハジメの隣に座る。その隣にはムリョウ。

ムリョウ「やあ」

微笑みかけるムリョウ。

ハジメ「はは……」

ハジメも笑いかけるもこわばった顔。その間も体育祭ビデオは流れている。

那由多「あの…えーと、どなたなんですか? このビデオをお持ちになった方は?」
フタバ「お兄ちゃん!」

那由多ギロッとハジメを睨み付ける。

那由多「(ひそひそ)何であんなモン、持って来たのよ」

小声で抗議する那由多、恨み顔。

ハジメ「(ひそひそ)しょうがないだろ、守機君が貸してくれたんだから」

つられてハジメもひそひそ。ジルトーシュとフタバは怪訝に三人を眺めている。モモエはニコニコ。

那由多「(ひそひそ)瞬が貸しても、ここに持って来ることはないでしょうが!」
ムリョウ「(ひそひそ)そりゃそうだ」
ハジメ「(ひそひそ)ムリョウ君、そんなぁ」
那由多「(ひそひそ)あんた、そんなに私を笑い者にしたいの?なめてんじゃないわよ」

そこへキョウコ、追加の野菜と肉を大皿に載せて現れる。

キョウコ「あら、丁度良かった。新しいお客さんね。こんばんわ、那由多ちゃん」
那由多「(愛想良く振り仰いで)こんばんわ、おばさま♪(再びひそひそと)いいこと、この件も含めて後で!後で反省会!! 」
ハジメ「(ひそひそ)何だよそりゃあ」
ムリョウ「(ひそひそ)まぁまぁ…」
モモエ「もういいかしら、内緒話は?」
那由多「あ、どうもすみません。ささ、始めて下さい。ズイッと」
ウエンヌル「(ジルトーシュに)彼らは何故声を潜めてあからさまな会話をしているのだ?」
ジルトーシュ「それは君、内緒だからだよ」
ウエンヌル「聞こえているのにか?」
ジルトーシュ「周囲は知っているのに知らんぷり。地球の一国家、日本の美徳だよ」
ウエンヌル「それは興味深い習慣だ」

赤面する那由多。苦笑いのハジメ。その間にもキョウコは鍋に野菜を入れている。

キョウコ「ふふ、何か面白い取り合わせのお食事会ですね」
モモエ「ええ、ホントに」

メニュー画面にしてリモコンをいじくっていたフタバ、頭出し。

フタバ「じゃ折角だし、最初から見ようね」
那由多「あ、それは!」

○甘味茶屋「こなや」・外
準備中ではあるが店内は煌々と明かりがついている。

○同・店内
入り口近くのテーブルには若頭達が陣取り、無言でやり取りを見守っている。
奥の壁側のテーブルに整然と座っているのはザイグル星人達。山本はカウンター側のテーブルに一人座り、ちょうど艦長と向かい合うように座っている。

山本「店の爺さん達は寝ちまってるんでね、餡蜜や汁粉はナシだ。お茶で勘弁してくれ」

怪訝にテーブルに置かれた湯飲みを見つめるザイグル星人達。

山本「毒なんか入ってないよ」

おもむろに湯飲みを取り上げ、一口、二口と茶を飲み込む艦長。

副長「艦長!」
艦長「大丈夫だ。しかし、苦いな」
山本「口に合うかは保証外だ」

ニヤリと笑う艦長。
艦長「これから話すことは国家機密……ザイグル星の秘密であり、私は秘密漏洩、国家反逆の罪で軍法会議にかけられることになるだろう。以下の発言を裁判時の証拠として記録する——副長、すまんが……」
副長「音声記録、開始しています」

満足げにうなずく艦長、山本に向き直る。山本も静かに艦長を見つめる。

艦長「ザイグル星は現在帝国と共和国に別れ、大規模な戦争状態にある。戦況は一進一退。従来の技術並び軍用兵器を使用しての戦闘では、双方共倒れに終わる危険が大きい。そこで禁断の歴史にある“シングウのチカラ”を手に入れるべく、私と私の船に特命が下った」
山本「禁断の歴史?」
艦長「我々が教育によって学んでいる星の歴史とは異なる歴史、真実の歴史だ」

