【第二話】セネクトメア 序章「始まりのナイトゲート」

【前回のあらすじ】
夢のように感じたけど、現実味の強い不思議な世界。何気なく1人で歩いていたら、軍人風の男達と銀髪の女性が現れ、理解不能な会話を交わしながら、交戦状態に!間に挟まれた時に感じた熱さと痛みは、現実と全く同じ感覚だった。


その場で気を失いそうになった瞬間、暖かくて心地良いものが身体全体を覆い、全身の感覚がなくなった。

次の瞬間、目を開くと、そこには見慣れた自分の部屋があった。

いつもの朝、普通に目が覚めた感覚。ベッドの上に横たわり、窓からは、明るい日差しが射し込んでいる。
時計を見ると、時刻は7時。スマホを手に取り画面に目をやると、日付は6月12日。辺りを見渡してみても、特に変わった様子はない。

「結局、全部夢だったのか?」

あの時感じた痛みも熱さも、全く残っていない。寝起きらしいけだるさと、頭がぼーっとした感じがするだけ。何もかもがいつも通りの朝。

「何かモヤモヤするけど、とりあえず支度するか。」

考えても仕方ないし、時間もないから、とりあえずパンを口に放り込む。
そして毎朝の日課である、金魚達の観察を始める。一通り見たけど、こちらも変わったことはなさそうなので、エサを与える。

顔を洗い、髪を整え、歯を磨いて、制服に着替えて家を出る。
学校まで、自転車で10分。余裕で間に合うから、ゆっくりペダルをこぎながら、昨夜見た夢について考えてみる。


あの夢の中では、軍人風の男達と銀髪の女性が対立関係にあるように見えた。そして俺は「リンカー」と判断され、両者が確保したがった結果、衝突する形になった。銀髪の女性は、俺のことを「私の片割れ」って言ってた。

試しにスマホで「リンカー」と検索してみると、専門用語やYouTuberや「リンカーン」という検索結果が表示された。ざっと見てみたけど、特に答えになるような内容ではなかった。

「リンカーって、名前じゃないよな。周りの奴らも、知り合いじゃないっぽかったし。」

「片割れって言い方も気になる。片割れって、あまり人に対して使う言葉じゃない気がする。イメージ的には、元々1つだった物が割れて、2つ以上に分割された感じ。人に使うとしたら、コンビとか相方って意味だと思うけど、初対面だったから、それはないよな。」

そんなことを一人でつぶやきながら考えてみるけど、全く答えが見つからない。予測と仮説が精一杯だ。

「ま、いっか。どうせ夢だし」

難しいモヤモヤを振り切って、少し速度を上げて駐輪場に急いだ。



指定された場所に自転車を停めて、ロックをかける。今日は晴れていたけど、梅雨入りしたから、これから雨の日が続くと思うと憂鬱になる。
少し重い足取りで教室へ向かおうとすると、ふいに肩に重さを感じた。

「オッス!」

聞きなれたその声は、鈴木貴人(すずきたかひと)だった。

「おはー。今日も朝練?」

「もち!もうすぐ県大会だから、気合入りまくりー!今回こそ甲子園を目指す!」

貴ちゃんは5歳の頃からの幼馴染で、一番の親友。幼稚園から高校まで、ずっと同じ学校に通っている。小学生の時から野球を続けていて、高校も野球の推薦入学。2年生にしてピッチャーであり、4番バッターでもある、我が校が誇るエースだ。性格は俺と真逆だけど、だからこそ一緒にいて楽しかったりする。

「金魚は元気?」

「元気だよ。稚魚達も今のところ死なずにいてくれてる。」

「しかしよくあんなに飼うよなー!水槽10個に、100匹以上って。」

「これでも我慢してるんだよ。本当は今の10倍くらいの規模にしたいんだから。」

そんなたわいもない会話を交わし、談笑しながら教室に入る。


「おはー!しゅん茶ー!貴ちゃーん!」

「おはー!」

教室に入った途端、中央の最後列にいる2人が元気に挨拶してきた。
秋山智美(あきやまともみ)と粂田紀映加(くめだきえか)だ。

しゅん「おーす。」

紀「しゅん茶、髪伸びたらー!床屋行ってこいよー!」

智「えーこのくらいが丁度良くない?」

貴「また坊主でいいよw」

俊「とりあえず、もうちょっと伸ばしてみるわ。」


智美(ポコ)と紀映加(パッパラ)も、貴ちゃんと同じく、5歳からずっと同じ学校に通っている幼馴染。あまりに友達期間が長いから、お互い、全く異性として扱ってない。賛否両論あるけど、男女の友情が成立してるパターンだ。
4人の名前の頭文字を取って、「したとき団」というチームを結成している。「楽しいことなら何でもやる!」というザックリしすぎた活動内容で、いつも適当に遊んでいる。


