見出し画像

Aimer『特異な歌声で音楽の景色を映し出す』(前編)人生を変えるJ-POP[第29回]

たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

第29回は、女性ボーカリストAimerを扱います。Aimerは、プロフィールを全く公開していません。その為に彼女の経歴に関する公の記事やエピソードに関するものが少ない為、今回は、いつもと趣向を変えて、彼女の歌声と何曲かの楽曲のレビューを中心に書いていきたいと思います。

アーティスト名、Aimerに込められた思い

Aimerは、「エメ」と読みます。この名前の由来は、彼女の本名にちなんだ愛称とのこと。また、その愛称は、フランス語の「愛する」「好む」という動詞の単語から取られたと言います。

実は、私の友人に服飾戦略プロデューサーの内田亜実さんという人がいますが、彼女の名前もフランス語の「友人」ということばから取られたと聞きます。友達から愛される、友達がたくさんできますようにという両親の願いが込められた名前と思われますが、Aimerの名前にも多くの人から愛される歌手になる、多くの人に愛を与える歌手であるようにという気持ちが込められているのかもしれません。

著名なアーティストから、多くの楽曲提供を受ける

メジャーデビューは2011年。音楽プロデューサー玉井健二のAgehaspringsに所属し、本格的に音楽活動を開始しました。

同年9月7日、シングル『六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR』を発売。2013年3月に5枚目シングル『RE:I AM』をリリース。OVA『機動戦士ガンダムUC』シリーズの主題歌として、作曲家の澤野弘之から楽曲提供とプロデュースを受け、週間オリコンチャートで最高6位を記録しました。

さらに2014年5月、6枚目シングル『StarRingChild EP』を発表して再び澤野弘之とタッグを組み、同曲は『機動戦士ガンダムUC』最終章の主題歌として起用されました。

彼女は、このようにアニメの主題歌としての起用の半面、多くのアーティストとのコラボも盛んです。同年、9月に発売したミニアルバム『誰か、海を。 EP』では、菅野よう子などとコラボ。2016年7月、10枚目の両A面シングル『insane dream / us』の『insane dream』はONE OK ROCKのTakaが楽曲提供、プロデュースを手掛け、『us』は「凛として時雨」のTKが楽曲提供、プロデュースをしました。

さらに、同年8月に発売された11枚目のシングル『蝶々結び』があります。この曲は、RADWIMPSの野田洋次郎が楽曲提供、プロデュース、コーラスを手掛け、ギターとコーラスにハナレグミも参加しました。

15歳で患った声帯の傷は、完治させていない

このように、早くからアーティストの仲間達の間では非常に高く評価されていた彼女の実力ですが、彼女の存在が誰にでも広く知られたのは、やはり何と言っても2021年12月から放送されたテレビアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』のオープニング曲『残響散歌』及びエンディング曲『朝が来る』ではなかったでしょうか。

この曲は、梶浦由記のプロデュースによるもので、『残響散歌』はBillboard JAPAN”JAPAN HOT 100”にて6週連続8度目の首位を取得し、この曲で、2022年、年末の『NHK紅白歌合戦』に見事、初出場を果たしました。

そんな彼女のプロフィールや生い立ちは公開されていないのですが、ファンの方々の記事を参考にすると、幼少の頃より、バンドでベーシストを務めていた父親の影響を受け、小学生の頃からピアノを習い始めたとのこと。

さらにそんな父親からの影響もあって、ジャズやブルースといった音楽に早くから興味を持ちますが、それと同時に椎名林檎や宇多田ヒカルの歌声を真似してよく歌っていたと言います。

中学生になると、アヴリル・ラヴィーンに影響を受けてギターを始め、英語の歌詞にも興味を持つようになります。ですが、15歳の頃、自己流の発声と歌いすぎによって声帯を痛めてしまいます。

その治療の一環として、半年ほどの間、一切、声を出さないようにという指導のもと、沈黙療法をしました。その間、やはり歌手になりたいという気持ちが強くなり、さらに沈黙療法という治療の経験から、喉に負担をかけない発声法を身につけたとか。

実は、この時に出来た声帯の炎症による傷は、現在も完治させていないそうです。手術などで傷を完治させると現在の歌声が出せなくなり、声そのものが変わってしまう恐れがあるとの医師の忠告から、わざと傷を放置していると言います。

彼女の声帯の傷というものがポリープなのか結節なのか、はたまた声帯炎なのかはわかりませんが、それらを治療することで声の質が変わる、ということは十分あり得ると思います。

Aimerの歌声の独特な響き、それが最大の魅力

彼女の場合、その歌声に非常に惹かれる人が多く、独特の響きを持っています。歌声が変わると同じ曲を歌っていても全く印象が変わるもの。

特に彼女のように歌声そのものに多くのファンがついていると思われる場合は、歌声が変わることは避けたいと思うのも無理はないかもしれません。

歌手という職業柄、声帯の管理維持は重要なことで、多くの歌手が長く歌い続けると声帯の炎症を避けることは難しくなっていきます。彼女も長く歌い続ける中で、炎症の進み具合から声の変化が起きてくることもあるやもしれません。

それにしても、声を維持する為にわざと炎症を放置するというのは、自分の歌声を好む人達のことを考えてる証拠ですね。また、さらに彼女自身が歌声に特徴を持つ歌手であるということを自覚し、彼女の声を好む人達の気持ちを受け止めたことによる決断だったしれません。

後編では、多くの人が好むという歌声の特徴を中心に楽曲の解説などを書いていきたいと思います。

久道りょう
J-POP音楽評論家。堺市出身。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン元理事、日本ポピュラー音楽学会会員。大阪音楽大学声楽学部卒、大阪文学学校専科修了。大学在学中より、ボーカルグループに所属し、クラシックからポップス、歌謡曲、シャンソン、映画音楽などあらゆる分野の楽曲を歌う。
結婚を機に演奏活動から指導活動へシフトし、歌の指導実績は延べ約1万人以上。ある歌手のファンになり、人生で初めて書いたレビューが、コンテストで一位を獲得したことがきっかけで文筆活動に入る。作家を目指して大阪文学学校に入学し、文章表現の基礎を徹底的に学ぶ。その後、本格的に書き始めたJ-POP音楽レビューは、自らのステージ経験から、歌手の歌声の分析と評論を得意としている。また声を聴くだけで、その人の性格や性質、思考・行動パターンなどまで視えてしまうという特技の「声鑑定」は500人以上を鑑定して、好評を博している。
[受賞歴]
2010年10月 韓国におけるレビューコンテスト第一位
同年11月 中国Baidu主催レビューコンテスト優秀作品受賞