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【政経東北】チャンスをものにする首長|巻頭言2024.06

 福島市の福島駅東口での再開発事業が苦境に立たされている。折からの資材高騰で工事費増大が見込まれるため、計画を大幅に見直すことになった。

 事業主体は民間の再開発組合だが、市が一部を買い取り、コンベンションホールを整備する方針。同市の木幡浩市長肝いりの事業で、市民懇談会では「福島駅前は商業機能が脆弱で、人が集まりたくなる魅力に欠けている。コンベンション機能が中心部に必要だ」と主張していたが、規模縮小とともに再開発に対する市民の期待も萎みつつある。

 思えば、東京五輪野球・ソフトボール競技の一部試合が県営あづま球場で開催されることが決定し、同市出身の音楽家・古関裕而氏を主人公としたNHKの連続テレビ小説『エール』の放送が決まった際は、福島市にとって知名度アップ・地域振興の大きなチャンスにつながるとみられていた。ところが、2020年から始まったコロナ禍で試合は無観客開催となり、外出制限などもあったため、同年3月末から始まった「エール」による交流人口も期待したほどの伸びにつながらなかった。想定外の出来事に翻弄され、チャンスが手からこぼれ落ちていった。

 自治体規模は異なるが、チャンスをものにした事例として対照的に映ったのが、宮城県の事例だ。

 昨年7月、「SBIホールディングス(HD)と台湾の半導体受託生産メーカー『力晶積成電子製造(PSMC)』が、日本国内に新たな半導体工場をつくる方向で基本合意」という新聞記事を読んだ同県の村井嘉浩知事は、県職員にすぐ情報収集するよう指示を出したという(朝日新聞4月17日付)。

 村井知事が先頭に立って県内誘致を目指し、自ら知り合いのつてをたどって面会の約束を取り付け、担当者レベルでの交渉を開始。トップセールスで立地の良さをPR。その結果、同県大衡村への半導体工場の建設が決まった。稼働時期は未定だが、投資額は8000億円規模とされる。PSMC幹部は「知事のリーダーシップが大きかった」と述べる。

 震災・原発事故、自然災害、コロナ禍への対応に追われ、「思うように事業に取り組めなかった」、「計画変更を余儀なくされた」という声を首長などから聞くことがある。もちろん、緊急時に住民の安心・安全を確保する対応は必要だし、計画変更はやむを得ない面がある。ただ、こまめに情報収集し積極的に動けばチャンスを手繰り寄せられる可能性もあるということだ。そういう意味では木幡市長の今後の取り組みが注視される。隣県の成功事例は内堀雅雄知事も参考にできる面があるのではないか。(志賀)

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