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清流紫暁 詩集「暁月」

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清流紫暁の詩集「暁月」です どうぞお楽しみくださいませ noteに発表した順に26の詩が漂っています
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2022年6月の記事一覧

春を喰らう

春を喰らう

はらりはるはるちるちるらん
桜が舞い散る春日和
あなたは遠くにゆくのですね
私をおいていくのではなく
「ついてこい」と
言わんばかりのその手にひかれ
私は前へ進み出す
その日は曇っていたけれど光芒が地面を照らしていて
へたに晴れているよりもよっぽど素敵でした
濡れた蓮華の葉が輝いて
あなたの顔を照らしていました

(卒業を迎えた皆さんへ)

太宰府の桃の花

太宰府の桃の花

桃色の蕾が色付く頃に
梅は花開く
飛び梅が散る頃に
桜は染まる

もう梅の花はないのだろうと
池をのぞけば
頬に花弁が張り付いた
上をみればもう梅の花はない
それが最期の一粒だったらしい

玉は頬に染み込んで
梅のにおいを香らせた
(二○二二年三月三十日)

くもの在処

くもの在処

田舎の電柱にくもはすむ
好んでそこにすんでいる

どうして君らははらうのか

夕に立って見てごらん

そろりぱらりと
ほの様に
私らの巣はひかる

朝に発って見てごらん

つるりつゆりと
雨どいみたいに
私らの巣は露草になる

どうかはらわず見ておくれ

でんでんむしむし

でんでんむしむし

むらむら
のろのろ
てらてらを

つんつん
ちょんちょん
ぴっぴっと

じゅぶじゅぶ
じくじく
でろんでろんと

雨の日らんらん
ちろんちろん

鈴をならして
てんとんたん

水素の花火

水素の花火

はめを外しててんとんたん
あめを降らしてとんとんてん

傘をさしましょ
あめが降る

さあさ
狐の嫁入りだ
粒を真っ赤に染め上げて
青白い水素の玉を
傘にあてましょ

手に当たっても音はしないのに
傘では音がなっている
ひゅーとんぱちぱち
ひゅーとんぱらぱら

小さな花火が傘をつく

色彩豊かなあいのうた

色彩豊かなあいのうた

優しいあの子の左手が私をすり抜け地へと地へとおちていく
ふーっとあの子の指先から
透明でいて輝いているぼんやりとした光の粒がふってくる
そうして芝生のにおいを運ぶあの風に吹かれ上へ上へと舞い上がり
私の中へとびこんできた

これがあの子の魂なのだ
きっとそうだ、あの子の味だ

私にしみ込んだあの子の形は白く明るくとけてゆく
–––––青白い涙をもつつみこみ桃色の花を咲かせよう
–––––あの灰色の

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