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Claude利用の小説執筆05(それっぽい文章を出力することの限界)

 LLMにせよ、画像生成AIにせよ、プロンプトに基本的に準拠したものを生成するわけだ。birdと入力すればディープラーニングした鳥の概念からbirdらしい画像を出力する。a woman making a dinnerであれば、女性が夕食を用意している様子を作るわけだ。
 しかしこのとき、隣接する概念に引っ張られるということが起きる。a Japanese woman making a dinnerであれば、アメリカらしいキッチンやダイニングで料理を用意する日本人ではなく、なんか日本家屋らしい場所でそれっぽいことをする和服の日本人女性が出てくるだろう。アメリカの一般家庭で料理をする日本人女性を出したいなら、もっとプロンプトの指示量を増やさなければならない。
 それらしさ。生成AIはそれっぽく仕事をやっつけるのが極めて得意だ。「指示文にこう書いてあるんだからこうでしょ、少なくとも間違ってないでしょ」、大雑把に指示をすると大体そんなマインドで仕事をする。もちろん、怠惰や皮肉でそうしているわけではない。プロンプトに呼応するAI内部の概念を使って生成しているにすぎないから、入力に忠実に出力しているだけなのだ。
 これと同じことが小説を書かせようとしても起きる。要は、このキャラはあとで裏切りますよ、という設定を事前に与え、そのキャラが初めて登場するシーンを書かせるとする。するともう露骨に「こいつは裏切りますよ」的な雰囲気をもう出すわ出すわ。伏線の張り方があまりにも露骨すぎるのだ。しかしこれは性能の低さを意味しない。原理的にそうなのだ。生成AI、LLMは計画して文章を生成しているわけではない。読者のことを考えて、どの場面でどういう情報を提供すべきか考えて書いたりしない。入力したプロンプトに応じて出力しているにすぎない。そのキャラクターの登場するシーンを全て一気に書かせることができるGPTo1Proでもない限り、ワンシーンワンシーンずつ生成していれば、そりゃあそうなる。なぜなら、最初に出力した登場シーンだけで入力された情報全部を始末つけようとするから、裏切るキャラはいかにも裏切る感じに書くわけだ。このことを踏まえて、以下のClaude3.5sonnetの文章を見てほしい。project knowledgeに作品設定を数万字与え、直近の数話の本文も与えた上であるシーンを書けと指示して、さらにいわゆるパワハラプロンプトでブラッシュアップしたものだ。

「影の罪深き意思」

 蝋燭の炎が、タティオンの執務室の闇を揺るがしていた。部屋の隅々まで、歴代当主の肖像画の冷たい視線が染み渡る。レカは月明かりに照らされた窓際に立ち、大時計塔の巨大な影を眺めていた。その非人間的な建造物が、いつにも増して重苦しく感じられる。

「リミナルダンジョンの探索権を巡って、エリオンが冒険者ギルドの実権を掌握しつつある」
 タティオンの低い声が、重い空気を震わせる。
「亜人種の権利だの、平等だの。そんな綺麗事を並べ立てながら、あの男は着々と力を集めている。傭兵ギルドも手中に収めかけているときいた」

 黒檀の机の上で公文書が山をなしている。その一枚一枚が、この街の闇の力学を形作っているのだ。タティオンは羊皮紙に目を落としたまま、静かに続けた。

「街は変わりつつある。エリオンの台頭は、我々の存在意義そのものを揺るがしかねない。だが奴には弱点がある。側近のエルフの魔法使い、ルゥリィ」

 その名前に、レカの背筋が凍る。記憶の中で、オレンジのケープの魔法使いの姿が蘇る。エルフの子供たちを救った夜の、あの毅然とした姿。街の光となって立ち向かう彼女の勇気は、確かに本物だった。

「あの女を排除せねばならん」
 タティオンの声に、いつもの慈愛の色はない。
「冒険者ギルドの金槌級となった彼女の魔力は、我々の行動を制限している。そして何より...」

 タティオンはようやく顔を上げ、レカを見つめた。その赤い瞳には、なにか測り難いものが宿っている。

「彼女の存在は、お前の心を惑わせている」

「ボス、それは...」

「エルフの血のせいか? 同族への共感か?」
 タティオンの声が鋭くなる。
「だからこそ、この任務はお前が果たさねばならない。感情に流されぬ冷徹さを示せ。それが、暗殺者としての誇りというものだ」

