第13話『かくれさと、ふるさと』

学園戦記ムリョウ

第一三話『かくれさと、ふるさと』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)
統原瀬津名(スバル・セツナ)
阿僧祇(アソウギ)

守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)

守口壌(モリグチ・ジョウ)

ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ソパル星人
ツイフォフ星人
コンコル星人
ハイン星人

ナンパ君
ハンチング帽の男(探偵)

村人

○天網市・点景
八月初旬の昼下がり。
氷屋の旗。昼寝する犬。
軒先の朝顔の鉢植え。
夏の風情そこかしこに。

NR「あっという間に夏が来た」

○村田家・居間
昼寝中のハジメ。窓は全開、扇風機が首を振っている。気持ちよさそうな寝顔のハジメ。

NR「夏といえば夏休み。これはどんな時代になっても、学生にとってはいたく楽しみなものだと思う」

側には読みかけの少女漫画。

○村田家・庭
庭木の緑が鮮やか。
涼やかな風に居間のカーテンが揺れているのが見える。

○村田家・居間
二つの寝息。眠っているハジメ、いい匂いにクンクン鼻を鳴らす。何やら気配を感じ、そっと目を開く。

セツナ「くー」

ハジメの至近距離にセツナの寝顔。

ハジメ「?」

寝ぼけるハジメに更に接近するセツナ。

セツナ「むにゃむにゃ、ハジメくぅん……」
ハジメ「?! 」

ここに来て、ようやく事情を理解したハジメ、あわてて跳ね起きる。

ハジメ「わ、わ、わ、わ!」
セツナ「何だ、つまんない」

実は起きていたセツナ、目をパッチリ開けるとニコリ。

セツナ「不用心だぞ、ハジメ君」
ハジメ「セツナさんこそ何やってんですか、人の家で!」
セツナ「ふふふ。喜びたまえ、少年。君に新たなる旅のチャンスを与えよう!」

体を起こして、大げさにセツナ。

ハジメ「はいはい、今度は何ですか?」

いつものことなのでハジメ、まともに取り合わない。

セツナ「つれないなぁ。初めてあったときはそんな子じゃなかったのに」
ハジメ「少年の成長は早いんですよ。で?」
セツナ「私達の田舎に来ない?歓迎するよ」
ハジメ「いつですか?」
セツナ「明日」
ハジメ「あした!? 」
セツナ「長野の奥の方なんだけど、どう?」

ニコニコと笑いかけるセツナ。

○天網市・全景
青空に夏雲。
太陽がまぶしい——

NR「と、いうわけで、これが今日の御題」

○オープニング

○天網駅・駅舎前
ロータリーの花壇には向日葵。

(サブタイトル『かくれさと、ふるさと』)

翌日の午前九時頃。待ち合わせしているハジメ。背中には大きめのデイパック。

ハジメ「……」

誰も来ていない。少々待ちくたびれ気味のハジメ。駅前といっても休みのせいか、人通りは少なく、タクシーの運転手が暇そうにしている。

セツナ「おっまたせー!」

セツナ、ムリョウを引き連れ参上。いささかムッとしているムリョウ。

セツナ「この子がぐずぐずしてるからさぁ、遅くなっちゃったのよね、ゴメン」
ムリョウ「姉ちゃん、お節介過ぎなんだよ」
セツナ「何言ってんのよ!弟に世話焼いて何悪いのよ!」
ハジメ「まぁまぁ。で……後のメンバーって一体誰なんです?」
セツナ「あぁ、来た来た」