○天網流道場・風光館
周囲は真っ暗。
道場に明かりがついている。

○同・道場内
道着姿の晴美が正座している。
黙想——
雨音のみの静寂。
黙想——
カッと目を見開く晴美。
雨音のみの静寂。
晴美、気配を感じる。

京一「今、何人倒した?」

入り口に京一立っている。手にした傘から滴が落ちる。

晴美「…10人です」

俯き加減に答える晴美。

京一「拳治おじさんは?」
晴美「出掛けて……いません」
京一「そうか……」
晴美「……何か、御用でしょうか」
京一「俺は……お前が……好きだ」
晴美「……」
京一「好きだから……許せない」
晴美「……御免なさい」
京一「俺を守る、なんてことは止めろ!それが出来ないんだったら何処か俺が見えないところに行っちまえ!」
晴美「……」
京一「……俺を何故守る?シングウに選ばれなかった俺を?お前達は……」
晴美「……京一様のチカラはシングウになくてはならないモノだから。京一様のチカラは私達一族が守らなければならないモノだから……」
京一「そんなこと、前にも聞いた!何故俺だけなんだ?何故?! 」
晴美「……」

雨音ひときわ大きく。

京一「!」

土足で踏み込む京一。何かを覚悟したかのように晴美、身を固くする。

晴美「……」

晴美の小さな背中。京一、ふと我に返り立ち止まる。自分に嫌気がさしたようにプイと背を向け捨て台詞。

京一「それでもお前は俺を守るんだろ?」
晴美「……御免なさい」

走り去る京一。

○天網市・国道沿い
雨やや激しく。松並木を走る京一。傘は握りしめたまま。

京一「チクショウ、チクショウ!」

○風光館・道場内
晴美、座ったまま。
つらそうな、寂しそうな顔。

○アイキャッチ

○天網市・商店街
小降りの雨の中、足早に歩く磯崎。

○甘味茶屋「こなや」・店内
扉を開けて入ってくる磯崎。

磯崎「すみません、遅くなりました」
山本「いやいや、ご苦労様です」

山本の座るテーブルに着く磯崎。

磯崎「で、どこまで行ってますか?」
山本「えー、衝撃の告白が先程終わってみんなビックリ、声も出ない、といったところでしょうかな」

ザイグル兵達押し黙ったまま。

山本「で、こちらがザイグル帝国の——」
艦長「宇宙戦艦ジルトン号、艦長のヴェロッシュ大佐です」

会釈をする艦長。

磯崎「私は銀河連邦安全保障委員の太陽系方面観察者……地球でのコードネームはイソザキヒロミです」
艦長「あなたは地球で言うところの“宇宙人” なのですか?」
磯崎「はい。私はアルティン星の人間です」

商工会長と若頭達、顔を見合わせてうなずくと立ち上がる。

商工会長「じゃ、山本さんに磯崎さん、わしらはそろそろいいかな?」
山本「ええ、わざわざすみませんでしたな」
磯崎「ご苦労様でした」
商工会長「いやいや、将来の友好のために」
若頭「それじゃあ、また」
出ていく三人。

   *   *   *

山本、湯飲みに茶を次ぐと磯崎の前に置く。

磯崎「ありがとうございます」
山本「ま、かいつまんで言いますと、ザイグル星は銀河連邦に加盟してすぐに宇宙開発を表向きは止めてしまったそうなんです」
磯崎「自分の星よりも上のレベルの文明と接する場合、統治者が制限を加えて緩やかな交流を図るのはよくあることです。問題はその後ですね?」
艦長「不幸なことにザイグル星は、緩やかな交流を、本来されるべき星々との交流へと昇華させるきっかけを失ってしまった。度重なる戦争も原因だが、最大の理由は、隠してしまった真実が、あまりに我々が暮らす日常とかけ離れてしまったためだ」
山本「まあ、確かに昨日の今日で『神様は宇宙人です。本当にいるんです』なんて言っても誰も信用しないだろうな」
艦長「良い例が、先日死んだ私のクルーだ」
山本「ああ」

   *   *   *

(回想)
浜辺で自爆するザイグル工作員(五話)

   *   *   *

磯崎「あれは地球人のせいではないわ」
山本「わかっている。彼の緊急通信カプセルを解析したところ、非常に膨大なデータが圧縮されているイメージの痕跡が見られた。あまりにも情報量が大きすぎたのか、カプセルそのものは壊れてしまっていたがね」
山本「あの人には可哀相なことをしたな……」
艦長「あの通信カプセルは、身につけている者の脳内データをバックアップするためのものでもある。あの壊れ方からするとおそらく、自我が崩壊するくらいの情報を頭の中に流し込まれたと……」
山本「そのようだね。そのイメージとは、ヴェルン星の人間の頭の中にあったものだよ」
艦長「ヴェルン星の?」
山本「ジルトーシュの奴、ザイグル星とヴェルン星の時間感覚が違いすぎた、って嘆いてたな。目を離した隙に退化してた、って」

