『海賊怪談』

『モーレツ宇宙海賊』
CDドラマ「海賊怪談」(第一稿)
       (12/07/06)脚本・佐藤竜雄

登場人物
加藤茉莉香
遠藤マミ


○どこともしれない空間
宇宙の深遠。底知れない闇の奥行き。

茉莉香「(ナレーション口調で)宇宙…果てしなく広がる闇の世界。人の住みかは在りかに代わり、そのよりどころを心に求める。したがって人にはいまだに宿るのである。そう、心の闇。未知なるものへの恐れ、恐怖、そして──」

不意に声を掛けるマミ。

マミ「まーりか!」

びっくり仰天の茉莉香。

茉莉香「うわああっ?!」

その声にこれまた驚くマミ。

マミ「きゃああーーっ!!」

更に仰天の茉莉香。

茉莉香「うわあーーーっ!!」

更に驚くマミ。

マミ「きゃああーーーっ!!!」
茉莉香「うわああーーーっ!!!」
マミ「きゃああーーーーーっ!!!」
茉莉香「うわああーーーーーっ!!!」
マミ「きゃああーーーーーーーっ!!!」
茉莉香「うわああーーーーーーっ!!!!」
マミ「きゃああーーーーーーーーっ!!!」

(以下、延々続く)

   ×   ×   ×

茉莉香「はあ、はあ、はあ…」
マミ「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」

荒い息の二人。

マミ「あー、びっくりした」
茉莉香「びっくりしたのはこっちだよ!」
マミ「でも何やってたの?ちょっと深刻そうな感じだったから、つい声掛けちゃった」
茉莉香「うん、実はね…怪談話をしなくちゃいけなくてね」
マミ「ええっ、かいだん?!茉莉香、誰とお話しするの?総理大臣?首相?」
茉莉香「そっちの会談じゃなくてね、怖い話の方。ヒュードロドロドロ…おどろおどろしい感じの」
マミ「怪談?ふーん、でも、何で?」
茉莉香「そういう企画なんだって。夏といえば怪談でしょう、という事で急きょ弁天丸に依頼が来てね」
マミ「夏だから怪談?けっこう安直だねー」
茉莉香「うん、急に振られるこっちの身にもなってほしいよ。とはいえ需要は充分あるんだって」
マミ「でもさ、なんで茉莉香が怪談バナシ?怖い事話すなら弁天丸に色んな人がいるじゃない。みんなに任せれば?」
茉莉香「最初は私もそう思ったんだけどね…何だかわからないけど、『加藤茉莉香が怪談バナシをやる。yeahhhhhh!それがいいんだよ。Hahahah!』ってショウさんが言うもんだからこうやって──」
マミ「そっか。それなら仕方がないね。じゃあ私も聞いてるからさ、やろう!怪談!」
茉莉香「はは…何か変なシチュエーションになっちゃったけど。人に聞いてもらった方がいいだろうからね。よし、やってみるか、怪談!」
マミ「よっ、待ってました怪談!コワイの一つ頼むよ〜〜」
茉莉香「……えー、コホン。それでは行きます。怪談…(少し間を取り)宇宙船が飛ぶ時代になりましても、人の心に宿るものは恐怖、未知なるものへの恐れがございます。幽霊の、正体見たり枯れ尾花、なんて言葉もありますが、正体さえ知ってしまえば怖いものなど何も無い。疑心暗鬼が恐怖の心を呼び起こす。恐怖は心に宿るのです」
マミ「うーん、そうだよね。人よ、恐怖に打ち勝て!か。ためになるなあ。何だか私も前向きに生きていこうっていう気になってきた。別に今までが後ろ向きってわけじゃないんだけどね。…あれ、でもこれって全然怖くない。むしろいい話じゃん」
茉莉香「(苦笑)…まだ話のマクラだよ」
マミ「マクラ?茉莉香眠たいの?」
茉莉香「本筋の前の小話だよ。これから本題に入るための導入」
マミ「ふーん、なかなか用意周到だね。さすが海賊」
茉莉香「へへへ、まあこれはシュニッツアーに教わったんだけどね。彼って文学とか芸事に詳しいんだ。…さて、人と人が会話を交わし、心を通わす以上、今の時代にも怪談バナシはございます。例えば宇宙船──」
