想いが通じ合ったらいなくなる現象
「やっと想いが通じ合えた。けれど、その直後彼から聞かされた留学の話。長年の夢を叶えたい彼の想いを尊重して、私は涙で彼を見送る」
こんな展開の少女漫画を読んだことがある方はいらっしゃるんじゃないでしょうか?
不思議ですよね。
想いが通じ合い、その関係をもっと高め、親密になろうとした矢先に彼との離別。それは留学であったり、あるいは県外の〇〇の強豪校だったり。
別れに心を痛めながら、それでも相手のことを想って涙ながらに見送るヒロイン。その姿に共感した読者の方もきっと多いことでしょう。
しかし、その一方で疑問なのは相手方のことです。
どうして想いが通じ合った直後にその相手と別れるような決断を下せるのか。どうして自分から離れることを選べるのか。
安心が人を羽ばたかせる
ある赤ちゃんの行動パターンを確認する実験があります。
それは、見知らぬ部屋に赤ちゃんを置いたとき、その近くに母親がいるかいないかで赤ちゃんの行動は変わるのか。
その結果は、母親がいないときは、赤ちゃんはなかなか部屋の中を動こうとしません。不安で動けないのです。
しかし、母親がいることで赤ちゃんは部屋の探検を始めます。母親が常に付き添わなくても、「そこにいる」ことが分かることで、赤ちゃんは自ら動き出すのです。
この実験は、安心があることで人は動けるようになるということを証明しました。
このことは、想いが通じ合った恋人がいなくなってしまうことと同じことです。
ヒロインという安心を得られたからこそ、彼らは外に出ていく力を得ることができました。
たった一人で見知らぬ土地へ向かわなければならない不安。不安が、ずっと彼を動かせずにいた。踏み出せずにいた。その不安を打ち消す、ヒロインという存在。
一緒にいたいというヒロインの想いが、結果として彼を異国の地へと飛び立たせることにつながるのですから、恋愛の皮肉というしかありません。
安心の離別
この現象を名付けるなら、「安心の離別」となるでしょうか。
相反する表現ですが、その原理を知れば納得できることかと思います。
安心があるから、「外」の世界へと踏み出せる。
安心があるからこそ、離れることができる。
そんな不思議が、人にはあります。
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