 レカの体が強張る。父の言葉の意味は明確だった。これは単なる暗殺の命令ではない。暗殺者としてのレカの覚悟を試す、父からの試練。

「誰かを殺せと言われて、殺せないような者に暗殺者の資格はない」
 タティオンは立ち上がると、窓際に歩み寄る。レカの隣で、同じように街を見下ろす。
「この街には、秩序が必要なのだ。その秩序を守るため、我々は影となり、血を流す。それがお前の運命だ」

 レカは黙って頷いた。喉まで出かかった言葉を飲み込む。父の背中は、いつになく遠く感じられた。

 月が昇り、街は深い闇に沈んでいく。レカは路地から路地へと影のように移動しながら、心の中で叫んでいた。影に潜む暗殺者の本能と、光を求める少女の心が、激しく衝突する。

(誰かに...誰かに相談できれば...)
 思わず足を止める。テルのアトリエの窓に灯りが見えた。今夜も、夜更かしで絵を描いているのだろう。レカは建物の陰から、その光を見上げる。心臓が早鐘を打つ。

 窓から忍び込んだレカの前で、テルは気づかないまま絵筆を走らせ続けていた。キャンバスには、救貧院でのリリアの姿。その周りを取り巻く、エルフや獣人の子供たち。そこには、血に穢れた世界など存在しない。ただ純粋な光だけが満ちている。

(テル...)
 言葉が喉まで出かかる。
(あーし、人を殺さなきゃいけないんだ。でも、それが正しいことなのかもう分からなくて...)

 だが、その告白は永遠に闇の中へと消えていく。テルの描く世界に、暗殺者の影が入り込む余地などない。レカは静かに窓から出る。テルは最後まで、レカの存在に気づくことはなかった。それが、二人の世界の違いだった。

 冒険者ギルドの建物が、月明かりに照らされている。ルゥリィの姿が、窓辺に見える。机に向かい、まだ仕事を続けているその横顔に、レカは昔の自分を重ねる。エルフの血を引きながら、それでも必死に這い上がろうとした日々。

「ついに来てくれたのね、レカさん」
 レカが窓から忍び込んだ瞬間、ルゥリィは振り返っていた。その緑の瞳には、驚きも恐れもない。むしろ、この瞬間を待っていたかのような静けさがあった。

「なぜ...?」
 レカの声が掠れる。ルゥリィは微笑んだ。
「私たちは同じエルフの血を引く者。それに...」
 彼女は机の上の報告書に目を落とす。
「あなたの苦しみが伝わってくるの」

 月明かりが二人の間を照らす。ルゥリィが続ける。
「この報告書は、私たちが救ったエルフの子供たちのもの。彼らの未来のために、私は光の中で戦う。あなたは影の中で戦う。それぞれの道があるのね」

「黙って...!」
 レカの叫びが、夜の静寂を破る。涙が零れ落ちる。
「そんな優しい言葉を...そんな理解なんて...!」

 短剣が閃く。ルゥリィは目を閉じた。その唇が、かすかに動く。
「私ね、エルフの村で生まれて、奴隷として売られた時、あなたのお父様に出会ったの」

 レカの手が止まる。
「タティオン様は、私を解放して、冒険者ギルドに託してくださった。『お前には光の中で生きる資格がある』って」

 その言葉が、レカの胸を刺す。
「だから、あなたの苦しみもわかる。影に生きることを強いられた理由も」

「やめて...!」
 レカの声が震える。
「あーしは...あーしは...!」

「ありがとう、レカさん」
 ルゥリィの声は、最後まで優しかった。
「私たちの街のために、影の中で戦ってくれて」

 血が月明かりに光る。オレンジのケープが、ゆっくりと床に落ちていく。レカの手から、短剣が零れ落ちる。胸の奥で何かが引き裂かれる感覚。これが父の望んだ試練の意味なのか。それとも、自分が選んだ道の果てなのか。

 夜風が吹き、報告書が舞う。それは光の正義が消えゆく予兆のようでもあった。レカの赤い瞳から、止めどなく涙が溢れ出す。

 執務室に戻ったレカを、タティオンは優しく抱きしめた。
「よくやった。お前は確かに、我が暗殺短剣(スティレット)だ」

 その言葉に、レカは泣きじゃくる。まるで幼い子供のように。父の胸で、影を生きる娘の涙が光る。大時計塔の影が、朝日と共に伸びていく。それは、レカの心に刻まれた深い傷の形に、どこか似ていた。