   *   *   *

商店街の坂を上ってくる那由多と瞬。

瞬「おっはようございま..す!」
那由多「……まーす」

上機嫌な瞬に対し、那由多は不機嫌この上ない顔。

○東海道線・車内
クロスシートにムリョウと瞬、ハジメの三人。通路はさんでセツナと那由多が座っている。車内、通勤時間を外れているのでかなり空いている。

瞬「いやー、昨日の今日なんで慌てちゃいましたよ」
ハジメ「そうだね」
セツナ「いいじゃないの、突然のイベントってのは時間が経てばいい思い出になるんだから」

ムリョウは話に加わらずに窓の外を眺めている。那由多もブスッとうつむいたまま。セツナ、那由多の目の前に手をヒラヒラ。

那由多「……」

無視してそっぽ向く那由多。

セツナ「あら」

瞬「ほっといて下さい。嬉しくてたまんないんだから」
那由多「!」

赤面する那由多、殴りかかろうとするが、我に返り、あわてて顔をそらせて窓を見る。ガラスに映る顔。

瞬「那由多は嬉しいときはいつもああなんです。ホントかっこつけなんだから」
那由多「瞬!」
瞬「電車の中は静かに!」

電車は多摩川を超える。

○新宿駅・構内
移動する一同。アナウンスも国際色豊かで現代の空港のような場内。

○同・売店内
コンビニ程度に広い店内。買い出し中のハジメ達。那由多の姿はない。お菓子に飲み物とあれこれカゴに入れるセツナ。ムリョウは一人景色を見ている。
瞬とハジメは雑誌売り場で立ち話。

瞬「うれしい、ってのはホントですよ。僕らが言われたのは昨日の晩なんですけどね」

   *   *   *

(回想)
真守家・モモエの部屋——
上座にはモモエ、下座には瞬と那由多。

モモエ「じゃ、よろしくお願いしますよ」

微笑むモモエ、ペコリとお辞儀の二人。
顔を上げる那由多、嬉しそう。

   *   *   *

ハジメ「えー、そうなの?」
瞬「彼女、あなた方に意地張っちゃった手前、あんな顔してますけどね、本当に嬉しいんですよ。あそこの家、妙に固くて任務だ使命だとか言って旅行とかも行ってないから。ま、一応これも任務なんですけど」

向こうからセツナ大声で

セツナ「ほしーものあるの?えっちな本はダメよ!」

○スーパーアルプス・車両内
一人座席に座って荷物番の那由多。
相変わらずムッとしながらポケット版の『バンバン紙相撲』をしている。

那由多「何よ瞬の奴。あれじゃ、私もうかつな顔できないじゃない。ホントにもう……」

そこにナンパな男が声を掛ける。

ナンパ君「ねえ、そこ、いいかな?」
那由多「……」

うつむいたままの那由多に構わず男、那由多の隣のシートに座る。

ナンパ君「いやー、いい天気でよかったね」
那由多「……」

ゲーム機から目を離さず、拒絶も肯定もしない那由多。それを幸いに男、更に続ける。

ナンパ君「何処に行くの?」
那由多「長野」
ナンパ君「そっかー。でもどうしたの?そっかー、ケンカだね、ケンカ!残念だねー、せっかく遊びに行こうとしてた矢先にすれ違い?イヤだねーつまんない奴だねえ、その彼氏ってさぁ……そうだ、これもなんかの縁じゃないかな、と思うんだけど、どう? ちょうど新宿だしさ。ごはんだったらごちそうしちゃってもいいかなー、って思ったりして。どう?行く?行く?彼氏なんかほっぽっといてさぁ!」
那由多「(顔上げて)彼なんかいません!」

那由多、猛烈な剣幕。ひるむ男。

ナンパ君「や、や、や、それはそれとして……行こ行こ!切符勿体ないけどその分元取れるって」

じっと男の顔を見る那由多。

那由多「でも私、使命がありますから」
ナンパ君「使命?」

突如男の頭の上に乗せられるお菓子やら駅弁やらがどっさり入った袋。

ナンパ君「ぐえ」
セツナ「あら、お久しぶり」
ナンパ君「え?あ!? 」

通路に立つムリョウとセツナ。その後ろに瞬とハジメがのぞき込んでいる。

ハジメ「知り合いなんですか?」
セツナ「ええ、詳しくは第一話『戦記、始まる』を見て頂戴ね♪」
瞬「商売熱心だなぁ」

○中央本線
走るスーパーアルプス。

○スーパーアルプス・車内
クロスシートではセツナ、瞬が盛り上がり、ムリョウは居眠り。ハジメと那由多、その手前のシートに座っている。
窓際の那由多は黙って外の景色を眺め、ハジメはガイドブックを読んでいる。

那由多「……」

ちらっと那由多、ハジメを見る。本を読んでいるように見えたハジメ、船をこいでいた。

那由多「(フン)」

ぷいと那由多、再び外を眺める。後ろのセツナ達の浮かれた声ひときわ高く。
離れた席で一同を見張る男が一人。
いかにもな登山ルックにハンチング帽。
更にもう一人(ツイフォフ星人)——

