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緊急レポート けんけんの東欧見聞録③ ロシア編 ~日常と戦争の狭間で~

■はじめに

はじめまして、中野絢斗と申します。
一般財団法人日本青年館さまのご厚意で、今回寄稿させていただく機会を頂戴しました。あらためて感謝申し上げます。

2022年の今、ロシア軍がウクライナに軍事侵攻し、世界全体に激震が走っています。私は学生時代からずっと、日本とロシア、ウクライナ、ベラルーシなど東欧諸国とのより良い未来をめざし、活動をしてきました。

そんな自分の想いとは裏腹に、大好きな国が大好きな国を侵略し、また多くの友人知人が現地で困難な生活を強いられています。日本国内においても、僕の大好きな国々がネガティブなイメージで広まり、誤った先入観を持たれるようになってしまいました。本当に悲しい限りです。

どうにか、僕の大好きな国々を、大好きな日常の景色を、大好きな方々のその暮らしを、少しでも多くの方々に知ってもらいたい。
そのように考えていたところ、ちょうどこのような絶好の機会をいただけました。本稿ではウクライナやロシア、ベラルーシの「日常」を、その魅力を伝えていけたらと思っています。

その第三弾として、最後は「ロシア」をご紹介します。

1,「おそロシア」というイメージ

「ロシア」と聞いて、みなさんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。
2020年9月に内閣府が実施した国内世論調査によると、86.4%の方々が「親しみを感じない」国であると感じています(「外交に関する世論調査」,内閣府,令和3年9月)。

オホーツク海や日本海を挟んでいる”隣国”であるにもかかわらず、同じく隣接する中国や韓国と比較してもその社会や文化、人々の暮らしがあまり日本では知られておらず、漠然とした得体のしれない恐ろしいイメージが一般的に持たれています。
「おそロシア」というネットスラングはまさにそういった背景から起因するものでしょう。

たとえば、こちらはモスクワにある「赤の広場」です。ハリウッド映画等で悪の代名詞のように使われていることもあるので、ご存じの方は多いのではないでしょうか。

01赤の広場

この「赤」という名前は共産主義に由来すると勘違いされがちですが、実はロシア語では「赤色」は「美しい」という意味も持っており、「美しい広場」という意味に近いです。もちろん広場自体が赤色なわけでもありません。
今回はそのような多くの方々が抱いているロシアに対する誤った「常識」を覆すような、知られざる一面を紹介していければと思っています。

2, さまざまな「ロシア」

ロシアにはさまざまな都市があり、それぞれに固有の文化、社会、宗教、自然、人々の暮らしがあります。今回はその一部をご紹介させていただきます。

最初にご紹介するのは、かつての帝政ロシアの首都であり、今もなお国内第2の都市であるサンクトペテルブルク。私も大好きな街です。

02サンクトペテルブルク

開放的な雰囲気を漂わせる”文化芸術の都”であり、また3本の水路が中心部を通る”水の都”でもあります。日本に例えるのが適切かわかりませんが、京都と横浜・神戸を足したような雰囲気です。

03エルミタージュ博物館

サンクトペテルブルクで最も有名なものといえば、エルミタージュ博物館でしょう。世界屈指の大美術館でもあり、かつてのロシア皇帝が冬を過ごした宮殿でもあります。あまりの広さに、軽く見るだけでも数時間、しっかり見るならば数日は覚悟しないといけません。

04エルミタージュ博物館

ちなみにこのエルミタージュ博物館のスタッフには50匹のネコたちがいます。絵画などをネズミ等から守るために雇われており、ネコ専用のお部屋、ネコ専用の広報官、お世話のための職員たちもいるのだとか。


こちらはイサク大聖堂。世界最大の教会建築の1つです。建設に携わった皇帝は3人、完成までに40年もの時間を要したといいます。

05イサク大聖堂


続いてご紹介するのは、シベリア地方のイルクーツク。
首都モスクワからシベリア鉄道で繋がっている交通の要衝で、街並みの美しさから「シベリアのパリ」と呼ばれるほど。シベリアというと荒廃したイメージが持たれがちですが、実際は多くの大都市が位置し、さまざまな民族のもとに繁栄しています。

06イルクーツク


このイルクーツクから車で1時間ほど行ったところに、世界で最も深い湖である「バイカル湖」があります。このバイカル湖は世界で最も透明度の高い湖でもあるそう(ちなみに2位は北海道の摩周湖)。

07バイカル湖

バイカル湖は、ガラパゴス諸島と並ぶ世界有数の多様な生態系を持っているといわれ、世界で唯一淡水のみで生息するバイカルアザラシがその頂点に立っています。

08アザラシ

バイカル湖に隣接しているのが、ブリヤート共和国。ロシア連邦には、日本の都道府県のような感覚で21の共和国が設置されています。

09ブリヤート共和国

ブリヤート共和国にはブリヤート人と呼ばれる民族が多く住んでいます。ご覧の通り、モンゴル系の民族で、日本人とそっくりだとよく言われています。

10ブリヤート人

ちなみにブリヤート人の多くの方々が信仰しているのはチベット仏教。中心都市ウラン・ウデの人口の4割近くが仏教信者だといわれています。ロシアで仏教が信仰されているイメージはあまり持たれていないので、驚きですよね。

