見出し画像

安倍元首相に忖度する岸田傀儡政権―【横田一】中央から見たフクシマ95

(2021年11月号)

 最大派閥細田派を実質的に率いる安倍晋三元首相への忖度合戦と化した自民党総裁選が9月29日に投開票され、岸田文雄総裁が選出された。約1カ月にも及ぶメディアジャックに成功した“総裁選劇場”は、福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に邁進した安倍元首相に忖度する岸田傀儡政権を産み落とした。菅政権が継承した原発推進政策は、新政権にも引き継がれた。

 「脱原発」が持論の河野太郎・前行革担当大臣が安倍元首相に忖度せずに新総裁になった場合、“原発ゼロ推進政権”が誕生したに違いないが、総裁選は古き自民党長老政治を温存する表紙替えでしかなかった。多くの福島県民が望む原発ゼロの実現には、政権交代しかないことが改めて示されたともいえるのだ。

 岸田新総裁誕生から10日目の10月9日、脱原発を訴える全国講演行脚を続けている小泉純一郎元首相は宮城県気仙沼市を訪問。東日本大震災で米軍が救援活動をしたトモダチ作戦の記念碑に献花した後、市内のホテルで講演、囲み取材にも応じた。

 講演では“定番ネタ”である「即時原発ゼロは可能」を披露。福島原発事故後の約5年間にわたって原発の稼働はほとんどなかったのに電力不足に陥らなかった現実を紹介、「日本は世界に先駆けて原発ゼロを実現した」と強調したのだ。

 そこで囲み取材で、原発推進の岸田政権について聞くと、小泉元首相から次のような答えが返って来た。

 「原発はやってはならない産業だ。あれだけの被害を受けて原発をやろうという気が知れない。(原発を)止めようと思っていないのがおかしい。原発ゼロはすぐにできる。やればできることをやれと」

 野党4党(立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組)は9月8日、総選挙向けの共通政策で合意。その中には「原発のない脱炭素社会の追求」が盛り込まれていた。このことについて小泉元首相は「進歩だ」と評価。「原発ゼロを野党が強調、公約のトップにあげればいい。そうすれば、(原発推進の)安倍さんに忖度している岸田政権と野党の違いが明確になる」とも述べた。

 また総裁選で脱原発を封印した河野氏については「安倍さんに忖度せずに脱原発をハッキリ言えばよかった」と指摘。総理大臣時代を振り返りながら、こう強調した。

 「私の郵政民営化に対して全政党が反対した。そして自民党が最も反対した。それに比べれば、原発ゼロは楽なことではないか」

 郵政民営化イエスかノーかを問うた“郵政選挙”も仕掛けた小泉元首相の目には、安倍元首相ら原発推進勢力との全面対決を避けた河野氏は戦闘力不足と映ったようだ。一方、電力系労組の反対を押し切って原発ゼロを共通政策に掲げた野党4党への期待感は確実に高まっていた。

 総裁選後に岸田首相は所信表明と代表質問だけで臨時国会を閉じ、野党の要求した予算委員会を開催せずに10月7日に解散に踏み切った。原発推進など古き自民党政治を継承しただけの新政権の実態が浮き彫りになる前に総選挙に突入、議席減を最小限に抑えようという狙いは見え見えだった。枝野幸男代表が「逃げ恥解散」と呼んだのはこのためだ。

 早期解散で岸田政権が大幅な議席減を免れたとしても、来年夏には参院選がある。それまでには“安倍傀儡政権”ぶりが国民の目にさらされ、自民党惨敗でねじれ国会が出現する可能性は少なくない。国会運営に行き詰まって再び解散に追い込まれる事態も十分に想定される。政権交代で“原発ゼロ推進政権”が誕生する道筋は、今回の総選挙でより明確に示されることになったのだ。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


政経東北の通販やってます↓


よろしければサポートお願いします!!