俊「そういえばさ、昨日変な夢見た。」

紀「お!どんな夢見たよー?」

しゅん「軍人風の男達と銀髪の女性が、俺を巻き込んで戦う夢w」

智「好きそー。よく「剣で戦いたい」とか言ってるもんねw」

貴「俺も思ったw」

俊「でもさ、やけに現実的だったんだよね。痛みと熱さも感じたから、一瞬、夢じゃなくて現実だと思ったもん。」

紀「それ、寝てる時に何か落ちてきたとかじゃない?wヤカンとかw」

貴「まさか、ガスコンロの前で寝たとか?」

智「えー!ありえないんですけどー!w」

俊「いやいや!普通にベッドで寝てたから!てかヤカンが落ちてきたらヤケドしてるから!」

紀「だね♪あはは♪」

その瞬間、朝のチャイムが鳴り、みんなそれぞれ自分の席につき、ホームルームが始まった。


授業から休み時間まで、何もかもがいつもと変わらない、平和で穏やかな日常。いつも通り、学校が終わり、帰宅してゲームをして、ご飯を食べてお風呂に入る。日課であるブログを書いて、ツイッターのタイムラインを追いながら、いいねをつけて回る。

そんな日常が、あと1年半くらい続くと思ってた。

3年生になったら就活をして、高校を卒業する。社会人になって働きながら、プライベートでは好きなことを楽しむ。その先のことは、まだ分からない。でも特別なことは何も起きなくて、それなりに楽しくて、それなりに幸せな人生を送る。・・・はずだった。

でも人生は、良くも悪くも、何が起きるか分からない。
予想もしてなかったことが、ある日突然起きることもある。

この時はまだ、誰も知らなかった。

俺達はすでに、大きな運命の渦に呑み込まれていたことを。




「どうだ?様子は。」

「今のところ、動体反応ありません。」

「気を抜くな。奴は必ずまたここに現れるはずだ。」

「でも昨日の出現時刻は、もうとっくに過ぎてます。このまま現れない可能性もあるのでは?」

「昨日の事が気になって、いつもより寝つけが悪いだけさ。でも一度あのゲートをくぐって来たからには、もう後戻りはできない。させないしな。」

「でも現れたところで、また神姫も現れて、衝突しますよね。正直、勝てる気がしないんですけど。」

「勝つ必要なんてないさ。リンカーを確保できればいい。昨日は急に出現したから後手に回ったが、今回は準備万端だから大丈夫だ。」

「だといいんですけどね・・。」




「初めて見た、私の片割れ。この世のものとは思えなかった。至福の存在。誰にも渡さない。どこにも行かないで。」

祈るように、そっと、てのひらを胸にあてる。

他の人には分からない。でも私は感覚で分かる。もうすぐ、片割れはまたこの地に現れる。

「でも、本当にこれでいいの?」

ずっと迷ってた。その迷いは、片割れが現れてから、更に強まってしまった。自分の存在や、しようとしてることは、本当に正しいのだろうか。そもそも正解なんてなくて、どの道を選んだとしても、未来には不正解しか用意されてないのではないか?

今までみたいに、周りの意志や行動に合わせて、自分の意志を後回しにして決めるのか。それとも、自分の意志を最優先にさせるか、終わらない自問自答が続いたまま、決められないでいる。

運命に抗おうとしたこともあった。でもことごとく努力は水の泡になり、必死な想いは、いつも届かないし、叶わないままだった。

「もう、信じるのも疲れちゃったよ。」

空っぽになったと思った雫が一筋、頬を伝った。


続く。

数百万円の借金を抱えながら、何とか夢を実現させるために色んな活動や制作を頑張っています! もしサポートしていただけたら、一生感謝します!