11寺院

ロシアの北カフカースには、イスラム教徒が多く暮らしています。チェチェン紛争などで話題となったチェチェン共和国やイングーシ共和国といった地域がここにあたります。

12カフカス

日本に最も身近なロシアといえば、極東のウラジオストクでしょう。東京からたった2時間で行けるヨーロッパです。
ウラジオストクという名は「東方を支配せよ」という意味を持ち、ロシアにとって極東政策の中心都市でした。1992年までは外国人が入ることが許されていなかったほど。

13ウラジオストク

今となっては開放的な雰囲気の漂う港湾都市で、中国人や韓国人、中央アジア系など多種多様な人種が行き交う街になっています。ちなみに、かつてこの一帯にはウクライナ人が多く入植し、「緑ウクライナ」という独自国家を建設する動きもありました。今でもウクライナ系の住民が多い地域となっています。

ウラジオストク

3, 日本とロシアのつながり

せっかくなので、日本とロシアのつながりをご紹介します。
日露関係を語るにあたり、セルゲイ・エリセーエフ氏の存在は外せません。サンクトペテルブルク出身の学者で、初めて東京大学を卒業したヨーロッパ人です。

15エリセーエフ

日本文化に魅了された彼は、夏目漱石や芥川龍之介とも親交を深め、渡米してハーバード大学にて日本語や日本文学の教鞭をとりました。その門下生が著名なドナルド・キーン氏やエドウィン・ライシャワー氏であり、まさしく日本と世界の架け橋となった人物です。

また、チョコレートで有名な「モロゾフ」や「ゴンチャロフ」といった菓子メーカーは、日本に移住したロシア人たちが始めた会社になります。

日本とロシアの密接な関係は言語にも表れています。
たとえば、日本語の「イクラ」はロシア語に由来しており、もともとは「魚卵」を意味する単語でした。そのほかにも、「アジト」「カチューシャ」「ノルマ」「セイウチ」あたりもロシア語由来です。変わったところだと、ポケモンの「ジラーチ」もロシア語由来だと言われています。

16イクラ

逆に日本語からロシア語に流入した単語だと、「サンマ」などが代表格でしょう。「サンマ」は和歌山県の方言で「サイラ」と昔から呼称されるらしく、ロシア語でもそのまま「サイラ」として呼ばれています。
和歌山の方言がロシア語になっていると思うと面白いですね。日露両国の歴史的な近さを象徴するものではないでしょうか。

4,最後に。

ロシアのさまざまな都市、さまざまな一面を紹介してきました。
とはいっても、ロシアは日本の45倍もの国土面積を持ち、180以上の民族が生活する多民族国家です。正直、ここで紹介するには限界がありますし、まだまだ私も見たことのないロシアの景色がたくさんあるのだと思います。

17ロシア電車

日本でイメージされる「ロシア」とは違い、「ロシア」は本当に多様な顔を持ち合わせています。ロシアの著名な詩人・チュッチェフは、下記の有名な詩を残しています。

   ロシアは頭ではわからない。
   並みの尺度では測れぬ。
   ロシアならではの特質がある。
   ロシアは信じることができるのみ。

ロシアの奥深さ、多様性、複雑さは、文字だけで理解しようとしても難しいものがあります。その文化や芸術、歴史、人々の暮らしを、ぜひ皆さんにもいつか直接見に行ってほしいと切に願います。


最後になりますが、ロシアといえばこちらの国旗です。
白色は高貴で率直なベラルーシ人を、青色はウクライナ人の名誉と純粋さを、赤色はロシア人の勇気と寛大さを表しているといわれています。

18ロシア国旗

ロシア、ウクライナ、ベラルーシ。この3ヵ国は民族的にも文化的にも近く、密接かつ複雑な歴史を歩んできました。3ヵ国が接する国境には、友好を祈念する「三姉妹」というモニュメントが建立されています。

19モニュメント

実はロシア語には、単独で”世界”(=World)を表す言葉がありません。
ロシア語で”世界”を表す”Мир”(ミール)という単語は、また同時に”平和”(=Peace)という意味も持ち合わせます。どちらを表しているかは文脈で判断するしかありません。
世界と平和をわざわざ分けずに、同じ単語で表すのがロシア語なのです。

世界の平和を願っているのは、ウクライナも、ベラルーシも、そしてロシアの人々も、皆同じなのだと私は信じています。報道でニュースを見るたびに、ウクライナやベラルーシ、ロシアで過ごしたあの日常の風景が思い出されます。
一刻も早く、ウクライナや世界の人々に平穏な日常が戻ることを切に祈ります。

20モニュメント

※写真の一部をWikipedia(日本語版・ロシア語版)から引用しております。

■筆者紹介:中野絢斗
1997年、神奈川県生まれ。日本とウクライナ、ロシア、ベラルーシの真の友好関係をめざして活動中。2019年にベラルーシ国立大学国際関係学部に留学。そのほか、2018年度日露学生交流事業学生総代表、北方四島交流事業訪問団、北方領土問題対策協会学生研究会代表、早稲田大学東欧同好会代表などを歴任。

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