【第一話】セネクトメア 序章「始まりのナイトゲート」
「ここはどこだろう?」
空は星のない夜のように真っ黒で、ひび割れたアスファルトの道路がどこまでも続き、今にも崩れそうなビルが立ち並んでいる。
人の気配も全くしないし、何の音も聴こえない。寒くもないし、暑くもない。かろうじて分かるのは、自分が自分であることくらい。まるで体重が何分の一にでもなったような、少しフワフワした感覚。
そこでふと気づいた。これは夢だ。
もう何百回と見てきた夢。現実ではありえないことが体験できて、常識が覆る世界。ここなら何でもあり。何が起きても不思議じゃない。だから大丈夫。この感覚もここでは普通だから。
頭を切り替えて安心したから、適当にその辺を歩いてみる。
まるで核戦争で滅びた街みたいに、色んな物が壊れてる。人類滅亡を絵に描いたような風景。本当は空気もないんじゃないかと思うくらい、静かで落ち着いた雰囲気。これがもし夢じゃないのなら、きっとあの世だと思う。
そう思っていたら、周りに少し白い光が浮かんできた。ひとつ、またひとつと増えていく。その光は縦に細長く、人の姿にも見えた。
「動体反応あり!目標を確認します!」
どこからか、いきなり声が聞こえてビックリした。誰もいないと思ったけど、どうやら人がいるらしい。
「ポッと出にしちゃあ多そうだな。ここだけ局地的にってのは珍しい。」
「動体反応は全部で7体!しかもその内の1体はリンカーです!」
「本当か!?身元照会!急げ!」
何か慌ただしい感じだ。まぁ、ほうっておこう。意味分からんし、何でもいいし。
夢の世界では、深く考えたら目が覚める。だから適当に散歩を続ける。でも周りの白い光は、近づいてくることも離れることもなく、一定の距離を保ったままついてくる。それもどうでもいいけど。
「身元照会不可。データありません!」
「了解。これよりターゲットに接触する。」
そう聞こえた直後、目の前に二人の人影が舞い降りてきた。どうやらターゲットは俺だったらしい。
一人は、メタルギアの主人公、ソリッドスネークのような軍人風の男。もう一人は、背が低い詐欺師みたいな風貌だ。
一体何が始まるんだろう。まるで他人事のように相手の第一声を待つ。
すると、いきなり突風が吹き出して、二人の人影とは正反対の方向に、また別の人が姿を現した。
その人は、全身真っ白で、長い銀髪の女性だった。白装束のような和服を着ている。力強い美しい顔立ちだ。ちょっと宙に浮いている。
「やっぱりおいでなすったか!せっかく見つけたリンカーを、渡してたまるか!第一種戦闘配備!」
軍人風の男がそう言い放つと、崩れかけのビル群から、何人もの人達が姿を現した。今まで身を潜めていたらしい。慣れた感じで素早く陣形を作った。どうやら銀髪の女性を敵とみなしている雰囲気だ。俺は両者に挟まれる形で、立ちすくんでいる。
「この子は私の片割れ。お前たちには渡さない。」
「だったら尚更譲るわけにはいかねーな。こっちも人手不足なんでね。」
お互いが対抗意識をむき出しにして、間合いを詰めよる。ってか俺はどうなるの?どっちかに逃げるか、このまま立ち留まるか。でもどっちも怖い!
軍人風の男も銀髪の女性も、俺がどう動くか、睨みをきかせている。なので、その場で思い切って仰向けになってみた。夢の中で更に寝る作戦とは、我ながらよく思いついたものだ。
と、その瞬間。両者激突。
俺が寝転んだから激突したのか、たまたま俺が避けたのかは分からない。どっちにしろ、命拾いした気分だし、激しい衝突を間近で下から見下ろす光景は、何とも言えない。
ていうか、そんなことよりも、熱い!痛い!
嘘でしょ?夢なのに感覚がある!?てか、え?夢じゃない!?
普通に五感を感じて、一気に現実味が増した。台風の日に小石や雨がぶつかってくる、あの感覚を、確かに感じてる!
「お前が出てくるなんて、コイツには何かあるな?」
「知る必要はない。さっさと退け。」
両者が一歩も譲らぬ勢いで言葉を交わしている。
俺を取り合ってるのか?だとしたら、どっちが味方?
両親の離婚を目の当たりにした子供のように「パパとママ、どっちと暮らしたい?」的な、平和な選択肢は用意されてないわけ?
何もかも分からないことだらけ。
でもただ一つ確かなことがある。誰も想像できるはずのない何かが始まったんだ。
続く
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