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元型と元型イメージの区別(井筒俊彦『意識と本質』を読む)

こんな夢を見た。

飼っているイヌを連れて個人経営の本屋に入ると、イヌが暴れ出して、店の人に怒られる。イヌをあやそうとしてなでると手を噛まれる。

この夢は何を表しているのか?
この夢をより抽象化すると、「コントロール不可能なものをコントロールしようとしている/あるいはそうせざるを得ない」状況を表している。
アドバイスっぽく言えば、「この世にはコントロールできないことが存在する、それを認識せよ」という寓話となるだろう。

深層意識を掘り下げていくと、或る「元型」につきあたるという思想的立場が存在する。
最近流行っているMBTIの源流にいるユングの立場がまさにそうだ。
その「元型」という枠組みからさまざまなイメージが生まれ出る。
たとえば今回の夢の場合でいうと、「コントロール不可能なものが存在する」という多くの人に共通の元型(集合的無意識)がまずあって、そこから犬というイメージが(たまたま)選ばれたと考えられる。

話をわかりやすくするために、ここで井筒俊彦の意識モデルを利用しよう。
彼は、表層意識と深層意識という二層モデルでは深層意識に広がる階層をとらえきれないと考え、深層意識をさらに三つの次元に区分した(M・B・C)。

井筒俊彦『意識と本質』214頁より

一番下の存在のゼロポイントからC無意識を経て、今回のテーマであるB元型の次元、M元型イマージュの次元へと意識は昇っていく(ゼロポイント、Cを説明するとややこしくなるので今回は省く)。最終的に日常的な意識(表層意識)を表すAへとたどり着く。A以下は全て深層意識の領域である。

イヌの夢の例で言うと、B領域は「コントロール不可能」を表すより概念的な元型を表し、M領域はその元型が多様なイメージ(犬)となって現れる色とりどりの象徴世界を表す。
※以下、B領域の元型を名前+元型(例:Out of Control元型)、M領域の元型イマージュ(犬)を名前+イメージ(例:Out of Controlイメージ)と表現する。

ところで、私はイヌを飼ったことがない。特段イヌが好きというわけでもなく、どちらかといえばネコの方が好きだ。コントロール不可能なものの象徴という意味では、夢の中に出てくる「イマージュ」は(イヌではなく)子どもでもよかっただろう。(ちなみに動物に全く興味がないのになぜかよく動物の夢を見る)
夢は、手を変え品を変え、Out of Control元型を表現する。

ところで井筒俊彦は、元型イメージは「文化的に規定」されているという。
仏教徒がキリストやマドンナを見ないように、キリスト教徒の瞑想意識の中に、真言マンダラの諸尊、如来や菩薩の姿が現れてくることはない。

さらには、元型イメージどころか、元型もまた文化的枠組みのなかで規定されているという。「それは決してイマージュだけの違いではないのだ。深層意識に生起する「元型」そのものが、文化ごとに違うのである。」(『意識と本質』247頁)

とはいえ、人間感情が文化の枠組みを超えてそれなりに共通しているように、元型イマージュよりも元型の方がより共通しているとは言えそうだ。

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