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楽な道を行く

山登りの話題はまだ続きます。


ハイキングは好きだけど、段差のきつい山登りは苦手。
ひたすら歩くのは苦にならないけど、走り続けるのはムリ。


先日、ふとしたきっかけで、家族で山登りをすることになりました。

岐阜には金華山という山があります。岐阜城が山頂に聳え立ち、その麓には一級河川の優雅な長良川がゆったりと流れます。山々の中にある山でなく、河原の景色の中にドーンと鎮座する金華山なので、岐阜市内どこからでも目につきます。高すぎず、低すぎない。

山頂の岐阜城は夜になるとライトアップされ、月夜に幻想的な雰囲気。さらに最近は鵜飼の季節で、川の流れにゆっくりと進む炎の色は、そんな「幻想的」という言葉を通り越して、すでにこの世ではない雰囲気を醸し出しています。

岐阜城、金華山の魅力を語るには、知識も経験も足りないので、このあたりにしておきます。


さて、その金華山には幾通りかの登山道があります。この山の近くに住む人々は(近くじゃなくても)、毎日登る人もいるそうです。小学生でもそれが日課となるほど。岐阜の人ならこの山頂を目指して、いくつの道があるか、それぞれどんな道がありどんな特徴があるか、よく知っていると思います。


ところでわたしは、神奈川出身です。

と言うとこのあたりの人は皆さん、「へ〜!都会から来たんだねー!」とわたしを完全に誤解することになります。さらに「高校は横浜でした」と言うことで、完全にその誤解は確実なものへとレベルアップします。

朝5時代の始発バスで40分以上かけて最寄りの駅に行き、クラスの中で一番家が遠かったことは、誰も知らない。(現在は新しい道が出来てバス時間もかなり短縮されました)

その実家は山の上にあり、当時は活気に満ちた新興住宅地。丹沢の山々に沈む美しい夕日や、東の空にポッカリと大きな月が現れた時に映る山頂の細かい木々の影。写生大会の絵に、「山」がないことなんてありませんでした。わたしの子供時代は、山に囲まれていました。

小学校への通学路には、雨が降っても雨にあたらないほど鬱蒼(うっそう)とした山道がありました。暗くて怖くて、何秒でこの山を出られるか!と自分に言い聞かせて、その不安定な丸太の階段を4段も5段も飛ばして駆け降りていました。何度ネンザしたことか。

中学校へは、まず自宅から長い坂を降りて行かねばなりません。途中通り抜ける山道には、暗く寂しげなお墓が並び、怖くて怖くて何をしたか。その数十年後に完成することになる、隣の住宅地の工事現場。身長の2倍はある高さの壁に掲げられた「立入禁止」のサイン。内緒で走り抜け、ショートカットしたことはもう時効だと思います。

そんな場所なので、部活で疲れていようと思春期でイライラしていようと、坂や階段などの山道を登って帰らなくてはいけません。あの頃は若かったのだ、と今更ながら思います。

大学生になると、免許取り立ての若い私は、お馴染みの通学路で「イノシシ注意」の看板を横目に、いくつもの山、川、トンネルをすっ飛ばし、青春を謳歌していました。

そんな山育ちのわたしが、大きくなり車通勤のOLやら、座りっぱなしのPC作業やら、駅から数分の自宅やら、万歩計の存在意義さえ危ぶまれる、車社会での怠惰な生活を繰り返すこと数十年。人間は変わるものです。自宅の階段さえキツイ。

さて、話を戻します。
家族で山登り。
いざ、ふもとの登り口に立ち、私が口にした言葉。

「この道よりも、もっと楽な道はないのかなあ。時間がかかってもいいから、ただ歩くだけで到着できるような、ハイキングコース程度の道はないのかなあ。」

すると、すかさず娘が言い放ちました。

山道に、楽な道なんてあるわけないやろ?!

失礼いたしました。そうでした。ごめんなさい。おっしゃるとおりです。

数分頑張って登りましたが、どう考えても、山頂で私の到着に待ちくたびれて、暗雲立ち込める雰囲気になることしか想像できません。

あきらめて麓で待つことにしました。

楽な道を選んだわたしです。


ちょうどこの登山をした日(家族がね)、家に帰り、開いた新聞にびっくり。

岐阜市のアマチュア写真家の恩田さんという方が撮影した「朝日を浴びる長良川と鵜飼観覧船」。それはそれは美しい景色の素晴らしい写真なのだけど、私がびっくりしたのは、御歳83歳の恩田さんの行動。

一昨年夏に金華山登頂「1万回」を達成した。標高329メートル。ほぼ毎日2往復、小さなカメラを持って登り下りする。絶景を求めて川沿いも巡る。

朝日新聞 2022年6月18日


「登り下り」って、もう少し違う言葉がないのかな。滑り台の登り下りではないのだからね。。。つい数時間前に、ほんの数十メートルでくじけて引き返してきたわたしには、身に染みる記事なのでした。

サポート頂けたら嬉しいです!自分の世界をどんどん広げ、シェアしていきたいです。コツコツ階段を登り続け、人生を楽しみ尽くします。