 タティオンの赤い瞳の奥で、なにかが満足げに輝いていた。エリオンへの対抗手段として放たれた短剣は、確実に的を射抜いた。そして同時に、レカの心にも深い傷を刻んだのだ。

(次は、エリオンの番だ...)
 タティオンは腕の中で泣き続けるレカを見下ろしながら、そう呟いた。朝陽の光が、父娘の影をゆっくりと伸ばしていく。それは暗殺者の血に染まった絆の形を、地面に刻み付けるかのようだった。

(終わり)

 まあクオリティは高いわけだ。ここまで素晴らしい本文を出してくれるならもうアマチュアのレベルは超えている。それはそれとして……。どこか薄っぺらさはある。
 それは文章量が足りないからとかそういうことではなく、キャラクターの深みのようなものを出せていないというか。出力した部分に先の部分で明かされるはずのものを全部詰め込んでしまってる感がある。
 小説、漫画でもいいが、物語というのは情報の公開タイミングが極めて重要だ、冒頭で「このキャラクターは死ぬのだが」なんて手法を取るのはエンタメでは史実通りの歴史物くらいでしかない手口であって、後でこうなるというのを作者はわかっていても、その情報をどう開示するかが腕の見せどころのはずだ。初心者の書き手は、自分が全部わかってるもんだから、絶対伝えなければならない情報を伝え忘れて、読者が混乱する。中級者の書き手は、最初に全部公開してしまって、設定の説明過剰で物語っぽくなくしてしまう。上級者の悩みどころは、どこでどう情報を出すかにかなりの部分が占められていると言えるだろう。これは完全に技術であり、才能とは別のパラメータであると思う。
 これに関してLLMは、まったくもって生成AI的というか。数万字、いや十万字を一気に生成できるGPTo1Proとは違い、Claudeの sonnetなどは一回の出力も総出力も短いから、数千字ずつ、ワンシーンずつ出すしかない。すると、そのシーン内部で全部の始末をつけようとする。十万字のストーリーなら、人間のプロ級の作家は、ここまではこのキャラは裏切り者であることを隠しておこう、ここでこの情報を明かせば読者の3割くらいは気付くだろう、ここでこういう明かし方をすればみんなびっくりするだろう、でやっていくものだ。
 だがAIにそれは通じない。プロンプト通りに、最初のシーンで大体全部の感じを出そうとする。事前に与えたプロットの先を踏まえて、プロンプトという入力通りに出力するわけだ。なぜなら彼らは計画しないから。GPTproならおそらく全部を一気に生成する性質上、もしかしたら解決できる問題かもしれないが、そんじゅそこらのLLMであればなかなか難しい。どうしても数千字ずつで区切ることになり、よほどプロットで細かく情報を出すタイミングを指示し、生成時の指示にもここではこう、ここではこうとやらないと最初にシーンで裏切り者のキャラに裏切ることを匂わせることになる。
 まあ裏切りならわかりやすい。それに修正もしやすかろう。だが「口ではみんなのためと言いつつ実際にやることは私利私欲、でも完全に私利私欲でもない複雑さがあり、結局は普通の人と同じように、自分の利益と公的な利益のバランスをとりながら生きている、しかしシリアスでハードな状況になった時に、思いもよらない魂の輝きや欲望の暗い深淵を見せる」という複雑さがキャラクターの面白みである、という場合、流石にAIには荷が重いわけだ。いくらいい感じに文章をでっち上げられても、本質的な薄っぺらさは隠せない。上記のシーンでは、まだタティオンというキャラは、もっと取り繕ってほしいわけだ、作者である自分としては。レカがルゥリィを殺すシーンでのルゥリィ本人の振る舞いはいい。しかしレカの葛藤はこのシーンで始末をつけすぎだ。ここまで覚悟をさせられるなら、タティオンの執務室にかえってきたときに、もっと超然とした反抗をするだろう。
 つまり、先のプロットにある「タティオンのバランス感覚を、欺瞞と偽善だと断じて、タティオンに反抗するレカ」という情報がごっちゃになっているわけだ。作者としては、この時点ではまだレカというキャラはタティオンの欺瞞に絡め取られていてほしいわけだ。
 つまり、まあ、まだLLMは完全にプロ級の出力ができているわけではないということだ。o1Proならもしかしたらできてしまうのかもしれないが、Claudeで今の所自分は満足しているし、Proではないo1を使ってみて、Claudeの方が小説に関してはずっとクオリティの高い文章を出してくれると思ったし、検証のためだけに3万円は出せないなあ。

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