マミ「え?宇宙船にも出るの?幽霊?」
茉莉香「うーん出るのかな?私は見た事無いけど…出るのはね、宇宙船の幽霊」
マミ「宇宙船の幽霊?」
茉莉香「(おどろおどろしく)幽霊船…トランスポンダーに反応し、船籍船名はわかっているけれど、実体の無い謎の存在…」
マミ「ん?よくわからないぞ?」
茉莉香「いる事になってるのにいないんだよ。トランスポンダーは確認出来るのにレーダーに船影はない。いるのにいない?いないのにいる──」
マミ「そんなの放っておけばいいじゃない。どっちにしてもいないんでしょ?ケセラセラだよ、人生は」
茉莉香「確かに…無いものは無いんだから気にしなければいい…理屈はそうよね。でもね、あの冷静なケインですら、焦った事があるそうだから、やっぱり時と場合によるんだよね。私も焦ったもん」
マミ「え?茉莉香も見たの?幽霊船?!」
茉莉香「正体は後でわかったんだけどねー。すっごい小型の船に細工をして戦艦になっちゃうっていうヤツ。レーダーで見ると沈んだはずの大昔の戦艦が映っていて、びっくり」
マミ「ふーん」
茉莉香「ちょうど初めて練習航海に出たしょっぱなだったんだよねー。チアキちゃんと二人っきりで当直で。初めてレーダーを使って見つけたのが幽霊船だったんだもん、驚いたよ」
マミ「要するに、幽霊船が怖いんじゃなくて、そういうシチュエーションが怖いってわけだ」
茉莉香「おお、マミ、するどい!確かにそうだった。何かに追跡されてる、なのにレーダーには映らない…チアキちゃんと協力して、高精度スキャンの全天走査までして何とか見つけたと思ったら…(怖そうに芝居がかって)その名は大昔の戦艦アルシオン。いまだ行方不明の謎の船。何かね、今までの努力が無駄になったというか」
マミ「喪失感?」
茉莉香「…そのあと来たのよ。ゾクッと」
マミ「うわー、やだね。そういう流れ。この間のお客さんを思い出しちゃった」
茉莉香「え、何かあったの?」
マミ「うん、ずっと前からね、お店にお手紙くれるお客さんいたのよね。でも、ちょっとご期待に応えられないなーと思ってその辺りきちんとお返事しようと思ったらお店に来なくなって」
茉莉香「へえ、そんな事あったんだ」
マミ「うん、茉莉香が一年の夏休み、海賊修行に行っちゃった頃の話だよ。まー、今まで話さなかったのは、心配掛けまいとした親友の配慮」
茉莉香「はは、それはどうも」
マミ「そのお客さんが来なくなって…それはそれでちょうどいいかぁ、なんて思っていたら…手紙だけはしっかりお店に来るの。しかも毎日」
茉莉香「うわ。マミ…それは別の意味で怖いんじゃ…」
マミ「だからね、私その人のお家に行ってみたの。しっかりきっぱり言わないとなーって」
茉莉香「ええっ、マミ一人で?」
マミ「うん。やっぱりこういう事はちゃんと言わないと」
茉莉香「いや、危ないじゃない…もしもの時はどうするの?」
マミ「その時はその時。ケセラセラだよ」
茉莉香「私はマミの行動の方が怖いよ〜」
マミ「(いたずらっぽく)フフフ。でね、行ってみたら驚いた。その人、三年前に死んでたの」
茉莉香「ええっ?!」
マミ「ちゃんと遺影も見せてもらったし、仏壇に手も合わせたよ。いやー、びっくりした」
茉莉香「ど、ど、どういう事?三年前に死んだ人がお店に来てたの?手紙?」
マミ「星が好きな男の人だったんだって。そういう仕事に就きたかったけど、体を壊してずっと療養していて…ランプ館にも昔来ていたみたい」
茉莉香「で、でもそれって三年前なんでしょ?何でマミの事…手紙まで…」
マミ「その人のお姉さんがね、言ってた。『アキラはランプ館の事をよく話していたんですよ。静かで穏やかで…あそこの時間は別物だよ。最高だって』」
茉莉香「じゃ、じゃあその人は病気になってもなおランプ館の事を…」
マミ「うん、気に入ってたみたい」