○甘味茶屋「こなや」・外
“氷あります”の貼り紙。氷屋の旗も。

○同・店内
かき氷を食べているジルトーシュ、ウエンヌル、ソパル星人の三名。

ジルトーシュ「ええっ、ツッチーってば、付いてったの?」
ソパル星人「うん。彼もまだ地球に来て日が浅いからさ、まだ痛い目あってないからね」
ジルトーシュ「よせばいいのに……」
ウエンヌル「あの、ツッチーとは?」
ソパル星人「ああ、ツイフォフ星人って言うんだけどね、君らが来る前は一番ぺーぺーだった子なんだよ」
ウエンヌル「ペーペー……若造、ということですか?」
ジルトーシュ「そうそう、若造。はうっ!」

氷の冷たさにキーンとなるジルトーシュ、顔しかめ。

○山道
長野某所の山道を走る路線バス。密かに尾行するツイフォフ星人。道路から更に奥に入った森をひた走る。

○路線バス・車内
山を見てはしゃぐ瞬とセツナとハジメ。
あきれているのはムリョウと那由多。
その様子を密かにをうかがうハンチング男。

○登山口
某山の登山口に立つ一同。案内人よろしくセツナ、元気良く。

セツナ「はーい、これからてくてく歩きまーす!」
ハジメ「どのくらいですか?」
セツナ「そーだねー……」

ちらと目を走らすセツナ、その先には物陰に隠れているハンチング男、あわてて物陰に隠れる。

セツナ「心がけ次第かな」

○山道
歩いている一同。ハジメ、少し遅れる。
疲れた表情、足取りも重く。

那由多「大丈夫?」

那由多、ハジメの横に並ぶ。

ハジメ「ああ……みんな、元気だね」
那由多「私、鍛えてるから」
ハジメ「走ったりとかしてるの?」
那由多「朝のお勤めがあるから。神社の裏山のそのまた向こうに泉があってね……そこの水を桶いっぱいに汲んで帰るの」
ハジメ「うへー、信じられない」

   *   *   *

いつの間にか霧が立ちこめている。ひたすら歩くハジメと那由多。先行しているセツナ達は見えない。空は青いが鬱蒼と茂る森の中は暗く、不気味な雰囲気が漂う。先頭に立つ那由多、ためらうことなくどんどん歩いていく。

ハジメ「……道……知ってるの?」
那由多「わからない。でも、この道筋……」
ハジメ「どうかしたの?」
那由多「似ているわ、ウチの神社の裏山」
ハジメ「天網山?でもここは長野山中……中部地方だよ?」
那由多「朝のお勤めの道筋がこんな感じで……あッ!」

何かを感じ、不意に道を外れる那由多。転がるように繁みの中を走り出す。

ハジメ「あ?! 」

あわてて後を追いかけるハジメ。
走る那由多。走るハジメ。

NR「あんなにヘトヘトだったのに必死に走る僕。女の子のお尻を見ながら走るのはカッコ悪いが、遭難はゴメンだ。走れ!走れ!」

息が上がりながらも必死のハジメ。
いつの間にか上り坂。木々の間から光が洩れる。前を行く那由多はその中へ消えていく。とにかく走るハジメ、光に飛び込んでいく——

セツナ「はい、ごーるいーん!」
瞬「やんややんや」

気がつくとあぜ道に出ていたハジメ。ニコニコと立っているセツナ、瞬、ムリョウ。先行していた那由多は手に膝をついてゼイゼイと前屈み。座り込むハジメ。

ハジメ「……ここは?」
ムリョウ「ようこそ、星降る里に」

○かくれ里・点景
一同、セツナに案内されて村内を行く。

   *   *   *

谷間の小さな村。四方を山に囲まれている。低地には精一杯の農地。人家はまばらに斜面に建っている。そのうちの一軒がムリョウの家。大きくはないが時代を感じさせる作り。

   *   *   *

ハジメ達、ひたすら感心して歩く。

○統原家・玄関
セツナ「たっだいま..!」

扉を開けて入る一同。返事はない。

セツナ「あれ?」

その代わりに聞こえる何かのBGM。

ハジメ「あれ?これって……」

顔を見合わせる瞬とハジメ。顔がこわばる那由多。

○同・囲炉裏
阿僧祇、体育祭ビデオを見ていた。
モニターはちょうど那由多が大活躍しているところを映している。

那由多「あーーッ!! 」

入り口で立ちつくす那由多。

阿僧祇「おお、いらっしゃい」
セツナ「はい、みんな紹介します。お爺ちゃんの統原阿僧祇でーす♪」
ハジメ・瞬「こんにちわーーッ」
阿僧祇「はい、よろしく」
那由多「ちょっと、どういうことですッ!」

