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【中年の危機を生き延びる】(8)人の縁から仕事をもらう

短期派遣(校正)の仕事を再開した私でしたが、それだけでは心もとないところがありました。

フルタイムといっても派遣ですので、ボーナスはありませんし、なんといっても借金総額は約830万円……。正社員でそれなりに稼いでいたとしても「うへぇ」となる額ではないでしょうか。ひとまずの目標は約340万円(奨学金の利子あり分)でしたが、それだけでもなかなか険しい道のりです。

「他にも稼ぎが欲しいけど、週末アルバイトとかはキツいしなあ……」

そんな状況を救ってくれたのは、やはり人のご縁でした。

うつの苦しみから、いろんな人に弱音を吐きまくっていた私ですが、その中で必然的に借金の問題についても話すことになりました。「奨学金の返済が大変で、とにかく稼がないといけないんです……」と。

「自業自得やろ。今さら何言ってんねん」と言われても全くおかしくないのですが、私のことを責める人は一人もいませんでした。それどころか、何人かの友人はクライアントを紹介してくれたり、自分でやっている事業の仕事を振ってくれたりしたのです。逆に私の方が「お前ら聖者かよ!」と怒鳴り散らしそうになりました。

しかも、みんな私のことをよく知っているので、「この仕事ならアイツでもできるやろ」という仕事を持ってきてくれます。おかげで不思議と苦になりません。さすがは聖者セレクトです。

取材、編集、執筆、校正、雑務……。会社の昼休みや週末に取り組み、頼まれたことは何でもやりました。おかげで借金返済がグンとはかどったのは言うまでもありません。

そして意外なことに、この副業は精神的にもいい影響を及ぼしました。

「中年の危機」に陥ってから、私の自己肯定感はどん底状態でした。そんな中で、「私に仕事を依頼してくれる人がいる」という事実が、大きな心の支えになったのです。そしてその仕事を一つひとつこなすことで、少しずつですが自信を取り戻していきました。

実際、うつ状態に陥ってからしばらくは、文章が全く書けなかったのです。なので、記事の執筆を依頼されたときは、「いまの自分に書けるのか?」と不安で仕方ありませんでした。睡眠薬を飲んでいた時期もあるので、自分の脳が以前と同じように働くのか心配だったのです。それが何とか形になったときには、「大丈夫、まだ生きてるぞ」と安心したのを覚えています。

そして、これは逆説的かもしれませんが、自己肯定感が低下したことによって、「仕事をする姿勢」が改善されたところもあるのです。

先に書いたように、その派遣は残業の多い仕事で、前年に働いていた時は、「安い時給でこき使いやがって!」などと心の中で不満を抱いていました。ところが今年は心持ちが一変し、「こんな人間を頼りにしてくれて、ほんまありがとうございます!」という気持ちが湧いてきたのです。しかも残業時間は時給が上がるので、稼ぎの上でも助かります。「改心した」というと大げさですが、それまでの自分の傲慢さを自覚したのは確かです。

その結果は、思いがけない形で返ってきました。前年に勤務した際は、2ヶ月ほどの契約期間で終了になったのですが、今回は、先方から契約期間延長の申し入れがあり、そこから結局1年近く働くことになったのです。もしかすると、心の声が漏れていたのかもしれません(笑)。

こんなことを書くと、「企業に隷従するのがよい」と言っているように思われそうですが、もちろんそうではありません。

これまでは、「企業」というもの自体に何となく嫌悪感があったのですが、考えてみれば、そこで働いているのは一人ひとりの人間です。そう思うと、繁忙期の残業についても、「企業が儲けるための道具にされている」という発想ではなく、「大変そうなあの社員さんの助けになれば」という、個人的な人間同士の関係として捉えられるようになりました。

ただ、その背後に資本主義のメカニズムが働いていることは間違いないわけで、それはそれで考えなければならない問題です。それは一面において、人間を商品として扱う非人間的なシステムなのですから。

けれども同時に、そのいかんともしがたいシステムの中で、みんな一生懸命に自分の人生を生きているわけです。それは私だって同じですし、企業で働いている社員さんたちも同じです。せっかくご縁のあった相手なのですから、「何かしらお役に立てればうれしい」と思うのは当然のことです。

逆に言えば、自分がそう思えない相手と仕事をすることはできません。それはそれで損得を超越した問題ですから、そういう時はあっさり辞めてしまいます(笑)。

なにはともあれ、借金返済のプロセスの中で、人の縁が大きな役割を果たしたことは間違いありません。これまでは、そういうご縁を本当にないがしろにしてきたなぁ、と思うことしきりです。

なんだか反省文みたいな締めになってしまいましたが(笑)、そういう取り返しのつかない過去も一緒に面倒見ながら、健やかに明るく生きていきたいものです。やがて人から「聖者かよ!」というツッコミが入るその日まで……。


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