ザイグル兵達、一斉に山本を睨み付ける。山本、慌てて弁解。

山本「いやいや、言ったのはヴェルン星人の奴だよ。俺じゃない」
磯崎「本来なら、銀河連邦に加盟する時に推薦した星が、責任を持って面倒見ることに
なっているんですが…あの分じゃ動いてくれそうもないわね」
艦長「ヴェルンとは神。愚かなる我々ザイグルの民に知恵を与えてくれた全能の神だ」
山本「あいつが神ねぇ……」

○真守家・台所
慣れた手つきで洗い物をしているジルトーシュ。ウエンヌルは皿やコップを戸棚にしまっている。

ジルトーシュ「ところでお前さん、神主とか牧師とか、そっちの方の家の出なのかい?」
ウエンヌル「はい。家は代々神官をしています。何故わかったのですか?」
ジルトーシュ「ウエンヌルってのはヴェルン、神様にちなんだ名前なんじゃないのかなって何となくね」
ウエンヌル、蛇口を締めて手を拭う。
ウエンヌル「その通りです。旧来の慣習や迷信に反発して私は軍に入ったのですが……」
ジルトーシュ「まさか神話や迷信が本当のことだったんで面食らったかい?」
ウエンヌル「まだ何とも……あなた方の言っていることが全て正しいとは判断ができない」
ジルトーシュ「ふふん。いいね、慎重で。あのイメージはお前さんにこそ見せればよかったな……」
ウエンヌル「イメージ?」
ジルトーシュ「イヤイヤ……じゃ、この後で二次会をやろう。みんなに紹介するよ」
ウエンヌル「?」

○村田家・玄関
真っ暗。元気よく扉を開けて入ってくるフタバ。後に続くハジメとキョウコ。

フタバ「たっだいまー」
ハジメ「いるわけねえだろ」
フタバ「へへへ〜」

やけに機嫌のいいフタバ。

○同・居間
満足そうに座り込むフタバ。ハジメもごろりと横になる。

フタバ「あー、鍋は食べたし、ムリョウさんも堪能したし、いい日だなあ〜」
キョウコ「こんな雨の日、滅多にないわよ」
フタバ「うん、私、日記につけとくよ」
ハジメ「(意地悪っぽく)とはいえお前、本当はムリョウ君に送って来てもらいたかったんだろ?」
フタバ「(健気なふりで)いいの。だって那由多さん一人じゃあ可哀相じゃない」
ハジメ「かわいそう?」

   *   *   *

(回想)
深夜の公園、学校の屋上で那由多にチカラを掛けられるハジメ。

ハジメ「(イメージ)うわあああーーッ」

   *   *   *

背筋がぞくりとするハジメ。
ハジメ「…あんまりそんな気がしないなぁ」
フタバ「ふふん?」
ハジメ「な、なんだよ」
フタバ「お兄ちゃんホントは妬いてるんじゃないの?ムリョウさんが那由多さんを、お・み・お・く・り!」
セリフ「マッハパンチ!」
フタバ「へーん、へっぽこパンチ♪」

ひょいと避けるフタバ。

ハジメ「じゃ、ちょい本気」

すかさずその後頭部をはたくハジメ。
いい音。

フタバ「あ〜〜ん!」
ハジメ「同じ技に引っかかる奴ゥ♪」

台所でそんな二人のやり取りを聞きつつコーヒーを入れているキョウコ。

フタバ「いい一日が台無しだよバカぁ」
ハジメ「あきらめろ、ベー」
フタバ「あーん何さーっ!」
キョウコ「こら、よしなさい」

口では怒っているが顔はニコニコ。

○国道沿い雨は小降り。
傘をさして歩く那由多とムリョウ。
前を行く那由多、その後をムリョウ。
時折車が行き交う。

那由多「いいわよ、一人で帰れるんだから」
ムリョウ「そうはいかないよ、お婆ちゃんに頼まれたんだから」
那由多「頼まれたからって、あんた達は何でもするの?祭りクラブに、体育祭ビデオに、お見送り?あたし、自分の考えが無い人って大嫌い!」
ムリョウ「そんなに怒ることかい?いいじゃない、ビデオ面白かったんだから」
那由多「!! 」