セツナに食ってかかる那由多。

セツナ「え、何が?」
那由多「(モニターを指差して)あれです、あれ!」

モニターでは那由多の桃太郎。阿僧祇、リモコンをいじって静止画面に。

阿僧祇「あらかじめみんなのことを知ってお
きたくての……そう言ったらモモエさんが送ってくれたのじゃよ。いやあ、面白いのぉ、このビデオ」

言われて瞬、思わずニコニコ。

瞬「え、ホントですか?嬉しいなァ。それ作ったの僕……」

その後頭部を思い切りはたく那由多。

瞬「いたッ!何すんだよッ!? 」
那由多「知らないッ!」
ムリョウ「ま、立ち話もなんだし、座ってよ」
セツナ「そうそう、座って座って!」

那由多の桃太郎、静止画面。

○山道
ウロウロと歩くハンチング男。手には携帯。通信をしながらキョロキョロと。

探偵「ええ、見失いました。登山口まではみんないたのですが、一人減り……二人減り……」
壌(声)「怪談ばなしか!馬鹿者!! 」

○壌のオフィス
激高して受話器にがなり立てる壌。

壌「地図にも無い!衛星写真にも写らない! しかし、確かにあるのだ!我らの故郷、天網の民発祥の地が!」

モニターにはかくれ里付近の衛星写真や地形図が表示されている。

壌「何としても探し出せ!いいな!」

○山道
一方的に切れる電話。途方に暮れながら歩く男。

ツイフォフ星人「ムダムダ、人間には星降る里は見つからないよ」
探偵「?! 」

思わず身構える男、手には銃。

ツイフォフ星人「安心しろ、敵じゃない」

木の影より現れるツイフォム星人。

探偵「敵じゃ、ない?」
ツイフォフ星人「味方になってもいいぜ」

鬱蒼と茂る森。鳥の鳴き声が不気味に。

○アイキャッチ

○かくれ里・全景
早朝。朝露に濡れる草木。

○神社・境内
町の中央部にある小さな神社。
地面を掃く瞬、本殿の拭き掃除をする
那由多にハジメ。村人が通りかかる。

村人「ご苦労様です」
ハジメ達「お早うございまーーす」

村人、神社の前を通り過ぎる。

ハジメ「あれ?」

何気なく振り返ると村人の姿は無い。

那由多「こら、さぼるな!」
ハジメ「?」

○統原家・囲炉裏
朝食の一同。漬け物に山菜、目玉焼きに切り海苔と正しい(?)日本の朝食。

セツナ「えー、今日のこれからの予定を発表します。一〇時までは自由時間、その後は晩ご飯のおかずの調達に働いてもらいまーす」
瞬「何やるんですか?」
セツナ「君は私と山歩き、ハジメ君とムリョウは川で魚釣り。で、ナユちゃんは……」
那由多「私は?」
阿僧祇「君は、わしと神社の片付けをしてもらうよ」
那由多「片付け……」

ちょっと落胆な那由多。

○同・台所
セツナと那由多、二人並んでおにぎりを作っている。(洗い物はすでに終了)

セツナ「一人だけお片づけでご不満?」
那由多「いや、まあ」
セツナ「(微笑んで)正直だね。でもね、ここの神社の片付けは結構面白いよ」
那由多「掃除がですか?」
セツナ「星の記憶のお片づけ」
那由多「?」

二人の握るおにぎり、かなり大きい。

○同・居間
御幣を切っている阿僧祇、そのかたわらに座り込んでながめているハジメと瞬。
シングウの形に似ている御幣——

○かくれ里・本道
村の中央を走る農道。大きな石碑の前の一同。瞬とハジメは腰に先程の御幣をつけている。

セツナ「それではさかな組、よろしく!」
ムリョウ「姉ちゃん達もな」
セツナ「任せてよ。さ、しゅっぱーつ」
瞬「おーーっ!」

二手に分かれて歩き出すハジメ達。

ハジメ「魚釣りってどこ行くの?」
ムリョウ「いい穴場があるんだ」
ハジメ「あれっ?! 」

ふと振り向くと歩いていたはずのセツナ達の姿が無い。

ハジメ「む、ムリョウ君!」
ムリョウ「来たときと同じだよ。この村の出入りはちょっとしたコツがあるんだ」
ハジメ「いや、同じったって覚えてないんだけど……」
ムリョウ「大丈夫大丈夫……ほら」
ハジメ「?! 」

