見出し画像

海の国の夢のおはなし

どこかへと向かう船

海竜たちが死んでいる海だった。

船乗りたちは見つめるだけだった。

なぜ死んでいるのか、疑問も無く。

1匹のウミガメだけは生きていてこちらをじっと見つめていた。物憂げに。ただじっと。

海竜たちが死んでいる海だった。

けれどその瞳は生きているようだった。

見つめ合うように、目が合った。

小魚1匹いやしないその海でウミガメは船を見送っていた。物憂げに。何も言わず。

誰も何も言わない。常識なのかなんなのか。
恐れているのは僕だけか。
孤独な海を。
生きていない。そのくせやけに鮮やかな海を。

着いたのは小さな島だった。

いるのは少しの大人と小さな子供たち。

海の何も知らぬ、無邪気な子たち。

遊びの延長のように服のまま泳ぎを教わる子供たち。「おいでよ」と。誘う歌声。

浅くて波も無いプールには

屈託のない楽観が浮かんでいた。

何も知らない。誰も教えてくれない。

この子達はいずれ海に出る。竜は子供達だったんだ。
悲しんでるのは僕だけか。
屍の海を。
鮮やかな世界に塗りつぶされる。海を知らない子供たちを。

夢を見ていた。
鮮やかでグロテスクな海の夢だ。
家を出るとあの海のようだった。
みな海竜になったのだ。海に触れ海に融け。

僕はまだ波打ち際にいる。水に触れる勇気もなく。
誰にも聞こえない子供たちの歌を歌おう。
誰も知らない子供たちの歌を歌おう。
忘れないように。喪わないように。
あの日の子供たちをいつまでも覚えているために。

海の国の夢のおはなし

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?