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詩/ 溢れる汽車

小さな弟は姉に酷いことをされて
幼さゆえに何も覚えていなくて
だから私だけがいまだ罪悪感に悩まされているのです

泣き崩れる弟を見下ろしている私がかつていて
今では弟は素直に笑っていますが
あの時の、悔しさと困惑が満ち溢れた涙となってこぼれ出した時の顔を
不意に胸の表面に露出させてしまっては
それを一人必死になって、ひた隠そうとするのです
お気に入りのおもちゃを捨てるよう強要した私

メタリックな汽車の玩具
精密に出来たそれは他の汽車よりも重く
手のひらをはみ出てずしりと響くのです
弟は泣きながらそれを捨てたのです
ゴミ箱の底に響いた音はあまりにも丁寧で
実際、汽車は傾げることなく底に置かれていたのです
姉を見上げる、弟の泣き顔

弟は何も覚えていなくて
だから私だけ忘れることもできず
汽車を胸にひた隠しているのです




2022年度第18回 文芸思潮現代詩賞に応募したものに修正を加え、公開いたします


2022.12.15 追記:第18回 文芸思潮現代詩賞 入選

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