いつの間にか渓流のそばに来ていたハジメ達。

ハジメ「あれ?あれ?」

辺りをキョロキョロするハジメ。

ムリョウ「さて、時間はたっぷりあるし、始めようか」

釣り道具を降ろしてムリョウ、準備を始める。

○山道
険しい急坂をてくてく歩くセツナと瞬。

瞬「不思議なところですね。道無きところに行き先があり、行き先の果てには道がある……まるでパズルです」
セツナ「それは、ここがあなた方の言う“おやま”だから。日本であって日本でない、地上にあって地上に無い……なんちゃって」

立ち止まる瞬。セツナも。

瞬「僕、お姉さんのチカラ、知ってますよ」
セツナ「へえー、どんなチカラ?」
瞬「勝負、ですね」
セツナ「ふふーん」

木々のざわめき。
ふっと消える二人。
風が残る。

○神社・本殿
一人、縁側に腰掛けて大きなおにぎりをパクついている那由多。少々ふてくされ気味。
空の雲は流れ、静かな村内。

那由多「?」

ふと空の“歪み”に気がつく那由多。
雲の流れ、空の続きが微妙にズレている。

那由多「……」

しばし見入っている那由多。

阿僧祇「一日目でもう気がついたか」
那由多「え?」

ハッとする那由多。いつの間にか目の前に来ていた阿僧祇、ニッコリと。

阿僧祇「なかなか優秀じゃな」
那由多「あの……ここって……」阿僧祇、

階段を上ると扉の鍵をガチャガチャと。

阿僧祇「さあ、始めようかの」
那由多「はあ」
阿僧祇「この分じゃとノルマは初日であっさり片づきそうじゃて」

扉を開ける阿僧祇、中へ。続いて中に入る那由多。

那由多「!! 」

目の前には宇宙が広がる。

○天網海岸
海の家がバイパス下に立ちならぶ。砂浜は海水浴客でにぎわう。晴美と京一、その喧噪から少し離れたところで並んで座っている。

京一「何故だ?何故俺達は“おやま”に呼ばれない?あいつらは何をやっている?……いいのか?俺はこんな事してて」

京一、海を見つめたまま、ブツブツと。

晴美「……」
京一「いいのか?いいのか、本当に俺は……」
晴美「……」

楽しそうな一団が行き過ぎる。
不意に立ち上がる晴美、ポツリと。

晴美「……一汗(ひとあせ)、かきましょう」
京一「え?」

○風光館・外
床に叩きつけられる音が響く。

京一「うわ..っ!」

○同・道場
晴美に何度も投げつけられる京一。

京一「ぐあっ!うおっ!うわああーっ!」

   *   *   *

正座する晴美、息も乱れず整然と。

晴美「気は晴れましたか?」

対して座る京一、ヨタヨタ。

京一「……そ、そうだな」

立ち上がる京一。

京一「(赤面して)……おごるぞ。ケーキだ」
晴美「……」

静かに礼をする晴美。

○天網市・点景
海岸近くの街並み。

○ジルトーシュの家・外
ジルトーシュ、白い柵にかもめの人形をくくりつけている。ウエンヌルは草むしり。

ジルトーシュ「どうだい、なかなかカワイイじゃないか。名付けて我が家は『かもめハウス』だ。うーん、いいねえ」
ウエンヌル「そんなにいいのですか?」
ジルトーシュ「ああ、いいさ。素敵だね」
ソパル星人「お待たせ~」

宇宙人達、リヤカーを牽いてくる。荷物は椰子の木。

ジルトーシュ「おお♪」

○居酒屋「よっちゃん」・店内
一同「かんぱ..い!」

盛り上がる宇宙人達。

ジルトーシュ「いやいや、今日は僕のおごりだからね、気にしないでやってよ」
ソパル星人「『かもめハウス』に乾杯!」
一同「乾杯!」
ジルトーシュ「おお、ありがとう!」

