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みんなのたからばこを創りたい ~一般社団法人NELD~

刺激満載の「若者サミット2020」がきっかけ


 初めまして。今回の取材を担当しましたエビスです。日本青年館とは年に数回撮影の仕事で関わっており、足かけ十数年ほどになります。
 そんな私がこの記事を書くきっかけとなったのは、2020年2月に開催された『全国まちづくり若者サミット2020』の撮影でした。この事業には、全国各地から、わがまちの活性化や発展のために活動したり、いろいろな形でサポートに携わったりしている21の団体が参加(第2回はコロナによりオンラインにて開催、16団体が参加)。初の試みということで、どんな内容になるのか大いに興味がありながら、「サミット」とは仰々しいなあと感じていたのはここだけの話ですが、始まってからはそんな小さな感情は簡単に払拭されるほど引き込まれ、刺激を受けました。会場は同じフロアの2部屋に分かれ、同時進行で別々の発表やワークショップがあったため私はその撮影にバタバタ。ひとつひとつをゆっくり、じっくりと聴くことはできなかったものの、耳から入ってきた内容がスッと肝に落ちてくるような貴重な機会でした。

踏切をわたり、トンネルをくぐり、坂道と階段をのぼり

 若者サミット2020から1年半の9月上旬、私はサミットに登壇したある団体を訪れるため横須賀に向かっていました。その団体とは、一般社団法人NELD。オールDIYをした空き家を活動拠点に地域活性化に取り組む学生団体です。コロナ禍で活動もどうなっているのだろう、元気で頑張っているかな、そんなことが気になり代表理事を務める三田希美子さんに会いに行ったのです。
 京浜急行の汐入(しおいり)駅で待ち合わせた彼女は、スッキリとしたショートヘアに大変身。すっかり大人っぽくなっていました。お天気も良好。まだまだ夏の日差しに目を細めつつ、ゆっくりとまちのことを聴きながら道案内をしてくれました。
 NELDの拠点である「夢畑(タカラバコ)」は、海とは逆の方向にあります。駅から出発してすぐに通りをひとつ中に入るとまちのイメージが激変。神社を過ぎ、趣のある線路を渡り、ちょっと行くと緩やかな上り坂。やや狭い道を挟んで両サイドは静かで落ち着いた住宅地。さらに進むとトンネルがあったり、この先はどこに続くのかと思うような細い路地がいくつも出てきたり。迷路のようにも感じるところもあり不思議な感覚におそわれます。ただその反面で商店も少なく、コロナ禍の平日の午前中とは言え、人と会うことも少なかったので、過疎化が進んでいるのかなと頭をめぐらせていると、私の表情の何かを察したのか彼女は「最近、この辺も小さいお子さんをもつご家族が引っ越してきたり、思った以上にたくさんの方が住んでいるんですよ」と説明してくれました。
 横須賀と言えば、米軍基地や海軍カレーなど「海の町」として発展してきたので、そのイメージも強いと思います。ところが今から7年前、三田さんが中学3年生だった時に横須賀の人口流出率が全国No.1という事態に陥ります。そのことが三田さんをまちづくりへと向かわせるきっかけとなるのですが、今回のコロナ禍で逆に人口増になるなど目まぐるしく変化もしており、NELDが活動する背景にはいろいろな事情があるのです。
 この1年半以上、お祭りの中止や町内会の集いの場がしばらく機能していないとのこと。普段は定期的に町内会やお祭りも活発に行われ、時には美味しいお酒を呑みながらの楽しいノリで「あれやろう、これやろう」と話に花が咲くほどなのだとか。高齢者人口も決して少なくはない地域で、ご近所にも90歳のご婦人をはじめお年寄りが多くおられるそう。「コロナで顔をあわせていないのが心配だけど、元気とは聞いているので安心はしています」とホッとされていたのが印象的でした。緊急事態宣言もひとまず明けたし会えたかな。

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京浜急行とJR横須賀線の交差点。音が聞こえます

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秘密基地に続くようなトンネルも多く点在

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苔に覆われたこの階段の先にも民家があります

 普通であれば15分ほどで着くところを、30分近くかけて上がった先に2棟の黒い平屋建ての、通称「夢畑(タカラバコ)」と呼ばれるNELDの建物がありました。空き家問題に興味のあった彼女が知り合った方達を介して、今の大家さんへとつながり借りることとなったこの空き家。ワークショップ形式で仲間たちと一緒に全てDIYをして完成させた宝の箱です。名前もその時のメンバーと話し合って決め、現在、運営・管理も行っています。入り口は引き戸。ガラガラと開けるとまさに「The昭和」な雰囲気。少し高さのある小上がりを上がると板敷の廊下。シェアハウスや民泊として利用することのできる別棟のベットも押入れを改良したもの。