立ち止まる那由多、くるりと向きを変えて、ムリョウに詰め寄る。

那由多「あんたたちが面白くてもあたしは面白くないの。不愉快です!(プイと顔背けて)それはいいのよ……まだ、ほんの些細なことだから」
ムリョウ「じゃあ、いいんだ」
那由多「そうじゃなくて!あんたたちの、そういう些細なことが積み重なって不愉快なのよ!あれこれそれで不愉快なの!」
ムリョウ「不愉快の積み重ね?」

那由多再び歩き出す。

那由多「何でみんな言いなりなのよ。晴美ちゃんもそう!八葉さんだって結局大人の言いなりじゃない。そんな八葉さんの言いなりに言いなりのあんた達は……最低よ!」

後ろを歩くムリョウ、ポツリと。

ムリョウ「信じてたのに?裏切られた?」
那由多「!? 」

立ち止まり、赤面する那由多。いつの間にか横に並ぶムリョウ、その顔を覗き見て微笑。

ムリョウ「はは。君はホントに正直だね」
那由多「信じてない!何であんた達を信じてなきゃ行けないのよ!」
ムリョウ「僕は……信じなくてもいいよ。でも、村田君のことは信じてよ」
那由多「?」
ムリョウ「確かにあの時、八葉さんに御輿下ろしの事を聞かされたけど……クラブを作ろうって言い出したのはは村田君なんだ」
那由多「え?……何で?」
ムリョウ「だからちゃんと聞いてあげてよ、文化祭参加の理由。クラブ設立の目的」

○天網海岸
浜辺には山本と磯崎、向かい合って立つザイグル機動部隊。

磯崎「本当にいいのですか?」
艦長「はい。私は今回のあなた達との会談と、今まで収集したデータを元に帝国の上層と話し合うつもりです。それが例え失敗しても……とりあえず、当面、この星を攻めるも
のはいなくなります」
山本「こちらで保護している……ウエンヌル少尉はどうするんだ?」
艦長「お任せします。彼が真実を探るためにここに残るというのならば……少尉は地球にて行方不明、ということにしておきます」
磯崎「それでは——」
艦長「未来の、友好のために——」

ニヤッと微笑む艦長。

副長「母艦より固定、準備良し」
艦長「うむ」

艦長達の足下に広がる異空間。

山本「今度は、遊びに来なよ」

小さく手を振る山本。
同様に手を振って答える兵達、異空間に消えていく。閉じる異空間の穴。

山本「今回は……話し合いに来たんですね。少なくとも艦長には戦う意志は最初からありませんでしたから」

海を見つめる二人。

山本「あの男……死ぬ気ですね」
磯崎「上司には、今回の件は報告済みです。ですが、言ってしまうと加盟以前のレベルに星が退化している現在、処遇が難しいと」
山本「まぁ、子供を大人の決まりで裁く訳にもいかないでしょうし。なかなか上手くいかないものですなァ」
ジルトーシュ「そういう時こそ神様の出番だ」

背後から声を掛けるジルトーシュ。その隣にはウエンヌル、相合い傘。

ジルトーシュ「これから二次会やるんだけど、来るかい?」
山本「二次会?それはいいけど神様の出番って何するつもりだよ」
ジルトーシュ「強制介入」

ギョッとする一同。

ジルトーシュ「もうヴェルン星では動き出してる筈だよ。ザイグル星の保護監察の義務を持つ、上位に位置するヴェルン星の、これは寧ろ責任です」
磯崎「でも、そんなこと急にしたら……」
ジルトーシュ「この星を見なよ。なし崩し、とは言わないけれど、銀河連邦の仲間になれる資格というものは、いつの間にか持つことが出来るんだよ」
ウエンヌル「強制介入とは、何をするつもりですか?」
ジルトーシュ「神様が降臨して『戦争を止めろ!』とでも言うんだろうねえ」