   *   *   *

外は夕方。トロピカルで西海岸(?)な雰囲気の『かもめハウス』。しっかり手作りのプレートが門に飾られている。

   *   *   *

ジルトーシュ「しかし、ツッチーの奴、まだ帰って来てないの?」
ソパル星人「昨日の今日だしねえ、あきらめきれないんじゃないの?」
コンコル星人「僕なんか一時間であきらめたけどねえ」
ハイン星人「それは淡泊すぎ」
一同「笑い」
ソパル星人「(ウエンヌルに)お宅のところの艦長はどうしてるんです?」
ウエンヌル「艦長は、地球の情報収集に余念がありません」

   *   *   *

真守家の客間でTVを見ているジルトン号クルー。番組は『はやぶさ判官』。

   *   *   *

ジルトーシュ「さてと」

おもむろに立ち上がる。

ソパル星人「お、行くの?」
ジルトーシュ「さすがに可哀相でしょ。ケガをする前に、ね」
コンコル星人「よ、正義の味方!」

ヤンヤの宇宙人。出ていくジルトーシュを黙って見送るウエンヌル。

○かくれ里周辺・森の中
鬱蒼と茂った森。歩きながら電話中のハンチング帽の男。モニターにはがなり立てる壌の顔。

壌(声)「一体何をやってる?! 」
探偵「はい、ですから協力者の力を得て、侵入を試みているのですが……」
壌(声)「協力者?何だ、そいつは?」
探偵「ツイフォフ星人と名乗る宇宙人です。ただ今、侵入路を彼の超科学な機器で以て解析中でして……」

男の前を歩くツイフォフ星人。開いた左手を前に突きだしている。手のひらにはナノマシンが稼動。顔の前でウインドウが広がっては消え、を繰り返す。

ツイフォフ星人「この一帯は特殊なフィールドで覆われている。時間と空間をねじ曲げて、特定の人間以外の進入を防いでいる。誰にも見えないし、おそらく地球の軍事衛星程度ではこのからくりはわからないよ」

右手を突き出すツイフォフ星人。

壌(声)「おい、どうした?」
探偵「はい、今、ツイフォフ星人が右手から何やらスゴイものを……」
壌(声)「何だ、スゴイものとは?! 」

右手がビーム砲に変形するツイフォフ星人。エネルギーが充填される。

ツイフォフ星人「このツイフォフ砲のエネルギーでフィールドをキャンセル!秘密基地の正体、暴いてやるぜ――」
探偵「ちょっと待て!これでは俺も巻き添えじゃないかッ!」
壌(声)「おい、どうした?! 」

ビーム発射。光に包まれる一帯。

   *   *   *

壌(声)「一体何をやってる?! 」
探偵「はい、ですから協力者の力を得て、侵入を試みているのですが……」
壌(声)「協力者?何だ、そいつは?」
ツイフォフ星人「この一帯は特殊なフィールドで覆われている。時間と空間をねじ曲げて、特定の人間以外の進入を防いでいる。誰にも見えないし、おそらく地球の軍事衛星程度ではこのからくりはわからないよ」

右手を突き出すツイフォフ星人。

壌(声)「おい、どうした?」

   *   *   *

探偵「はい、ですから協力者の力を得て、侵入を試みているのですが……」
壌(声)「協力者?何だ、そいつは?」
探偵「ツイフォフ星人と名乗る宇宙人です。ただ今、侵入路を彼の超科学な機器で以て解析中でして……」

右手を突き出すツイフォフ星人。

壌(声)「おい、どうした?」

   *   *   *
壌(声)「おい、どうした?」
   *   *   *
幾度と無く繰り返されるツイフォフ星人とハンチング男のやり取り。
それを離れたところで見ているジルトーシュ、ヤレヤレと。

ジルトーシュ「あーあ。やっぱり……」

○居酒屋「よっちゃん」・前
夜(七時くらい)。
大笑いの宇宙人達の声が聞こえる。

○同・店内
真っ赤になって縮こまっているツイフォフ星人。肩をぽんぽんとコンコル星人に叩かれている。

コンコル星人「お前さん、よかったねえ。ジルトーシュの旦那に連れてきてもらって」
ツイフォフ星人「ご迷惑かけまして…」
ジルトーシュ「皆さん!今日のおごりはツッチーことツイフォフ星人に変わりました。遠慮なくどうぞー!」
一同「うおーーい!」

盛り上がる宇宙人達。
さりげなくツイフォフ星人の脇に座るソパル星人、ビールを勧める。

ツイフォフ星人「すみません……」
ソパル星人「ま、この星では我々は観光客なんだよ。知ってもいいこともあれば、知らなくてもいいこともある。こうして呑気に……していた方がいい。今はね」
ツイフォフ星人「今は…?」