ぶるっと寒気が走る茉莉香。

茉莉香「マミ……私、何だかちょっと涼しくなってきたよ」

しみじみとマミ。

マミ「死に往く直前の、ランプ館での穏やかな時間がアキラさんにとっては良い思い出の一つだったんだろうね」
茉莉香「……」
マミ「…でね、アキラさんが死んで、遺品を整理していたら見つけたんだって」

惹き込まれるように茉莉香。

茉莉香「一体?一体何を?!」
マミ「…日記帳」
茉莉香「日記?」

ゴクリと息を飲み込む茉莉香。

マミ「そこに書かれていた内容は…」
茉莉香「……」
マミ「……」

しばし沈黙。我慢出来なくなった茉莉香。

茉莉香「な、何が書かれていたの?」
マミ「店員観察」
茉莉香「え?」
マミ「ランプ館に行った日と時間、働いている店員の容姿、仕草から、接客態度から始まって…ついには店員全てのシフトまで予想、推測、網羅して──」

恐怖する茉莉香。

茉莉香「そ、そんな偏執的?こだわりまくりの人が…死んでも…死んでもなおランプ館にこだわって?!それでマミを気に入ったというの?!」
マミ「そう。私、気に入られちゃったみたいなの。そして今も──」
茉莉香「マミ!!!!あなたまさか!!!」

マミ、声も暗く。

マミ「……うん、文通してる」
茉莉香「えええええええええっ??!!!」

驚愕する茉莉香。恐怖最高潮。

茉莉香「マ、マミ!大丈夫なの?!」

どこか捨て鉢なマミ。

マミ「まあね、手紙書くのは苦手だけど」
茉莉香「そういう問題じゃないよ!幽霊と文通?ゆうぶん?!マミがゆうぶんなんて!魂を一日一日吸い取られて…やがて…ああ、何てこと!海賊はお祓いは出来ない!どうすればいいの?!」
マミ「どうもしなくてもいいよ」
茉莉香「え?でも…」
マミ「幽霊となんて文通してないから。文通してるのはお姉さんとだよ。アキラさんのお姉さん」
茉莉香「ええっ?お姉さん?何で?」
マミ「ランプ館に来てたのはアキラさんのお姉さん。手紙くれてたのもお姉さん」
茉莉香「え?だってアキラさんの幽霊は?」
マミ「アキラさんの日記を読んでお姉さん、ランプ館に興味を持ったんだって。それでちょくちょく来るようになって…私の事を気に入ったみたい」
茉莉香「ああ、それでお姉さんが手紙を?何だー、間を端折らないでよ。私、てっきり幽霊さんがマミに恋したのかと思ったよ」
マミ「はは、まさかー。自分の名前を書くのは恥ずかしいから死んだアキラさんの名前を差出人にしてたのが事の真相。『ごめんなさい』って謝られちゃった」
茉莉香「ふーん、そうかァ」
マミ「お姉さん、結婚するのが決まっていたんだけど、『ランプ館のあの女の子とお喋りしてみたい』って思い悩んで毎日手紙を書いてたって…うーん、私が年上を悩ますとは。罪な女だぜ」
茉莉香「ははは。何だー。最後はいい話になっちゃったね。私達には怪談なんて柄じゃ無いって事か」
マミ「いや…でもちょっと引っ掛かる事があるのよね」
茉莉香「え、何が?」
マミ「お姉さんがくれた手紙は二十二通。でもね、お姉さん、二十一通しか出してないっていうの」
茉莉香「え……」
マミ「一通余分なのはどうしてなのかなーというのがね、ちょっと引っ掛かるんだ」
茉莉香「えええーーーーっ?!」

衝撃音。どこからか叫び声が聞こえる。

   ×   ×   ×

茉莉香「(ナレーション口調で)海賊間もない加藤茉莉香には、海賊怪談を語る事はしょせん無理な話であった。しかし、あまりに身近なところでの不思議な話…茉莉香が遠藤マミとの親友関係を続けているのは、この身近なる深遠な不可思議さゆえだと、お分かりいただけたであろうか?」
マミ「女は不可思議。これぞ真理」
茉莉香「マミ、これからもよろしくね」
マミ「はいはい、どんと来てちょうだい」
茉莉香「ところで、その余計な一通って結局何だったの?」
マミ「うん、実はね…ゴニョゴニョ…」
茉莉香「え?…えええええーーーーっ?!」

どこからか、恐怖の叫びが──

               (おわり)

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)