#10 ホテル暮らしの日記 :失恋について

大体の場合、失恋は辛い。

さっきまで恋の激情だったものが怒りに変貌して相手を手ひどく攻撃することもあれば、今度は刃が自分に向いて自暴自棄になることもある。

恋愛はワインより悪酔いするのが常である。(ヒューヒュー!)

実は私は、大学時代の恋愛を2年以上引きずっていた。

今回はその失恋を忘れるに至った理由を書き示せればと思う。

理由①:執着に対する大きな誤解に気がついたから
私は長いこと勘違いをしていた。
それは、失恋をここまで長く引きずる理由は「彼女があまりに素晴らしかったから」という勘違いである。
しかし、私が愛していたのは彼女ではなく、彼女から差し出される甘い言葉や態度であり、それを受け取る自分自身だった。
私は彼女が自分以外の男性と幸せになる姿を想像するのが辛かった。狂いそうになった。それは何より、”彼女の目が自分に向いてなければ”彼女のことを受け入れるつもりはないということの表れである。
私が愛していたのは何より自分のことだった。甘い言葉をかけられる自分、触れてもらえる自分、そんなことばかりを考えていた。
私が好きだったのは「私を好きな」彼女であり、彼女そのものではなかった。だから私は、自分への恋愛感情を失った彼女の姿をいつまで経っても受け入れず、(あの頃の彼女はどこに行ったのか...)などと狼狽してみせた。
どこにも行ってない、彼女はそこにいる。
失ったのは愛されていた自分である。
恋愛に対する未練とは、当時の自分への羨望である。
これは哀れなことだと気がついた。

理由②:他の恋愛を経験したから
これまで様々な恋愛をしてきた。
半身でかわすようなものもあれば、真正面から受けすぎて私が先に倒れてしまうようなものまであった。しかしいずれにしろ大抵の場合、私の方から気持ちが切れてしまう。
その度に、相手をひどく悲しませた。
しかしどうしようもないのが実際のところである。
恋が醒めたというのは、「恋が醒めた」としか表現し得ない。
なんの論理性・合理性もない。なぜなら感情の働きだからである。
どうすれば怒れるか考える人はいないだろう。
どう悲しむか考える人もいないだろう。
それと同じように、恋は説明もできずに始まって、説明もできずに終わっていく。
恋が醒めてから「あれが理由で...あれが理由で...」なんて言ってみせるが、実際のところそれは全て言い訳であることがほとんどである。大抵、理由もなく恋が醒めて、それによって嫌なところを「思い出す」のである。
申し訳ない気持ちはたくさんあるが、恋が醒める瞬間は存外あっさりとしている。
そんなこんなをしているうちにふと彼女を思い出してこう思った。
(あの時も、彼女の中ではこれくらいあっけなかったのだろう)と。
彼女でさえよく分からない恋という心の働きに「なぜだ」などと問いをかけるのは野暮なことだと気がついた。醒めたもんは醒めたんだと、もう説明書は探さないことにした。

そんな感じ。

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