煙に巻かれた表情のウエンヌルと磯崎。
ヤレヤレと言った表情の山本。

○仲良し横町
雨は小降り程度。落ち着いた感じ。

○居酒屋「よっちゃん」・店内
座敷で盛り上がる宇宙人達。カウンターには磯崎と山本もいる。

○村田家・居間
一人パソコンに向かっているキョウコ。
何やら翻訳中。

○同・ハジメの部屋
消灯。ベットで寝ているハジメ。

NR「この日は何だか疲れたので、すぐにあっさりぐっすり眠った。何だか沢山いろいろあったと思うが、とにかく今日は終わりだ。願わくは……明日天気にしておくれ」

○天網市・点景
雨の街並み。濡れた路面や樹の葉が街灯の明かりにぼおっと輝く。

○御統中学・外
翌朝。相変わらず雨が降る。
登校風景。

○同・昇降口
靴を履き替えているハジメ。
憂鬱そうな顔。

NR「今日も雨…しかし、暗い顔をしていても仕方がない」

一転、気張った顔のハジメ、頷く。

○同・生徒会室
扉を開けるハジメ。部屋の中で那由多、書類の整理中。

ハジメ「守機君に聞いて、ここにいるって聞いたんだけど。いいでしょうか?」
那由多「(事務的に)何でしょうか?予鈴まで時間がないので——もし、時間が掛かることでしたら放課後にお願いします」

どこか他人行儀な態度の二人。

ハジメ「それは守山さん……副会長次第だよ」
那由多「?」
ハジメ「文化祭のクラブ参加。祭りクラブは参加申請書を提出します」

那由多、じっとハジメを見つめる。ハジメも那由多をじっと見る。
気負いもなく、力みもない二人の顔。

那由多「……わかりました。申請書、確かに受け取ります」

前に進み出て申請書を手渡すハジメ。
受け取る那由多。
一転して表情が和らぐハジメ。

ハジメ「それじゃ、参加はオーケー?」
那由多「…ダメ!」
ハジメ「え?」
那由多「説明を要求します。文化祭参加の理由。クラブ設立の目的……スットコドッコイな理由だったら、絶対にダメ!」
ハジメ「スットコドッコイ?至極尤もな理由だと思うんだけどなぁ。読んでみてよ申請書。ちゃんと参加基準はクリアしてると思うんだけど……」
那由多「尤もな理由、だけじゃダメ。あなたの本音を聞きたいから。何でお祭りで、何であなたなのか、それが知りたいの」
ハジメ「うーん、そうだねえ……」

思わず天を仰ぐハジメ。

○同・入り口前
中のハジメ達のやり取りをこっそり覗いている八葉と瞬。

瞬「(ひそひそ)どうなりますかねぇ、祭りクラブの運命は?」
八葉「(ひそひそ)那由多には説明しとくかなぁ、御輿下ろしの本当の目的を……あいつ、何か勘違いしてるようだし」
瞬「(ひそひそ)で、どうです?購買部のアンパン一つ賭けません?」

不意に部屋の中から那由多の叱責。

那由多「賭け事禁止!! 」

○同・廊下
歩きながら大あくびの山本。そこに磯崎、教師用パソコンを抱えて横に並ぶ。

磯崎「つらそうですね」
山本「ええ……あの後付き合わされて朝までですよ。全くとんだ外交会談だ。先生は『よっちゃん』で帰って正解でした」
磯崎「お体には気をつけて」
山本「もう歳ですからな。ハハ」

そこへ磯崎の携帯端末から呼び出し音。

磯崎「失礼」

山本に背を向けると携帯を取り出す磯崎。『重力波通信・地球圏外』の文字が表示されている。瞬時に恒星間通信モードに切り替わる携帯(カモフラージュをした銀河連邦の特製品)。

磯崎「磯崎です。はい……はい……わかりました。それでは」

携帯をしまい込む磯崎、硬い表情。

山本「どうかしましたか?」
磯崎「土星付近で爆発を確認したそうです。あのザイグル星人の艦長の船です」
山本「何ですって?」
磯崎「それから臨時会議を招集して下さい。真守の方たちとの話し合いが必要です」
山本「いつ?」
磯崎「出来るだけ早く……地球の危機です」

○同・全景
雨が降っている。

NR「雨ののち、また雨。厄介なこと、面倒なことが色々だ。『雨降って地固まる』のか、そのままグシャグシャになるのかは神のみぞ知る、というヤツなのだろうか。何はともあれ、続きは次回」

         (第九話・完)

☆二〇〇字詰八〇枚換算

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佐藤竜雄
読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)