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「インザハイツ」の舞台「ワシントン・ハイツ」とは? 〜居場所を求めるキャラクターたち〜

現在、春の上演に向けて本格的に始動し始めた「インザハイツ」。
その舞台となっている「ワシントン・ハイツ」とは、どんな街なのか。
キャラクターたちは、どんな思いを抱いてそこに生きているのか。

舞台をより楽しんでいただけるよう、物語の背景について紹介していく。

「ワシントン・ハイツ」とは?

ニューヨーク、マンハッタンの北部に実在する街であり、1960年代にドミニカ共和国、その後プエルトリコやキューバを主とした中南米諸国からの移民が、住居者のほとんどを占めている。
アメリカでありながら、カリブ海周辺諸国のラテン的な雰囲気を感じられる場所である。

スペイン語が飛び交い、共に祖国を思いながら強く生きる人々が暮らす街は、活気があり賑やかだ。

主人公であるウスナビは、「ワシントン・ハイツ」にて、亡き両親から受け継いだボテガ(食料雑貨店)を営みながら、両親の祖国であるドミニカ共和国へと帰り、自由な暮らしをすることを夢見ている、いわゆる移民第二世代の青年である。
本作の登場人物たちの多くが、移民第二世代として「ワシントン・ハイツ」に生きる若者だ。

彼らはそれぞれ、ささやかな夢(スエニート)を抱えながら明るく過ごすが、その実、多くの社会的問題を抱えている。


移民問題や第二世代が抱える葛藤

彼らの多くは、本人、もしくは親世代が、故郷よりも良い暮らしを、という「アメリカンドリーム」を掴むためニューヨークに移り住んできている。

例えば、多くの若者の育ての親的な存在であるアブエラ・クラウディア("アブエラ"は"お婆ちゃん"の意味)や、ニーナの父であるケビンは、アメリカへと夢を求めてきた移住者であった。しかし低所得者への扱いは冷たく、母親と共に移り住んできたアブエラは長年メイドを続けながら、本当にアメリカに来て幸せだったのかと苦悩する。
ケビンは「夢を追いたい」と反対する実家を飛び出し、タクシー会社を立ち上げるが、経営は芳しくない。

そんな彼は、自分の娘ニーナの賢さを見て、ニーナには夢を追いかけられる環境を、とどうにか金銭を工面して、名門スタンフォード大学へと入学させる。
名門大学進学者となったニーナは、「街一番のスターだ」とワシントンハイツで大いにもてはやされるが、大学では人種差別や所得の差に苦しみ、勉強がままならない。奨学金を受け取れなくなり、自主退学をしようと、一時帰郷したところだ。

街の美容院で働くヴァネッサも、母親の世話に苦労しながらも、いつか街から出て生活していくことを夢見ているが、同じく所得の格差の壁に苦しみ、家を借りるができないなど、なかなか夢への道を開くことができない。

皆それぞれに、夢や将来への希望を持っているが、貧困や差別、社会的地位の低さのスパイラルから抜け出すことができずにいる。
様々な格差から、まるで街に閉じ込められたように、出ていくことができない状況だ。

それと同時に、自分のルーツであるドミニカやプエルトリコなどの故郷と、生まれ育った街アメリカの「ワシントン・ハイツ」との狭間で、自分の居場所は本当にここで合っているのかと、それぞれが苦悩する。
「ワシントン・ハイツ」はヒスパニック的な文化が強く根付き、スペイン語での会話が成り立つ。だからこそ移民第二世代の多い「インザハイツ」のキャラクターたちは、ほとんど記憶にない「故郷」と、似通った文化があり自分の生まれ育った「ワシントン・ハイツ」、そして実際その街が位置しているのはアメリカであり、中には不法移民に当たる者も存在するなど、様々な問題が複雑に絡み合い、自分は何者なのか、どこへ行くべきなのかという思いを強くさせていると感じられる。


「ワシントン・ハイツ」の文化

それでも彼らは、互いに支え合って、明るく暮らしている。

そんなワシントン・ハイツの文化や価値観は、勿論中南米諸国から輸入されたものが多い。
例えば、ファッションの傾向としては非常にカラフルな色使いであることが多い印象だ。
また、街の至る所にはカラフルなグラフィティアートが描かれている。特に地下鉄191stのトンネルは圧巻だ。(落書きで覆われた長さ300メートルのトンネル「191st Street Tunnel」 | ニューヨークお散歩通信 (osanpotsushin.com))まるで、そこに生きる人々の国民性を表すようだと感じる。

191st Street Tunnelのグラフィティーアート

また食文化といえば、劇中にも登場する「ピラグア」である。ピラグアとは、プエルトリコ風のかき氷のことであり、味付けは日本でもお馴染みのイチゴなどをはじめ、「マメイ」といった南国の果物の味も有名だという。

ピラグア   https://yosoy.vazenterprises.com/piraguas/ より


夏には、手押し車で「ピラグア」を販売している風景も風物詩として、目にできるようだ。劇中でも「ピラグアガイ」というキャラクターがピラグアを売っている様子が描かれているので、ぜひ見つけてみてほしい。

ピラグアの手押し車 https://www.miguelluciano.com/pimp-my-piragua/1
より

このように、「インザハイツ」は鮮やかで華やかなミュージカルでありつつも、現実の「ワシントン・ハイツ」をリアルに表現した作品であることが感じていただけたかと思う。

苦しい現実のなかであっても、各々の夢に向かって、時に隣人同士で助け合いながら生きているキャラクターたちのエネルギーには、間違いなく大きなパワーをもらうことができるはずだ。

文責:山崎真依

あらすじ

ニューヨーク・マンハッタン北西部、
ラテン系移民が多く暮らす
「ワシントン・ハイツ」。
物価や家賃の高騰により、
人々の生活は変わりつつあった。
両親の残した食料雑貨店を営むウスナビや、
この街に生きる若者達は皆それぞれの夢に
向かって踏み出そうともがいている。
​大学に進学したニーナが一年ぶりに
帰ってくると、突如大停電が街を襲う。
光が消えた真夏の日、
とある住民には奇跡が起こり-。

公演情報

<スケジュール>
2024年3月13日(水)〜18日(月)
<会場>
池袋シアターグリーン BIG TREE THEATER
<演出>
隈元梨乃
<企画>
竹宮陽哉・藤原羽菜・花畑桜子
<製作>
Seiren Musical Project


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