盛り上がっているジルトーシュ達。

○登山口
一人取り残されたハンチング男、携帯にペコペコ。

壌(声)「貴様!一体今の今まで何をやっていた!」
探偵(声)「いや、その、気がついたら、その、暗くて怖いんですけど……」
壌(声)「知るか!」

動物の声が遠くに聞こえる。辺りは真っ暗、人気もない。

○統原家・居間
食事後。大の字になって眠る瞬。

セツナ「フフ……よっぽど疲れたんだね」

タオルケットをかけるセツナ。

ムリョウ「姉ちゃん、しごきすぎたんじゃないの?」

縁側に腰掛けるムリョウ、声を掛ける。

セツナ「そうかなあ……ナユちゃんは?」

ムリョウ、奥を指差す。

セツナ「ハジメ君も?

ムリョウ、うなずく。

セツナ「ふふーん、妬ける?」
ムリョウ「ちょっと妬けるね」
セツナ「おおー。実は私も」
ムリョウ「はは。爺ちゃんは散歩に行ったよ」
セツナ「ったく……好きだなあ」

○同・台所
ハジメと那由多、洗い物をしている。

那由多「晩ご飯のおさかな、おいしかった」
ハジメ「あれはみんなムリョウ君が釣ったものさ。僕はてんでダメだった」
那由多「そう?ま、でもいいの。おいしかった!ありがとう!」

ペコリとお辞儀の那由多。

ハジメ「何か気持ち悪いなぁ」
那由多「気分がいいのよね、何だか。ちょっとだけ極意をつかんだって感じかな」
ハジメ「何の極意?」
那由多「それは秘密、です」
ハジメ「ちぇっ」

○仲良し横町
商店街に出るところで立ち話のアロハ二人組。

ジルトーシュ「じゃ、先に帰ってて」
ウエンヌル「あなたは?」
ジルトーシュ「遠回りして、かーえる♪」

○天網市街
防波堤沿いの人気のない道。
いい気持ちで歩くジルトーシュ。

ジルトーシュ「……」

キョロキョロ見回す。
軽く深呼吸を一つ。

ジルトーシュ「さてと……」

さりげなく右足を上げて——
振り下ろす。
接地。
物凄い勢いで飛び上がっていくジルトーシュ。足下から遠ざかっていく関東地方、日本列島、そして——

○地球・衛星軌道上
ジルトーシュ、足元を見る。
蒼い地球。

ジルトーシュ「えーと……」

少し探すが目的の場所を見つけ出す。

ジルトーシュ「おほほ……」

ジルトーシュの瞳に映る日本列島、中部地方、そして——

   *   *   *

かくれ里の統原家の前庭。
花火をしているムリョウ達。

   *   *   *

阿僧祇「また覗きか?しょうがないな、お前さんも」

いつの間にかそばに来ていた阿僧祇、歩み寄る。

ジルトーシュ「ああ、いや……今日もちょっかいを出そうとした奴がいたんでね。皆さんが心配だったもんでさ」
阿僧祇「皆さんか……(苦笑)大丈夫、わしとお前さんが変な気を起こさなければ、あの里は大丈夫じゃよ」

二人の遥か下にはかくれ里の全貌。
鳥が羽を広げたような形。

ジルトーシュ「道なりに進んでもかくれ里には行けない。例え宇宙から眺めても機械を使っては見ることが出来ない……」
阿僧祇「人の目でしか見ることができない」
ジルトーシュ「しかもここから、ね」

軽く笑うジルトーシュ。

ジルトーシュ「大丈夫、何があっても秘密は守るよ。君とセツナとそして……彼との約束だ」

二人あらためて足下のかくれ里を見つめる。

○統原家・前庭
花火をするハジメ、那由多、セツナ、ムリョウ。居間で寝ている瞬。
ふと星空を見上げるセツナ、微笑む。

○かくれ里・全景
夜の静寂。虫の声が優しく。

NR「ムリョウ君の田舎での生活。色々あって楽しかったです。と、まるで妹の絵日記のようだが仕方がない。この小旅行はもう終わりだけれど、夏休みは続く。というわけで、次回——」

         (第一三話・完)

☆二〇〇字詰八五枚換算

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佐藤竜雄
読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)