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【政経東北】風通しの悪い組織―巻頭言2021.4

 ある県職員によると、内堀雅雄知事は部下にとって非常に仕事がやりやすい上司だという。人の話に耳を傾け、理解力も高いので、部下からすると躊躇せずに進言できるとのこと。反対にやりにくかったのは5期途中で退いた佐藤栄佐久元知事で、普段から厳しい姿勢を打ち出し、職員より県庁のことをよく知っていたため、部下が進言するシーンは期数を重ねるごとに見られなくなっていったという。

 進言のしづらさは菅義偉首相にも言えることだ。官房長官時代の官僚への強い締め付けは有名な話。ただ、それによって官僚をコントロール下に置いていた半面、菅氏にとって耳障りの悪い情報は次第に届かなくなった。報告すれば怒られるかもしれない(出世に響くかもしれない)案件を、わざわざ官僚が伝えるはずがないからだ。

 同じ光景は地方でも見られる。官製談合防止法違反などの疑いで逮捕された渡部英敏・前会津美里町長は町村合併前から町長を通算6期務め、同氏にモノを言える人は周囲に誰もいなかった。連続6期務め昨年退任した菅野典雄・前飯舘村長も、自分の信念に基づきハコモノに頼った復興を強引に進め、村民との間に軋轢を生じさせた。村民がいくら要望しても首を縦に振らない姿は、住民説明会ではもはやお馴染みとなっていた。

 佐藤氏、菅氏、渡部氏、菅野氏に共通するのは長期政権だが(菅氏は首相在任期間が歴代1位の安倍晋三氏のもとで官房長官を務めた)、部下が進言できない上司では組織運営を見誤り、組織自体も風通しが悪くなるのは避けられない。

 風通しの悪さで言うと、もっか最悪なのは東京電力である。柏崎刈羽原発や福島第一原発における連続不祥事は今号で報じているのでここでは触れないが、そこには「危険な核物質を扱っている」との自覚が全く感じられない。東電のトラブル体質はいまに始まったことではなく、原発事故前から一向に変わらないが、危惧されるのは①部下が進言しても上司が聞かない→②だったら最初から上司に報告しない→③結果、問題が放置される、という組織としての悪循環が存在する可能性だ。

 東電の場合、社長が数年周期で交代しているので前述した首長たちの長期政権は当てはまらない。しかし、競争相手がいない国内で長く原子力事業に君臨してきたという意味では、多選首長たちと変わらないのかもしれない。そんな企業に、100年かかるかもしれない廃炉作業を任せればどうなるか。答えは〝火を見るよりも明らか〟だろう。  (佐藤仁)



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