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息をきらしながらNELDへ到着

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夢畑からの眺望

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ここもすべてDIYをして作り上げました

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何かひらめいたらここへメモ

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NELDの前には100段ちょっとの階段があります

やりたいことを形にしたい

 ここ「夢畑(タカラバコ)」を拠点に活動を繰り広げるNELD。活動の目的や「夢畑」に込められた思いを聞いてみました。

 「これから先は自分のやりたいことを仕事にしていくことが、きっと当たり前になっていくでしょう。そういう時代に、自分のやりたいことを形にして続けていけるようなサポートができたらいい。将来的には『働く場作り』に繋がっていければいいなと。夢とかやりたいことにあふれて、畑の野菜や育つものみたいにすくすくと育つ場所になって、みんなの宝物になればいいなという願いを込めています。」

 人とのつながりを大切にしているNELDには「スキリング制度」というインターン制度があります。「夢畑」には「やりたいことを形にしていく」ための3つのテーマでもあり、心得的なことが掲げられています。

①「スキル」を高める
「スキリング」は「Skill」をing系にした造語。自分たちがやりたいことを実現していくための自分の必要なスキルを高め、見つけていく。
②自分の「好き」を追求する。
ワクワクすることを仕事にするために、自分なりの人生を歩むための「好き」ってなんだろうというのを常に追求・探求していってほしい。
③「リンク・つながり」
NELDのキーワードである「人と人とがつながる」とか、「つなげる」なので「つながり」を意識にもって積極的に活動していこう。

 現在、2人のスキリング生がNELDの業務サポートをしています。すでに卒業し、それぞれの場所でそのスキルを活かして活躍しているメンバーもいます。

 「もちろん今、横須賀にフィールドを置いているっていうのもありますが、最終ゴールは横須賀が活性化すればいいやではなくって、地域に関わる人が全国的に増えてくれればいいなと思うし、私も“横須賀を盛り上げています”とは言ってはいません。こういう活動を続けていく中で、気がついたら横須賀の活性化に繋がっていた、そういうストーリーがいいなと思っています」

 このスキリング制度を通じて、すでに誰かの次のステップに進むためのサポートに、少しずつつながり始めていることを感じました。

コロナ禍でもビジョンをもって

 コロナ禍という未曽有のことに、誰もが苦しんだり振り回されたりしている中で、何かを「継続する」ということは並大抵ではなく、ましてやボランティアを中心とした非営利団体がその中で活動することは簡単ではないと思います。それでもNELDは新たなことを立ち上げたり企画したり実行し続けています。

「誰かが言った『これやりたいです』を、『お金にならないからできません』って突っぱねてしまったら、自分たちのミッションに外れてしまう。例えお金にならなくても、それぞれの体験・経験はしてほしいし、大事にしてほしい。そういう考えで活動しているので、こんなのお金にならないじゃん!っていうのばっかりですよ、正直」

 笑いながら話してくれる三田さん。大学4年生でありながら、お金のことしかり、しっかりとしたビジョンも持っている。自分たちのミッションに反するだけでなく、自分自身のやり方にも反するんですよねと続けた彼女に心強さも感じました。あとはきっとこういう頑張っている団体がもっと周知されて、自治体も含めてまち全体が自分事として関わってくれれば、きっとどの地域もよりよい方向に変わっていくのではないかと改めて感じた次第です。横須賀の空き家問題、若者の夢実現、そして日本全国の活性化。「NELD」は「トンネル」と「ワールド」をつなげた造語とのこと。トンネルの数が日本一の横須賀から世界に向けて発信するNELDの活動に今後も要注目です。

こぼれ話

 唯一?三田さんと私が共通していたのは、ひとつのことだけをやれないこと。そのことについて彼女は、「結局、一本じゃ生きられない世の中になっていると思っていて、だからこそ就職をしながら自分の趣味ややりたいことを続けるのは大前提。なおかつ、お金を稼ぐ『副業』もメインの仕事に対するサブ的な意味ではなくて、複数の複で『複業』っていうのはこの時代の新しく一般化されそうになっているキーワードだなと感じています。そういう意味で4つか5つくらいの軸の中であれこれやっていく方が、これからの働き方なんじゃないかなと思うんです。仮に稼ぐ手段が四つあれば、ぶっちゃけ1個潰れてもあと3つあるから」
 来年の卒業後、どう舵をきっていくのか。駅までの帰り道、心の中でエールを送ったのでした。

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NELDの代表理事 三田希美子さん

◆もっと知りたい!な人へ

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執筆者プロフィール
胡 多巻(えびす たまき)
東京都出身、フリーのカメラマン時々ライター。各方面に対して興味は尽きず、まちづくりもただいま勉強中。



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